京の都では三日ほど前から雪が降り続き、寒くなったことを痛感します。
毎日のように日記を書いている私の手も、今日ばかりは寒さで震えてしまい、何度も書き損じをする始末です。
さて、今日は、あけぼのの頃に目が覚めました。普段よりも少し遅く起きてしまったのは、あまりの肌寒さに私が耐えられなかったからです。ちょうど今日は仕事が休みだったので、寒い中焦って準備をせずに済んだのは、幸いなことでした。
着替えを済ませ、眠気を何とか抑えながら外に目をやると、お館様の寝殿や釣殿、築山に至るまですっかり雪化粧が施されていました。特に庭の隅にある大きな池には、鏡を思わせるほどの見事な氷が張っていたのです。
気づけば、お館様の子供らや、屋敷に仕える童たちが、皆一斉に池の周りに集まって、氷に映る自分の顔を覗き込んでおりました。中には、池の上に架かった太鼓橋へ集まって、次々に欄干から身を乗り出す童までいる有り様。
少し危ないのでは、と思ったのも束の間、欄干の外に立っていたお館様のご嫡男が、えいっ、と声を上げて橋から飛び降りたのです。
幸い、池の上に張った氷まではそれほど離れていなかったので、両足でしっかりと着地はできました。ですが、それと同時にぱり、ぱり。妙な音が響いたかと思うと、ご嫡男の片足が一瞬、割れた氷の下へ沈んでしまったのです。ご嫡男は、すぐさま池から足を引き上げると、小走りで庭へ駆けていきましたが、池のそばで濡れた浅履を脱ぐと笑顔でまた遊び始めました。
寒さが気にならない元気な男子を前に、私は思わず声を出して笑いそうになりました。いけない、いけない。衣の裾で口もとを隠して、しばし童らの遊び回る光景を眺めておりました。そこで私は、ふと頭に浮かんできた和歌を一首詠んでみたのです。
こほり池 あそぶ童の こゑあれど 閑なるかな 冬のあけぼの
今、こうして日記を書いていて思うことですが、この和歌の微妙な出来に我ながらつくづくうんざりしてしまいます。もう少し素晴らしい和歌を詠むことができれば、宮中で働く女官に取り立てられたり、やんごとなき立場のお方から文使いが遣わされたりすることもあったでしょうに。
気がつけば、もうすぐ新年になります。来年こそは、きっと理想の自分に近づけると信じながら、今日の私の日記をまとめたいと思います。