異世界転生するにあたって、自分の手で転生体を作成しろと言われた俺の話。
TRPG経験者、特にG○RPS経験者ならきっと頷いてくれると信じて。
本文にチョイと追加しました。
「……読めば読む程……面倒臭いな、これ……」
『ちゃんと計算が合っておらねば、全部無効じゃからな? 精々電卓を叩いてしっかり見直しせぇよ』
ルールブックを片手に、キャラクターシートに必要事項を記入していく作業は、心躍る反面、細かい計算にイライラもする。
何で友達が一人も居ない筈の俺が、TRPGのキャラ作成しているのかと言うと……
何の事は無い。
俺が所謂、『異世界転生へのテンプレ』ってのを踏んだだけだ。
で、俺の目の前に居る爺さんは、本当に神様らしい。最初俺の中で”自称”が頭に付くだけのただのJJIだったんだが。
「……んでよ、能力値のボーナスは、どう算出すりゃ良いんだ?」
『うむ。能力値は10面ダイスを2つ振れと言うたが、そういえばボーナス値はまだ決めておらなんだな……ふむ』
キャラクタの作成にあたって、能力値ってのはとても重要だ。ソシャゲで言えば、最初の無料ガチャを行う様なモノで、ここで良いモノを引かねば後々後悔する(あくまで無課金で遊ぶ場合は、だが)ハメになる。
能力値をCPで購入するタイプのゲームとは違い、ダイスの出目で決めるタイプのゲームになると、その差はプレイヤーによって大きくなりすぎる。10面ダイス2個だと、最大で18の差ができてしまう訳だ。もし、最小値を引いてしまったら、全力でやり直しと言う名のリセマラを、”神”に願い請うしかない。
能力値の最低保障の為に、各能力に予めボーナス値が設定されているのが、その世界のルールの様だ。表記するなら、2d10+○の値が、そのまま俺の能力値になる訳だな。
『ふむ。上から1、2、2、1、0、0、6……といった所、じゃな』
「……ナニソレ、いくら何でも低過ぎね? ってーか、なんで最後だけ6なんて高い数値が?」
ルールブックにあるキャラクターサンプルだと、大半がオール3ないし4なのに、何故に数値がバラバラな上に、総じて低いんだ? てか、いくらなんでも渋過ぎるだろ。その癖、最後だけ6とか訳判らんし。
『今ワシが言った値は、現在の貴様の能力値の1/3(端数切り捨て)じゃからなぁ。まぁ、低いと言われれば、その通りじゃの。成人男性の平均値が、大体8じゃし、のぉ? ……貴様、今の今まで、一体何をしておった?』
「……そんな事実、知りたくなかった……」
このルールブックによると、ステータスは上から生命、筋力、器用、敏捷、知性、精神、幸運の順で表記されている。こいつの言葉が真実ならば、俺はの肉体は幸運値以外全部、世の成人男性の平均以下ということだ。なのに何故か幸運値だけは阿呆みたいに高い上に、特に知性と精神は、平均値8に対し、2以下が確定したって訳だ。どんだけー……
「……俺、何だか、これ以上生きるのが嫌ンなってきた……」
『貴様はもう死んでおる。じゃから、貴様はキャラクターシートを作成しておるのじゃろが。これを元に剣と魔法のワクワク異世界に転生させてやっから、さっさと記入せぇやゴラぁ』
どうやら、俺が”転生”する予定の世界は、ルールブックを読めば読む程、能力値が低かったら何もできないシステムで成り立っている臭い。更に言うと、その行動の成否も”その手のスキルを所持している前提で”の話だ。
スキル無しで何かしらの判定をしようとすると、能力値が15(こちらの世界で言うとオリンピック代表選手並の数値なんだとか)あったとしても、半分以上はミスする仕様の様だ。スキルが無ければ、問答無用で失敗する判定も多々あるらしい。いくら何でもこれでは過酷過ぎるだろ。
「てーか、神様よ。もうちょっと、能力値ボーナスに色付けてくんね? 流石にこれじゃあ……」
『貴様の自業自得じゃ、諦めぃ。これでもサービスした方なんじゃぞ? 本来ならば、能力値もcpで購入させるつもりじゃった……じゃが、貴様は余りにもcpが少なすぎるでなぁ。何じゃ、総cp12って。貴様の年齢ならば、最低でも40はある筈なんじゃぞ……貴様、本当に今の今まで、一体何を(略)」
神様が言うには、cpとは人生の評価値みたいなモンらしい。最初から持って生まれた才能や、人生の中で様々な経験を習熟する為に費やしてきた時間を表した値がコレなんだとか。一人の人間そのものの価値を数値化したものだと表現しても、あながち間違いでは無いだろう。
成人(あっちの世界では数え16とか)時に100cpもあれば立派な英雄候補。200cpにもなれば、もはや100年に1人レベルの伝説級の存在になるらしい。
んで、享年28歳の俺が12cpか……うん、確かに低すぎる。耳が痛いなんてもんじゃねぇわ。
そりゃ、高校ン時はサボりにサボって出席日数はギリギリ。テストは赤点、もしくは補習さえ回避できりゃソレで良しってレベルでしか勉強してこなかったし、大学受験失敗(そもそも何処にも受からないとお墨付きを戴いていたのだが)を契機に、立派なニートデビューを果たし、それから以後10年間、何の自己研鑽をする事もなく、ただ漫然とネットの海に漂うだけの引き篭もり生活を続けたからなぁ……ホント何も言えん。
『ま、そういう訳じゃ。10面ダイスが2つもあれば、期待値は8~12辺りになるか? それだけあれば、生きるには充分じゃろ。そんなに能力値が気になるのであれば、ダイスの神にでも祈るが良かろうて』
……てか、そんな神様おんの?
苦しい時の神頼み。
……なんて言葉もあるが、俺の28年の人生を振り返ってみても、必死に神様に拝んでみた所で、奴等は更に追い打ちをかけてくるだけだ。これはもう揺るぎない経験則だ。
だから俺は存在するのかしないのか解らん、そんな超ドマイナーで狭い業界に棲息するダイス神なんぞにゃ、絶対頼らねぇっ! 何時でも俺は自分に全力投球だ。
2、4、2、3、2、2、20……うへぇ……
『……正直すまんかった。もう一度、振り直しても良いぞ』
神様の生暖かい哀れみの視線がめちゃ痛い。何だよ、この偏りまくった出目は。その癖しやがって幸運だけは最大値って、なんて嫌がらせだ。舐めとんのかゴラァ。
『貴様、ダイスの神を侮ったじゃろ? あやつはへそを曲げるとこういう事を平気でやるぞ』
ダイスの神様、ごめんなさい。心を入れ替えて、今度こそはしっかりと拝ませていただきますので。なにとぞ、なにとぞ……
19、20、20、18、20、20、20……っしゃー! おらぁっ!!
天に右拳を突き上げ、大きくガッツポーズ。改心した俺の渾身の祈りがダイスの神様に通じたのか、今度はこれ以上無いくらいの数値が出た。てーか、めっちゃ偏るなこの10面ダイス……
『……何じゃろの? 不正の臭いがプンプンするぞえ』
「待て。待ってくれ、神様。ホンットちょっと待ってくれ。頼むから、ダイスの神様の折角のご厚意を、無碍にしないでくれっ!」
俺は必死に神様の足に縋り付き、このまま続行してもらえる様、懇願した。てか、この数値を無しにされりしたらマジで困る。絶対に、もうこんな数値、二度と出ないから。
『まぁ、ええわいな。じゃが、この数値じゃと、人外の領域に腰まで浸かった状態になるンじゃが。貴様、それでも本当にええんか?』
生命20、筋力22、器用22、敏捷19、知性20、精神20、幸運26……ボーナス値も含めたら、確かにとんでもない数値だ。確か、成人男性の平均値が8だっけか……うん、全部倍以上だ。ヤベぇなんてもんじゃない。それどころか、知性、精神なんか、今の俺の10倍だぜ? 10倍。10倍賢いなんて、一体どんな世界なんだ? そして幸運値に関しては、ダイス目とボーナスから言えば最大値だ。ラッキーマンかよってツッコミ入るね。マジで。
「てか、神様よ。ステータスなんてさ、低いよか、高ければ高い程良いモンなんじゃねーの?」
『……まぁ、確かにそう、なんじゃが……』
「? この数値だと、生きる上で何か不都合でもあったりするのか?」
『少なくとも、ドン引きされる可能性は、充分にあるじゃろのぉ』
スキルの恩恵が無くとも、身体の力だけで強引に鉄棒をひん曲げ、岩をも砕き、それこそ瞬間だけなら全力の馬を超える速度で走れるとか、言われてみりゃ確かにドン引きだわ。
だが、持って生まれた”才能”としては、これ以上無いくらい破格の性能だ。この肉体なら、物臭な俺でも簡単に英雄になれてしまうだろう。
『この際じゃ、10面ダイスを1つ振れ。貴様の現在のcpをダイスの出目の分だけ倍にしてやるわいな』
おお、マジか? 神様太っ腹。
『じゃが、ここで1が出ようものなら、死ぬ程悲しいぞ? くけけけけ……』
……ありそう。俺の人生、ずっとそんな連続だったからなぁ……そりゃ引き篭もりたくもならぁな。
ダイスの神様。マジよろしくお頼み申しますっ!
コロコロ……10
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
『12に0をかけて……ふむ。0じゃな』
「うぉい!?」
『……貴様、何時の間にダイスの神をタラシ込んだ?』
「え? ダイスの神様って、女神様なの??」
もう俺、転生後はダイスの女神様を崇める。俺が教祖になって世界中に広めちゃるわい。
『いや、ワシらには性別はおろか、本来は姿形すら無いからの』
「え? じゃあ、今俺の前におる神様は一体何なんだ?」
頭の頂点がつるっつるで、白くふさふさの豊かな眉毛で目が隠れまるで表情が解らない、所謂分かり易い爺さん系神様が目の前に鎮座している様に見えるんだが、これは……幻?
『いや、ワシら”神”の姿は、見る者のイメージがそのまま反映されるでの。貴様は貴様の中に在る”神”のイメージがソレじゃったって事だの』
……うん? って事ぁ、今から全力でロリBBAのイメージを持って神様を見れば、そうなるって訳か……
『やめろ。さすがにそれでは神の威厳が無くなるわいな』
……ちっ。
『こやつは、神を何だと思っておる……まぁ、ええわいな。しかし最大値を引いてまだ120か。元が少な過ぎるのぉ……』
「え? でも100ありゃ英雄候補生なんだろ。充分じゃね?」
『うむ、貴様はワシらの手違いで死んでしもうたでな。ダイスは最大値ばかり出しおったし、こうなりゃ徹底的に甘やかしてやろうかと……の?』
「いやいや。の? って言われてもよぉ……」
そりゃ、貰えるcpは多いに越したことはないよ? 人生イージーモードになるってんなら大歓迎さ。ただでさえ、これから転生する世界はどうやらハードモード臭いし。
『まぁ、じゃからと言って、そのままホイホイとcpを渡す訳にもいかんでの。貴様の信奉するダイスの神に頼るがええさ』
そう言いながら神様は細かい文字がびっしりと書かれた表を出して来た。
「……何々? 『出生表』??」
『10面ダイス2つを5回振って、貴様の出生の”設定”を決める。項目は、出身国、種族、生家(身分)、性別、才能(欠陥)……とな。種族と身分によっては大量にcpが稼げるぞ。まぁ、出目が悪ければ、ドえらいマイナスが付いたりもするが……の?』
改めて表を見てみる。出身国は、世界情勢が解らないからまぁ割愛。
種族は人間、エルフ、ドワーフ、猫、犬、鳥、牛、羊、竜の特徴がある各種獣人族辺りのメジャー所はしっかりおさえてある様だ。珍しい所で言えば、鬼族、魔族とかか? ってか、蛇女族、蜘蛛族……って、ここまで来るとただのモンスターじゃねぇの、これ?
上の身分は王族から、下はそれこそ奴隷まで。てかさ、奴隷階級スタートって、ベリーハードどころかナイトメアクラスじゃねぇか。
性別は♂♀の他にオカマとか、果ては両性具有(説明文を読んでいたら頭痛がしてきたので見なかった事にする)とか……ホント舐めとんのか、コレ。
才能の項目は特にヤベぇな。プラスの方で目に付いたのは”武の神に愛されし存在”、”魔力無限”辺りか。これが来たら、幾らでも世界が救えちゃうだろ。マイナスの方だと……”入れ違い子”。こんなの喰らったら開始早々、母親共々死ぬビジョンしか浮かばねぇ。後は”五感欠落”とか……か。スタートした途端に終了する項目があるのは、流石にどうなんだ?
『出生ダイスの拒否は認めてやろう。じゃが、一度でも振ったらもう振り直しは不許可じゃからそのつもりでの』
「……何だか、説明文を読めば読むほどマイナス面の方が強い印象受けてマジ怖いんだが」
そもそも俺、ケモナーじゃねぇし獣人になるのはちょっとなぁ……あと、間違っても、絶対にふたなりや特殊性別なんかにゃなりたくねぇ。何だよ、『二本差し』って。生え方によっちゃバケモンじゃねーか。
「ええい。俺も男だ! やってやらぁ!!」
今の俺は、ダイスの神様に愛されている! 筈だ!!
『10の位を表すダイスは先に決めよ? 特に才能は、1~100まで細かく項目があるでの』
コロコロx5……
『ちっ、つまらん。何の面白味も無かったのぉ』
「……なー?」
出身は人間が支配する比較的安定した王政の国で、身分が辺境伯の子(cp+30)になった時点で、事前にエルフと決まっていた種族が、強制的に人間に変更(この国の貴族階級は全て人間なので)。エルフ基本パック(30cp)分のcpを取り損ねたのは痛いが、才能は”魔法の素質Lv10(55cp相当)”。終わってみれば変な地雷を一切引かず、cp収支は+85となった。貴族の子弟で、最高レベルの魔法の素質まで付いたんだから、喜ぶべき最良の結果だと言っても良いだろう。ダイスの神様、ありがとうございます。
『まぁ、女子になってしまったのは、この際、頑張れと……』
「……おう。こうなったら、最強の女魔法使いになっちゃるわい」
まぁ、俺としちゃ男だろうが女だろうが、”特殊性癖が好むモノ”にならなきゃ、何でも良かったんだが。
才能が魔法に関する物だったから、スキルは魔法寄りにビルドを組んでいけば良い訳だな。てーか、筋力22という人外レベルのゴリラパワーを無視するのも、何だか勿体ない気もしないでもないのだが。
『貴族の子弟になったら、”社会常識”と”礼儀作法”、後”読み書き”は最低でもLv3を取らにゃならんから、忘れるでないぞ』
「うへぇ、面倒臭い。ってーか、その時点で身分ボーナス分のcp半分以上無くなるやんけ」
『ほれほれ。電卓片手に頑張れよ。計算間違っとったら、承知せんぞ-?』
コレを取って、6cp。
アレを取って、3cp……
「……って、うげぇ。この技能取るためには前提技能が必要なのか。で、その技能取るためにもう一個別の技能が……って、際限無いじゃねーかっ!」
『魔法は皆そんな感じじゃのぉ』
もういい。能力値上げて確実性を取る。能力値を増やすには……うえぇ。16からは1増やすのに40cpも要るのかよ。やめだ。やめ。
……あれ? cpって、残りどんだけあるっけ?
ぷつん。
「だあああああああああああああああ!!」
『おう、どうしたんじゃ?』
「神様よ……」
『お、おう?』
「もっと簡単なルールブックの世界に、チェンジプリーズ♡」
電卓あっても、知力2の俺にゃ、計算は無理でした。
どうやら俺は、ダイスの神様に愛されている様だし、ダイスの数値だけでほぼ決まる世界に行きたいナー。
お・ね・が・い・♡
誤字脱字がありましたらご指摘どうかよろしくお願いいたします。
評価、ブクマいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。