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とある言い訳

作者: 湯たんぽ

言い訳を探すのが簡単になった。


ウイルスが蔓延して数ヶ月。

最初にあった警戒感もだいぶ薄れてきているのを感じる。

毎日報道される数字の推移にも、もう一喜一憂しなくなってしまった。


あんなに閑散としていた商店街にも年末年始の人の波が押し寄せている。

そんな人だかりに一人増えようが増えまいが関係ないだろう、と私も買い物に行った。

実はサンタさんが買い物に行く言い訳をプレゼントしてくれたのかもしれないな、などと適当なことを考える。心の中でサンタさんにお礼を言う。

きっと「フォッフォッフォッ」と長いひげを揺らして笑っていることだろう。んなわけないか。


ーーーー


言い訳を使うのが達者になった。


年末年始の帰省を取りやめた。それなのに「年末年始感」だけは私を置いて帰省したようだ。

一人の部屋。テレビのチャンネル決定権は自分にある。

なんなら、テレビを見ない自由がある。おせちを食べない自由もあるし、お餅を食べない自由もある。郵便受けを開けるのを後回しにする自由さえある。

そんな自由と引き換えに、私は”年明け”を失った。


「帰省してないのだから仕方ない」と。「これがある意味ニュースタイルの年明けか」などと。


ーーーー


言い訳と戦うのは困難なはずだ。


帰省を取りやめたのは、親戚に受験生がいるからである。

今年の受験生は本当に大変だ。詳しいことはわからないが、今年から受験制度が変わるのだという。

ウイルスで何もかもが変わってしまった世の中。その中で、等しく人生が変わってしまう受験に挑まなくてはならない重圧は想像だにできない。

勉強をしない言い訳は、そこら中で手を拱いている。最後まで諦めずに戦い続けられることを願う。


ーーーー


言い訳を探すのが大変になった。


自分の部屋にずっといると、時間感覚がなくなる。

なんでも期限ギリギリにやる性分が、外に出る時間が消えてより顕著になった。時間にだいぶ余裕があるような気持ちになるのだ。

まだどうせ時間があるのだから大丈夫だ、と手近な娯楽に時間を投げる頻度が高くなる。

元々飽きっぽかったのに、自粛期間でそのスピードが加速度的に増加したように思う。そうなると、何が好きで、何がしたいのかがだんだんわからなくなってしまった。

もしサンタさんがいたら、私は今一体何を頼みたいのだろうか。

とりあえずは、失ってしまった"年明け"だろうか。それとも。


ーーーー


言い訳のおかげで可能になった。


遠い友人とオンラインで再会した。一時期ブームになった「オンライン飲み」だ。

普段は全く連絡を取り合っていなかったのに、トントン拍子で話が進んだ。結局みんな暇で仕方なかったのだろう。会話の大半はあの状況に対する愚痴のようなものだったと思う。

「こんなに盛り上がるなら、落ち着いたら実際みんなで集まりたいな」。果たしていつになったら実現に漕ぎ着けられるだろうか。


ーーーー


言い訳をしたのは間違いだった。


ウイルスのせいで彼女と別れた。

もともとお互い忙しい時期で中々会えなかった。ずっと計画していた久々のデートの日取りは不運にも緊急事態宣言のど真ん中だった。

「緊急事態宣言中なんだからしょうがないじゃないか、俺たちにはどうしようもないんだし」。

素直に「君が心配なんだ」と言えれば結果は違っただろうか。「ウイルスのせいで」の枕詞もただの言い訳だ。だから成長できないんだろう。だからいつまで経っても忘れられないんだろう。


ーーーー


言い訳に縋るのが普通になった。


それも世の中の誰にでも通用してしまうような大義名分がそこにある。勇者が魔王を退治する名目で村人の家を物色するのが許されてしまうのと同様のことだ。

近い未来、この期間にあったことは「ウイルスのせい」で一緒くたにしてしまうのだろう。

「あの時期は本当に大変だった。でも結局はなんとかなったよね」と笑い合える日が来るのだろう。



今日もまた、言い訳のせいにする。

そうしてきっと、私は成長するチャンスを逃し続ける。

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