きゅうわ
しまったなぁと。倒れ伏した地面の感触を全身で感じながら素直にそう思う。
取り敢えず真っ直ぐ、その程度の指標しかない強行軍は意思の力だけに支えられてなんと半日も続いた。逆に言えば半日歩き詰めでも見える範囲に対した変化が無かったという事でもあるが。
日も沈みそうな中、遂に辿り着いたのは道。道路。感じる文明の香りにホッと気を抜いてしまった結果として完全な行き倒れの完成である。やっちゃったぜ。
歩き続けていた事そのものが悪いのか、あるいは休憩も無く荒い息をぜーはーぜーはー繰り返していたのが悪いのか。飢えと渇き、疲労、ダメージ。満身創痍とはこの事よ。
何処ぞの友の為に走った勇者だって岩の裂け目から水を補給出来たわけだが、こっちには濁流どころか水溜り1つありゃしなかった訳で。
道を辿るとしても、果たして後どれだけ歩けば町なり都なりに辿り着くのか。辿り着いたとしてどうやって衣食住を手に入れるというのか。考えてみれば無一文どころの騒ぎではない。
むしろ良くブレスの余波に耐えれたと称賛すべきボロ布1枚。コレが今私の持ち合わせる全財産である。本気であの森にでも帰らない限り生活出来ないことに気がついたのは倒れた後。
思考はグルグル、腹もぐるぐる。もう指一本動かせぬどうとでもなれえーいと全てを打っ棄って不貞寝をしようにも、眠れる程のコンディションではなくて。
せめて拾ってください的な看板でも建てれれば発見されたかもしれないと、そんな事を思ったところで。ぱからぱから、がらがらという音。
あぁ、天の助けか。ヘルプみー。などと思いはしても大声を出す気力も無く。この世界に来てというよりこの数日のドタバタ具合を考えるにスルーされるんだろうなぁと半分諦めて。
「むっ…あれはっ…!」
がらがら……から……ぴたりと。止まったのがすぐ側なものだから、コレはひょっとして助かったのではないかと。
「行き倒れっ…それも一見子供っ…普通なら歯牙にも掛けぬっ…」
それはまあ、善人でも無い限りそうでしょうよと同意するが。え、待って止まったのにそれだけ言って置いていく事とかある? 流石に無いよね?
「がっ…このワシは違うっ…! 元手無しで商品が手に入るっ…! そのような機会は逃さぬっ…!」
おっと雲行きが怪しくなってきたぞぅ? 抱き起こされるなんて丁寧な扱いはされず、うつ伏せから仰向けにひっくり返される。目と目が合って、生存確認をされて。
「此奴はもしやっ…! 僥倖っ…! なんという僥倖っ…! 奇跡っ…!」
なんだろう……この……うん。ああこれから奴隷労働させられるんだなっていう感じがひしひしと。
「圧倒的高額商品っ…! ぐふふっ…! 見た様子逃亡奴隷でもなしっ…! しかし身に纏うボロっ…! つまりなんの柵も見受けられないっ…!」
考えてる事が口から漏れているのは、そういうタイプなのか本人的にあまりのラッキーに言葉に出して確認しているのか。なんにせよこれは。
「ふむっ…! 直ぐに死ぬ程でもなしっ…! 動けぬのは好都合っ…!」
瀕死かどうかを見ただけで判断出来る、なかなかやり手の奴隷商人なのでは無いだろうか。というわけでサクッと担がれ、足枷をつけられた上で荷馬車に放り込まれる。
買い付けの帰りではなく売り払った後なのだろうか、私以外には先客は居らず。こういう場合ってなんかおねーさんとかおかーさんみたいな人に優しくされるんでは無かったのか。
せめてもの救いは藁の敷き詰められた箱にぶち込まれた事だろうか。直に木の板に寝かされてたらボロ雑巾になっていた自信がある。
かくして、私は奴隷商人に拾われたのであった。