ろくわ
蹂躙。そんな単語が脳裏を過ぎる。オークもエルフも区別なく、踏み潰され地面のシミになり、あるいは尻尾の一振りで血飛沫にジョブチェンジする光景は結局のところ助かったという気分にはカケラもさせてくれない。
あれほどまでにどうしようも無いと思われた暴力の権化みたいなオークが、まるで羽虫を潰すみたいなお手軽さでお片付けされる様は、やはりオークがドラゴンに勝てるわけないだろ!!! といった感じか。
運良く逃げ切れたりはしないだろうか。オークと違って私が目当てという事もあるまいと、そう思って逃げ出してみたのが少し前の事で。燃え盛る森の中を逃げ惑うどころか追いかけっこしてるのが現在。
食べる所など殆ど無いような私を追い回し、食いでのありそうなオークを乱雑に扱うというのは如何なものか。あっちの方が多分おいしいと思うよ? などと言葉をかけても帰ってきたのはぎゃあぎゃあいう鳴き声ばかり。言葉が通じねぇ。
逃げた先に居たオークも、私を逃がそうとするエルフも、それなりに大きな大木すらも大した障害ではないと言わんばかりにハッスルしていらっしゃるドラゴンさんであるが、どうやら私の事は餌としてモグモグしたいらしく単純に焼いたり潰したりしておしまいとはならないらしい。
オーク相手ならまだ命だけは助かる可能性も有ったが、ドラゴン相手では無し。いやー無理無理。コレは助からない。そうは思うけれども走るのはやめない。どうせならMPK位はしてから死んでおこうという健全な勤労精神です。
殺しに来たんだ、殺されもするさ。まあ流石にエルフ相手に狩のつもりで来たらドラゴンけしかけられるとは思ってもなかっただろうけど。勘のいい奴は居るもので、ドラゴンが突っ込んでくる原因をなんとかしようと声を出す。
「あの小娘だ! ハイエルフを追ってやがる!」
「巻き込まれる前に潰しちまえ!」
オークとしてはハイエルフという目標は確保出来れば上々、殺しても問題ない程度のもの。まして天災とも言える様なドラゴンを引き連れてくるとなれば、優先的に排除するだろう。
「GYAAA!」
そして、自分が食べようと思っている餌に群がる羽虫を許すドラゴンではなく。別に付かず離れずを考慮しなくても、ブレスというよりはレーザーとか爆弾とかが近そうなよくわからん何かでオーク君がこんがりを通り越して消し炭になる。
ついでに森も燃えるし、やばいと思ったオークは逃げるし、熱さも私の体力を奪っていくのでドラゴンが獲物にありつけるのもそう遠くはない未来だ。良かったね。こっちは微塵も良くないんだけど。飽きて帰ってくれないだろうか?
「姫様をお助けしろぉ!」
「なんとしてでも動きを止めろ!」
やめてくれと、無駄だという間も無く後方でエルフが挽肉にされていく。高々0歳児の為にノータイムで命を散らすエルフって種族は多分呪われてるんじゃ無いだろうか。
ドライに考えれば、私さえ居ればエルフの数なんてある意味無限に増えるわけで、数字の上で考えればどれだけ犠牲になっても私さえ生き残ればプラスになる。そういう意識だけで突っ込んでいるのであれば、私だって立派なプロだと感心出来るが。
本能、あるいは感情。利害関係なく、ただ突き動かされて死んでいく彼らは、私からしてみればやはり呪われていると表現する他にない。一体何の為に私が走っているのか少しは考えて欲しい。犠牲を最小限にする為の犠牲の犠牲ってコレもうわかんねぇな。
ひたすらに走り、兎にも角にもオークを巻き込みながらのトレイン行為。引き連れるのが単品でもトレインというのだろうか? 走りにくい森故にか私より圧倒的な身体能力のオークが転び、そのまま轢き潰される様はまあトレインか?
関係ないけど、轢くってヤバいよな。車でする樂しいことだぜ? 楽しいって言うより愉しいって感じだと思うけど、何にせよサイコパスだろ。正確な由来は違うんだろうけどもうそういう文字にしか見えないよね。
ハイになった脳内が無関係な事をつらつらと考える中で、ようやく見えた森の端。平地に逃げ散らかしたオークに追いつける脚力も無ければ、ほぼ無意味とはいえ確実に仕事をしていた木々という障害物を無くして追いつかれない自信もなく。
「あっ」
それでもまあ、仕事はしただろうと。そもそも就職してないけど。職業も無しに仕事とかいってもね。最低限森からオーク追い出して、これ以上ドラゴンの被害も出なかろうと。少しだけ安心したからか。
すってんころりん。オブラートに包めばそんな表現の。全力疾走しても転ばないとか言った責任者出てこいよ。自分か。はいはい私が悪うございました。
「GRAAA!」
あー追いつかれる。もーだめだー。などと諦めてみたところで。
「オークの群れが飛び出てきたと思えば、ドラゴン。追い立てられてたって事か?」
かつり、かつりと、金属製の足音。オークのものとは違う、なんというか標準的な人間が発しているかの様な言葉。
なんの冗談か、鉄塊と呼ぶ様なアレよりはマシな程度の、深淵歩いてそうな2メートル超えてそうな剣を担いで。続く後ろに嘘みたいに綺麗に両断されたオークの山を築いた甲冑が、見上げた先にいて。
「まあ、やってみますかね」
……ちょっと何言ってるかわかんないですね。