いちわ
「◯ねクソカス存在価値皆無の社会のゴミクズ」
プロ、あるいはプロフェッショナルという言葉を耳にした事はまあ普通に生きていればそれなりの回数あるだろう。
「怒る怒らない以前の問題だろあのふにゃ◯◯野郎本気で有り得ん」
お堅く辞書的な説明であれば、トレーニングを要し何らかの資格を要するような賃金を支払われるなりわい、つまり専門職の事であるだとかそういった前提の説明の上で何種類かを説明されるのだろうが、私にとってみればプロとは姿勢、考え方、生き様というような雰囲気のものであった。
「一体どんな風に生きてたらあんな◯◯◯◯になるんだよ本気で◯ね」
簡単に言えば、よしんば専門的な教育を受けずに仕事に就いたとしてもそれさえ有るならば良しと思える様な、それ程の意識こそがプロ意識というものであり、逆説たとえ世間一般でプロと呼ばれる人間でも私の中ではプロ足りえない場合だってあった。
「出来るだけ惨たらしく苦しんで◯ね」
責任感だとか向上心だとか、そういった単語を並べ立てた上でへにゃへにゃとぼくちんはぷろいしきをもってぇなどと発言した仕事を舐めてるとしか思えない上司は心の中で何度となく、数え切れないほどに口では言えない様な目に遭わせたものだ。
「◯◯◯◯を◯◯◯◯して◯◯◯◯」
巷では意識高い系だのプロ意識wだのと言われる連中の所為で世の中がドブのクソ煮込みの様になっているところを、真にプロ意識を持った、あるいは本人はそれをプロ意識とも思っていない様な当然によってなんとか回っている。そう確信した事すらあった。
「◯◯◯◯が◯◯◯◯に◯◯◯◯」
個人的な意見を表明するならば、一社会人として企業なり団体なりと契約を締結した以上、最低限として職務邁進、出来ればプラスアルファのオプション的奉仕をするのは当然の事であり、休憩時間以外でサボるだとか、必要な手順を飛ばすとか○ねとしか思わない訳で。
「◯ね◯ね◯ね◯ね◯ね◯ね◯ね◯ね」
まあ機材トラブルだとか、経年劣化による不意の故障だとか、あるいは常にはしないうっかりミスとかが積み重なっての事故であるならば、私とて不運に嘆く事はあれど概ね納得して永遠の眠りにつくことが出来ただろう。
「くぁwせdrftgyふじこlpー!」
つまり、プロ意識の欠片も無い僕雇われ的な意識の人間の人的ミスにより発生した職場内での事故により永眠することになった私は、納得も安らかさもない腹の底から煮え滾る憤怒と最終的に憎しみにカテゴライズされることになると思われるグチャグチャした感情のままにありったけの呪詛を吐いていた訳である。
「ふぅーっ、ふぅーっ」
息が続かなくなって意識が飛びそうになる寸前まで溜め込んだものを吐き出して少しだけスッキリする。何処ぞでは激しやすい性格を号泣してスッキリさせるらしいが、私としては泣こうが喚こうが根本の解決が出来ない以上は完全にはスッキリしない派だ。
「すぅ……はぁー……ん? ……???」
深呼吸をして息を整えて、そうして少しだけ落ち着いた事によって感じた違和感。息が続かない? 深呼吸? 馬鹿な、奇跡でも起きて辛うじて生き延びたとしても、呼吸どころか意識だってあるか……
そもそもだ。此処は何処だ? 今まで観たことも無ければ自分で想像したとも思えないような光景は、存在しない筈の現実感という一点において馬鹿みたいな話だが圧倒的であった。
色。質感。匂い。その他なんとも表現しにくい感覚でコレが現実だと訴えかけてくるソレは、見上げても先など見通せない程の巨大な、現代の高層ビルとてコレほどまでには高くないだろうと思えるほどの大樹。
見回した周囲にもこれまで直接見たことがない様な大木が乱立しているが、それと比べても圧倒的なスケールのそれは正に天まで届くという形容詞を比喩表現で無くしたかの様な。
それほどまでに圧倒的な、畏敬や畏怖を覚えても当然の存在に感じるものは安らぎというか、何処までも穏やかな落ち着く感覚。例えるなら絶対に仕事の連絡が来ないと確信して入るベッドの様な、実家のトイレの様な……
「ふぉぉ……おっ? あ、あー→、あー⤴︎?」
漏れ出た声が余りにもおかしい事に気がついて。喉の調子を確かめて、試しに声を出してみて、終いに驚愕。骨伝導云々を差し引いても、明らかに声がおかしい。まるで別人の様な……
手。仕事柄それなりにゴツくなり、厚く硬かったそれを一瞬だけ幻視して。目に映るそれはまるで童の様に柔らかくてしなやかな、全体的にほっそりとした印象を受ける白磁の様な。いや、白魚の様なと表現するのだったか?
腕。世間一般で言っても、或いは一部業界に於いてもそれなりに逞しいと表現された筈の肌色と筋肉の塊はどこにも無く、すらりとしたそれは思い切り力を入れた所でコブ一つ出来ることなく彫刻や陶磁器を比較対象にした方が元よりも近い。
体。手から伝わる感触は厚い胸板、割れた腹筋、そんなものなど嘘の様に消し飛ばす柔らかさ。むにゅり、ふにゅり、むにむに。細く、柔らかく、それでいて出る部位は出て、そもそも骨の位置というか、何からナニまで違う感覚。
「??? ……???」
余りの驚きに、は? という声すら出ない。人間本気で驚くと声すら出ずに吐息だけが溢れるらしい。夢の中で大声を出そうとして掠れる感触ともまた別の、声が出るだろう場面で声が出ない感覚は夢というには余りにもリアルだった。
余りの衝撃に、これまでの人生で感じたことがないほどのあのドロドロとした感情すらも置いてきぼりにされて。ニュートラルにリセット、凪。ベクトルとしては真逆なれど一種感情の爆発。
すとん、そんな音すら聴こえてきそうな程に状況を把握した。出来てしまった。もしコレが夢で、あのクソの失態も夢で、目が覚めた時に元の自分に戻っていたら恥ずかしさのあまりに自死しかねない妄想ともつかぬ現状が現実だとして。
生まれ変わり、あるいは転生という言葉は宗教やらの話で耳にする事はあって。どうやら鳥獣ではなく人間らしいとぼんやりと納得して。単純な2分の1を外したのか、前世の2分の1も含めれば4分の1か? いやいやそうはならんだろうと現実逃避を始めて。
「「「姫様! 御誕生誠にめでたくっ!」」」
跳んでというよりもむしろ飛んでとか翔んでという様でやってきた複数の女性に囲まれて、そう言われてなんと返すのが正解だったのだろうか。
「ど、どうも……?」
少なくとも、おぎゃぁよりはマシだったと思いたい。