06
「誰だ。」
神殿の出口に誰か立っていた。くっそ、もっと早く気づけたら隠れられたのに…だがここで慌てるな、冷静に堂々としてれば怪しくないだろう。
にしても知らない顔だ。肩までかかるグレーの髪に黒い瞳。私と同い年くらいだろうか、中性的な容姿だな。声で男だとわかるが。
「私は…サリ。そっちこそ誰さ。こんな誰も寄り付かない場所に。」
あ。余計な事言ったわ…。『そっちこそこんなとこで何してる』とか言われたらアウトじゃないか。
「…僕はラセット。ここには、まあたまに来るんだ。落ち着くし、考え事には最適の場所だよ。」
追及されなかった。助かった…。しかしラセットか…。さっき読んだ中に名前あった、島主の息子だ。よし、逃げよう。
「そっか。私はもう帰るところなの。じゃあね。」
「まあまあ、少し話していかないか?サルビア」
「バレてんのか!!!…ってしまった!」
あああああバカー!!!肯定してどうする!こうなったら相手も1人だ…よし、ぶん殴って逃げる!
「ん?待て待て。待って、おい。落ち着け、構えるな、にじり寄ってくるな。なにもしな…うぉっ!?」
「先手必勝!」
「だから落ち着けってば!!」
「なっ!?」
奴の顔面に繰り出した私の拳を…受け止めた!?父さん仕込みの私の技を!?
「…なかなかやるね。」
「いや何もしないから、なんかこう雰囲気だされても困るんだけど。まず話を聞け。」
「いてっ。」
デコピンされた。どうやら、奴は私に敵意はなさそうだな。珍しい。油断させる作戦か…?って、それもなさそうだな。私を見る目が違う…。
「…私と目を合わせると呪われるんじゃない?」
少し馬鹿にするように、あえて目を合わせてみた。
「そう聞いてるな。どうだ?僕の体に何か異変とかあるか?ちなみに精神とか中身は、特に変化なしだ。」
そう言ってじっと見つめてきた。おおぅ…こ、こんなに目を合わせられたら照れるじゃないかよもう!
どうやら向こうも同じようで、すっと逸らした。なんとなく、2人そろって笑ってしまった。
「もう…わかったよ。話でもなんでもしてやろうじゃないの。まず聞きたいんだけど、あんた…いやラセットは私たちに嫌悪感とかないの?」
「そうだな。確かにアサギ族は人間じゃないとか呪われるとか、僕たちに害をなす存在だと教わってきた。
でも誰もその理由は教えてくれないんだ。聞いても、そう伝わってるから。としか言わない。おかしいと思わないか?」
「……おもう…よ。」
なんてこった。仲間がいた。しかも…島主の息子とな。思わず抜けた返事をしてしまった。
「私も、思ってた。でも誰も答えをくれないし、それどころか『なんでそんなことが気になるんだ?』って言われるの。疑問に思うことがおかしいみたいな…。」
「そっか。いいことが聞けた。じゃあ、2人で疑問を解決してみないか?」
「え?」
「とはいえもう暗い。明日またここに集合しよう。」
「え?」
「もっと早い時間にこれるか?どうせ今日は、眼の色を隠すために遅い時間に来たんだろう。」
「え??……ぁあ、昼過ぎには来れるよ。」
「じゃあ、六の鐘が鳴る頃に集合だ。いいな?」
「え?ああ、うん。おう。了解。」
「大丈夫かな…?じゃ、また明日な。」
「また明日~…え?」
なにが起きた?私は走り去る後姿をぼんやり見つめてた。また、明日。
些細なことだが、初めて、一族のみんな以外とそんな約束をした。
私は事態が呑み込めず、長い間立ちすくんでいた。
正気に戻り急いで家に帰ったが、当然のごとく怒られた。どうやら帰りが遅すぎて、村の皆で捜索に出るところだったらしい。
両親には説教され弟には泣かれ…ごめんなさい…。
必死に謝りながらも、私は明日のことをずっと考えていた。