表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第三章 白銀世界の卵たち
98/143

第98話 強く……。

 倒れた最後に悠貴が感じたのは雪の冷たさだった。誰かに呼ばれていた気もするが良く覚えていない……。影の獣たちとの戦いで魔力を使い果たした悠貴はなつみに助けられた後、気を失って倒れてしまった。





(暖かい……)



 心地よい感覚と共に覚醒する悠貴。目蓋を開ける。山小屋(コテージ)2階の寝室の天井だった。



「あっ、せんせー、起きた?」


 声がした方に悠貴は目を向ける。目に入ってきたなつみの姿。自身の体に向けて(かざ)されている両手が光っている。


「なつ……」



 起き上がろうとする悠貴。


「もう起き上がって大丈夫? あんまり無理しないで……って言いたい所だけど傷はもう平気でしょ? なつがこうしてずっと治癒魔法かけてるんだしね」


 言ったなつみはニコッと笑った。


 悠貴はゆっくりと体を起こす。自身の体を両手で(さす)る。確かに、あれだけ魔獣と戦って負傷した体には驚くほど痛みはなかった。


「ありがとな……、なつ。改めて言うのも何か変な気もするけど……、お前ってやっぱりスゴいんだな……」


「何よ……、急に。それに、なつ、天才なんだから、誉めるんならもっとちゃんと誉めてくれなきゃ……」


 言ったなつみは、はあ、と溜め息をつく。悠貴はそんななつみの様子に吹き出した。しかし、直ぐに表情を変えた。




「ゆかりさん……、俊輔……、皆 は!?」


 ベッドから立ち上がろうとする悠貴。立ちくらみを覚えてよろめく。


「おおっと。せんせー、まだ無理しちゃダメ。傷は治ったとは言っても体力と魔力は休んでないと回復しないよ。皆も大丈夫。だから安心してっ」


 よろめいた悠貴を支えたなつみはそう言って悠貴をベッドへ戻し横にならせた。


 改めて悠貴は周囲を見る。見たことがない後ろ姿の魔法士が何人かいた。ベッドの間を行き来したり、ベッドの上で横になる仲間に治癒魔法をかけたりしていた。



「なつ……だけじゃないみたいだな。なつたちのお陰で助かった……。ありがとな」


 重ねて感謝の言葉を口にした悠貴。

 途端になつみの表情が曇る。


「うんうん、全然。むしろ……、本当にごめんなさい。せんせーたち研修生をこんな目に遭わせて……。謝って済むことじゃないのは分かってる。あ、やったのは私たちじゃないわよ? それでも、止めることが出来なかったのは、私の落ち度よ……」


 なつみが頭を下げる。


 研修生たちをこんな目に遭わせた犯人がなつみではないと分かり悠貴は胸を撫で下ろした。しかし、同時に謎も浮かぶ。


(今、なつ、自分たちじゃないって言ったよな……。あの動画……、特高の制服着てた奴が言ってた話……。それで研修の一環だと思ってたけど、なつは関係してない……)



 黙り混む悠貴。口に手を当てて考える。なつみが口を開く。


「あは、せんせー、犯人は誰だーって考えてるでしょ? 何か考えるとき、いつも口に手を当ててるもんね……。うん、そうだよね、分からないことだらけよね……。もう少し落ち着いたら話すから、今はちゃんと休んでっ」


 なつみは、ぽん、と悠貴を包む布団の上に手を置いた。



 ちょうどその時俊輔が寝室に入ってきた。



「ようっ、起きたんだな、悠貴」


 俊輔は悠貴が横になっているベッドの縁に座る。


「おう。俊輔はもう大丈夫なのか?」


「ご覧の通りだ。その、なんだ、こいつの治癒魔法のお陰でな……」


 悔しさと恥ずかしさを足したような表情になる俊輔。


 こいつ、と呼ばれたなつみは一瞬ムッとしたような顔をしたが、直ぐに得意気な表情に変わる。


「そうよねぇー、そうよねぇー。俊君たちを襲ってきた眷属をやっつけて助けてあげて、ここまで運んで治癒魔法で回復させてあげて……。あら、そう言えば、俊君から……まだ聞いてなかったわね……。俊君、私に何か言うべきことがあるんじゃないかしら? んんんー」


 そう言って挑発的な笑顔を浮かべるなつみ。丸椅子に座りながら移動して俊輔に近づいて見上げる。苛ついて視線を逸らす俊輔になつみは更に迫る。


「んんー、ほらほらっ。どうしたのかな? お世話になった人に言う、あれよ、あれ。ちゃんと幼稚園とか小学校で習ってこなかったのかなぁ? 俊君、そんなに馬鹿なのかなぁ?」



 俊輔に顔を近づけるなつみ。俊輔は大きく息を吸い込む。


「ありがとよ!!!! お陰で助かったぜ!!!! この礼は倍にして返してやるよ!!!!」


 なつみの耳元で俊輔は叫ぶ。耳を押さえて(うずくま)るなつみ。頭を振って立ち上がり叫び返す。


「人の耳元で何て声だしてんのよ!? 最低! 大体それのどこが感謝なのよ!」



 立ち上がった勢いでなつみが座っていた丸椅子が倒れる。


「うるせぇー! これが俺なりの感謝の仕方だっ、文句あっかよ!」


 俊輔も立ち上がりなつみとにらみ合う。


「文句しかないわよ! こんな時くらい素直になれないの! なつみ様ありがとうございますー、このご恩は一生忘れませんー、ぐらい言えないの!?」


「だから感謝してるっつってんだろ! 耳遠いのかよ!」


「さっきあんたが耳元で叫んだせいで遠くなったわよ! あーもう。馬鹿の相手したら疲れてきたわ……」


 なつみは睨み合っていた俊輔から視線を外し悠貴を見る。


「はぁ……。せんせ、やることあるし、私もう行くわね。ちゃんと寝ててね」


 歩き出すなつみ。去り際に俊輔をチラリと見る。


「そんなに元気なんだし、心配はこれっぽっちもしてないけど、一応あんたも怪我してたんだし魔力も空っぽになってたのよ。また倒れられても迷惑だからそこら辺の空いてるベッドで寝てなさいっ」


 言い放ったなつみは寝室から出ていった。




「んだよ……、あのクソ女……。良いのは見てくれだけで中身最悪だな!」


 なつみが倒した椅子を起こしてそれに座る俊輔。足を組んで更に毒づく。そんな様子の俊輔を見て悠貴は笑う。


「見てくれはって……、俊輔、なつみのこと可愛いって思ってんのか?」


 真っ赤になった俊輔は慌てて否定しにかかる。


「ば、馬鹿! ちげぇよ! 誰があんな奴……。ふぅー。それよりも、もう大丈夫か?」


 呼吸を整えるような俊輔を悠貴は更に笑って答える。


「ああ、俺もなつの魔法のお陰でな、この通り。他の皆は?」


「ああ、大丈夫だ。ゆかりさんの傷が深いみたいだけどよ、ほら、ああやって治療受けてるし、大丈夫だろうよ」


 俊輔が指差した方向を見る。ベッドで横になるゆかり。横で2人の魔法士が治癒魔法をかけている。



 それを見た悠貴は安堵の表情を浮かべ、


「俺たち……助かったんだな……」


 と呟くように声に出した。



「あぁ。正直、もうダメだって思ったけどな……。悔しいけど、その、なつのお陰で助かったな……」


 どこか引っ掛かるような言い方をした俊輔を悠貴は見る。先を促すような悠貴の視線に俊輔は続ける。


「助けてくれたのは、感謝してるんだけどよ……。あいつの魔法……、何だよあれ。夜を昼にしたぞ、あいつの炎……。演習場でやりあった時……、あれ、全然本気じゃなかったんだな……」


 唇を噛む俊輔。自分となつみの間に厳然として存在している、圧倒的な差。もしかしたら影の獣たちに放った一撃だってまだまだ本気じゃないかもしれない……。


 下を向いたままの俊輔に悠貴は口を開く。


「良かったじゃないか。身近に良い手本がいて。俊輔、お前、なつに憧れてるんだろ?」


「は? 誰が、誰に?」


「俊輔が、なつに、だよ。お前、なつの圧倒的な力に憧れてるんだ、素直になれよ」


 笑いながら諭すように言った悠貴。


 悠貴に指摘されて考え込む俊輔。頭をかきながら返す。


「まあ、それは否定出来ないかもな……。だな、今は、あいつの方がまだ格上だ、それは認めざるを得ねぇ……。けどよ、いいか、俺は絶対にあいつより強くなる……、絶対にだ。さ、俺も少し休むとするかな。なつの話じゃ落ち着いたらどっかに移動するみてぇだからよ。悠貴も休めるうちに休んでおいた方がいいぞ」


 立ち上がった俊輔は悠貴が寝ている横の空いているベッドに潜り込んだ。


 俊輔がそれ以上は話しかけてこなかったので悠貴は仰向けになって天井を眺める。なつみの言う通り体に痛みは無かったが、魔力を使い果たしたせいか、寝ているのにふらついているような気がした。なまじなつみの治癒魔法のお陰で身体の方はもう良くなっている分、余計に疲れを感じた。



 天井を眺めながら、なつみが助けに来てくれた時のことを思い返す悠貴。眠気に包まれている上、記憶は途切れ途切れだったが、背後からなつみが放った巨大な炎の渦だけはしっかりと目蓋に焼き付いていた。



(なつ……、あいつは本当に凄い……。演習の時なんかもそうは思ってたけど。あの影の獣たち……、俺たちがあんなに苦戦してたのに、なつは一撃で……)


 


 考えてみれば……。


 魔法の力に覚醒して浮かれていたが、これからは魔法士たちと競い合うことになる。影の獣たちと戦い合えたことに悠貴は何処かで喜びも感じていた。自分の力が通用したのが嬉しかった。



(でも……、今の自分じゃなつにはきっと勝てない……。そのなつを圧倒した手塚教官とはもっと差が……)



 なつみや手塚はまだ良い。2人は敵ではない。しかし、真美が言っていた。自分たちを襲ってきたあの影の獣たちは魔法士が放った眷属だと。その眷属にすら苦戦するようでは主人の魔法士とは……。そして、なぜ自分たち研修生を襲うのかは分からないが、その魔法士とは直ぐにでも戦うことになるかもしれない……。



(その時……、俺はG1の4人や、真美、眞衣……、皆のことを守る、守り抜くことが出来るのか……)




 拳を握った悠貴の心の深層から突如として思い浮かんできた言葉があった。



 ──強くなりたい。

今話もお読み頂き本当にありがとうございます!


そして、今週についても仕事の関係で週1回の更新とさせて頂きます。お待たせしてしまい申し訳ないです……。


と言うわけで、次回の更新は12月28日(月)の夜を予定しています。


投稿頻度を落とした分、初期の辺りの改稿に取り組んでいます。先日の活動報告でもお伝えしました通り第2、3話を改稿致しました。あとは30話前後の辺りも。宜しければお試しくださいっ。



皆さま方も年末へ向けて仕事や学校がお忙しいかと思いますし、その上この寒さ……。そんな中、少しでも拙作でお楽しみ頂けましたら幸いです。



宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ