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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第一章 『始まり』への日々
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第8話 学年合宿 ~到着~

 自動走行のバスが悠貴たちを乗せ目的地に着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。


 悠貴たちが今回合宿先に選んだのはいくつかのコテージが点在するタイプの宿だった。


 エリア全体は森に覆われて、その中心に中央施設があった。大人数用の宿泊も可能で、温泉施設や物品の販売施設が入っている。そこから離れ、円周上に大小のコテージが点在する。




「んんー、やっと着いたね」


 体を伸ばす莉々に、立ち上がって荷物を抱えた悠貴が言う。


「まったりしてる場合じゃないぞ、莉々。皆、降りてコテージ毎に分かれてくれ」


 悠貴の声を合図に全員が動き始める。


「係の仕事、大変だな。お疲れさんっ。何かあったら手伝うから言ってくれなっ」


 言った好雄がバスから先に降りて、入れ替わるように悠貴たちのボックスに近づいてきたのは合宿係でもある青木志温だった。


「ふう……。好雄の遅刻がなかったら俺がここに座って合宿の打ち合わせとか出来たのにな……。あ、取り敢えず皆の荷物降ろしちゃうか?」


 志温に頷く悠貴たち3人。本当なら志温を加えた4人でボックス席に座る予定だった。遅刻してきた好雄に一言言いたいと莉々が志温に頼んで少しのつもりで席を移動してもらったが結局そのままここまで来てしまった。


 悠貴たち合宿係もバスから降りてトランクに入れた荷物を下ろし始める。



 作業をしながら優依が悠貴に話し掛けた。


「コテージ、楽しみだね。パンフレットで見たけど、吹き抜けで2階から1階のリビングを見れて……。あ、本当に私たちが上で良かった?」


 悠貴は、もちろん、と頷いた。事前に2階の洋室に女子が、1階の和室に男子が寝ると決めていた。


「そう言えば、莉々は良いとして、優依って琴音とは仲良いのか? なんか、タイプ的には真逆そうだからさ」


「あー、悠貴君、それ、私が地味だって言いたいんでしょ? 確かに琴音ちゃんモテるし可愛いから、そうかもしれないけど!」


 膨れる優依に悠貴は笑った。

 近衛琴音。悠貴たちが通う大学の附属高校から上がってきた内部進学生だった。


「琴音ちゃんとも普通に話すよ? 2人でってことは少ないかもだけど……」


「確かに優依と琴音って組み合わせはあんまり見ないかも……。あ、やべ……。班に分かれてそれぞれのコテージに分かれてもらったけど、皆に鍵渡すの忘れてた……」


 悠貴はポケットからジャラッとそれぞれのコテージの鍵を取り出した。


「ふふ、悠貴君でもそんなことあるんだね。いいよ、私が回って皆に渡してくるから」


 鍵を受け取った優依はぱたぱたと駆けていった。そのやり取りを近くで見ていた志温。


「俺が行っても良かったのに。まあ荷物降ろしたり運んだりもあるし、俺はこっちをやってたほうがいいか」


 2泊3日で使う備品や食材などは悠貴たちのコテージにまとめて置かれることとなっていた。


「そうなんだよ、結構運ばなきゃいけない物、多くてさ。あ、志温さ、悪いんだけどこれ運んで俺たちのコテージの冷蔵庫に入れておいてくれないか?」


 頷く志温。


「了解。合宿の係の買い出しとか、話し合いとか……、あんま行けなくてごめんな」


「気にすんなよ、手伝わないでどっか行った好雄の方がムカつくから……。そう言えば、好雄どこ行ったんだ……。あいつも俺たちのコテージなんだけど、鍵は優依が持ってるし」


 ちょうど通り掛かった琴音が悠貴に答える。


「よっしーならどっか行ったよ? 何か、少し周り見てくるってさ」


「周りって……、もう暗いし……、森しかないだろ……。しょうがないな。あ、てか、琴音、ありがとなっ。係じゃないのに手伝って貰って」


「全然ー。気にしないで。係の仕事、色々大変そうだし一緒のコテージの何だし好きに使ってくれていいからね」


 ありがとな、と悠貴は返して荷下ろしを続けた。



 荷物は降ろし終わり、中を確認していた莉々もバスから下り、悠貴がスマホのアプリで、目的地到着、荷降ろし終了、忘れ物なし、と入力するとバスはドアを閉め森の外へと向かって行った。


「ふぅ、取り敢えずこれで一段落ね。じゃあ私たちも一度コテージにいこっか」


 言った莉々を先頭に悠貴たちはコテージへ向かった。




 コテージの前に着いた時、あ、と悠貴は声を上げた。


「そう言えば、優依……。皆に鍵を届けに行って戻ってこないな。確かにそれぞれのコテージって離れてるけど、それにしても遅くないか?」


 莉々が「私ちょっと探してくる」と手にしていた荷物を下ろした時、暗い道の向こうから優依と好雄がやってきた。


「優依、ちょうど今に探しに行こうとしてたんだよ。遅かったじゃん? 大丈夫か?」


「ご、ごめんね……、悠貴君。途中で好雄君と会って、それで、少し話し込んじゃって」


 言った優依から好雄に目を移す悠貴。


「好雄、お前どこ行ってたんだよ!? あんだけ荷物運ぶの手伝えって言ってたのに! しかも優依のことも……。あ、お前……まさかとは思うけど……、うきゅんに変なことしてないだろうな?」



 悠貴は時にふざけて優依の事を、うきゅん、と呼んでいた。


 好雄が大袈裟に首を横に振って答える。


「大丈夫! 大丈夫! 優依に手出す時はちゃんと悠貴に事前許可取るから!」


「安心しろ、絶対にその許可は出さないからな!」


 悠貴は大きく言ってコテージへ入っていった。莉々、志温、琴音も続き、好雄と優依だけがその場に残った。




 悠貴たちの話し声が聞こえなくなったのを確め、好雄が小さく言った。


「ちゃんと祈れたか?」



 優依は無言で頷いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それぞれのコテージに分かれてからは各グループ、思い思いに過ごしていた。悠貴たち6人も今夜のこれからの予定を話し合っていた。今夜は特に全体で何かをする予定はなく、コテージ単位で予定を決めて過ごす。




「だからなぁ、莉々……俺は腹減ってるんだよぉ! 起きてからダッシュで集合場所に向かって……」


 莉々が好雄の言葉を(さえぎ)る。


「いやいや、よっしーその分、昼にバカ食いしてたでしょ!? それに、汗だってかいてるのに夕飯の前にシャワー浴びないとかマジないから!」


 互いに譲らずに睨み合う好雄と莉々。2人の間に割って入る悠貴。


「分かった分かった……、もうこうなったらもう男女別々でいいんじゃ……」


 (なだ)めようとして言った悠貴に莉々と好雄が、


『それはダメ!』


 と、タイミングを見計らったように声を合わせて言った。



「悠貴……、何も分かってないよ。せっかくの合宿じゃん、ご飯は皆で食べたいな」


 急に寂しそうな表情を浮かべて言った莉々に好雄が続く。


「そうだぞぉ、悠貴ぃ。同じ釜の飯を食う。それでこそサークルメンバーの親睦が深まるわけだなー、うんうん」



 最終的には優依が好雄をなだめて取り敢えず温泉となった。





 支度が出来た順にコテージの外に出る。


「おぉ、結構冷えるね……。都心の方はまだ暑いのにね……」


 吹き抜けた風に琴音は両腕で自分を抱き締める。


 事前に悠貴たちは旅行会社から、この時期の伊豆高原の気候について聞かされていた。始まりの山の出現は夏から秋にかけて、太平洋から関東平野へ吹く風向きに強弱に微妙な変化を与えた。海からの南風は始まりの山を避けるようにして南関東州に流れ込む。


 伊豆高原もその影響を受け、この時期風は強いが逆に価格帯が手頃な時期ということでこの時期に合宿を行うサークルも多い。


「この風……、明日の朝には少しは収まるんだよな?」


 心配そうに言った志温に好雄は、さあ、とだけ返した。


「さあ、って好雄……。お前もっと気合い入れろよ! 明日は朝練からがっつり試合やるからな。さっき皆と話したんだけど、チーム分けはな……」


 志温を中心に明日の朝練について語り合う。



 好雄と優依は志温たちから少しだけ離れた所で小声で話す。



「優依……、大丈夫か? やっぱり無理して来なくても良かったんじゃ……」


「ううん……好雄君。私、やっぱり()()()行かなきゃ……。森に入って少し祈って……だけじゃ今までみたいに過去から目を背けているのと変わらないから……」


 言った優依に好雄は軽く溜め息をついて、分かった、とだけ返した。





 ちょうど悠貴がコテージの中から出てきた。


「ちょっとー、悠貴遅い! こんな寒い中、いつまで待たせるのよ!」


 風に流れる長い髪を手で押さえる莉々。



「悪かったって! タオルが見つからなくて……」


 悠貴はドアに鍵がかかっていることを確めながら答える。


 莉々と志温を先頭に歩き出す。


「悠貴ー、置いてっちゃうよ!」


 悪戯っぽく言った琴音が莉々と志温に続き、その後を好雄と優依が続いた。


「ちょ、待ってくれよ!」


 急いで鍵をポケットにしまった悠貴は先に移動を始めた莉々たちを追う。その悠貴の目に入ってきた優依の姿。暗くてちゃんと見えた訳じゃないが、目頭を押さえるような素振りをした気がした。


 悠貴は足早に進んで優依と好雄に並ぶ。

 横を進む優依に声を掛けようとした所で莉々に呼ばれた。


 優依を一瞥(いちべつ)する悠貴。優依は好雄といつも通り話していた。


(何だ……、気のせいか……)


 思って安堵した悠貴は息を吐いて莉々のもとへ向かった。


お忙しい中読んでくださった方、本当にありがとうございます!

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