第17話 学年合宿 ~余韻~
一頻りBBQの片付けも終わり、悠貴たち合宿の係4人を残して他のメンバーはそれぞれのコテージへ戻った。
忘れ物でもないかと庭を見回す悠貴。ついさっきまで散々盛り上がっていた庭に今は虫の音が響く。少し寂しい気持ちになる。
その庭に隣のコテージから喧騒が伝わってくる。どうやら大門が何かやらかしたようで、コテージの他の仲間から追いかけられている。その様子が目に入り悠貴は横に座る優依と目を合わせて笑った。
「コンロ、置いてきたぞ」
志温がそう言って戻ってきた。
「ありがとな。重かっただろ? やっぱ手伝えばよかったな」
「全然。悠貴と優依は食材運んできてくれたし、元々コンロは俺と莉々の担当だしな」
悠貴に返した志温が座る。
「はい! みんなお疲れ様ー!」
志温が戻ってくるタイミングを見計らっていた莉々が飲み物を運んできた。
「おう、ありがとな。じゃあ明日の予定確認するか」
悠貴の言葉に3人が頷く。4人で庭に面したベランダに座った。明日は今日と同様に朝練から始まる。朝食を取って出発の用意を終わらせて迎えのバスを待つ。バスは帰路の途中、海岸線に臨む山の中腹に在る温泉に立ち寄る。
そこまでの予定を確認しながら読み上げた悠貴の脳裏に往路で見た始まりの山の光景が思い浮かぶ。
(考えてみれば、あんなに近くで見たのは初めてか……)
自分にとっては生まれたときから始まりの山は始まりの山で、ネットやテレビでいつも目にしている。物珍しくはなかったが、近くでああやって目にすると言い知れない気持ちが沸いてきた。
「悠貴?」
莉々が不思議そうな目で自分を見ているのに気づいた悠貴は、大丈夫だ、と返して予定の先を確認していく。
「取り敢えずはこんな所かな? 他に確認しておくことってありそう?」
横に座る莉々に尋ねられた悠貴は少し考えてみたが特に思い当たらなかった。
「いいんじゃないか? もともと明日は予定にかなり余裕あるし……、それに予定らしい予定は温泉に行くくらいだしな、優依はどうだ?」
言って向かいの優依を見る悠貴。
BBQの途中、庭から離れて好雄と話していた優依は泣いていた。その理由は分からないが、恐らくあの場所に関わりがあることなんだろう。
(聞いても……、教えてはくれないんだろうな……)
森での様子から好雄は無理でも優依からならあるいは詳しい話を聞けるかもしれないと心の何処かで思ってしまう。その心情が無意識に出た悠貴が優依を見つめる。
「あ、えと、どうしたの悠貴君……? そんなに……見られると……ちょっと……」
「あ……、ゴメン……! ちょっとぼーっとしてて。て、優依はどうだ? 明日の予定で特に気になることとかは?」
「うーん……。うん、大丈夫だと思うよ。悠貴君の言った通り、明日は決まった予定は温泉くらいだもんね。皆でゆっくり過ごせそうだね」
言って優依は悠貴に笑顔を向ける。悠貴は少しその笑顔を怖く思った。今まで通り、と気を遣ってくれているかもしれないと思うと嬉しかったが、森での出来事を考えるとこんな風に平然としている優依が何を考えているのか分からなくなる。
「あー、ええと……、志温はどうだ?」
悠貴は優依から志温に水を向けた。
「ん、俺も特に……。まあ俺はテニスが出来てればそれでいいからさ」
淡白に言った志温に莉々が口を開く。
「ホント志温ってテニスのことばっかり……。まあ、テニスサークルの合宿なんだから別にそれでいいんだけどねっ。はぁ……、分かってはいたけど、2泊なんてあっという間ね。昨日の夜に到着したばっかりだから2泊3日とは言い切れないし……。残ってるのは明日だけ……。楽しかったからいいんだけど、ちょっぴり寂しいかな……」
「莉々ちゃん……」
優依から向けられた視線に微笑む莉々。
「私ね、高校のとき、テニス部のキャプテンだったんだ。その時も合宿とか色んなイベントとかさ、こうやって企画して皆で話し合って……。うん、私、こういうの好きなんだね、やっぱり。皆で考えて、準備して、楽しく過ごして……。まだ終わった訳じゃないけど、皆、ありがとね。この4人だったからこそ、こうやってよっしーとか大門が馬鹿しても無事合宿を成功させられて……、凄く楽しかったよっ」
「そ、そんな……、莉々ちゃん、私こそありがとね……。私ね、普段忙しくて中々サークル参加できてなくて、皆とも馴染めてない所あって……、だから、この学年合宿に来れて、皆とも仲良くなれて、凄く嬉しかったよ」
微笑み合う莉々と優依。
(言われてみれば……、優依と仲良くなったのって係で絡むようになってからなんだよな……)
サークルの練習や集まりで会うよりも大学のキャンパスですれ違うことの方が多かった。そうやって悠貴が思い浮かべた優依はいつも魔法士のローブを羽織っていた。
練習や食事に誘う度に、魔法士の演習や仕事があって参加できないと返された。申し訳なさそうに断る優依。
しかし、優依の口から、魔法、の言葉を聞く度に悠貴は複雑な気持ちになった。自分には理解できず、遠く、果てしなく遠い世界。
自分と同じ大学生。同じような生活を送っているはずの人見知りの少女は、絶対的な越えられない壁の向こうの住人だった。
そんな優依と合宿の係同士になってから話す機会が増えた。そうやって話すうちに優依の存在は特別なものではなくなっていった。魔法が使えることを除けばどこにでもいる女子大生だった。優依も優依で、自分からは魔法や魔法士のことは話さなかった。聞かれたときにも、聞かれたことだけを答えた。
(優依と魔法を勝手に結びつけ過ぎてるのは俺だけか……)
笑って悠貴は優依を見た。
悠貴の視線に赤くなる優依。
「ちょっとー、悠貴! なんか今日、やたらと優依のことジロジロ見ててキモいんですけどぉ……」
莉々の突っ込みに慌てる悠貴。
「ち、違うって……! 誤解だって! たまたま莉々が見たときに俺が優依を見てたってだけで……」
「誤解ねぇ……。優依ー、嫌だったら嫌って言いなよ? 悠貴も含めて男って馬鹿だからちゃんと言わないと分からないから……」
悠貴たち4人は暫くそうして盛り上がった。合宿のこと、サークルのこと、大学のこと……。そうして話すうちに以外とお互いに知らないことが多かったことに気づく。そろそろ寝ようかという雰囲気になった所で莉々が思い出したように、あ、と声を上げた。
「何だよ、莉々、いきなり!」
「何か大事なこと忘れてると思ってたら、そうよそうよ! ねぇねぇ、4人で合宿の打ち上げやろうよ! 係の打ち上げ!」
立ち上がった莉々を見上げる3人。
「いいじゃん……、やるか!」
悠貴の言葉に志温と優依も頷く。
早速どこそこに行きたい、と話が再び盛り上がる。夜更けの庭に4人の笑い声が響いた。
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