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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第一章 『始まり』への日々
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第16話 学年合宿 ~晩餐~

 結局そのまま悠貴と莉々はリビングが薄暗くなるまで座って虚空を眺めていた。



 他愛もない話を何度かした。おもむろに立ち上がった莉々はカーテンを閉め始める。


「なぁ、莉々……。あの2人……、ホントあんな所で何してたんだろうな……」


 カーテンの端に手をかけたままの莉々も悠貴と同じように窓から見える森とその先の空に目をやる。


「さあね……。私も気にはなるけど……、よっしー言ってたじゃん、何もなかった、何も見なかったことにしようって。今まで通りだって……。だから、私たちも気にするのは止めよう? あの2人と、もうあんな風にはなりたくないから」



 言って莉々はカーテンを閉じ、リビングの明かりをつけた。


「さっ、そろそろBBQの用意しなきゃ。悠貴も具材取りに行かなきゃでしょ」


 悠貴がスマホに目を移す。


「あ、もうこんな時間か。確かにそろそろ食材とかの荷物届いてそうだな」



 立ち上がる悠貴。莉々も続いた。


 2人は玄関の扉を開けて外に出る。



「あ……」


 靴を履きながら外へ出た悠貴。莉々の声に顔を上げる。目の前の少女の姿に悠貴は平静を装うので精一杯だった。


「行こう、悠貴君」


 優依は優依だった。

 悠貴にとっても莉々にとっても大学の友人であり、サークルの仲間でもある、人見知りで引っ込み思案な少女。


「どうしたの、悠貴君。早く行かないとBBQ始めるの遅れちゃうよ? 莉々ちゃんはコンロの用意だよね? この辺りまで運んでもらえるみたいだから、そろそろ届いているかもだね」



 あまりにもいつも通りの優依に悠貴はゾクッとした。


「あ、あー……、そうだな、行こうか、優依。じゃあ、莉々、こっちは頼んだぞ」


 頷く莉々。悠貴と優依は歩き始める。


 悠貴は横を歩く優依に視線だけ向ける。

 肩から懸けている鞄が膨らんでいた。恐らくは魔法士のローブに違いない。


「なぁ、優依……、それって……」


 悠貴が言い終わる前に優依が口を開く。


「BBQ、本当に楽しみだよね。私、今までこういうことしたことなくて……。悠貴君は今までに経験ある? もしあるんだったら色々と教えて欲しいなぁ」


 悠貴に笑顔を向ける優依。

 仕方なく悠貴は優依に話を合わせる。

 会話をするための会話が続く。



 中央施設に着いた2人は受付へ向かう。


「あ、これ、取りに来たんですけど……」


 悠貴が荷物を受け取るための用紙を受付の向こうの女性に渡す。


「ああ……、BBQ用の具材ですねっ、少々お待ちください」


 奥に消えた受付の女性。

 悠貴も優依も口を開かない。会話のための会話は既に尽きてしまった。


(ヤバいな……、森でのことは触れられないし、何話したら良いんだろう……)


 悠貴はチラリと優依を見る。優依はただ前を見ている。


(き、気まずい……)


 悠貴が耐えきれずに、とにかく口を開こうとした時、受付の女性が戻ってきた来た。押してきたカートの上に大小の段ボールの箱。ビニールの袋も幾つかあった。



「お待たせしましたぁ。結構、量がありますけど、おふたりだけで大丈夫ですか?」


 悠貴は試しに大きい箱を持ち上げてみた。

 持てなくはない重さだったが軽くはなかった。


「たぶん、大丈夫です。優依、これと……、これ、頼めるか?」


 悠貴はそう言って、優依に小さい箱とビニールを指す。


「あ、う、うん。大丈夫だけど、悠貴君こそ大丈夫? 今からでも他の人、呼びに行く?」


「いや、時間もったいないし頑張るよ。さ、行こう」


 優依に頼んだ以外のビニールの袋を指にかけて、悠貴は大きな段ボールの箱を抱えて歩き始めた。優依は慌てて悠貴と同じように具材を抱えて続いた。



「ぐ……、やっぱ結構重いな……。てか、何人かに手伝って貰う予定だったのにすっかり忘れてたな……」


 コテージを出る直前まではそのことを覚えていた悠貴だったが、外へ出て優依を見た瞬間に忘れてしまった。


「ご、ごめんね、悠貴君。私がコテージに迎えに行く前に誰かに声を掛けて連れていけば良かったね……」


「いいって。優依だって忙しかっただろうし……。それにしても、こんなに食べきれるのか……? 注文は優依に任せてたし、何頼んだんだ?」


「ふふっ。この人数だもん、少な過ぎるぐらいだよ。えとね、注文したのは……例えば……」



 優依はBBQへ向けて何を食べたいのか事前に聞いて回っていたようで、誰々が何を食べたいと言って……と説明を始めた。



 優依は語り続ける。悠貴は重い荷物を抱えて必死だった。

 悠貴は自然と自然に出来た。その状況に内心感謝した。





「お待たせー! 持ってきたぞー!」


 コテージに着いた悠貴は抱えていた具材をリビングまで運んで下ろした。


「遅かったじゃんっ、悠貴。あー、優依と一緒だったんだ……。さては……、少しでも優依と一緒にいたくて……。羽田流牛歩戦術だね!」


 琴音が悠貴を指を差してビシッと言い放つ。


「こ、琴音ちゃん! あ、あのね……、本当に、これ、重くて……それで……」


 あたふたとする優依。


「優依、琴音の相手なんかしてる暇ないぞ。早く準備始めないと……」


「琴音なんて、って何よー。ふん。取り敢えずお疲れ様っ。2人は少し休んでて。みんなー、やるよー!」


 琴音が呼び掛けると何人かが集まってきた。箱を開けて中を台所へ運び始める。




 悠貴は調理の準備は任せて庭の方を眺める。

 莉々、志温を中心に外でコンロを組み立てて火を起こしている。思いの外上手くいっているようだった。




 すぐに細かく切られた具材がコンロの側に並べられる。


「よーし! 焼き始めるわよー!」


 莉々の声を合図に具材が鉄板の上に蒔かれていく。直ぐに香ばしい匂いが辺りを包み始めた。


 食欲をそそる音に好雄が耐えきれずに声を上げる。


「よし! もう焼けたな!」


「あ、馬鹿! まだ早いって! 肉赤いでしょ!」


 好雄が伸ばした箸を莉々が菜箸で叩き落とす。

 ぎゃあぎゃあとやり合う莉々と好雄を中心に盛り上がる。


 焼いては食べ、を繰り返す。

 優依の見立て通り食材は少なかったようで直ぐに底をついた。追加で買い出しへ行って、また焼いては食べ、を繰り返した。



 次第に食べ続けるメンバーは減っていき、ここそこで座って話し込む姿が目立つようになってきた。




(あれ……、好雄と優依がいない……)



 悠貴は辺りを見回す。

 やはり2人の姿が見えない。



(もしかして……また森に! こんな遅くに!)



 追いかけて行こうと悠貴が踏み出す。その瞬間、悠貴の脳裏に喉元に突き付けられた木の枝が(よぎ)る。好雄にきつく首を突っ込むなと言われたことも。


(それでも……!)



 悠貴は庭とは反対側、コテージの正面へ向かう。森へと続く横道に入ろうと駆ける悠貴。人声が耳に入ってきて悠貴は足を止める。



(優依……、好雄……)



 コテージの角に隠れ、悠貴は様子を窺う。コテージの玄関脇で好雄と優依が座って何かを話している。安心した悠貴は胸を撫で下ろす。


 しかし、会話の内容は上手く聞き取れないものの、時折優依のしゃくりあげる声が届いてきて悠貴は表情を変える。



「あれは仕方なかっ……。……も分かって……るって。優依……悪くない……」



 どうやら好雄が優依を慰めているらしい。気にはなる、何とかして2人の会話を聞き取りたい……。悠貴は近づこうとして、……そして逆に庭へ向かって歩き始めた。



(いや……ダメだ。好雄はたぶん本気だ、次はない……)




 悠貴は忍び足で庭に戻った。振り向いた莉々が声を上げる。


「悠貴ー、どこ行ってたの? ほらっ、シメの焼きそばー!」


 莉々は言いながら焼きそばを紙皿によそって悠貴に手渡す。



 悠貴は焼きそばに目を落とす。考えてみるとここまでほとんど何も口にしていなかった。口にした悠貴が思わず漏らす。


「美味い……」


「でしょー? 私、料理にはちょっと自信あるんだ。もっと誉めてくれてもいいのよっ?」


 意地悪そうな笑みを浮かべる莉々に悠貴は笑った。




「おーい! お前ら! 大変だ! 好雄が優依を泣かせたぞー!」


 大声で叫びながら駆けてくる大門の背中に好雄の蹴りがはいる。


「だからちげーって言ってるだろ!」


「そ、そうだよ! わ、私、好雄君に話を聞いて貰ってただけで……」


「そうだぞ! な、悠貴……、お前は信じてくれるよな!?」


 悠貴にすがり付く好雄。

 悠貴は好雄に微笑み、そして……。



「俺のうきゅんに何て事をするんだ!」


 声を上げた悠貴が好雄に掴みかかる。周囲から笑いが起こる。


 今まで通りの光景だった。好雄が馬鹿なことをして自分が突っ込む。


 悠貴にはそれがひどく懐かしいことのように思えた。

こんばんは!

お読みいただいた方、ありがとうございます!


次回は木曜日に更新する予定でおります。

宜しくお願い致します!

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