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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第一章 『始まり』への日々
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第13話 学年合宿 ~追進~

 コテージへ戻った悠貴は1階のリビング横の和室に寝転がる。畳がひんやりとする。仰向けに寝転がる悠貴。天井の木目を何ともなしに見ている。


 どこかで見たことのあるような紋様だったが、はっきりとは思い出せないし、思い出そうという意欲も湧かない。



 さっきの、コテージへ戻る途中で見た優依の表情。


(優依、あんな顔もするんだな……)


 悠貴は優依の見せた表情と、そこから覗かせた感情にゾッとした。普段の優依は悠貴から見れば周囲への遠慮からか、感情をはっきりとは表に出さないタイプに思えた。その優依がはっきりと見せた、怒りの気持ち。


(優依は……何に対してあんな顔をしていたんだろう……)


 思いながら悠貴は大の字になっていたが、(おもむろ)に寝返りを打つ。


 リビングの方を向き、昨日の夜の視点と重なっていることに気がついた。


 リビングから順に目を移していく悠貴。吹き抜けから見える2階の洋室の窓、そして広く大きなガラス戸。


 夜にコテージへ着いて、大門が張り付いた後すぐにカーテンを閉めてしまったのでその大きさに気がつかなかった。ガラス戸越しに庭がよく見える。



 中央施設からコテージへ続く道の反対側に庭があり、今夜はここでBBQをすることになっている。天気は良く、庭も綺麗だっだ。


 17人揃ってBBQをするには丁度いい広さの庭。


 コテージから見て庭の奥には木の柵が見え、その奥には鬱蒼(うっそう)とした森が見えた。森の緑が深いせいか、森の上、その空の青さが際立っている。


 ひとつの絵画を見ているような錯覚に陥っていたその時、悠貴の視界の左端で何かが動いた。さっきから意識のどこかにこびりついていた人物だったので、木の柵の格子の向こうを進むそれが誰かはすぐに分かった。



 柵は庭を囲うようにして立てられていたが悠貴から見てその左。優依は手前から奥……、森の方へ向かって早足で小走りで進む。


 悠貴は体を起こし、優依の姿を目で追う。



 優依の肩掛けの白い鞄。何か入っているようで、遠目にも膨らんで見えた。優依の姿が森へ消えようかという寸前、悠貴の視界でまた何かが動いた。



「好雄……」


 呟くようにして言った悠貴が目を見開く。


 優依は振り向き、好雄を見留めると立ち止まり、揃って森へと入っていく。



 好雄が何かを手にしていたような気もするが本当のところは分からない。考える前に体が動いた。立ち上がる悠貴。



 玄関へ走り、靴を履き、外へ出て右手へ向かう。コテージの角を曲がるとその景色の奥に先程2人が消えた森の入り口があった。

 ガラス越しにではなくこうやって肉眼で見ると余計に気味が悪く思えてくる。緑が深い森の入り口の奥は幾重にも緑が重なり黒に収斂(しゅうれん)している。




 悠貴は2人の後を追った。



 これまでの経緯から察するに、絶対に好雄と優依には気づかれてはいけない悠貴にはこの森の薄暗さは都合が良かった。もはや獣道と言ってもいいような道を前方の2人は進んでいく。


 森へ入る前。悠貴はこの森も、テニスコートへ向かう森と同じような様子だろうと勝手に思い込んでいた。そう思っていた自身の不明を今になって呪う。


 空からの陽光を木々が(さえぎ)り、僅かな隙間から辛うじて地面を射す陽の線はむしろ森の陰鬱さを映えさせる。


 2人に遅れることしばらく、見失うか見失わないかといった距離を保ちながら悠貴も同じ方向へ進んでいく。


 小柄な優依がいるせいか進みは遅い。が、そのせいで悠貴は慎重にならざるを得ない。悠貴が普通に、無意識に歩いていると距離をつめてしまうからだ。


 加えて悠貴にはこれから自分は何を目にしてしまうのだろうかという極度の不安と緊張があり、これらは悠貴の足を無意識に速めようとさせる。


 いっそのこと、走っていって全てを問い詰め、明らかにして早く楽になってしまおうかとも思ったが、それでは2人はいつものようにはぐらかしてしまうだろう。


 このまま隠れて追っていくしかない。


 森を進んでもう1時間にもなるだろうか。森の景色は変わらずに、後で自分ひとりで戻れるだろうかと、悠貴には不安もあるが、それでも今は戻る気にはなれない。



 唐突に好雄と優依が立ち止まる。少し開けた場所に出て岩場に座り込む。


(あそこが……、あの岩が目的地か……)


 2人が歩を止めたので悠貴も大きな木の幹の影に隠れ、顔を半分だけ出し、片目で様子を窺う。


 やたらと心臓の音がうるさい。緊張と一時間を超える歩行のせいで汗が止まらない。肌にシャツが引っ付く感覚が不快だった。




 俺何やってるんだろう……と悠貴が思っていた時だった。


 突如背後から物音がし、何かが自分に向かってくる気配を感じた。と同時に振り向くと胸元に何かが飛び込んできた。


 本能的に声をあげそうになるのを意思の力で全力で阻止する。それほど悠貴にとって2人に気づかれないようにすることは現時点での最優先事項だった。



 恐る恐る目を開き、最初に目に入ってきたのは白いパーカーのフード。それを羽織って悠貴の胸元に飛び込んできて抱きついていたのは……。




「莉々……」


 ほっとして全身の力が抜けて脱力する悠貴。崩れ落ちそうになる。実際に崩れ落ち始めたが、その瞬間に莉々の体温を感じ、体勢を立て直す。



「悠貴ぃー……」


 莉々が涙目で悠貴を見上げる。


 ふと、今の状況に今度は悠貴が急に顔が熱くなった。ゼロ距離で自身にしがみつく莉々から一歩離れる。


「お前……、こんなとこで何やってるんだよ……」


「それこっちの台詞だよ! 大門から合宿費貰おうと思って、あいつのコテージにいたら窓から優依とよっしーが森に入っていくのが見えて……、んー、って思ってたら悠貴もそれ追ってくし」


「大人しく寝てれば良かっただろう……」


「だって……、悠貴、確か優依が何か変だ……、みたいに言ってたじゃん? 気になって……」


「あぁー、もう良いからお前はもう戻れ、あとは俺に任せろ」


手を振って追い返そうとする悠貴に莉々がしがみつく。


「やだよっ、てか無理! 私ひとりじゃ戻れないよ!」


 しがみついた手で悠貴を揺らす莉々。説得している間に前の2人が何をするかを見逃しては元も子もない……。深呼吸する悠貴。



「分かったよ、でも絶対にでかい声出すなよ」


「もちろん!」


 そう言った莉々の声が少し大きかった。驚いた悠貴は口許に指を当てて莉々を見る。莉々は口許を手で覆って頷く。



 莉々は悠貴がそうしていたように木の幹から顔を半分だして好雄と優依の様子を窺う。


「あの2人……ホントどうしたんだろう。どこ行くんだろうね……?」


「莉々さ、何か2人について知らないのか?」


「知らないよー。悠貴に優依のこと言われて少し考えてみたけど……、別に悩んでるとか、そういう話、優依から聞いたことないし……。さっぱりだね……」



 悠貴と莉々がそんなやり取りをしていると、岩場に座る優依が肩掛けの白い鞄の中から何かを取り出した。



「あれは、魔法士のローブ?」


 と、悠貴は思わず声に出してしまった。


 優依が鞄の中から取り出した、以前、悠貴が見たことがある薄いピンクの魔法士のローブ。


 もう1着ローブを取り出したが、それは好雄に手渡す。


 手渡された好雄はローブに何かを付けている。ここからは遠く何をつけているかは流石に見えない。


 2人のいる岩場。葉の天井が薄いのか光が差し込んでいる。



 一瞬、好雄がローブに何かを付けようとしているその指先が光った。魔法士がローブに付け、そして光を反射するような代物。悠貴の中で思い当たる物はひとつしかなかった。


(あれは……、魔法士の徽章だよな……)




 付け終わったのか好雄はローブを(まと)う。優依もそれに続く。優依のローブも一瞬光るのが悠貴に見えた。


 受け取ったローブの代わりに好雄はそれまで手にしていた何かを優依に差し出し優依はそれを鞄にしまった。


 2人は再び歩き出す。



「あれ、あの2人……、まだ森の奥に進むの……?」


 言った莉々が悠貴を見上げる。肩を(すく)めて応じた悠貴は優依と好雄が休んでいた岩場まで進む。


 好雄と優依が腰かけていた岩場を悠貴は見た。岩場自体には特に変わった様子はない。



 その岩場に隠れる悠貴と莉々。

 優依と好雄は足を止めることなく森の奥へと進む。


 悠貴と莉々は目を合わせ、互いにため息をつく。前を行く2人の後を追った。

第13話もお付き合いいただきましてありがとうございます!


次回の更新は木曜日を予定しております。

宜しくお願い致します!

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