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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第四章 クロイキリの行方
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第122話 桐花杯特訓合宿Ⅵ

 顔に何かが当たった衝撃で悠貴は目を開ける。


 目の前に好雄の腕があった。寝返りを打った拍子に自分の顔にかかったらしい。



 好雄の腕を避けた悠貴が身体を起こす。昨日は散々盛り上がってそのまま眠りこけてしまった。


 横で大の字になってイビキをかいている好雄。ソファーでは莉々と優依が1つの毛布で身体を寄せあって寝ている。眞衣だけはベッドに入って寝ていた。



「そう言えば……、潰れた眞衣をベッドまで運んだんだっけか……」



 途切れ途切れの記憶を繋ぎ合わせる悠貴。ふと、悠貴の耳に響いてくる音があった。



 窓辺まで進む悠貴。耳を澄ますとやはり小さく音が聞こえてきた。カーテンを開ける。少し離れた所に見える演習場。電磁障壁の中に魔法士たちの姿が見えた。



「へぇ……、朝練、かぁ」


 時計を見た悠貴。

 ローブを羽織って外へ向かった。



 好雄から聞いていた通り早朝の時間帯は演習場は予約無しで使えるようで、早起きな魔法士たちが個人練や一対一での対戦に汗を流している。



 対戦形式で朝練に励む魔法士たちの(ほとん)どはやはり昨日好雄や優依がそうしていたように魔法を使いつつ武器も駆使する戦闘スタイルだった。



(こりゃ俺も早く何か武器を使いこなせるようにならないとな……)



 好雄は昨日一日、対戦形式の特訓をしながらを悠貴や俊輔、眞衣の魔法属性やレベルの確認をしていった。


 そうして昨日演習場を出るときに、『よし、じゃあ早速明日からは試しに武器を使った対戦やってみるから、それぞれどんな武器を使いたいか考えておいてくれな』と言った。



 悠貴はそんな好雄の言葉を思い出しながら改めて目の前の光景を目に映す。剣や槍、拳銃、小銃……。魔法士たちは様々な武器を使いこなしていた。


(俺は……、うーん、どうしよう……)



 オーソドックスなのは剣類。しかし、新人研修で特高や魔法士、魔獣たちと戦ったときは武器は使っていない。必然的に距離をとっての戦闘になった。そう考えると銃も……。そんなことを考えていた時だった。




「悠貴さんっ」



 背後からの呼び声に悠貴は振り向く。眞衣がパタパタと駆け寄ってきた。



「お、おはようございます! どうしたんですか、こんな朝に……」


「いや、ちょっと目が覚めちゃったからさ。せっかくだから他の魔法士たちの朝練の様子でも見ようと思って……。眞衣は?」


「あ、私は悠貴さんが外へ出る音で起きて……。それで追いかけてきちゃきました」


「そっか。起こしちゃったか、ごめんな」


「いえいえっ。えと、私も付いていっていいですか……?」



 肩で息をする眞衣はローブを羽織っていた。頷いた悠貴に、やった、と喜ぶ眞衣。


 2人は並んで歩き始める。



「それにしてもお前……、よくあんだけ飲んで暴れたのにケロッと起きれるよな?」


「んん? 何のことですか? 私は一口だけ飲んであとは大人しくしてたはずですよ。あんまり記憶にはないですけど……。それにちゃんとお行儀良くベッドで寝てましたし!」


 それは自分がベッドに運んだから……。思った悠貴だったが口にはしなかった。どうだとばかりに目を向けてきた眞衣に悠貴は笑う。



「そう言えばさ……、お前、何で俺が働いている塾に通いに来たんだよ? お前確か……」


 悠貴の記憶では眞衣は旧神奈川県に住んでいるはずだった。まさかそこから通っている訳でもないだろうと目を向けた悠貴に眞衣は複雑そうな顔をした。



「そ、それは悠貴さんを追いかけて来たからですよぉ……」


 冗談っぽく頬を掻きながら言った眞衣。


「はいはい。で、ホントは?」


「あー、全く信じられてない! それもちゃんとした理由の一つなんですよ!」


 そこまで言った眞衣だったが急に声のトーンが変わる。


「悠貴さん……、私の友達の梨子って覚えてますか? 新人研修にいた……」


「梨子?」


 言われた直後には思い浮かばなかった悠貴だったが、研修のG(グループ)4……新本や廣田、陽菜乃の顔につられて思い出す。



「あっ、同じ中学校の友達だっけか? 確かG4にいた……」


 頷いた眞衣が歩く速度を落とす。悠貴もそれに合わせた。


「私たち……G3は梨子たちG4と研修であんなことになっちゃって……。私、あの人たちを絶対に許すことはできないですけど……、でも梨子は中学に入ってからずっと一緒にいた友達だから……」


 結局合宿中、眞衣は梨子に話し掛けられずに終わった。気まずさを抱えながら地元に戻った眞衣。


「それでも私……、梨子とは今までみたいに友達でいよう、いたいって思って……。でも……、梨子……、何て言うのかな……、変わっちゃったんです……」


「変わった?」


 聞き返した悠貴に眞衣は静かに、小さく頷いた。


「はい……。見た目の印象とかは全然変わらないんですけど、あの、何て言ったらいいか分からないんですけど、別人みたいになっちゃって……」


 眞衣の中では梨子は控えめで優しい女の子だった。男子にからかわれても何も言い返せず自分が助けたことが何度もあった。


「それが……、男子にも、先生にも『魔法士の私にそんな態度とっていいと思ってるの?』とか言い始めて……。前の梨子なら絶対そんなこと言わなかったのに……」



 悠貴の中の印象でも梨子は目立たない、大人しそうな(ただず)まいの中学生だった。眞衣と一緒にいるところは何度も見たが、眞衣の印象の方が強く残っている。


「梨子(あの子)、水の属性の魔法士なんですけど……、魔法を使って、その……、先生とか生徒を……」



 眞衣の話だと梨子は自分を注意してきた先生や、ちょっかいをだしてきた生徒を片っ端から魔法でねじ伏せていったらしい。悠貴は口に手をあてて考えて、そして眞衣に尋ねる。


「でも……普段は魔法士ってむやみやたらに魔法を使ったりは……」


 尋ねながら悠貴は思った。むしろ魔法士はどちらかというと一般人の前では魔法を使うのを嫌がる。噂になったり、他の魔法士に目をつけられたりするからだ。目立ちたくない人間にとっては尚更だ。



「はい……。私もです。梨子だって同じはずで……。それからも梨子の態度は酷くなっていって……。私といるときは普通なんです、何だか私、それが不自然すぎて怖くなってきちゃって……。それで転校してきたんです、悠貴さんのいる街に……」


「何で俺のいる所に……?」


 赤くなる眞衣。


「ふ、普通それ聞きます……? 言わなくてもそれくらい分かってください!」


 眞衣が長いローブの裾を振り回す。ペシッと悠貴の顔にあたった。「いてっ」と声を出す悠貴。





「おいおい、朝から何イチャイチャしてるんだよ!」



 悠貴と眞衣は(そろ)って声がした方を向く。すぐ側の演習場の中から俊輔が手を振ってきた。



「朝からデートとか余裕だな、悠貴!」


 笑いながら俊輔は2人の方に近づいてきた。


「デ、デートしてるように見えるんですね!? 見えるんですね!?」


 飛び跳ねながら迫ってくる眞衣に俊輔は「お、おう」とたじろぐ。


 そんな眞衣の首根っこをつかんで落ち着かせる悠貴。


「ちげーよ。お前は……、朝練か?」


「おうよっ。桐花杯では少なくともお前みたいな女たらしに遅れはとりたくねぇからな」


「はぁ! 誰が……」


 言いかけた悠貴だったが、横でまだテンション高くはしゃいでいる眞衣が目に入る。反論しようという気持ちが萎える。


 肩を落とす悠貴を見て笑った俊輔。


「まあまあ。お、どうだ? 悠貴も朝練やらねぇか? 入れよっ。眞衣も」



 演習場に足を踏み入れる悠貴と眞衣。2人の目に俊輔の背後の地面に突き立てられた槍が入ってきた。それに気づいた俊輔が振り向いて、ああ、と口にした。


「魔法の練習もそうなんだけどよ、武器の使い方も慣れておきたくてな。今日から武器を使って戦うって話だったからその前に試しておきたくてよ。よっしーさんたちはまるで普通に使いこなしてたけど、武器振り回しながら魔法使うって結構難しいんだよな、これが……」


 両手で槍を持って構えた俊輔がため息をつく。


「新人研修では全然そんなことやらなかったですもんね……」


 言った眞衣に頷く悠貴。

 研修中は魔法を呼んでそれを上手く使いこなせるよう繰り返し練習させられた。それが慣れてきたら魔力を身体に纏わせる魔装。魔装が慣れてきたら、呼び出した魔力を凝縮して形作る(シールド)。それぞれ凄く大変だったが今思うとあれも基礎中も基礎だったんだろう。


 実際、好雄や優依は魔装や盾を事も無げに使いこなして武器まで振り回している。



「確かに研修では習わなかったけど、だからこそここで武器を使いながらの戦い方を覚えられたら同期の魔法士たちには差をつけられるな……。よし、俊輔の言う通りだ。好雄たちに教わる前に少しでも慣れておこう」


 言った悠貴に俊輔と眞衣が頷いた。演習場に併設されている武器庫から気になる武器を持ち出してあれこれと3人で試す。気付けば朝食の時間になっていた。

今話もお読み頂き本当にありがとうございます!


次回の更新ですが2週間後の9月20日(月)の夜を予定しております。



宜しくお願い致します!

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