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そして、いつか、余白な世界へ  作者: 秋真
第一章 『始まり』への日々
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第12話 学年合宿 ~残憶~

 朝練を終えた悠貴たちは一度コテージに戻って荷物を置き、そして中心施設で朝食を取った。


 悠貴をはじめ合宿係の4人は早めに朝食を切り上げ、他のメンバーより先にコテージに戻り、今日の流れとそれぞれの役割の確認をしていた。



「……で、それと……、って志温、聞いてる?」


 今日、係ですることを読み上げて確認していた莉々がどこか上の空だった志温を見る。


「あ、あぁ……、聞いてるよ」


 言った志温だったが開いていたしおりのページが他の3人とは違っていた。莉々がため息をつく。悠貴は笑った。


「志温、まだ朝練のこと引きずってるんだよ。好雄に完敗したからな」



 優依の相手をしながら横目で好雄と志温の試合を追っていた悠貴。腕は志温の方が上だったが、今日の好雄は調子が良かった。志温が決めにかかったショットを全て打ち返してきた。


「今朝のところはな……。まあ、午前練と午後練見てろって……」


 悔しさを隠しながら言った志温。


「はいはい、そこまでにして。それで続きなんだけど……」


 莉々が話を元に戻す。今日は午前が全体練習。昼食を経て午後はフリータイム。そして夜がメンバー全員揃ってのBBQ。



「そう言えば、悠貴は午後何するか決めたのか? 地元の温泉行ったりハイキング行く奴らもいるみたいだけど、良かったらお前も俺たちと試合やらないか?」


 悠貴はしおりを見ながら考えてみる。実際、午後に何をするか決めていなかった。温泉も良いかと思ったが、都内への帰路の途中で温泉に寄ることになっていた。


(だから、無理して温泉に今日行かなくてもな……。テニスも悪くはないけど……)


 決めきれない悠貴は志温には適当に答え、優依に水を向けた。


「優依はどうするんだ?」


 悠貴に尋ねられた優依はビクッとしたが、未だ決めてない、とだけ返した。悠貴が重ねて優依に尋ねようとした所で外から他のメンバーの声がしてきた。莉々が立ち上がる。


「さ、じゃあ午前練に行かなきゃ。優依は皆を連れてコートに行ってて、私たちで道具運ぶから」







 コートに着いた悠貴たち。レベル別に分けての練習が始まる。


 中上級の経験者は試合形式で点数が決まる毎に賑やかになっている。調子を取り戻した志温がいつもよりも幾分か熱いキャラになっていた。




「ホントは悠貴、あっちに行きたいんじゃないの?」


 球拾いをしながら莉々が悠貴に声を掛けた。悠貴と莉々がいるのはレベル的には普通のコートだった。


「俺はいいよ。係でやらなきゃいけないこともあるし、志温たちのコートなんて行ってたら体力がもたん……。そう言う莉々だって経験者なんだし、こっちでいいのか?」


「んー、私もそんな感じ。それに朝練で満足しちゃった所もあるしね。それにしても、やっぱよっしーああいうの上手いね」


 言って立ち上がった莉々が横の初心者が集まるコートを見た。それに倣って悠貴も目をやった。


 好雄がコーチ役となり楽しそうに盛り上がっている。


「いいかぁ、俺くらいのレベルになると、こう、目を閉じてもサーブが……!」


 言って好雄が放ったサーブ。ボールがネットに突き刺さり、おどけた好雄が笑いを誘う。


「ホント、ああいうことやらせたらよっしーって上手くこなすよね。まあ誰にでも取り柄はあるってことね」


 莉々の言葉に悠貴は笑ったが優依の姿が目に入り、表情が変わる。


(優依……、大丈夫かな……)


 今朝、コートで話したときの優依の様子を思い出す。目が腫れていたが理由は聞けなかった。




「何か優依ばっか見てるー、キモいよー」


 笑顔で悠貴の肩をぽんっと叩く莉々。いつもの男殺し(ニコポン)に悠貴はため息をつく。


「違うって……。なあ、優依、大丈夫かな?」


「んっ、優依? 優依……何かあったの?」


 心配そうにする莉々に悠貴は慌てて首を横に振る。


「あ、いや、大したことないかもだし、気のせいかもしれないけど……、何か元気ないって言うか……」


「うーん、ごめん、特に思い当たらないかなぁ……。あ、でも何かね、昨日、もう寝ようって部屋を暗くしてからも、スマホで誰かとやり取りしてたっぽいかも」


「誰と?」


「知らないよー、聞いてないもんっ。私すぐ寝ちゃったし」


「役立たず……」


「なにおー! そんなに気になるんなら優依に直接聞けば良いじゃん! フンッ」


 ムッとしている莉々を適当にあしらいながら、気にしすぎか……、と悠貴は優依の姿を目で追っていた。





「お疲れ様でしたー!」


 全員で声を合わせて挨拶をした悠貴たち。森を抜けコテージへ戻る。昼食の時間までは未だ少しあったので一度解散した。



 悠貴たち合宿係の4人。軽くシャワーで汗を流し、コテージ前で軽い打ち合わせをしていた。


 莉々が合宿のしおりを見て確認と指示をしている。それを聞きメモを取りながら悠貴は優依の様子を窺う。朝に話したときより表情が明るい。



(やっぱ、俺の考えすぎか……)



 そう思って一度は安心した悠貴だったが、やはり優依のことが気になっていた。移動中、優依の様子に目がいってしまう。今は琴音と話しながら楽しそうに歩いている。



 中央施設の建物に着き、食堂へ向かう悠貴たち。


「この匂いー! カレーだな!」


 同時に好雄と大門が声を上げて駆け出す。

 つられて何人かも早足になる。



 悠貴たちも食堂へ入る。食堂にあるテーブルの半分以上は埋まっていた。食堂を見回す悠貴。家族連れや老夫婦、自分たちと同じ位の学生サークルのような一団の姿も見える。



「結構ほかにも人いたんだねー」


 カレーとサラダ、そしてデザートを載せたトレイをテーブルに置きながら莉々は口にする。合宿係の4人はまだ夜のBBQの打ち合わせが少し残っており昼食を取りながらその辺りを詰めることにしていた。





「あとは……、あ、BBQの具材は一度ここの受付に届くんだろ?」


 悠貴にそう尋ねられた莉々はサラダを口に運びながら答える。


「そうっ、でそれを私たちがコテージまで運ぶ。BBQのコンロの用意を私と志温でするから……、悠貴と優依が食材を運ぶ係だね。量が多いから他の人にも手伝ってもらった方がいいかも……」


「かもな……まあでも何とかするさ。配達の時間て何時に指定したんだ?」



 悠貴と莉々を中心に夜の予定の確認を進めていく。

 一通りの確認が済んで、これでいこう、と4人は頷く。



 悠貴は改めて落ち着いて辺りを見渡す。


 入ってきた時よりかは減っているがそれでも他の客の姿がまだ目につく。食堂はもうすぐ一度閉まってしまうので、食堂にいる他の客も時間を気にしている様子だ。



(あ、そう言えば、未だ午後なにするか決めてなかったな……)


 思った悠貴は他の3人を見る。


「志温はテニスでいいとして……、莉々は午後どうすんだ?」


「ん? 私? 私はちょっと疲れちゃったからコテージで寝るかなぁ。散歩くらいなら行くかもだけど」


「そか……。さっきも聞いたけど……、優依は結局どうするんだ?」


 (うつむ)いていた優依。視線をそのままにして答える。


「えとね、私はね……、ちょっとお出掛け……。散歩でも、しようかなって……」


 ただの散歩と言うだけにしては明らかに暗い表情だった。何か言いたくない理由があるのだろうと悠貴は話題を変え、適当に志温とラケットの話をし始める。


「志温さ、お前、朝練の前にグリップテープ変えてたじゃん? あれって余りってあったりするか? 俺、夏の合宿の前から変えてなくてさ」


「夏からって……、お前、もっとちゃんと変えなきゃダメだって……。少し握りがおかしくなってきたりしたら直ぐに変えなきゃ。いいよ、余分にあるから後で渡す」




 莉々が時計を見て立ち上がる。


「わっ、もうこんな時間……。食堂閉まっちゃうよ!」


 急いで片付けた4人はそのまま食堂を出てコテージへ向かう。



 悠貴と優依が並んで歩き、その少し前を莉々と志温が行く。志温は予定を決めきれていない莉々をテニスに誘っている。


「なぁ、悠貴、お前からも莉々にテニスやれって言ってくれよー! てかお前も予定ないならテニスやろうぜ!」


 必死に誘う志温を莉々が適当にあしらっている。



 それを笑った悠貴が横を歩く優依に声を掛けようとして、そして止めた。


 どこか鬼気迫るものが優依から見て取れた。怒っているようにも悲しんでいるようにも見えた。そんな優依の表情を悠貴は今までに一度も見たことがなかった。


 気圧されて優依をそのまま見ていることが出来なくなった悠貴。前を行く莉々と志温の後ろ姿を見て黙って歩き続けた。

お読み頂いた方、こんばんは!

本当にありがとうございます!!


次回は火曜日の更新を予定しております。

宜しくお願い致します!

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