3 家族以上恋人未満?
おかげさまで『日間異世界転生/転移ランキング』に2018/12/26夜に18位になりました。
これでファンタジー作家と名乗れます。(笑)
というわけで(どういうわけだ?)本編で省いた話を、番外編として書きました。
どうぞ、お楽しみください。
◇ミランジェ・リ・ラドランシュ
ヴェインお兄様が学園に入られて、そろそろひと月が経ちます。学園は全寮制の為、お兄様が家に戻られるのは週末だけになるのです。それも毎週帰れるのではなくて、外泊許可が下りないと帰ってこられないと聞きました。特別な用事がない限り、ひと月に一度しか外泊が出来ないのです。
そのお兄様がひと月ぶりに家に帰ってくることになりました。金曜日の授業終わりで学園を出て、月曜日の授業が始まる前に戻られると言っていました。
なので、私は今か今かと、そわそわして待っているのです。
「ミランジェ、落ち着きなさい。まだヴェインは学園を出たぐらいのはずよ。淑女はどんと構えて待っていればいいのですよ」
母の言葉に私は頬を赤くしました。そんなにも淑女らしくなかったのでしょうか。
「母上、無理もないですよ。僕だって早く兄上にお会いしたいですから」
「そうよ、お母様。あまりお姉様をからかわないであげてください」
弟のマリクと妹のシュリナが、私の援護になる様な、ならない様なことを言いました。二人ももう九歳と八歳になりました。最近のマリクはお兄様の口調をまねるようになっていたのです。
「まあ、恋人と早く会いたい気持ちはわかるけどね」
「ちょっと、マリク。恋人って……。違うでしょ。お兄様よ」
ニヤニヤ笑いながら付け足された言葉に、私は慌てて否定しました。
「いいじゃないの、お姉様。お兄様とお姉様に血のつながりがない事も、内緒だけど婚約者なのも家族は知っているんだから」
マリクだけでなくシュリナにまで言われてしまい、私は顔を真っ赤にして俯いてしまいました。
「こら、駄目でしょう。マリクもシュリナも。いくら家だからって、そのことは軽々しく話してはいけないと言ったはずよ」
母にたしなめられて、二人は首を竦めました。
「わ、私、部屋にいます」
私は立ち上がると、静止の言葉を言われる前に居間を出て、自分の部屋へと戻ったのよ。
部屋のドアを閉めて、ソファーに座りこみ、はあ~と息を吐き出した。理解があるのかないのか分からない家族に、私はどう反応していいのか判らないでいる。
兄が学園に入るひと月前、父が私達に話してくれたこと。それは私と兄は両親の子供ではないということと、兄と私が前国王と法王が認める秘密の婚約者であるということでした。
弟妹も驚いていたけど、実際にはそれぞれはとこといとこという、血縁関係がある事がわかって、二人にとっては兄と姉であるのは変わらないということで収まったのよ。
気持ちが収まらないのは私だった。ずっと兄妹だと思っていたのに、実は血のつながりは全くないだなんて。八歳の時に芽生えた思いを隠さないでいいなんて……。嬉しい反面、兄と思っていた人と婚約者としてどう接していいのかわからなかったのよね。
それに世間的には私達は兄妹のまま。まだ、本当のことを話すわけにはいかないと、公表される予定はない。それも困惑に拍車をかけたのよ。
この数日、兄が帰ってくると思うと嬉しくて、でもそれを素直に態度に表すのも変な感じで、落ち着かない状態だったの。
私はクッションを掴むと、抱きしめるようにして顔を埋めたのでした。
◇ヴェイン・ラ・ラドランシュ
馬車を降りて、久しぶりの我が家に懐かしさが込み上げた。まだ、ひと月しか離れていなかったのに、ここが自分の家だとはっきりと自覚した。
それにここには愛しいミランジェがいる。俺が学園に入る前に父と話をした時に、ミランジェとの関係をどうするかということが話題にでた。最初は学園を卒業するまで、本当の関係を黙っているつもりだった。それに父が反対の意見を出してきたのだ。
学園に入ることで物理的に離れることになるから、この機会を逃すことはないと言われたのだ。事実を話して、離れている間に異性として意識させた方がいいと、言ったのだ。
そして俺が迷っている間に、家族に……そう、まだ幼い弟妹にも、本当の関係なるものを話してしまったのだ。意外に弟妹はあっさりと事実を受け入れてくれた。
だけどミランジェとは、少し距離が出来てしまった気がした。困惑しているだけだと思うけど、関係が改善されないまま、俺は学園の寮へと入ってしまったのだ。
手紙……を、出した方がいいのだろうか。その場合、何を書けばいい?
迷っている間にあっという間に二週間が経ってしまった。
こんなにもミランジェと顔を合わさないのは初めてだと気がついた。そうしたら、もう駄目だった。ミランジェに会いたくてたまらなくなった。入寮してふた月は外泊が認められない。だけど、そこまで待てなかった。父に連絡をして、理由を作ってもらって外泊の許可をもぎ取った。
出迎えたライナーに、母はどこにいるのか聞いて、居間へと向かった。
「ただいま帰りました、母上」
「お帰りなさい、ヴェイン。変わりはないようね」
「ひと月くらいで、変わることはないですよ。マリクとシュリナも、元気だったか」
「もちろんです、兄上」
「お帰りなさい、お兄様。病気なんかになってないわよ」
変わらぬ家族の様子に、自然と笑みが浮かんできた。だけど、ここには肝心のミランジェがいなかった。そのことを察した母が言った。
「ミランジェは部屋にいるわよ。ここにいるとからかわれると嫌がったのよ」
「そうですか」
そう答えて動かない俺の背を、マリクとシュリナが押した。
「行ってください、兄上」
「そうよ。お姉様はお兄様にお会いした時のお顔を、私達に見られたくなくてお部屋にいらっしゃるのよ。早く行ってあげて」
後ろを向くと二人が小声で言い訳をするように言った。
「からかうつもりはなかったんだ。ごめんって姉上に言ってください」
「お姉様が可愛らしかったの。お兄様とのことが、私は嬉しかったから……だから」
俺は二人の頭に手を置いて言った。
「わかった、伝えるよ。じゃあ、行ってくる」
居間を出てミランジェの部屋の前に行った。ドアをノックして声をかけた。
「ミランジェ、ヴェインだけど。下でみんなと話さないか」
返事がなかった。もう一度ノックして名前を呼んだ。それでも、返事がない。本当なら未婚の異性の部屋に返事もなしに入るのなんていけないことだ。だけど俺はこの時、どうしてもミランジェに会わないといけないと思って、ドアを開けたのだ。
ミランジェはソファーに座っていた。クッションを抱きかかえて顔を埋めていた。
「ミランジェ」
そっと声をかけたけど、返事はない。
「ミラ?」
そばに行って肩に触れたらぐらりと体が倒れてきた。慌てて支えると手からクッションが落ちていった。耳に寝息が聞こえてきた。どうやら、待っている間に眠ってしまったようだ。抱え直してミランジェの顔を見ると、目の下に微かに隈らしきものが出来ていた。どうやら、この数日、あまり眠れなかったみたいだ。
起こさないようにそっと抱き上げて寝室へと運び、ベッドへと寝かせた。乱れた髪を、そっと整えてやる。ムニャっと言って、ミランジェの口元に笑みを浮かんだ。
「おかえ……さい、おにぃ……さま」
切れ切れに寝言が聞こえてきた。夢の中で俺のことを出迎えてくれたようだ。
「ただいま、ミラ」
小さな声で耳元に囁いた。笑みが深くなったと思ったら、
「だい……すき……ヴェ、イン……さま」
不意打ちに頬に熱が集まってくるのがわかった。くっそーと、思いながら、そっと滑らかな頬に口づけを落とすと「お休み、ミランジェ」と言って、部屋をあとにしたのだった。
本編に入れられなかった二人……というよりもミランジェの気持ちの変化のきっかけの話です。
お楽しみいただけたのでしたら、嬉しいです。
少しは甘くなっているのかな?