武器の名は・・・三節棍! その2
◇ヴェイン・ラ・ラドランシュ
「それでね、お兄様、この中にそう言った武器のことが書かれた本がないかと思いまして」
ミランジェは本棚を見ながらそう言ってきた。それでそうしてどちらかの部屋でなくて、図書室にしたのかわかった。
「そうだな。実際に携帯用にいい武器が何があるのか、探して見ようか」
この境の武器を知らないことには、何が携帯できるのかわからないものな。二人して手分けして本を探すことにした。そうしたら、子供の僕たちには背伸びしても届かない棚に、それらしいタイトルの本を見つけた。
「くっ、あと少し……なのに」
と椅子に乗り、めいっぱい手を伸ばしていたら「失礼いたします。本をお探しでしたらお手伝いしてもいいですか」と、侍従たちが現れたんだ。僕とミランジェがどんな本を探しているのかと聞いてくれて、棚から該当していそうな本を探し出してくれた。それだけでなくそのページを探し出して栞を挟んでくれた。それだけをして、図書室から出て行こうとしたので、僕らは慌ててお礼を言ったんだ。
「ありがとうございます」
みんな、照れたような笑顔を浮かべて、一礼をして部屋から出て行った。さっきミランジェと二人にしてほしいと言ったから、用が済むと出て行ったのだろう。少し悪いことをしたかな? でも、現れたタイミングから、部屋の外の扉の前には誰かがいるのだろう。
しばらく二人で本を見ていったけど……携帯できる武器のほとんどが、小型のナイフだった。あとは……書かれていないけど、暗器か?
「ナイフ以外の携帯できる武器ってないのかしら」
ミランジェが呟くように言った。そういえば、ミランジェは携帯できる武器と言ったけど、どういう武器が欲しいとは言ってなかったな。俺は本に目を向けたまま、ミランジェに聞いてみた。
「ミランジェはどういう武器を考えていたんだ」
「えーと、そう……ね、ナイフのような刃物ではないもの……かしら」
ふーん。刃物ではない武器ねえ。
「それは……そうだな、例えば、ヌンチャクとかトンファーみたいなものかい」
「トンファー? それってどんなものですの?」
俺は本から顔を上げてミランジェのことを見た。ミランジェも俺のことを見つめていた。
「ヌンチャクはわかるのかい」
「えーと、一応は。長さがいろいろあったみたいですけど、二本の棒を鎖で繋いでいるものですよね」
「ん~、そうだね。有名なのはカンフー映画で使われたあれだったからな~。トンファーというのは取っ手がついた棒だね。たしか空手みたいな要領で攻撃を受けたり、突き出したりすることができるやつだよ」
「長さはどれくらいですの」
「えーと後ろ側が腕からひじを覆うくらいで、取ってから前があるから四十センチ以上五十センチ以下くらいじゃないかな」
「それでは持ち歩くのに邪魔になりますし、隠せないですわ」
そっかと俺は少し考えた。
「それなら棍棒は」
「お兄様、それこそ駄目ですわよ」
ミランジェから冷ややかな視線が飛んできた。やっぱり駄目か。う~ん、でも隠すねえ。
「隠すのなら、小さく折りたためる方がいいか。……三節棍みたいな感じで、小型化すれば……」
「さんせつこん? って、なんですの」
口の中でぶつぶつと言っていたつもりが、ミランジェに聞こえたみたいで聞いてきた。
「えーと、確かヌンチャクの発展形、だったかな? 言葉の通りに三つの棒を繋げた武器だよ」
俺の言葉にミランジェの目の色が変わった。
「それって、小型化が出来ますの?」
「ああ。えーと」
俺は立ち上がると別の本を取りに行った。それを持ってきてあるページを開いてミランジェに見せた。
「これは、木ではないのですか。草? 多年草かしら」
「これはカツタギという草なんだ。この間見つけて面白そうなんで調べたら、今回に丁度いいことが書いてあったんだ」
この前調べるために、この部屋に置きっぱなしにした実物も持ってくる。
「まあ。見た目は……竹に近いですわね」
「そうだろ。でさ、草のはずなのにすごい固いんだよ、これ」
「まあ、本当に。でも真ん中に穴が開いていますのね」
好奇心いっぱいに渡されたカツタギをぎゅっと握ったり、机に軽く打ち付けたり、中を覗き込みながら言うミランジェがかわいい。……コホン。つい見惚れかけてしまった。
「そうなんだ。その穴にひもを収納して、一本の長い棒としても使えるようにならないかと考えているんだけどね」
キラキラとした目で俺のことを見つめてくるミランジェ。期待に頬が上気してピンク色に染まっている。
「それって、棒術が使えますの?」
「棒術というほど、長くはならないと思うよ。でもそうだな、十五センチくらいを三本つなげれば四十五センチにはなるよな。これくらいなら敵に対峙する時にいいんじゃないか」
「そう……ですわね。襲われた時に武器になりそうなものが手に入れば楽ですけど、そうそうそんなことはありませんよね」
思案気に目を伏せながら考えるミランジェ。……どこで襲われることを想定しているのかと、余計なことを思ってしまった。
でも、これはしかたがないよな。一度襲われたことがある身としては、自衛の手段は講じておくに限るんだからさ。
さて、捕捉? をば!
公爵家の使用人、普通は部屋から出ると侍従ないし侍女がついてきます。
邸内とはいえ、一人きりになれるのは、自室の寝室のみ。
あるいは、自分についている使用人を追い出して、自室の応接室や図書室などに籠るのみ。
ですが、主付きの使用人は他の用事を言いつけられなければ、そばについているのが仕事です。
この図書室では、部屋の前で見張りよろしく立っていました。
が、椅子を移動させた音が聞こえてきて、使用人は耳をそばだてることになりました。
そうしたら「……あと少し……」という声が聞こえて、場所と主の年齢から想像して「失礼いたします」と、部屋の中に乱入しました。
ずっと聞き耳を立てていたわけではありませんからね。




