武器の名は・・・三節棍! その1
さあ、感想でいただいた三節棍についてです(笑)
なんでこれを選んだのかが解き明かされる……かな?
実際の三節棍とは違うかもしれないけど、なんとなくのイメージでお願いしますね。
全部で4話になります。
◇ヴェイン・ラ・ラドランシュ
カン カン
「よし、今日はここまでとする」
「「ありがとうございました!」」
木剣を使った訓練が終わり、俺とミランジェは指導してくれた騎士へと頭を下げた。顔を上げると、騎士は若干頬を引きつらせながらも「ああ、また、次の訓練の時に」と言って、離れて行ってしまった。
侍従と侍女からそれぞれ布を受けとって、汗を拭く俺たち。そのあと屋敷に戻り、汗を流して服を改めた。そして母たちの待つ、居間へと向かった。
居間には母だけでなく弟のマリクと妹のシュリナもいた。二人は嬉しそうに俺たちに笑いかけてきた。
「兄さま、姉さま。ごしんじゅつのおけいこはおわりですか」
「おねえさま、おとなりにすわってください。あのね、このマフィンがおいしいのです。おひとついかがですか」
俺はマリクの隣に、ミランジェはシュリナの隣に座った。
「ああ、今日の訓練は終わったよ」
「ありがとう、シュリナ。いただくことにするわ」
俺たちが弟妹に返事をするのを、目を細めてみていた母が、おもむろに立ち上がった。身構える間もなく、母が迫り首筋に何かがあてられた。
「二人とも、気の抜き過ぎよ。いくら家族や信用のおける者たちしかいないからって」
首から手に持ったものを離して差し出してきたのは、紙に挟んだクッキーだった。いつぞやのポルンのジャムが乗ったクッキーに、脱力しそうになる。
いやこれ、護身術以上だよな。どっちかというと暗殺術に近くないか? ……言わんけどな。
「えーと、ありがとうございます、お母様。でも、良いじゃないですか。稽古が終わって気を抜いても」
「あら、甘いわよ、ミランジェ。いつ何時襲われるかわからないのよ」
母の言葉にミランジェは困ったように笑い、俺は気を引き締めたんだ。
えーと、今の俺は十一歳、ミランジェはもうすぐ十歳になる。前世の記憶を思い出してもうすぐ二年が経つな。記憶を思い出した当時の俺たちはかなり太っていた。……いや、本当はぽっちゃりというくらいだったんだけどさ。でもこの国アングローシアの基準では太っているに分類されていた。おかげで王宮でのお茶会で王太子たちにも太っていると馬鹿にされたんだよな。
……というどうでもいいことは置いておいて、俺とミランジェはダイエットを始めたんだ。もちろん不健康なことはしてないぞ。それどころか、ミランジェまで護身術を覚えることにしたんだ。まあ、最初はランニングなどの軽い運動からだったけど。
それで、ある程度動けるようになると、母から護身術を習うことになった。最初はミランジェだけのはずだったのに、母の体術を見た俺のほうが、教えてほしいと願ったんだ。母には「女子供むけの護身術よ」と言われたけど、ぶっちゃけ俺はまだ子供だし。
そこを父を巻き込んで母に頼み込んだんだ。その結果母は俺にも、護身術を教えてくれることになった。……実際に、母のたおやかな腕で、大の男が倒された時には、何が起こったのかと思ったもんな。父も母のそんな姿をはじめて見たのか、口をあんぐりと開けて見つめていたっけ。
それで、父は本気で体術を出来る武道家を探すことにしたんだ。騎士たちも体術に自信があるものもいたけど、母の技術に比べたら段違いに低かったから。
えーと余談になるんだけど、母から体術を学んだ侍女たちに、騎士の人たちがコロコロ倒されるのを、マホガイア侯爵は大笑いをしながら、デモワノー師団長は額に青筋を立ててみていたんだよ。たしか、あのあと、地獄の特訓が待っていたとか、なんとか……。
それで、結局体術が出来る武道家みたいな人は見つからなくて……国の暗部……に所属する人が、教えてくれることになった……らしい。
暗部だから顔出し厳禁なんじゃないかと思うんだけどなー。一応騎士に混ざって教えに来てくれているけど……。
母と弟妹との交流が終わったところで、ミランジェと図書室へと移動した。何やら話があると言ったからなんだ。
「お兄様、私、携帯できる武器が欲しいのです」
真剣な顔で切り出されたのは、こんな言葉だった。
「えーと、携帯できる武器って、どういうこと?」
ミランジェが何を言いたいのかわからなくて、首を傾げながら聞いてみた。ミランジェはハア~と息を吐きだした。
「あのですね、お兄様。この二年、私も護身術を教わって、少しは動けるようになったと思いますのよ。ですが、やはり私は女性ですの。女性がドレス姿で剣を持ち歩くのはおかしいでしょう。それに高位貴族ほど、女性が男性と同じような服装をすることを忌避しますもの。私が動きやすいからとズボンをはいて出掛ければ、他家からどんなことを言われるかわかりませんわ」
「それって……いや、確かにそうだね。この国に女性の騎士団はなかったし」
ミランジェの言葉に国の組織を思い出す。暗部には女性もいるというけど、女性の騎士は一人もいなかったはずだ。




