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※ この世界のトイレ事情・・・の裏側で その1

◇ハロルド・ラ・ラドランシュ


ヴェインを執務室から自室へと戻し、私はため息を吐きたくなるのを何とかこらえた。部屋を出て行くヴェインに向けていた視線を、セドリック・ラ・マホガイア公爵へと向けた。私以外の者も、同じようにマホガイア公爵のことを見つめていた。


「ふふっ、まさかこんなことにはなるとは思わなかったね。子供の発想とはいえ、馬鹿に出来ないものがあるよね」

「そうでございますな。では私共は、材木の確保や加工場の手配を致します。ドレスや下着のことは後日話し合いの場を設けていただけると幸いでございます。」


モリスン・ラ・リション男爵がそう言って立ち上がった。ケイニー・ヒフクレスも、同じように立ち上がり、私達に礼をしてから部屋を出て行った。


「私も戻ります。この計画が軌道に乗りましたら、各国からも問い合わせが殺到するでしょう。服装なども変わり、大きな変革となることでしょう。税収が増えることは大変喜ばしいので、是非とも成功をさせましょう」


アジャン・クリストセン財務次官もそう言うと、礼をしてから部屋から出て行った。


部屋の中に残ったのは私と妻のシェイラ、マホガイア公爵、王国第一師団の団長のニクソン・ラ・デモワノー伯爵の四人だけになった。シェイラが立ち上がりベルを鳴らした。その音を聞いてすぐに侍女が顔を出した。シェイラはお茶の支度を頼んでいた。すぐに渡せるように用意をしていてくれたようで、ワゴンを押して侍女が部屋に入ってきた。お茶を注ごうと侍女がポットに手をかけたが、シェイラは自分がやるからと、侍女を下がらせた。


そしてシェイラがいれたお茶がいきわたり、皆は一杯目をかなりな速さで飲んでしまった。シェイラがもう一度皆にお茶を注いでくれて、今度はゆったりと味わうように飲んだ。


「はあ~、生き返った~」


セドリックが姿勢を崩しながら、深々と息を吐き出しながら言った。ニクソンもソファーの背もたれに両手を回して体を預けると上を向いて目を瞑った。息を吐き出して目を開けると体を起こし今度は膝に肘を乗せた前屈みの姿勢へと変えた。


「それでハロルド、もう話して大丈夫か」

「ああ。この部屋には誰も近づけさせないようにしてあるし、あれを使えば誰にも話は聞かれないだろう」


私は執務机に置いてある魔道具へと目をやった。これはこの部屋の中の会話を外に漏らさないようにするものだ。どういう原理かわからんのだが、便利な代物である。


「ハロルド、シェイラ。ヴェインの変化は本当に数日前なのか」


セドリックが目を光らせるようにこちらを見てきた。


「ああ、間違いないよ。ほんの数日前までは普通の子供だった。変化が現れたのは高熱を出して寝込んだ後からだ。私はそう報告を受けている」

「ハロルドの言う通りですわ。熱が下がった後、二人で話しているところに行きましたら、ミランジェが泣いていましたの。なにやら誤魔化そうとしておりましたから、私はそれ以上追求せずに見守っておりましたのよ。それがまさか、このようなことで悩んでいただなんて。これでしたら、少し聞いてみてもよかったかもしれないですわね」


シェイラも私の言葉を補足するように話して、悩ましいため息を吐いていたが、それは少し違う気がするぞ。二人は高熱を出した後、確かに変わった。でもそれは我が家の使用人に気遣いができるようになったくらいだったじゃないか。


今回のことに繋がったことはあれだ。ロックウォール伯爵家への正式なお茶会に、ミランジェが出席しなかったことからだろう。あの時、泣いて嫌がり部屋にこもってしまったミランジェ。ヴェインに説得されたのか泣き腫らした顔と真っ赤に充血した目で夕食の席に現れた。だけど、私達には何も言わず、「本日は申し訳ありませんでした。それから、私にはまだ社交は早いと実感いたしました。なので、もうしばらくはご招待されてもお断りくださいませ」と言っていた。


翌日改めてシェイラがミランジェと話して、「正式なお茶会に参加するのは早すぎないのよ」と説得したそうだが、ミランジェは涙を湛えた目で「嫌です。わがままと言われても構いません。他所の家になど、行きたくありません」と言ったと聞いた。


ヴェインが何やら使用人たちに聞きまわっていたと報告を受けたのも、このお茶会の後だった。


「さて、それでは我々も方針を決めなければならないようだね」


ついこの数日の二人の様子を思い出していたら、セドリックが楽しそうな声を出した。


そう、ここにいるセドリックとニクソンは、ヴェインとミランジェの事情を知っている。前王の先見の力で「二人が大人になった時、大いなる恩恵に与れるだろう」と言われたことも、二人が秘密裏に婚約していることも。


「方針というがな、セドリック、まだなにも始まっていないだろう」


ニクソンが苦虫を噛み潰したような顔で言った。


「馬鹿を言うな、ニクソン。もうことは動き出しているんだぞ。父上の先見の言葉から、二人が成人した後に始まるのだと思っていた。それがどうだ。だいぶ早く変革がもたらされようとしているじゃないか」

「だがな、用を足すときの道具とドレスが変わるだけじゃないか。それがそんな大事か」


ニクソンはそれほど脳筋ではないはずなのだが、自分が直接関わらないことには、あまり頭が回らないことがある。というか、考えることを放棄するのだ。今回の件も街道警備に力を入れればいいくらいにしか、思っていないのではないかと推測された。


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