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この世界のトイレ事情 その7

◇ヴェイン・ラ・ラドランシュ


俺が密かに悩んでいたら、父がため息交じりに話しだした。


「マホガイア公爵、少し黙っていてください。ヴェイン、お前にも察せられたと思うが、この部屋にいる方たちは、この国の中核を担う方たちだ。お前の左隣の方が、先ほど自己紹介をされたマホガイア公爵で、現王の弟だ。その隣にいるのは、王国第一師団の団長を務めているニクソン・ラ・デモワノー。その隣はアジャン・クリストセンで、財務次官。向かいのソファーに座っているのはモリスン・ラ・リションとケイニー・ヒフクレス。二人は王都の商業組合の顔役だ」


俺は、父の紹介に合わせて、一人ずつに軽く頭を下げた。でも頭の中は ? でいっぱいだった。なんでこの面子が集まったのかが、わからない。


「ヴェイン、お前が疑問に思うのもわかる。彼らが何故ここにいるのだろうと考えているのだろう。私も五日前に執事長から、お前が板を欲しがっていると聞いた時には、ここまでになるとは思わなかったのだ」


そして父が話してくれたのは、大木を切り出したことによる、彼らの立場でのあれこれだった。


まず、俺の依頼の板。これは加工所に見合う大きさの板がなかったそうだ。なので、見合う木を木こりに頼み伐りだした。だけど、ここからが問題だった。ラドランシュ公爵家まで運ぶのに、特別な荷馬車が必要になった。それから、運搬にかかる人足や警護のこと。それから依頼料のことも。

これを依頼したのが俺の名前になっていたから、商業組合に確認を頼む依頼が起こり、治安を預かる王国師団にも運搬のことが伝わり、なにやら不穏な金の動きがあるやもしれないと感じたらしい財務省にも話が伝わり、それを纏めるために宰相補佐が派遣された。……そうなんだ。


だけど、本当に子どもの俺が依頼をしたとは思っていなくて、どこかの国の陰謀を疑ったらしい。…って、どんな陰謀なんだよ。


若しくは俺を隠れ蓑に、ラドランシュ公爵が何か新事業を始めようとしていると勘繰ったりもしたらしい。……いや、だから、なんなの、それは。


で、俺を呼び出す前に父と話をして、執事長からも報告を受け、母にも事情を問いただしたけど、結局わからないから、俺に直接訊くことになったんだと。……まどろっこしいよな。


だけど、まさか九歳の少年が何かを企んだとは本気で思っていなかったようだ。遊びの延長で考えたことが、ここまで大事になったと知らしめて、お小言を言って終わる話だと、大人たちは考えたんだってさ。……失礼だな、おい。


そうしたら、正装のドレスの真実を聞かされて、大人たちはぎょっとしたわけだ。



「父上、すみませんでした。僕もこんな大事になるとは思いませんでした。かかった費用も、僕が大きくなってからの出世払いということで、今は建て替えてください」


俺は殊勝に頭を下げた。なのに父は微妙な顔で俺のことを見つめてきた。


「出世払いとはよく分からんが、費用に関しては気にするな。それよりもヴェインは、このことを最終的にはどうしたいと思っているのかい」

「最終的にはですか。出来れば独立した小屋でも立てて、そこですますようにしたいです」

「独立した小屋」


目をきらめかせて、マホガイア公爵が身を乗り出した。でも俺はその姿を一瞥して、すぐに視線を父へと戻した。


「でも、それは無理です」

「どうしてだい」


父ではなくマホガイア公爵が言葉を返して来た。仕方がないのでマホガイア公爵へと視線を向けた。


「女性のドレスの形を変えなければ、実現不可能だからです」



そうなんだ。俺は最初、和式のトイレを作ろうと考えた。というか、穴を掘った上に板を渡して、そこにしゃがみこんでもらうつもりだった。だけど、これは無理だとすぐにあきらめた。椅子で生活している人にしゃがんでするのは体勢的に無理だろう。

なら、洋式の座れる便器を用意する。これも無理だ。たぶん試行錯誤を繰り返せば、陶器で便器は作れることだろう。だけど、その場合水洗にしないとならないと思った。なんとなく形はわかるけど、ホースがないとできない気がする。ホースなんてこの世界にあるのだろうか?


おまるみたいな形も考えたけど、大人用のおまるってどうなんだろう。やはりしゃがみこまないとならないよな。


で、それを用意したとしても、やはりネックはパニエなんだ。あれをたくし上げたとしても、女性一人では支えることはできないだろう。夜用の正装も後ろ側が重すぎる。そうすると、ドレスを変えるしかない。


この事を実際に母のドレスとパニエを示しながら、俺はわかりやすく説明をしたんだ。



「だから、まずは木で枠を作り、それを壷に被せて、その上に座る形で用を足せるようにしたいと思います」


俺の説明に大人たちは納得したように頷いてくれた。


「では、最初に枠を作るとしてそれはどのような形になるんだい」

「えーと、このようにUみたいな形にしたら、いいんじゃないかと思っています」


俺は用意してもらった紙にU字型の絵を書いた。


「この形かい? 丸い形のほうが安定しないかな」

「いえ、それだと用を足すときに便座を汚してしまうかもしれません。なので前側にこう切れ込みを入れてみようと思います」

「ああ、そうか」


マホガイア公爵は深く頷いて納得してくれたみたいだった。


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