26 二人で決めたこと その4
◇ヴェイン・ラ・アソシメイア
俺の言葉にますます仙人風神様が身を乗り出して来た。
「なんじゃあ~? 電化製品に家電じゃと。電気製品と電化製品の違いはなんなのじゃ?」
「えーとですね、電気を使って使う製品をひとまとめに、電気製品っていったんですよ。電化製品は主に生活に根ざしたもので、生活が便利になったというか、何というか……」
気がつくとテレビやエアコン、洗濯機に掃除機、冷蔵庫や炊飯器のことから、電動歯ブラシ、電動ノコギリ、電動工具、髭剃りなどを、説明していた。他に電気を使うものって何があったのだろうと思いながら?
「そろそろ話をやめてもらってもいいかな。いくら時間を止めているとはいえ、ヴェインとミランジェを長い時間ここに引き止めるのも悪いだろう」
黒髪の神様が他の神様の質問攻勢を止めてくれた。思いだせる限りの電気で動かす製品を言わされた俺はぐったりとしてしまった。
「それではヴェイン、ミランジェ。今までに君たちから出された希望を、もう一度おさらいしようか。先に希望したことは、元の世界の本の閲覧。これは夢の中でのみ可能で、その探し出した本の知識は、君たちが朝、目が覚めても忘れないようになっている。これは君たちが生きている限り、続くことだろう」
「えーと、神様、それは今生限りということですか」
俺がそう聞いたら、黒髪の神様はふんわりと微笑んだ。
「そうだよ、ヴェイン。これは転生しても引き継がれないよ」
「わかりました」
それなら俺が死ぬまでにいろいろ調べて書き残せばいいんだよな。
と、納得をした。
「それで、今回の希望は、一つ目が君たちの魂がこの世界で転生を繰り返すことにすること。二つ目が君たちはもう他の世界に呼ばれることがないようにすること。三つ目が今の記憶を最低五回目の転生まで引き継ぐこと。これでいいかい」
「はい」
俺はミランジェのことを見てから頷きながら返事をした。黒髪の神様は目を細めて俺たちのことを見てきた。
「他には何かあるかい? なければそろそろお開きにしようか」
そう言われて俺は少し考えこんだ。決めかねてミランジェのことを見たら、ミランジェは不安そうに俺のことを見つめていた。
これを言ってもいいのだろうか?
これは俺のわがままにならないか?
本当ならミランジェに相談したかった。でも、本人たちを前にそれは憚られる。
「ヴェイン、他に望みがあるのなら言ってほしい。今更遠慮は無しだよ」
黒髪の神様の言葉が、俺の気持ちに後押ししてくれるように感じた。
「それなら、最後にもう一ついいですか」
だから、そう切り出してみた。
「ああ、もちろん」
黒髪の神様は微笑みながら答えた。
「これは……ただのわがままですよ」
そう。本当にわがままだ。
「叶えられないものもあると言っただろう。わがままだろうと言ってくれないと、判断はできない」
相変わらず慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま、黒髪の神様は言った。
「じゃあ、言います。俺は今日、これを最後に神様たちに会えなくなるのは嫌なんだ。こっちの世界で会いたいとは言いません。今みたいに、夢の中でいいから、たまに話をしたいです」
真剣な表情で神様たちの顔を見ていった。みんな驚いた顔をして動きを止めている。
これは……やはり、叶えられないことなのだろうか。
その時、ミランジェが俺の手を握ってきた。
「私も……私も、これで神様方とお話が出来なくなるのは、凄く寂しいです。それにこの世界を変えるためにも、まだまだ助言をいただきたいと思っては駄目なのでしょうか」
ミランジェも真摯な眼差しで神様たちのことを見つめていった。
驚いた顔で動きを止めていた神様の中で、黒髪の神様が身じろぎをした。俺たちだけでなく他の神様も視線を向けて、固まってしまった。
「フッ……私と……会いたいと……思ってくれるのか」
いつでも落ち着いて見えていた、黒髪の神様が涙を流していた。皆の視線を遮るように目元に手を当てて俯いてしまった。
戸惑いながら俺はミランジェと顔を見合わせた。もしかしたら俺たちは間違えてしまったのだろうか。
この一年の間、神様たちと交流を続けて、どの神様も慈愛に満ちた方々なのがわかった。だから、この世界の神たちがしたことが許せなかったのだろう。この世界の神たちを罰するために俺たちを使ったことを、凄く悔いていたのを知っている。それなのに、死んでから元の世界に戻るのではなく、この世界に留まりたいと決めてしまった。
そのことが黒髪の神様の心を傷つけてしまったのかもと、今更ながらに思い至った。
「えーと、黒様。あのですね、別に俺とミランジェは……」
「黒様! それは私のことかい」
黒髪の神様が涙に濡れた瞳のまま、顔をあげて俺のことを見てきた。
「あー、はい。俺たちには神様方の名前は聞き取れないので、呼びかけるのに困って……その、適当ですみません!」
髪色からのあだ名なんて適当過ぎたかと、身を縮こまらせた俺に、黒髪の神様は晴れやかな顔を向けてきた。
「いやいや、嬉しいよ。……フフッ、フフフ。黒様か……」




