25 二人で決めたこと その3
◇ヴェイン・ラ・アソシメイア
金髪の神の言葉に自業自得だろうと思いながらも、言い方に「ん?」となった。
「最後って、もう俺たちのところに来ないってことか?」
「そうなんだ~。もともとこの一年は特別だったんだよ~。君たちの手助けをするためには、夢の中だけでなく実際にそばに居たほうがいいだろうって~、 様が至高の方に交渉をしてくれたんだ。それも今日、君たちの要望を聞いたら、もう、会えなくなるんだよ~」
シュンという感じに金髪の神は顔を俯かせた。
俺はミランジェのことを見た。ミランジェも俺のことを見てきたので、軽く頷いて合図をしておく。
「一応確認なんですけど、この六日、神様たちが俺たちのところに来たのって、別れの挨拶のためですか」
俺の言葉に神たちは頷いている。赤髪の神なんて、瞳を潤ませて俺たちのことを見ていた。
この一年、神たちと交流をしていて、意外と神たちは人間臭いところがあるなと思ったんだ。好奇心においては人間以上かもしれない。というか、自分たちが管理している世界でさえも、滅多に行くことが出来ないんだと。だから、この世界に来るたびに、いろいろなものに直に触れられることを、とても楽しんでいたようだ。
それがこの六日が、この世界に来られる最後だったのに、神たちは最後の一日を、ただ俺とミランジェ、それから生後一か月の息子ケヴィンと、ゆっくりと過ごしただけだった。ケヴィンがベビーベッドに眠る姿や、起きて泣く姿などを、目を細めて見ていただけだった……。
「では、あまり時間をかけるのも良くないからね。君たちの希望を聞こうか。ただし、前に言ったと思うけど、希望を口にしても、叶えられることと叶えられないことがあるからね」
黒髪の神様の言葉に、俺は背筋を伸ばした。
「はい、もちろんわかっています」
俺の言葉にミランジェも隣で頷いた。
「では、言ってくれたまえ」
俺は一度、大きく息を吸って、吐き出してから口を開いた。
「まず一つ目。前に別の世界に転生や召喚されたとしても、死んだら元の世界に魂が戻ると聞きました。俺とミランジェはそれを望みません。俺たちが亡くなったら、この世界で転生したいと思います」
「君たちはそれがいいのかい」
黒髪の神様は意外そうに聞いてきた。
「はい。転生の時には記憶はリセットされるとしても、子供や孫たちがいるこの世界で、生まれ変わりたいんです」
きっぱりと決意を込めてそう言ったら、黒髪の神様は少し寂しそうに微笑んだ。
「わかった。その願い、叶えよう」
「では、そのことに関連して二つ目。俺とミランジェの魂は、これから後、転生や召喚に関わらないようにしてください」
これには他の神様たちが、驚いたように目を瞠っていた。
「……了承した。その願いも、叶えよう」
「えっ? 待ってくださいよ。 様! そうしたら」
「黙れ!」
赤髪の神様が黒髪の神様に抗議しようとしたけど、黒髪の神様の一言で、口を噤んだ。
「彼らがそれを望むのだ。我らにそれを止める資格はないだろう」
赤髪の神様は悔しそうに唇を噛みしめていた。
「で、三つ目なんですけど、これは叶えることができないのなら、それでも構いません。さっき転生の時に記憶をリセットされてもと言いましたけど、出来ればこの記憶を持って転生させてほしいんですけど」
神様たちは瞬きを繰り返した後、黒髪の神様のことを見つめた。黒髪の神様は眉間を寄せて、右手をこめかみにあてるようにした。しばらくそのままでいたけど、表情を和らげて手を下ろした。
「いいだろう。だが、聞き届ける前に問いたい。それは未来永劫か、それとも期限付きかを」
「えーと、そうですね。たぶん五回転生するころには、水力発電の施設が出来るんじゃないかな」
「そうね。たぶんそれくらいじゃないかしら」
これからの文明の進み具合を考えて、試算したことをミランジェのほうを見ながら言ったら、ミランジェも同じように考えたようで、肯定してくれた。
「ということで、転生五回までで!」
「ちょっと待ちたまえ、ヴェイン、ミランジェ。君たちは君たちが死んだ後のことまで考えて、記憶を持ったまま転生したいと言ったのか?」
黒髪の神様が驚いたように、聞いてきた。
「えーと、一応この世界に魔法が無くなっても、どうにかなるようにって、俺たちが呼ばれたんですよね。俺たちが生きている間に、あっちみたいな電気製品の製造まではいかないと思うんです。それならそこまで見届けたいじゃないですか」
そう答えたら、神様たちはみんなして頭を抱えだした。しばらく「うー」とか「あ~」とか、呻りまくっていた。
気持ちを立て直したのか、黒髪の神様が俺たちのほうを見てきた。
「あー、とりあえず、転生五回まで、記憶の保持を続けることにするが、これはこのあとの状況に応じることとする。それでいいか、ヴェイン、ミランジェ」
「ああ? まあ、それで」
「えーと、私も、構いません」
若干何かがおかしい気がしたけど、了承の意思を返しておいた。
「ところで、電気製品ってどんなものかしら」
「おー、わしんところにもないから知りたいのー」
お色気女神様と仙人風神様が興味津々と、身を乗り出すように聞いてきた。青髪インテリ系神様と赤髪神様も、口は開かないけど興味深げに聞き耳を立てている。
「あー、それなんですけど、向こうの世界では電化製品って言っていまして、家電はいろいろあったんですよ」




