23 二人で決めたこと その1
◇ヴェイン・ラ・アソシメイア
「やあ、よく来てくれたね、ヴェイン、ミランジェ。息災かな」
目の前には一年前と同じに、キラキラと光をふりまく人たちがいた。その中の黒髪長髪の男性が穏やかに微笑みながら、話しかけてきた。
「あ~、はい。……っていうか、ご存知ですよね」
五日前にも会っているよな、という念を込めて見つめたけど「それはそれ、これはこれ」と、微笑まれてしまった。
「まあ、まあ、ヴェインくん。 様は君たちのことを、本当に心配していたんだからね。至高の方に許可をもらって会いに行くくらいしてもいいでしょう。お祝い事のためだもの~」
この世界の金髪の神様に言われたけど、わかってんだよ! そんなことはよ。
だけどな~、いきなり来られてみろよ。子供を産んだばっかのミランジェも、別の意味で魂を飛ばしかけたんだからな。ショック死したら、どうしてくれるつもりだったんだよ!
……って、そんなことにはならなかったって。
そうだよ。それも解っているんだよ。だがなー、限度ってもんがあんだろう!!
俺とミランジェとの結婚式の日の夜に、はじめて神様たちと邂逅をした。あの時は俺たちがこの世界に来なきゃならなかった理由を説明されたんだ。
神様たちにとっても、かなり理不尽なことだったらしくて、その上におられる至高の方にまで、俺たちに便宜を図るようにいわれたそうだ。
一年の猶予もある事だし、あの日は何も決めずに夢の世界から戻された。夢の世界で神様たちが俺たちと会ったのは、一つは神の力をこちらの世界に必要以上に流出させないためと、もう一つ、ミランジェの好みの姿をして、懐柔……いや、ただ単にミランジェを喜ばせようとしたらしかった。
ミランジェ、もとい美愛は、もともとアニメ&漫画好きで、そこから友人の影響で腐女子にまで堕ちたやつだった。ゲームなども基本なんでも見たがりやりたがった。だから、BLやグロいものやスプラッタまで、何でもござれだったんだ。
格ゲーでむずいタイミングの必殺技なんてやつも、的確にあててきて、それで自信があったゲームで負けたことが、美愛に興味を持つきっかけだったんだよ。もともと彼女と知り合ったのは、俺の会社で新ゲームのモニターに応募してきたからだったんだよな。格闘ゲームだと男の方が多くて、数少ない女子の中から当時大学生だった彼女が選ばれた。
付き合うようになってから、本当に二次元オタクだとわかって、俺の誕生日よりお気に入りキャラの誕生日を優先された時には泣きたくなったけどな。ちなみにそのキャラは俺と同じ日が誕生日だった……。
やばい。思いだしたら、今でも泣ける。
あの日のことだって、本当なら美愛の誕生日にプロポーズをしたかったんだ。だけど、新ゲームの発売で、大都市でのゲーム販売状況をリサーチして来いって、遠方を押し付けられてしまったんだ。
そんなことがなければ、この世界の騒動に巻き込まれることはなかったかもしれなかった。
今更言っても仕方がない事なんだけどな。
まあでも、一年前のことは、少し神様に感謝だな。時間を止めてくれていたから、戻ってきてから初めての契りにゆっくりと挑むことが出来たからさ。前の知識があるとはいえ、はじめて致すのだから出来る事なら時間をかけてやりたかったし……。
って、おい! まさか俺の考えを読んでいるんじゃないよな。なんか生温かい目で見られている気がするんだけどー!
本当に神様っていうのはろくでもないよ。
えー、あー、神様に感謝しているのは本当なんだぜ。
あのあと、翌日に領地に向かい、着いてすぐに問題が発生したことが分かったんだ。
えーと、一応説明しておくか。俺がアソシメイア公爵の実子で学園を卒業と同時に爵位を継ぐと公表すると共に、父に連れられてアソシメイア領へと行ったんだ。父が管理を任されていたとはいえ、アソシメイア公爵家が無くなったと思った人々は、アソシメイア領から離れる者もいたそうだ。だから、領地の館がある街は精彩を欠いていた。そう、活気というものがなかったんだ。
それに街並みも古びていたし、邸もあちこちガタがきていた。あと、都市として機能していないところも見受けられたのだ。いろいろ調べた結果、本格的な補修をするくらいなら、いっそ移転して最初から作り上げたほうが早いという結論に達したんだ。
だから俺はどうせ一から作るのなら、最初から街の中に上下水道を完備したものにしようと決めたんだ。移転先はもともとの街からそんなに離れていないところに決めた。というのも、元の街の建物もその家の住人が移転したら、次の家を建てる資材として使うことにしたからだ。所謂リサイクルというやつだな。
俺が領地に行くと共に、新しい都市作りが始まるはずだったんだけど、上下水道のことで暗礁に乗り上げてしまったんだ。飲み水に使うものと、下水として使うものということが、どうしても理解できなかったみたいで、図面を見たら、途中で合流していることがわかったのだ。
口で説明をしてもやはり理解してもらえなくて、俺は何日も悩むことになった。ビジョンはあるのに、それを伝えられないもどかしさを、どうしていいのかわからない日々。
そんな時にミランジェが神様にお願いをしてみたらどうかと言った。俺は駄目元で神様に話しかけてみた。すぐに神様から返事が来て、夢の中で会うことになったのだった。




