19 初夜 - 夢の中で -
◇ミランジェ・リ・アソシメイア
『やだな~、そんなに~、警戒しないでよ~』
「異なことを言うな! 隠れていないで姿を現せ!」
のんきな言い方にヴェインは吠えるように声を出した。
『いや~、姿を~、見せて~、あげたいのは~、山々なんだけど~、ちょっち~、それは~、難しいんだ~、よね~』
「何を訳がわからないことを! いいから姿を見せろ」
業を煮やしたようにヴェインは叫んだけど、相手が出てくる様子はない。……というか、先ほどからおかしい気がする。声は聞こえるけど、気配はしない。それにこれだけヴェインが大声を出しているのに、屋敷の者が誰も駆けつけてこないのだ。どう見てもおかしい。
『そうそう~。ミランジェ~、ちゃんの~、言う通り~!』
不思議な声の言葉に、ヴェインが振り向いた。私も驚きに目を丸くした。私は声に出して言ってはいないのだから。
だから、ヴェインは目で何を考えたと聞いてきた。
「あの、声は聞こえるけど、気配がしないなと、思って。ヴェインがこれだけ騒いでも、誰も駆けつけて来ないでしょう」
「ああ、確かに。ということは、敵は魔法を使っているのか?」
鋭い目で天井を見上げるヴェインに、苦笑したような声が聞こえてきた。
『やだな~、敵なわけ~、ないじゃ~ん。えーと~、これじゃあ~、埒が~、あかないから~、ちょ~っと、こっちに~、来て~、くれない~、かな~』
意味不明なことを言う声に、ヴェインと私は顔を見合わせた。
『ん~と~、方法はね~、ベッドに~、横になって~、眠ってね~』
「はあ?」
「えっ?」
思ってもいない言葉に、もう一度ヴェインと顔を見合わせあう。
「もしかして……神様、か?」
『ピ~ンポ~ン! あ~た~り~!』
間延びした声は嬉しそうに言った。
『いろいろ~、説明を~、したいん~、だけど~、この~、状態で~、話しかけるのは~、大変~、なんだよね~。だから~、夢の~、中で~、話を~、しよう~ね~。意識を~、刈り取っても~、いいんだけど~、急に~、倒れて~、変なところを~、ぶつけるのは~、嫌だよね~』
続けて言われた言葉に半信半疑ながらも、ヴェインと共にベッドの中に入った。もし本当に神様なのだとしたら、いきなり意識を刈り取られるかもしれないと思ったからだ。
『ひどいな~、ミランジェちゃんは~。ボク~、そんなことは~、しないのに~。じゃあ~、そろそろ~、こっちに~、来てね~』
その言葉と共に、私は目を閉じた。
目を開くと辺りは真っ白な空間だった。隣には私と同じように辺りを伺う、ヴェインがいた。
「いらっしゃ~い、ヴェインく~ん、ミランジェちゃ~ん」
後ろから声が聞こえてきて振り向くと、そこには少年が立っていた。
「えっ? 天使!」
「やだな~、天使じゃないよ~。ボクは、これでも~、神様だよ~」
金髪碧眼で白いシャツに半ズボンを身に着けた、推定十歳くらいの少年が、キラキラと光を振りまきながら立っていた。
「ホッホッホ~。やはりショタコンにはその姿じゃな」
「駄目ですよ~、それを言っちゃ~」
「そうですわ~。それに彼女にサプライズをするのなら、やはり細マッチョな男を二人、用意しないと」
「それはねえだろ。今の彼女は健全な思考の持ち主だぜ」
聞こえてきた複数の声に、慌ててそちらを向くと、やはりキラキラと光をふりまく人たちがいた。……いえ、人たちではなくて神様ですね。
白い髪にしわしわの顔。どこぞの仙人を思わせるような長いひげ。服装も中国っぽいかしら。ホッホッホ~と笑っている。
その隣には片眼鏡を左目につけた、インテリそうな青年。青い髪をしていて、紺色の優しい瞳が、私達を見つめている。
その隣には、どこぞの色気虫な女優のような、口元の右側下に色っぽい黒子が目立つ、淡い金髪のフワフワの髪の女性。
赤い髪を短髪にして金色の瞳で見てくる男は、吊り上がり気味の目で睨むように私達を見ている。
最後に長い黒髪の狩衣のような服を着た男性が微笑んで見つめていた。
その姿に圧倒されて声が出せない私達に、少年神様が言った。
「とりあえず~、立ったままだと~、なんだからさ~、座ろうか~」
少年神様が手を振ると、辺りには花々が咲き乱れた庭園の、東屋みたいなところに変わった。そこには座り心地のよさそうなクッションを置いた椅子が何脚かあった。
神様たちは思い思いに椅子に腰かけて寛いでいる。促されて、私達も椅子に座ったけど、テーブルには美味しそうなお菓子と紅茶が置かれていて、本当にここは夢の中だろうかと、思ってしまう。
「さて、呼び出してしまってすまないね、ヴェイン、ミランジェ」
黒髪の神様が話しかけてきた。
「え~と、いえ……その、はい」
ヴェインは返事をしようとしたようだけど、何と答えていいのかわからなくなったみたいだ。
その様子を神様たちは微笑ましそうに見つめている。
「そんなに緊張しないでくれたまえ。私達は君たち二人に多大な迷惑をかけたのだからね。状況を説明する義務があると思って、彼に君たちを呼んでもらったのさ」
少年神様のほうを見てそう話す黒髪の神様は、申し訳なさそうに微笑んだ。




