18 初夜 - 話し合いの夜に -
◇ミランジェ・リ・アソシメイア
私のことを抱え直すとヴェインは言った。
「それじゃあミラ、どちらから話す?」
「どちらからって?」
「ミラも話があるんだろ。俺からもあるんだ。ミラが話し難いのなら、俺から話すけど」
私は少し考えてから、「私から話したい」と言ったら、ヴェインは「そうか」と一言だけ言った。
私はまずは母、シェイラから聞いた、私の祖国コチュリヌイの話をした。祖国が何故、消滅しなければならなかったのかを、隠さずに話したのだ。勿論この世界の神々がこの世界の人々に行わせたことも、他の世界の神様たちが何を計画して実行したのかも、すべて話していった。
ヴェインは相槌さえ打つことなく、黙って聞いていた。そして、ヴェインの生みの母のことや父のことになった時には、体に力が入ったのがわかった。
それから、私達が召喚されたことの経緯のことになったら、私を抱く腕に力が入った。賭け布団に隠れて見えないけど、多分拳を握りしめているのだろう。微かに震えが伝わってくる。
私は神様たちの計画による部分を話し終わって、大きく息を吐き出した。そして、続けて思いだしたことを語り始めた。
先ほど……。
『愛しているよ……もう一度この手に抱けるとは思わなかった……美愛』
そう呟いたヴェインの言葉に、……ミラではなく美愛と言われたことに気がついた私は、ヴェインが向こうでの恋人だった優慈だと理解した。気がつくと目から涙が溢れ、それと共にいろいろな感情が溢れてきた。嬉しさ、悔しさ、申し訳なさなどが入り交じり、その感情のままにしゃくりあげて泣いた。
それから昨日、母から聞かされた話が脳裏に思いだされた。母との話の後に部屋に戻ってから、改めて召喚された時のことを思い出した。
「優慈、私達が召喚された時のことを、覚えている?」
「ああ」
ヴェインは低い声で応じた。きっといろいろと理不尽に感じているのだろうと、私は思った。
だから、続けて言われたことに、私はヴェインのことを振り向いて、顔をまじまじと見つめてしまった。
「あの時は……美愛にすまないことをしたと思っていたんだ。突然、地面が光りだしたことに驚いて、隣にいた美愛の腕を掴んでしまった。俺はすぐに後悔した。なんで異変を感じた時に美愛のことを突き飛ばさなかったんだろうって、な。美愛の手を離そうにも、もう引っ張られる感じが強くてどうすることもできなかったんだ。巻き込んでしまって、すまなかった」
私はヴェインから体を離し、向かい合うように正座をした。
「違う! 違うの。優慈が私を巻き込んだのではなくて、私が優慈を巻き込んだのよ」
「美愛? でも、あの時は……」
「聞いて! 私は小さい頃から変に勘が鋭いところがあったの。あの時は二人で歩いていて、何か嫌な感じがして少し歩く速度を落としたのよ。そうでなかったら、私を中心に魔法陣が展開されたはずだったの。たまたま先に優慈が魔法陣に踏み込んだように見えただけで、あの時は私のつま先が魔法陣に触れたから発動したの」
ヴェインは信じられないという顔をしていた。
いつから、彼は召喚時のことを思いだしていたのだろう。こんな表情をするということは、記憶を取り戻した時に、あの時のことも思いだしてしまっていたのかもしれない。
と、言うことはこの九年間、ずっと後悔していたのだろうか。贖罪の意味で私のわがままを叶えようとしてくれていたのだろうか。
それならば罪を償わなければいけないのは、私のほうだ。昨夜まで忘れていたのだもの。少しも思いださずに、ずっとわがままを言い続けていた。それをどうにかしようと、ヴェインは知恵を絞ってくれた。私はそれを見ていただけ……。
申しわけなさに、また涙が込み上げてきた。
『……い、……』
「美愛が言ったことが真実だとは思えない。あの時はどう見ても俺の足元から光だしたんだ」
「それは優慈のほうが魔法陣の中心に近かったからよ」
『……い、き……』
「それならやはり俺が原因じゃないか」
「だから、違うってば。私が触れたから発動したのよ」
『おーい、……み達―!』
「もう、さっきからうるせーな。こっちは真剣な話をしているんだぞ」
「そうよ、邪魔しないでくれませんか」
先ほどから聞こえてきた声に、ヴェインと共に言葉を投げつけたところで、はたっと、気がついた。本来なら新婚初夜で、あんなことをする私達の邪魔をしに来るような者はいないはずだ。契りの確認をする風習はないから、もしも人がいたとしてもこの部屋の前の扉ではなく、一つ離れたところに警護の者がいるはずだ。
「誰だ! 隠れていないで出てこい!」
ヴェインは素早くベッドから降りると、私を背に庇って声を出した。私もベッドから抜け出し、ヴェインの後ろに立った。
『あ~、や~っと~、気がついて~、くれた~。よかった~、よかった~』
間延びした言い方のなんとも気が抜ける声が聞こえてきた。もしこれが間者なのだとしたら、こうして油断を誘うのだろうか。ヴェインはもちろん気を抜かずに、視線を右に左にと向けていた。
そう、この声は不思議なことに、どこから聞こえてくるのかわからなかったのだった。




