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お兄様も私もゲームの悪役にはなりません!  作者: 山之上 舞花
裏本編!(本編に入らなかったあれこれ)
22/51

16 告白 ― 夫への裏切り? ―

◇シェイラ・リ・ラドランシュ


気持ちが落ち着いてきて涙が止まったので、私はハロルドから体を離した。ハロルドも私が離れるのを止めようとはしなかった。それから彼は水差しから水を注いで、そのグラスを渡してくれた。私はゆっくりと水を飲みほした。グラスをテーブルに置いてハロルドと向き合った。


「私はあなたに謝らなければいけないことがあります」


そう切り出したらハロルドは、私から視線を外してから言った。


「それは……私の子を持つ気はなかったということかな」

「気づいて、いたのですか」


私は目を見開いてハロルドのことを見つめた。ハロルドは感情を失くしたように表情を消した。


「私はね、君には及ばないけど、魔力があるんだよ。それにどうやら魔力感知に特化したもののようなんだ」


その言葉に私の顔から血の気が引いていった。視線を外したままハロルドは言葉を続けた。


「最初は何が起こっているのかわからなかったよ。だけど君が魔法を使うのは、私との行為のあとだと気がついた。そうなると結論は一つだと思った。君は私との子供は欲しくないのだろう、と。いろいろ考えたよ。君はヴェインとミランジェのことは、凄く可愛がっていた。この国に来るまでの間も、二人のことを第一に考えていたからね。そうなると子供が嫌いというわけではない。じゃあなぜ行為の後に、体から子種を出すのか」


ハロルドは視線を私に向けて、真直ぐに目を見つめてきた。


「辿り着いた結論は、私との子供は欲しくないのだと思ったね。君は本当は他に好きな人がいて、でもその人とは結ばれない関係だったのだろうと考えたのだ。私の求婚を受け入れたのも、その気持ちを隠すためだろうと邪推したね」

「ち、ちが……違います。私にはあなた以外に好きになった方はいません」


何とか言葉を絞りだす。あの時にしていたことを知られているとは思わなかった。あの時の私は子どもを作るわけにはいかないと思い込んでいた。だから、行為の後に魔法で子種を体の中から出していたのだ。


「そうだね、今はそんなことはないとわかっているよ。君はある時から子供を作ることに積極的になったからね。あれはやはりミランジェの言葉が大きかったのかい」


私はハロルドの言葉に震えていた。それも知られているとは思わなかった。そう、四歳になったミランジェと他家のお茶会に招かれ、そこで赤子を連れて里帰りしてきたその家のご令嬢と会い、ミランジェはその赤子に夢中になっていた。


帰りの馬車の中で「わたしも いもうとかおとうとが ほしいです」と、瞳をキラキラさせて言ってきた。それだけでなく、夕食でハロルドにまでおねだりをしていた。その気になったハロルドに、しばらくは朝起きるのが大変なくらいに可愛がられることになったのは、いい思い出なのだろうか?


グイッと引っ張られて、ハロルドの腕の中に閉じ込められた。顎に手が掛かり顔を伏せることが出来ない。


「先ほどの話でやっとわかったよ。シェイラは一人だけ助かったことが後ろめたかったのだろう。だから自分の子供を持とうとは思わなかった。違うかい」


目を覗き込むようにして言われて、私は返事が出来なかった。そんな私のことをしばらく見つめていたハロルドは、フッと口元を緩めた。


「馬鹿だな、シェイラは。コチュリヌイ国の人々はヴェインとミランジェだけに希望を見出したんじゃない。シェイラにも希望を見出していたんだよ」

「わ、たし、にも」


掠れただけでなく、変なところで言葉が切れてしまった。


「そうだよ。君とミランジェが生きていれば、コチュリヌイの血は続いていくだろう。国は無くなってしまうかもしれないけど、血筋は残るんだ。それだけ君たち王家は国民に愛されていたんだよ」

「国民、に、愛、され、て?」

「そうだとも。覚えているだろう。あの時、我々が国境を越えたことを、泣いて喜んでくれた人々のことを。その彼らの想いを無駄にするつもりだったのかい」

「無、駄、に?」


頭がしびれた様に考えが纏まらない。私はもしかして間違えていたのだろうか。


「そうだよ。シェイラが子供を残さなければ、ミランジェ一人にその役目を押し付けることになったんだよ」


私は俯くことが出来ないから、目だけ伏せるように閉じた。


「間違って、いたのね、私」

「そうだね。でも、途中で考え直してくれてよかったよ。マリクとシュリナを産んでくれたしな」

「そうね。ミランジェにおねだりされなかったら、二人は産まれなかったわね」

「そうだよ。それに本当にシェイラはひどいな。あのままではラドランシュ公爵家は後を継ぐ者がいなくなって、絶えていただろうね」


ハロルドの言葉に私は目を開けた。そのことに今の今まで思い至らなかった。私がマリクを産んでいなければ、ラドランシュ公爵家は絶えてしまったのかもしれなかったのだ。


「あ、あの、ごめんなさい。私、そんなつもりではなかったの」

「いーや、許せないね。シェイラがしていたことは私への裏切りだよ。どれだけ傷ついたと思うんだい。責任を取ってもらうしかないね」

「責任……私にできる事でしたら」


そう答えたらハロルドはとても満足そうに微笑んだ。


「じゃあ、もう、何人か子供を作ろうか」

「えっ?」

「そうだな、子供が産まれるのはいいことだよ。我が家も安泰になるし、なによりコチュリヌイの血を引く者が増えるのだ。彼らも喜んでくれるだろう」

「ま、まって」

「というわけだから、シェイラ」

「まっ、う……」


キスで言葉を奪われた私は、このあと、責任という名の甘い罰を朝まで与えられて、一日ベッドから出られなかったのは、やり過ぎだと思うの!


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