14 告白 ― コチュリヌイ国消失の真実 その3 ―
◇シェイラ・リ・ラドランシュ
彼の神も他の神々が決めたことに抗おうとしていた。それがどれだけ、私達にとって心強く思われたことか、彼の神は知らないだろう。
『天命の力』でこの世界の滅亡を知らせてくれた彼の神は、他の神々のやり方に怒っていたそうだ。私の祖父王は夢の中で神と対話したという。
どの世界でも愚か者は出る。だけど善良な人々も同じくらいにいるのに、滅亡させて終わらせるというやり方に、我慢が出来ないようだった。
「ちょっと、待ってくれ、シェイラ。我らは神々の怒りをかってしまい、滅ぼされることになるのではなかったのか。それなのに我らに味方する神が現れたというのか」
ハロルドが驚きの声をあげた。
「ええ、そうなの。最初はその神だけだったのだけど、そのうちに召喚された人たちがいた世界の神々が、その神の言葉に耳を傾けてくれるようになったそうよ。この世界は一柱の神が治めている世界ではないそうなの。それなのに、これまでこの世界の人が行っていた召喚を見過ごしてきたことに、他の世界の神々も不審に思ったみたいね。それで神々はいろいろ調べたようで、その結果この世界の神々の怠惰と享楽のために、召喚魔法を人々に授けた神がいたと判ったそうよ」
私の言葉にハロルドは顔色を悪くしている。
「もしかしてだけど、我らのこの状況は神々にとっては遊戯の一つなのか?」
暫く黙ったのち、ハロルドは言った。眉間にしわを寄せて、拳を握っている。彼は思い至ってしまったのだろう。この世界の私達は神々にとっては人形なのだということに。私も、神から聞かされなければ、そんなこととは思わなかった。
「ええ、そうみたい。そのことも他の世界の神々を怒らせたようよ。ただね、この世界の神々を懲らしめたとしても、神々が一度決めたことは覆すことが出来ないのですって」
「それは我らが滅ぶということか」
「いいえ、違うわ。他の世界の神々が言ったの。人々に試練を与えて成長を促すのが、本来は神がすることであって、人々に救いのない苦痛を与えることは、まして人々を滅ぼすということはしてはならないことなのだと。神々は至高の方よりそれぞれの世界を導くことを使命として与えられたというのよ。それをこの世界の神々は怠ったのよ」
「だから、怠惰というのか。では、我らが滅びないとして、覆すことが出来ないことはなんなのだ」
ハロルドは射るような眼差しを私に向けてきた。私に対して怒っているのではないとわかっているけど、その苛烈なまでの眼差しに私は身を竦ませた。その私の様子を見て、ハロルドは苦笑を浮かべた。
「すまない。シェイラに対してではないのだ」
「わかっておりますわ。私も神々のことを呪いたくなりましたもの。でもそれも、他の世界の神々が制裁を加えてくださいましたので、私はもうなんとも思っておりませんの」
「他の世界の神々による制裁……それはまた、凄いことが起こっていそうだな」
「ええ。ですがその話の前に、覆すことが出来ないことや、コチュリヌイ国の消滅の真実をお話したいのですけど」
「わかったよ、シェイラ。……いや、ちょっと待て。コチュリヌイ国の消滅の真実とは、なんだ。先ほど神々の計画を邪魔したから、コチュリヌイ国は国民共々消滅させられたと言ったではないか。それが違うということか」
ハロルドが私の手を握ってきた。私は深呼吸をしてから口を開いた。
「順番に、話をさせて。ハロルド」
声が少し震えて、変なところで言葉が切れてしまった。私の目をじっと見つめてからハロルドは頷いた。
覆すことが出来ないものは、この世界から魔法が無くなるということ。今のこの世界は魔法に頼った世界となっている。魔法が使えなくても、魔石があればどうにかなるのかもしれないけど、この世界から魔素自体が無くなれば、魔石もいつかは無くなってしまう。
私達に味方してくれる神にも、この事はどうしようもない事だった。でも、天命の力を与えられたコチュリヌイの王が、遺跡に仕掛けられたからくりに気がついて遺跡を壊して回ったから、時期はかなりずれ込んだ。
本来なら遺跡の魔法陣を発動されるたびに魔素がごっそりとなくなり、気がつくと急に魔法が使えなくなって人々が慌てるところを、神々は笑ってみているはずだったそうだ。
それを妨害されたので神々はコチュリヌイ国の人々を恨んだ。だからどうにかして滅ぼそうと考えたのだが、理由もなく滅ぼすことはできなかった。せいぜいが国から出られなくするくらいの嫌がらせしか出来なかったらしい。
この世界の神々がそう考えるように、他の世界の神々に指示された味方の神が、誘導したそうだ。
他の世界の神々が立てた計画は、『最後の遺跡で召喚を行わせること。それによってそれを行った国を消滅させるだろうから、そのことを含めて今までの召喚に対する落とし前をつけさせる』というものだった。
コチュリヌイ国の王に『天命の力』を使って、神々の計画を知らせてきたそうだ。そして彼らに生贄になることも伝えた。もちろん強要はしないということも。それから魔法が無くなった世界になっても困らないようにするとも、約束してくれたそうだ。




