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◇ヴェイン・ラ・ラドランシュ


ミラこと僕の妹のミランジェは、これでもかというくらいに目を大きく見開いて、僕のことを見つめている。アメジストの瞳が輝いて綺麗だなと、場違いなことを考えてしまった。


「な、何をおっしゃっているの、お兄様」


ミラはハッとしたように部屋の中に視線を走らせながら言った。


「大丈夫だよ、ミラ。今は二人だけだし、他の人には声が聞こえないようになっているからさ」


僕の言葉を確認するようにミラは、キョロキョロと部屋の中を見回した。その動作を見て、やはりミラも僕と同じなんだろうと確信を持った。前のミラなら令嬢らしく、ゆったりと部屋の中を見回すはずだからね。


「それでお兄様、今の言葉から察しますと、お兄様にもヴェイン・ラ・ラドランシュ以前の記憶があるということですの」

「そうだよ。『も』ということはミラにもあるんだね」


一瞬しまったという表情をしたけど、ミラはすぐに僕の方に身を乗り出してきた。


「ええ、そうですわ。確認したいのですけど、お兄様が『ゲームの悪役令嬢』と言ったということは、もしかして四角い箱に映る映像を、コントローラーで操作するものでしたの」

「いや、俺がやっていたのはパソコンでだよ」

「パソコンのゲーム? オンラインのものですか」

「ああ、そうだ」


パソコンやオンラインという言葉が出てきたのだ。どうやらミラは俺と同じ世界からの転生者かもしれない。これは期待が持てるかもしないと思い、俺はミラに前世の記憶から、物の名前を口にしてみた。


「四角い箱って、テレビのことだろ。パソコンがわかるってことは、携帯どころかスマホもわかるか」

「もちろんです。電子レンジや全自動掃除機、あとソーラー発電もかなり普及していましたね」


どうやら同じくらいの時代みたいだ。二人して思いだせる限りに、前世の世界のことをあげていった。やはりほぼ同じ時代に生きていたようだ。


「いやー、まさかミラもあの衝撃で、前世を思いだしたとは思わなかったよ」

「私も~、こんなに近くに同じ体験をした人がいるなんて、うれしいな」

「そうだよな。兄妹なんだし、これから協力していこうぜ」


俺がそういったらミラはにっこりと笑って「もちろん」と言った。すっかり令嬢の皮が剥がれてしまったけど、これはこれでいいなと思ってしまった。


そうそう。ちなみに俺の前世は二十代後半だった。死因なんかは覚えていない。ミラの前世は二十代前半の女性だったそうだ。やはり死因は覚えていないそうだ。


「ところでお兄様、そのゲームというのはどういった内容だったの」


無邪気に聞かれて俺は「うぐっ」と息を詰まらせた。そうだった。つい、懐かしさから前世の話にかまけてしまったけど、本題を忘れるところだった。


だけど、さすがにすべてを話すなんてできないな。十八禁の内容だったなんて知ったら、ミラは卒倒するかもしれないからさ。


「悪役令嬢が出てくる話なら、乙女ゲームだったの?」


心なしかミラの視線に冷たいものが含まれている気がする。やばい。前世の俺が乙女ゲームをする変態だと思われたんじゃないだろうな。


「違うぞ、ミラ。れっきとした男性向けゲームだ。男性が主人公の恋愛シミュレーションゲームだったんだぞ」

「あら、おかしくない? 男性が主人公なのに悪役令嬢が出てきたの?」

「そうなんだよ。これがこのゲームの醍醐味っていうかさ。悪役令嬢というのは、主人公のご主人様なんだ。自分の下僕が、他の女の子と恋愛をするのが許せないって、邪魔をしまくるんだよ。それも相手の命を脅かすようなものや、心を折るようなえげつないことを仕掛けるやつでさ。だからどのルートに行っても最後には断罪されてしまうのさ」


そういったらミラは眉を寄せて不快感をあらわにした。


「お兄様がそう言うということは、本当にひどい人みたいね。ミランジェ・リ・ラドランシュという子は」

「ああ。だけど、さすがに断罪の内容がひどすぎて、俺は全ルートを制覇できなかったんだよ」


思い出すだけでも、いまだに憤りが収まらない。身分的にも戒律の厳しい修道院送りと決まったのに、そこに送られる途中にミランジェは、襲われて攫われてしまうんだ。そして数年後に兄が見つけ出したのは娼館でだった。身も心もボロボロの状態で見つかり、兄の腕の中で後悔を口にして亡くなるという内容だ。


ミランジェがそんなことをしたのは、もちろん主人公のことが好きだったから。だけど公爵家令嬢という身分ゆえに諦めた恋。自分は王太子の婚約者となって将来の国母として、窮屈な生活をしていた。


彼女は王太子妃教育のために努力を惜しまなかったけど、社交界では笑いものだった。それはアングローシアの美男美女の基準のせいだった。痩せているほど美しいというこの国。ミランジェは過酷な王太子妃教育を乗り切るために、甘いものをよく口にしていた。俺から見たら太っているというほどではなかったけど、この国の基準からしたら太っていることになってしまっていた。


攫ったやつは裏情報としてネットにでていたが、あの国では表立って言えない嗜好の持ち主たち。そいつらによってミランジェは汚されたのだった。


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