10 告白 ― 子供たちの結婚 -
勝手なお約束をしてから、かなり経ってしまいました。
『日間異世界転生/転移ランキング』の2018/12/28夜に1位になることが出来ました。
そのお礼に書くと言った番外編ですが、他の連載を再開してしまったので、こちらを書くことが遅くなってしまいました。
まだ、すべて書きあげていませんので、しばらくは毎週木曜日に投稿したいと思います。
よろしければお付き合いいただけると嬉しいです。
どうか、お楽しみください。
◇シェイラ・リ・ラドランシュ
リーン ゴーン
教会の鐘が鳴っている。
リーン ゴーン
鐘が鳴り響く中、扉がゆっくりと開いていく。入口に立った人影が一歩中に入ると、その姿がはっきりと見えた。美しく成長をした娘のミランジェが、夫と共に歩いてくる。
新郎の手前で立ち止まった夫から手を離すと、ミランジェは息子のヴェインの腕に手をかけた。役目を終えた夫が私の隣に並んだ。
祭壇前に進み、法王から祝福を受ける二人を見つめる私は、涙が溢れてくるのを押さえることが出来なかった。
式が終わり二人は馬車に乗り、アソシメイア公爵邸へ向かった。そして、親しいものだけを招いての、結婚披露晩餐会が行われた。夕方の少し早い時間から行われ、夫婦になったばかりの二人の初々しい様子を、参加した者たちは微笑ましく見ていた。
晩餐会が終り招待客を見送る二人を、最後まで見守った。私達、ラドランシュ公爵家だけになったところで、ヴェインとミランジェの表情が和らいだ。
「父上、母上、それからマリクとシュリナ。今日はありがとうございました。お疲れになったでしょう。やはり屋敷に戻られるのは明日にして、今日はお泊りになられたらいかがでしょうか」
「それには及ばないよ、ヴェイン。それよりもお前たちのほうが疲れただろう。早く休むといい。それに明日にはアソシメイア領に旅立つのだろう」
「ええ。少しでも早く領地に戻りたいと思っています。工事の進行具合が気になりますからね。これがうまくいったら、ラドランシュ領にも同じものを作りたいと思っています」
「逸る気持ちはわかるがな、まだ始めて一年だろう。都市を丸々作り変えるのだから、そう簡単にはいかないのはわかっているだろう」
夫の言葉にヴェインは苦笑いを浮かべた。
「そうなんですけどねー。でも、少しでも早く快適な暮らしをみんなにさせたいと思ってしまって」
「まだまだ試行錯誤の段階なのだろう。焦ることはない。周りが勝手に期待しているだけなのだからな。お前が納得できるものでなければ世に広めないことは、この国の者はわかっている。それにな、トイレのことだけでも、快適になったのだぞ。そこを忘れるな」
ヴェインは頭に手をやると、照れ隠しをするように掻いていた。
「お父様、お母様」
ミランジェが夫たちの会話が切れたところで、話しかけてきた。潤んだ瞳のミランジェに、何を言われるのか分かった夫が、遮るように言った。
「ミランジェ、お前からの言葉は昨夜にもらっている。それよりも今日からはヴェインのことを第一に考えなさい。私が望むのは、二人がいつまでも仲良く暮らすことだ。それにこれが今生の別れというわけではないだろう。私達もこれから何度も、アソシメイア領に伺わせてもらうのだからな」
「そうですね、お父様。いつでもいらしてください。お待ちいたしております」
ミランジェは綺麗な笑みを浮かべて言った。
「もちろん、僕も行くからね、兄上、姉上」
「私もよ、兄様、姉様」
マリクとシュリナも、自分たちのことを忘れるなとばかりに、ヴェインとミランジェの腕にそれぞれしがみついて言い募っていた。
「歓迎するよ、マリク」
「待っているわね、シュリナ」
ヴェインとミランジェからいい返事をもらえて、嬉しそうな顔で離れるマリクとシュリナ。ミランジェが私のことを見つめてきた。
「お母様もよ。お待ちしていますからね」
念を押すように言う娘に私は笑って頷いた。
「ええ。必ず行きますからね」
名残は惜しいけど、いつまでも別れを惜しむわけにはいかないから、私たちは馬車に乗りアソシメイア公爵邸を後にしたのでした。
邸に戻り、それぞれに挨拶をして自室へと戻った。ドレスを脱ぎ、お湯を使って夜着に着替えた。寝室に入ると、夫はソファーに座っていた。手元にはグラス。どうやらお酒を飲んでいるみたいだ。
「シェイラ、今日はお疲れ様。眠る前に君も一杯どうだい」
珍しいことがあるものだ。夫は夕食後にお酒を少し飲むことはあるけど、寝室にお酒を持ち込むことは今まではなかったのだから。
「そうね、私も一杯、いただこうかしら」
私は夫の向かいに座った。夫がグラスにお酒を注いでくれた。グラスを軽く掲げたので、私も同じように目のところまで持ち上げた。
「我が子供たちの未来に」
「愛しい子供たちに」
グラスに口をつけてお酒を口に含む。強い酒精に喉がひりついた。横に用意されていたグラスに水差しから水を注いで、急いで飲んだ。お酒は嫌いじゃないけど、最初のこの感じには、いつまでたっても慣れないと思っている。
お互いに言葉はないまま、ゆっくりと口に含んでいく。グラスが空になるというところで夫が口を開いた。
「ところでシェイラ、いつになったら話してくれるのかな? 成長を見守っていた二人は、今日、私達の手元を離れた。そろそろいいんじゃないかな」
何気ない口調で言われたけど、夫の視線は刺すように私のことを見ていた。グラスを置いた夫はローテーブル越しに私の手をつかむと、グイッと引っ張ってきたのだった。




