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お兄様も私もゲームの悪役にはなりません!  作者: 山之上 舞花
裏本編!(本編に入らなかったあれこれ)
13/51

7 友人は無自覚な人、達 後編

◇セルジャン・ラ・マホガイア


列に並ぶ人を誘導しながら、こっそりとアゼンタの様子を伺っていたら、どうやら少しやり過ぎな感じが見受けられた。フォローに行こうかと思っていたら、ミランジェがうまく取り成したようだ。


いま受け取ったプレゼントは、どうやら紙にかかれた何かのようだった。手渡した令嬢が涙目になりながら、真っ赤な顔をしている。うん。これはあれだね。自作の詩かなにかだろう。


それならお金はかかっていないから、ミランジェも受け取りやすいだろうけど、一種の公開処刑に遭った気分じゃないかな、あの令嬢は。まあ、とにかくご愁傷様とでも、言っておこうか。


僕の名前はセルジャン・ラ・マホガイア。ラドランシュ公爵家と同じ五大公爵家の一端を担っているマホガイア公爵の嫡男になる。そんなことをいうとマホガイア公爵家がとても素晴らしい家のように聞こえるけど、実際は父が興した家なんで、歴史も何もあったもんじゃない。父は現王の弟だ。現王より優秀と言われていたけど、国王になって行動を阻害されるより、公爵になって下から兄王を支える風を装って、他国の狐狸どもと丁々発止のやり取りをしたいという、変わり者だ。亡くなった祖父王も、父のそんな性格をわかっていたから、周りが何と言おうと父を王にしようとはしなかった。おかげで、僕も好きなことが出来るから祖父には大感謝だ。


今の僕は婚約者であるアゼンタ・リ・クールニッシュ侯爵令嬢が、友人のミランジェ・リ・ラドランシュ公爵令嬢の、誕生日のために計画したことに協力しているところだ。


そんなことを考えていたら、今日のガードの本命共がやってきた。


「おい! なんで俺まで並ばなきゃならないんだ。俺はこの国の王太子だぞ」

「すみませんが、そういう決まりなんです」


列の最後尾を担当している男子(伯爵家令息)が、青い顔で、でもちゃんと対応しようとしていた。


「決まりってなんだよ。俺はプレゼントを渡しに来たんだぞ。並んで待てるほど暇じゃないんだ!」

「ですが、平等に」

「平等だと! 王太子をなんだと思っているんだ。いいから先に行かせろよ」


あ~あ。本当に馬鹿だねえ。権力を笠に着て強気に出ようだなんて。ミランジェが一番嫌うことだって、いい加減解れよな。


伯爵家令息を振り切ってこちらに来ようとしているのが見えたから、僕は急いで最後尾へと行った。


「王太子殿下、困りますねえ。今日のことはかなり前から告知していましたよ。守っていただけないのでしたら、お帰りいただくしかないのですけど」

「おい、セルジャン。お前までこんなところで何をしているんだ」

「何って、ミランジェ嬢へのプレゼントを持ってきた人を、並ばせているんだけど。ほら、殿下も並んでください」


軽くぞんざいに扱ってやる。殿下は顔を顰めたけど、僕には強く出られないんだよね。


「王太子なのにか」


ボソリと小声で言ってきた。心中で僕はハア~と盛大にため息を吐き出した。そんなことはおくびにも出さずに僕は笑顔を浮かべた。片頬がより上がり気味の皮肉気なものになったけど仕方がないだろう。


「もちろんです。ミランジェ嬢はそういうルールを守らないことを一番嫌いますから。あと、権力を振りかざすとか、不必要に偉ぶるとかさ。そういった人を嫌っていたよね~」


隣にいる伯爵家令息に話を振ったら、彼はすごい勢いで首を上下させた。そこまで必死に肯定しなくてもいいのに。


王太子殿下は少し顔色を悪くして、素直に列に並んだのだった。


その様子を見て、俺は殿下に背を向けてからため息を吐き出した。本当になんでこうなったんだろう。前はもっとまともだと思っていたのに、ミランジェに恋をしてから腑抜けになりやがったんだよな。いや、腑抜けたというより、猪突猛進馬鹿に成り下がったというかさ。


こいつも悪いやつじゃないんだ。腹芸が苦手で……というか小さい頃から思ったことをそのまま口に出してしまっていただけだ。本来なら諫める立場だったのに、周りと一緒にラドランシュ公爵兄妹の悪口を言ってしまったのだ。それを二人に聞かれたんだ。


悪口を言うのはいけないと言った僕に、こいつは事実を口にしただけだと、きょとんとした顔で答えていたっけ。本心でそう思っていたようだ。他のやつらも同じ考えのようで、頷いていたんだよ。


僕は王太子の後ろに、同じように並んだ男達を半眼で見つめた。


そう、騎士団長の息子と、宰相の息子と、魔術師長の息子のこいつら。あの時殿下と一緒に悪口を言っていたやつらだ。


そして揃いも揃ってミランジェに惚れやがった。


というかさ、お前ら馬鹿なの。馬鹿なんだよな。どう見てもミランジェは、お前らのことを嫌がっているだろう。お前らに囲まれると笑顔は固まり……というか無表情になり、言葉も丁寧だけど慇懃な態度になっているんだぞ。他のやつらには少し打ち解けた砕けた言い方もしているのに。それを尊敬されているから、丁寧な対応をしているって解釈するとかさ。


どうしたらそう思えるわけ? やはり恋は盲目ってやつか?


だけどな、もう一度よく思いだせよ。悪口を言っていた相手から好意を向けられたって、嬉しくもなんともないだろう。それどころか、結局ミランジェのことは顔や姿形でしか見ていないって、思われてんだぞ。お前らの印象は最悪なんだよ。


ミランジェのことを追いかけまわすよりも、自分を磨こうって考えはないのかよ。その方がミランジェから、好感を持たれたかもしれないと思うけどさ。……まあ、無理だとは思うけどな。


ほんとにさ、お前ら、ヴェイン様の爪の垢でも飲ませてもらったらどうなんだ。少しはまともになるんじゃないのか?


ヴェイン様はとても素晴らしい方だ。さすが、ミランジェの()だけのことはある。いや、お二人が素晴らしいのは、弛まぬ努力を続けて来られたからだろう。


ヴェイン様と親しくさせてもらうようになったのは、あの馬鹿が問題発言をした王家主催のお茶会でだった。あの時のアゼンタに僕は一目惚れをした。


アゼンタもこの国の人間らしくない令嬢だった。周りが体型を気にして、お茶会の菓子に手を伸ばさないのを、アゼンタだけがパクパクと食べていた。ああ、違った。ラドランシュ公爵兄妹もだった。でも、僕の目はなぜかアゼンタに引き付けられていた。その後の些細な事件での雄姿。あの姿に心臓を射抜かれた気がしたんだ。


僕がアゼンタと親しくなりたいと、どこからか聞きつけたのか、ヴェイン様が屋敷に招待をしてくれた。そこにミランジェに招待されたアゼンタがいて、そこから交流を持つことが出来た。


アゼンタと婚約できたのは二人のおかげだと思っている。だからさ、ミランジェのことが大好きなアゼンタがやることに、なんだって協力をするのさ。


このあと、王太子殿下とヴェイン様との攻防とか、またまたやらかしてくれたことで王宮から来た近衛兵に、王太子殿下と三馬鹿が引っ張られていったという、些末なことがありながらも、無事にミランジェへの誕生日プレゼントの渡し会は終わったのだった。


満足そうなアゼンタと手伝っていた令嬢、令息達。若干目が死んだようになっているミランジェがいたけど、ヴェイン様も満足そうだったからいいことだよね。


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