5 ゲームの秘密? 後編
◇ヴェイン・ラ・ラドランシュ
……おっと。怒りで話が逸れた。
それで、ややこしいことに、この世界を舞台にしたゲームはいくつも作られたんだ。それもジャンルが様々なやつが。ロールプレイングゲームはもちろん、格闘場を舞台にしたアクションものだとか、女性向けの恋愛シミュレーションまであったのさ。
そう、お察しのとおりにどのゲームでも、俺とミランジェは登場していた。ロールプレイングゲームはまだいいんだ。魔法が得意なミランジェや、魔法剣士の俺を仲間にできるってやつだったから。最後に倒すラスボスはドラゴンだったし。
格闘場のアクションゲームも、俺たちは悪役ではない。ただの対戦相手でしかなかったからな。
問題なのは女性向けの恋愛シミュレーションゲームだ。これはスリーパターンが作られた。一つ目はミランジェが十八歳の時に、ヒロインが一年間かけて攻略対象者を落とすもの。二つ目はミランジェが十五歳から三年間というやつ。このどちらでもミランジェは悪役令嬢だった。だってそうだろ。一番の攻略対象者は王太子に決まっている。そうしたら、婚約者のミランジェは悪役令嬢になってしまうだろう。
一応この対策として、父親に庶民向けの学校を作らせた。というのも、どっちのヒロインも庶民の魔力が多めの子だったからだ。庶民は魔力が少ないから、魔法について初歩的なものしか学ばない。だけど、たまに魔力が多めの子が生まれることがある。その子たちに魔法の扱いを教えるために、俺たちがいる学園に入学させるのだ。
そう、これがわかっていたから、庶民向けの学校を作った。だってさ、庶民に貴族的な礼儀作法は必要ないよな。貴族に仕える使用人は使用人のための学校に行くんだぜ。魔力が多いって理由だけで、肌に合わない貴族用の学校に通わせるなんて無駄無駄。
そう父に言ったら、父も大賛成をしてくれたんだ。父の時にも、魔力量の多い庶民が特待生として入学してきたけど、とにかく問題が起こってばかりだったそうだ。身分差によるいじめってやつだな。それなら最初から入学させなければ、数々のトラブルは回避できるだろう。これは学園側も大歓迎だったそうで、国に掛け合ってすぐに学校を作ってしまったのだ。
あれから七年。そこでは学習意欲が高く優秀な人材が、多人数排出されているそうだ。もちろん魔力が多い子だけでなく、学習意欲の高い子も通えるようにしたからね。高等教育を一般庶民にも受けられる場所にしたのさ。まあ、主に採算の面の為だったようだけどさ。国からの補助金が多くだされているけど、ある程度は学ぶ者にも負担してもらっている。特待生として通っていた時には、貴族と並んで恥ずかしくないように、国が全額を出していたから、それに比べたら微々たるものになったらしい。
卒業した彼らは、王宮の下級官吏や商家から引く手あまたというから、いいことを進言したと思う。あと、こちらは年齢制限を設けなかったから、かなり年配の人達も通っているとの話だ。
これで二つの女性向けの恋愛シミュレーションゲームの心配はなくなった。
けど、この一週間で一番危惧した、最後のゲームの世界ではないかということが、濃厚となってしまった。ある意味俺にとっては一番最悪だった。それは他のゲームで悪役令嬢にされたミランジェの救済のためのゲームだったからだ。
このゲームはミランジェが主役で、いい男達を選り取り見取りというやつだ。ミランジェが選んだ男が、この世界の王となるというもの。
ミランジェはそんなゲームがある事は知らないようで、とにかく攻略対象たちのことを毛嫌いしていた。
まあ、あれだ。自分の容姿を悪く言われて、好感を持つ方がおかしいよな。ミランジェが根に持つタイプだとは思わないけど、とにかくあいつらに対する評価が低すぎる。それも仕方がないっちゃ、仕方がない。あいつらも、他にもいろいろやらかしていたからな。ミランジェの好感度を下げることをさ。
そうそう。肝心なことを忘れていた。俺とミランジェが思いだしたゲームの主人公のライナー。彼が優秀なのは、ゲームを作った俺は知っていた。最初はどこかほかの家に行かせるように話を持っていこうと思っていたのさ。だけど、途中で考えを変えることにした。他の家に行っても、その家の子供にくっついて学園に来るかもしれない。そうしたら少しぐらいの設定変更をものともせずに、ゲームが進むかもしれないじゃないか。ミランジェも言っていたゲームの強制力ってやつで。それならこのラドランシュ公爵家に居させて、学園に関われない状況を作り出す方が、いいのではないかと思ったのさ。
執事長に子供がいないのは知っていた。そろそろ養子をとることにしようかと話しているのを、小耳に挟んだのだ。それなら、ライナーの優秀さをわからせて、執事長の後継にすれば、都合がいいと思ったんだ。
あとはライナーの優秀さをアピールする機会を作るだけ。案の定、執事長に見いだされて、ライナーは次の執事長候補となった。これで俺やミランジェについて学園に来ることはなくなったのさ。
こうしておけばゲームの強制力も、それほど強くは作用しないのではないかと思ったんだよ。まあ、まだミランジェが学園を卒業するまで安心はできないんだけどな。
ミランジェの触り心地のいい髪を心ゆくまで撫でていたところに、扉をノックする音が聞こえた。入室を許可すると、待ち合わせていた人達が入ってきた。
二人ともいい目をしている。俺たちはミランジェに気づかれないように同盟みたいなものを組んでいる。俺がそばにいられない時には、二人にミランジェのことを頼んでいるのだ。
さあ、ゲームの世界に抗ってやろうじゃないか。
そして、絶対ミランジェと幸せな未来を掴んでやる!
お読みいただきありがとうございました。
ところで、ヴェインは腹黒になるのかな~?
普通にミランジェのことを守ろうとした結果なんだけどね。
どう、思います?




