表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

離脱の夜

作者: 佐藤コウキ


 私は暗闇の中に立っていた。

 部屋の照明が消えている。

 早く明かりが欲しい。私は焦りながらスイッチを探す。

 ここはワンルームアパートの自室。壁に手を這い回らせて光への道しるべを探した。

 暗闇の恐怖が私の心臓を冷やしている。

 やっと見つけた突起物。押したが、部屋はボンヤリとした闇のまま。

 カチャカチャと何度もスイッチを入れるが、天井の照明は全く反応しない。

 乱暴に操作したせいか、スイッチがポロリと壁から外れてしまった。電気ケーブルによってブランと垂れ下がっている。

 あわててスイッチを壁の中に入れるが、すぐに外れてブランと揺れた。

 何とか壁に固定して、スイッチをパチンと操作すると、薄暗い常夜灯が点いた。

 後ろを向く。背筋が氷に侵食された。

 部屋の中央には布団が敷かれていて、そこに私が寝ていた。

 なんなんだこれは! 大声を出したつもりだが声が出ない。

 大波に揺られる難破船のように、動揺した意識を何とか落ち着かせて考えると、これは幽体離脱したのではないかという結論が浮かぶ。

 そういえば激しく混乱しているはずなのに息をしていない。私は途方に暮れた。

 そのとき、急に背後から私の両肩に軽い衝撃。自分の肩を見ると誰かの手が乗っていた。

 振り向く私。そこには大きな男がいた。

 異様なほど口が大きく目も大きい。その手を振りほどこうとしたが、がっちりと肩に食い込んで離れない。体をよじらせて、もがいているときに目の前に別の男がいることに気がつく。

 目の細い痩せた男だった。そいつはニヤリと笑うと両手を前に伸ばしてヒモのような物をつかんだ。

 今、気がついたが、私と寝ている私との間には細いヒモのような物でつながっていた。細目の男は、そのヒモを握って引きちぎろうとしているようだ。

 マズい! 心臓が熱くなるほどの焦燥感。それを切られてしまったら終わってしまう。

 しかし、声も出ないし体も自由にならない。どうすれば良いのだ! このままでは行ってはいけないところに連れて行かれる。

 細目の男はヒモをグリグリとねじくり回して引きちぎろうとしている。意識がボンヤリとしてきた。マズいよ、何とかしなければ……。

 不意に、お経を習っていたことを思い出した。

 そうだ。昔、寺でお経を憶えたことがある。

「ええーと、般若……何だったか」

 真剣に勉強したわではないので、すぐに思い出せない。

「……羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶」

 何とか一節を思い出して唱える。声が出ないのに、不思議なことにお経は言葉になって出てきた。

 すると肩を握っている手が緩んだ。ヒモををちぎろうとしている男も体が揺れている。

 私は肩の手を振り払い、細目の男を突き飛ばした。

 その直後、急に体が引っ張られて、寝ている私の中に吸い込まれた。


 布団からガバッと起きた。

 息が荒くて寝汗がひどい。部屋は薄暗く、家具の輪郭がなんとか見える程度だ。

「夢だったのか?」

 枕元に置いてあるスマホの電源を入れて部屋を照らす。何も異常はない。

 立ち上がって壁のスイッチを入れた。

 いつもの部屋。ずっと住んでいるワンルームアパートの2階の部屋だ。

「変な夢を見たな……」

 壁の時計を見ると午前3時を少し過ぎたところ。

「もう一度、寝るか」

 トイレに行ってから布団に入り、うつ伏せになってスマホの動画を見る。

 しばらくユーチューブの動画を見た後、寝ようと思って壁の方を向いた。

 照明のスイッチが壁から外れて電気ケーブルでぶら下がっていた。


こんな夢を見たので書いてみました


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ