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蟲の王  作者: 食蟻獣
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8.早朝の一幕

 翌朝、目覚ましの音は小鳥の囀りのような優しい音ではなく、つんざくような悲鳴だった。


「何よそれ!気持ち悪い!」


 声を上げたのはミザリー。ミザリーは木に身を預けて、身体を休めているファスタブルを指差して叫ぶ。

 ファスタブルは前日の晩、見張りの為に周囲に虫を配置し、自身の体に多足類の蟲。俗に言うムカデやヤスデを3匹程巻き付けていた。体長は人並みで、その大きさから魔物と言っても差し支えなかった。

 ミザリーの悲鳴により、ラメスとエリーリもすぐにテントから出てくる。そしてファスタブルを見た瞬間、ラメスは小さく悲鳴を上げ、エリーリは絶句した。


「あの〜、ファスタブルさん?それは……」

「なに、戯れていただけだ。気にすることではない」


 ファスタブルはエリーリの質問にちゃんと答えず、はぐらかす。既に虫たちはファスタブルの元を離れ茂みの中へと消えていった。エリーリはファスタブルが話す気が無いと察したが、ラメスとミザリーは納得出来ないと言った表情。特にミザリーは虫に対する嫌悪感を隠そうとせず、蟲と戯れていたファスタブルを侮蔑する目で見る。

 張り詰める空気。ファスタブルが朝食の干し肉を齧る中、3人は沈黙する。ラメスは責める目で見つめ、ミザリーはラメスの影から眺めるのみ。エリーリはどうやってラメスとミザリーを宥めるか考えていた。そんな時、身支度を終えたトモエがテントから出てくる。


「一体なんの騒ぎだ」

「こいつが気持ち悪い蟲を体に巻きつけてたの!!」

「そうだ、巨大な魔物と呼べる程のだ。どういうことか納得できる説明をしてくれ」


 トモエの問いに、ミザリーが間髪入れずに答える。それを補足する形でラメスはファスタブルに説明を求めた。


「蟲が好きだから、というのは理由にならんか?」

「当たり前でしょ!納得出来るわけないじゃない!!ふざけてるの!?」


 ミザリーは激怒をあらわにし、ヒステリックに叫ぶ。ラメスも信用出来ないようで、しきりに頷いて同意する。


「そうですか?私は納得出来ましたよ」


 声を上げたのはエリーリ。右手で杖を下手に持ち、左手をちょこんと上げている。ラメスとミザリーはエリーリをありえない目で見る。


「私は昨日の早朝にファスタブルさんが蝶々と戯れているのを見てますし、嬉しそうに触れ合っていたので信用してもいいと思いますよ」

「それは私も見たぞ。別人のようで驚いたのが記憶に新しいな」

「そんなの私は見てないわ!!」

「それは貴様らが遅れて来たからだ。私から言わせれば、時間も守れない貴様らよりもファスタブル殿のことを信用している」

「ラメスよりもこんなヤツを信じるの!?」

「さっきからそう言っている。だいたい──」


 冒険者ギルドで見たようなトモエとミザリーの言い争いが勃発する。同じようにトモエの胸ぐらを掴むミザリー。同じように不満と共に罵るトモエ。同じように慌てふためくラメス。違うことと言えば、エリーリがもうどうにでもなれ、といった様子で被害の被らない離れた位置に座り眺めている。

 話題が自身のことから外れたファスタブルは飛んで来たコガネムシからカスミラの様子を聞く。どうやらカンカンに怒っているようで、戻ったら覚悟するようにと伝えて欲しいと頼まれたらしい。怯えた涙目で虫に伝言を頼むカスミラの様子が容易に目に浮かぶ。


 そんなことを考えていると日が大分高い所まで登っているのが見える。そろそろ行動を起こさなければ、事が片付いた時には日が暮れてしまう。

 ファスタブルは取り敢えず川の対岸にある林に向かうために腰を上げて、川に入る。水深は膝程で、流れの抵抗を強く感じるわけではない。ザブザブと音を立てて川を突き進むファスタブルにエリーリは気が付き、周りに一声掛けてから後をついてくる。


「ちょ、勝手な行動はよしてくれ!」


 ファスタブルは背後から聞こえてくるラメスの呼び止めを無視して突き進む。ラメスはファスタブルと未だに喧嘩を続けるミザリー、トモエを交互に見てうろたえていた。勝手な行動をするよりも助けてくれといった様子だ。


「1人だと危険なので一緒に行きませんか?」


 エリーリがファスタブルに追いつく。神官服を濡らさないように、裾をたくし上げて艶やかな素足をさらけ出している。滑りやすい水中で素足は危険だと判断したファスタブルは、エリーリの服の襟を掴み持ち上げる。小さく「くぇ」と喉を鳴らしたエリーリを猫のように運び対岸に着く。

 落とすように下ろされたエリーリは尻餅をつき、ファスタブルを恨めしそうにジッと見る。しかし、ファスタブルがそれなりに面倒な人種だと理解しているエリーリは諦めて溜息をつく。


「わざわざ運んで下さりありがとうございますぅ」


 不貞腐れたようにエリーリはファスタブルに感謝を述べ、砂埃を払う。もう少し優しく下ろしてくれてもいいものをと考えるも、ファスタブルは「気にするな」の一言でどこ吹く風。エリーリはもう一度深い溜息を吐いた。


 他の3人も到着する。ミザリーはラメスの側で不満を露わにして露骨に舌打ちをする。トモエは2人からかなり離れた位置にいる。

 ラメスはファスタブルに言いたいことがあったが、また揉め事になるのを危惧したのだろう。彼も不満げに見つめるだけで何も言わない。

 意味合いは違えど5人中、5人とも互いに言いたい事があるが、全員面倒ごとになるのを拒んで黙り込むのみ。小鳥の歌と木々のせせらぎだけが、やけに目立って聴こえる。


 程なくして目的地のゴブリンの巣に着く。そこは山崩れか何かの土砂を大きく被った遺跡。入り口以外は土に囲まれている。しかし、それも大昔のこと。遺跡の上の土砂は苔むした岩と巨木の根によって固められている。恐らく数百年も昔のできごとだ。

 ラメスはミザリーに頼んで、魔法によって光源を確保する。ファスタブルは未知の魔法に興味があり、つい長いこと見てしまう。その間にエリーリとトモエも準備が終わり、いつでも入れる状態だ。ファスタブルもメイカナブンという翅鞘に太陽光を蓄えることの出来る虫を2匹側に着かせて光源を確保する。本当は火も欲しいところだが無いものを強請っては仕方がない。

 ファスタブルは見たことも聞いたことも無い未知の魔物、ゴブリンに興味を持ちながら最後尾で遺跡に入っていった。


2、メイカナブン


翅鞘に太陽光を蓄え、暗がりで蓄えた光を放出する生態を持つ昆虫。メイカナブンは肉食で、暗闇に紛れて寝ている獲物に近づき発光する。獲物を目立たせることで、他の夜行性動物、魔物の狩を助長させ、おこぼれを貰うことで食料を得ている。



新しい虫が出てきましたね。

ファスタブルさんは光源として使ってますが、夜間なら敵の陽動や狼煙にも使える優れ者です。これからバンバン出てくる予定です(あくまで予定

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