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蟲の王  作者: 食蟻獣
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11.無謀なる盾

くらえ!不定期更新!

昼下がり。

外では活気溢れる賑わいを見せ、人々の往来が激しい街中。そこには本日より営業を開始した新たな診療所があった。


──そして診療所には


「暇ね」

「ああ、暇だ」


暇を持て余した2人の男女がいた!



「カスミラよ。聞き間違えでなければ、我は前日の晩に”忙しくなる”と聞いていたのだが……」

「間違いなく聞き間違えね。私はそんな事言ってないわ」


カスミラはファスタブルと目を合わせず、悪びれもなくそう言い切った。


──しかし、圧を感じる。

ファスタブルはそっぽを向き、冷や汗を垂らすカスミラをその目でじーと見つめる。刻一刻と過ぎ行く時間に、先に折れたのはカスミラだった。


「はいはい、私の負けよ。まさかここまで客足が来ないとは思わなかったわ」


カスミラは両手をひらひらと振り、呆れたように言う。


「ふむ、ちなみに料金はどうなってる」

「ひとまず様子見で……こんなところね」


カスミラは近くのカウンターまで車椅子を動かし、メモに走り書きをした物をファスタブルに見せる。


「…………許せ。我は文字が読めぬため、読み上げてもらえると助かる」


カスミラは「まあ、それもそうよね」と言い、走り書きを声に出す。


「────と、こんな感じね」


──安すぎる。

ファスタブルは率直にそう思った。

この診療所はカスミラの薬学の知識を用いて治療をし、それをサポートする形で魔具で傷を癒す。そのため、必要経費が薬草をはじめとした薬の原材料のみで、一般的な診療所や病院より安上がりだ。


しかし、カスミラの提示した金額はそれを下回った。

現代の知識や相場に疎くても流石に気がつく。これではいくら客が来ようと、ほとんど利益が出ない。


「……カスミラよ。いくらなんでもこの金額設定は安すぎる」

「そうかしら。まだ手元にお金は沢山あるし、無理に儲けを出すより先に知名度を上げた方がいいと思ったのだけれど」


ファスタブルの意見に、カスミラは自身の思考を開示する。


「理解は出来る。知名度を上げるのも大事だが……うむ…………」


ファスタブルは唸る。

確かに、名が売れなくては人足は滞る。だから料金を異常なまでに落とし、知名度を上げるのも分かる。

しかし、この異常に安い金額だと詐欺や藪薬師だと思われてしまう可能性だって多いにある。


無い知恵を捻るが、上手い案が浮かばない。

本来ファスタブルは考える者ではないのだ。ただ命令通りに指揮をし、破壊し、喰らう者。教養の無いファスタブルが知識を授けることなど出来る筈もない。


──こんな時にラスバミアのような才や、ノワードの叡智が欲しくなるな。


最終的にファスタブルは考えることを諦め、自身に無いものを持っている2人の幼馴染を思い出す。


「まっ、このままぼーとしててもしょうがないし、何かしましょ」


カスミラがそう言い、何かやりたい事がないか聞いてくる。


「……ふむ、では1つ聞きたい事があるのだが」

「私が答えられる範囲なら好きなだけ聞きなさい」

「ユザニという地名は存在するか?」


ファスタブルのその問いにカスミラの動きが止まる。


「…………あるにはあるけど……なに、興味あるの?」

「ああ」


含みのあるカスミラの言葉を無視して躊躇なく肯定する。

そして、その言葉と共にカスミラは項垂れるが、渋々といった様子で説明を始める。


「……ユザニと言うのはここから北北東に山を2つ超えた先にある山脈よ。未開拓の土地で鉱物資源が豊富な代わりに、天候が異常に変わりやすく大きな危険が伴うわ。さらに、凶悪な魔物が多数生息するおまけ付き──」

「よし、近々ユザニに向かう」


ファスタブルはカスミラの話を遮り、今後の方針を定めた。


「あんた人の話聞いてた!? 超危険な場所なのよ!?」


カスミラは車椅子から身を乗り出し、抗議する。

流石に無視するわけにもいかないので、ファスタブルは自身の持っている情報を元に推測した事柄をカスミラに伝える。


まず、ファスタブルが封印された後の伝承に、『ハンーナを死者の国、ユザニに追放する。』とある。人物名である”ハンーナ”はまず間違いなく、ファスタブルの幼馴染である”ノワード”だ。

ノワードも神の試練を受けており不老の存在。長年姿の変わらない者など迫害されるのが定めだ。人目は避けねばならない。


つまり、未開拓の地で人が寄り付かないユザニならば、ノワードが居るかもしれない結論に至った。

さらにユザニ特有の危険性から、ノワードに会いに行ける人も振るいにかけられる。


「──あやつなら、ラスバミアの事も把握しているだろう。その上切れ者だ。この診療所の問題も解決してくれるやもしれん」

「成る程ね。確かに危険を犯しててもいくのもありね」


カスミラは納得したように頷く。


「いや、カスミラよ。無理して付いて行く必要はないからな。代わりの世話役を雇って留守を任せ──」




────バンッ!!


その時、診療所の扉が大きな音を立てて開かれた。


「助けて下さい!! 仲間を……ガーナを助けて……!!」


そこには血みどろの青年を背負った1人の少女がいた。

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