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蟲の王  作者: 食蟻獣
11/12

10.準備

失踪してました。

書く気力が無いのです(言い訳

街の診療所予定地。人々の営みの音と鳥の囀りが心地よく耳を撫でる早朝。そこでは床に正座をする男性と黙々と本を読み続ける女性がいた。


「………………カスミラよ」

「誰が喋っていいと言ったかしら?」


ファスタブルは大人しく黙り込む。非は自分にあるからだ。

ゴブリンとの死闘を終えたファスタブル、エリーリ、トモエの3人は依頼内容が、巣の殲滅ではなくあくまで退治だったので、その場の100を超えるゴブリンの耳を回収して冒険者ギルドに戻った。

その結果、3人の証言とゴブリンの数から上位種が居ると結論が出た。そのため、低ランクの冒険者に出すような依頼ではなかったと謝礼の意味を込めて、ギルド側から報酬金額がかなり多めに支払わられたのだ。

既に夜は更けており、寝ているであろうカスミラに気を使い……



──いや、後ろめたさから早朝に帰った。


そして冒頭に繋がる。

謝罪する暇もなく正座させられ、言葉を禁じられ、反省させられている。

カスミラは医学や薬学などの医療系の本をひたすらに読む。3冊ほど読み終えた頃、ようやくファスタブルは解放された。


「まあ、心配しての行動だから、これで勘弁するわ。けれど車椅子の裏側は辞めなさい。本当に」

「………………承知した」


ファスタブルは長い沈黙の後、了承の旨を伝える。

しかし、内心は全く了承などしておらず、今後ももしもに備えて蟲の監視を強めて行く方針だ。


「さて、力仕事が溜まってるわよ。 明日にはこの診療所をオープンしたいから今日は休み無しよ!」

「それは良いな。 知恵に疎い我でも力になれる。手始めに何をしようか……」


ファスタブルは正座を解き、立ち上がる。

長い間正座をしていたのにも関わらず、一切疲れを見せないファスタブルにカスミラは、罰にならないと文句を垂れる。


「……まあ、いいわ。昼食をとって買い出しに行きましょう。荷物持ちにエスコートをよろしく」


カスミラはそう言って、車椅子を巧みに操りながら身支度を整える。


「エス……コート……?」


ファスタブルはエスコートの意味を理解できずに小首を傾げた。









昼過ぎの街中。

昼食の時間を終えた人々の喧騒はピークに達し、大通りのストリートではごった返した人の熱気に当てられる。


「人が多いわね〜。これじゃあ時間が掛かるわよ」


カスミラは日差しと熱気で蒸れた肌を薄手のタオルで拭き取る。


「そんなに人混みが気になるなら我が担いで駆けてもよいぞ」

「ただでさえ貴方は目立つのにそんな真似しないでもらえる」


ファスタブルの冗談に聞こえない真面目なトーンの発言に、カスミラは少しの溜息と共に苦言を訂する。

実際、ヤギの頭骨を深く被り、全身に骨飾りを付けている大男のファスタブルは目立っている。それはもう凄く。道行く人は1度は車椅子の少女と骨飾りの大男に振り返るのが現状だ。


「どうして貴方はそんなにでかい図体なの……」


最早、待ち合わせの場所にまでに指定されそうなほど目立つファスタブルに、カスミラから何度目か分からない溜息が溢れる。


「我とて最初は剣も持てぬ貧弱な体だった」

「なんでそれがここまですくすく育つのよ……」


もう意味がわからないと言うカスミラに、ファスタブルは真面目に答える。


「それは我が神の試練において”ラトム・ヲー”に認められたからだ」

「……確か、古代ラスバミアに伝わる太陽神ね」


ファスタブルは肯定の意味を持って頷く。


「我は試練で結果を出した。故に強靭な肉体と不老を授かった」


そう語るファスタブルの口元は酷く垂れ下がり、神に認められたという名誉ある話を自傷的に喋る。



──妙な空気になっちゃったな


そう思ったカスミラは話題を変えるために、今日の買い出しについて語り出した。











買い出しはそつなく終わった。

薬等の細々とした物は先日のうちにカスミラが購入していたため、ファスタブルが居なければ購入できなかった大型の家具等を揃えるだけだった。


「──さて、役所にも書類を提出したし、家具も機材も全て揃った!

公共施設にも宣伝の張り紙を貼ったし、あとは明日の朝を待つだけだわ!」


カスミラは部屋を見渡しながらそう言う。

その自宅は薬品棚や機材によって彩られ、元々の質素な部屋の面影は無かった。


「随分と手際が良いではないか」

「まあね。──最後は最悪な両親だったけどこういった事は全て教えられてきたから」


カスミラは悪逆的な両親でも教育面ではしっかりしていたと言う。

その表情はまるで遠い過去の事を言っているようで、懐かしむように微笑を浮かべる。


「──そうか」


ファスタブルは内心、安堵していた。

この少女にとって、両足を奪われ、民に貼り付けにされて親に売られた事は、すでに過去の事となっているのだ。


──なんと気丈な


ファスタブルはそう評す。

自身も目の前で惨たらしく皆殺しにした手前、カスミラの心に深い傷を負わせたのではないかと心労していたのだが、この様子ならば何も問題ないだろう。

ファスタブルはそう考え、己もこの件に関して考える事を控えるようにした。


「さ、明日は待ちに待った開店日よ。夕飯を食べて早めに体を休めましょ。あなたにも働いてもらうからね!」


カスミラはそう言って台所に向かい、夕食の支度を始める。


「……最早それは護衛の範疇を超えているのではないか?」


ファスタブルは愚痴るように、そう呟いた。

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