旦那様とピクニックに行ってきます!
半年ほど間が空いてしまいましたが、今日より投稿を再開します。
アヴィスフィア同盟。それは同盟という形こそ取ってはいるが、実質的には盟主であるイサギ改めクロウの独裁を敷いている君主制の国家群に分類される。
その一つは隷属国家アインズ。象徴として彼の第二妻であるアリス・フォン・アインズ七世が治めている文字通りの従属国家だ。
国民のほぼ全てが獣人奴隷で構成されており、アインズブルグや魔法大学などの一部の施設を除く全てが許可なく立ち入ることを禁じている、同盟最大のブラックボックスとなっている。
もし許可なく立ち入った場合は侵入者と見做し、直ちに厳罰を与える命令が下されている。警告なども一切合切無く執行される特例で、捕縛などの一時拘留すら存在しない。
ただし夜烏に所属している場合はその限りでは無く、中でもイサギやアイヴィス同伴のものは無条件で通行することが出来る。
ちなみにもう一方である首都リオーネでは、クロウの第三の妻であるシャルロットが”都知事”として治めている。
前述はあくまでも一部に過ぎず、同盟内はまさに”超管理社会”を体現している。国民一人一人が常にイサギ乃至、そのギルド員の監視下に置かれているのだ。
『隷属位』という絶対のシステムの元、その住処や職業、日常生活から結婚に至るまでの全てが管理されているのである。
隷属位とはつまり個人の”地位”だ。一位を皇帝アイヴィスとし、二位に元帥ラヴィニス。そして三位にして初めて国王であるアリス・フォン・アインズ七世と、都知事であるシャルロットの名が来る。
同盟においてこの事実は公然の秘密であり、首都リオーネに住む奴隷すら知ることは無い。外交的には三位である国王や都知事がクロウを除く最高権力者であるとされているのだ。
アインズの国民が奴隷、それも獣人という従順な相手だからこそこの秘密が外部に漏れ出ることは無く、故にクロウがそう定めた。
彼女の事だ。表向きはさて置いても、アイヴィスに自身と同等である何かしらの地位を与えたかったのだろう。
その話を決定事項として聞かされた彼の表情は実に秀逸だったが、厚意故の判断なのだと最終的には納得したそうだ。
ちなみに皇帝とは名ばかりで特に仕事はなく、以前の研究所同様に完全な名誉職であることは変わりはない。実質的な監視業務などは”特位”を与えらえたドレイレブンの皆が、イサギが創り出した特異空間である烏丸にて行っていると言った具合だ。
そう。彼女達は配下である奴隷達を用いて外部の情報収集――主にている♡いやーずや夜のお店など――を行い、自身らは一部を除いて烏丸にてギルド内、及び管轄区域の情報を精査していたのだ。
情報は同盟各所にある魔道監視装置から、烏丸別邸にある多数のモニターに常にリアルタイムで送られてくる。早い話、イサギの奴隷であればその監視装置で魔力を検知して”緑色”――つまりは仲間であると分かり易く現されるのだ。
ただし、たとえ緑色でも獣人以外の人間は奴隷契約の隙を付いたり、見えない所での命令違反など行う可能性がある。
故にイサギやアイヴィスの住まう国であるアインズ皇国は、獣人主体の国家となっているのである。……イサギがリンネだった頃に出会った愛犬、小太郎の遺志を継いだという側面もあるとかないとか実しやかに囁かれてはいるが。
ともあれ、学園の学生やアインズブルグへの観光などで正式に入国した者は”黄色”。それ以外、つまりは侵入者は”赤色”で表示される。
前述の通り、禁止区画内で赤色が発見された場合は直ぐに処断し、それ以外では捕縛などの一時拘留を行う。黄色の者も国内での移動制限が掛けられており、それを破った場合は赤色――つまりは侵入者と見做される。
この時皇国内で対応するのがヨタカ率いる部隊、暗眼だ。戦闘特化の奴隷のみで構成されており、時に正面から、また時に背後から強襲する皇国随一の戦闘集団である。
ちなみに首都リオーネを始めとした元帝国領内は、夜烏から無線等で連絡を受けたフルマンや翔雲を始めとした同盟軍が対応する手筈となっている。
さて、隷属位――その中でも四位以降を掘り下げるとしよう。
まず夜烏の幹部やドルマスなどの一部重役は四位を与えられており、軍部や行政、司法などを管理支配している。
五位になって漸く地方自治を担当する――いわゆる知事が国民の中から選出され、六位である市長がその指示の元に担当地区を選任することになる。
七位は上級市民だ。国民の中でも特に選りすぐりの能力、または功績を持ったものが市長より任命される。例を挙げるなら、大商人や町長などだろうか。
アヴィスフィア同盟にとって、”特に価値のある奴隷”としてあらゆる面で優遇して貰えるが、自由な結婚は認められていない。そしてそれは知事や市長も例外では無い。
上位からの任命や結婚命令には強制力があり、その命を断ることは出来ない。ただし結婚は事実上の見合い婚に近く、数ある候補の中から選定することは可能である。ただし、結婚相手は上位市民以上と限られている。
これは種としてより良い遺伝子を紡ぐという進化学の基本である。少々人情味が無いと言えなくもないが、相手を選べるのだから悪いことばかりでは無いだろう。
早い話、意中の相手がいるならば自分、或いは相手を同等の位階にまで上げれば良いのである。故に才能だけでなく、功績も加味しているのだ。
奴隷とはつまり、盟主であるクロウの資産だ。その価値を上げるために思考錯誤をするのは当然であり、価値の高いものほど重要視するのはある意味で当たり前の真理なのである。……倫理的とは言い難いのかも知れないが。
ちなみに一番数が多いのが八位である一般市民だ。同じ市民同士の自由婚が認められており、また職も選択することは出来る。規制も上位に比べれば緩いが、当然上位ほどの手厚い福利厚生は望めない。
それでも最低限の衣食住のみしか保証されていない九位の下級市民よりは十全であり、生活自体に困ることはまずありえない。
ちなみに既婚者でも上位市民に任命されることもあるが、強制離婚までは行われない。当然差別化のため、同位の中では最低値の支援となる。ただ新たに子供を作るという前提ありきで同じ上位の妻、乃至夫を迎えればその限りでは無い。
九位は農奴や移民だが、アインズ国内と首都リオーネには存在しない。
そう。彼らの大半は首都以外の帝国跡地に生活圏を築き暮らしているのだ。農地が郊外にあるのもその事実を後押ししている。
首都から離れるにつれ支援を受ける機会が減り、収穫次第では種の存続すら危ぶまれることもある。
その代わり監視の目が比較的緩く、多少の悪事は目を瞑って貰えることが多い。それ即ち価値が無いと言われているも同義なのだが、暮らしているものからすればそれも含めての自由なのだろう。
ちなみに移民も少なからず存在する。彼らの大半は首都近郊に根を張り、いずれ首都に住まわんとギラギラとしているものが多い。
アインズ皇国に関しては完全に移民は論外で全く受け付けないが、リオーネは優秀ならば都内にて生活することが可能だからである。
この世界において衣食住が保証されるということは何物にも代えがたく、その上で職を得て給金が貰えるというそれそのものが奴隷となってでも欲しいものとなり得るのだ。
そして、もう一つ大事なことがある。
そう。同盟内は独自の通貨、もといポイントを以て売買などを行うことを推奨されているということだ。
特にアインズ皇国と首都リオーネでは義務化されており、それ以外の取引は一切合切認められていない。
当然違反した場合は即時捕縛され、最悪”奴隷解消”までもありえる。
奴隷から脱することが出来るので良いでは無いかとは言うなかれ。早い話、国外追放なのだ。それも全財産を没収され、着の身着のままで、である。
魔物が蔓延る上に治安を守る者も居ない外の世界で、一体どれほどの期間生き抜くことが出来るだろう。考えただけでも実に恐ろしき結末が見える。
ともあれ、だ。同盟ではポイントを推奨している。そしてそれは夜烏発行のギルドカードのみで確認、また明記される。
超管理社会故に、同じく管理することを主としたギルドに依頼した。そういった建前のもとで施行したのだ。
今ではそれが定着し、皇国及び首都では既に当たり前の常識として認識され始めている。
郊外でもポイント以外では多額の関税が掛かるので、順次対応する者が増えてきている。
早い話、国家単位の信用取引ということになる。当然だが、同盟内に同様の組織の存在は認められない。
つまりは同盟に現物資産が全集中するわけで、完全に一人勝ちとなるのだ。これは全国民が奴隷であるアヴィスフィア同盟だからこそ実現出来る荒業で、他の国家が真似するのは不可能と言っても過言では無いだろう。
他にも同盟ならではのメリットデメリットは数多く存在するが、ここでは割愛することにしよう。
「まさか異世界に来てポイントで買い物をすることになるとは思わなかったよ」
「ふむ。確かに同盟以外ではまずありえないだろうね」
「だよね。そもそも旅先の宿は風呂がなく水浴び場だったし、なによりトイレはウォシュレットどころか汲み取り式だもんね」
「多少の不便は許してほしい。私の目の届くところなら兎も角、他国には流石に干渉しづらいのでね」
皇国の一角であるアインズブルグにて、俺はイサギさんと共に歩きながら異世界であるアヴィスフィアの感想やその様々な事情などの話をしている。
初めてのクエストを何とか熟して頂いた報酬で、何か彼女に贈り物が出来ないかと考えたからだ。
その上で何が欲しいかを聞きに言ったところ、久しぶりなので俺との時間が欲しいなどと男心を擽る破壊力抜群のおねだりをされたのだ。思わずデートに誘ってしまった俺を誰が攻められよう。
……これで俺の顔でなければ完璧なのだが、うん。贅沢は言うまい。
ちなみに今居る場所は公園で、いわゆるピクニックとやらに興じている。
「いやいや、むしろ俺が今まで恵まれすぎてたんだよ。……ありがとね、イサギさん」
「む……ぅ。そんな満面の笑みで微笑まれたら、なんだ。……少々、困ってしまうな」
「え、何で? 素直に受け取ってよ。これでも俺、イサギさんには感謝してるんだよ。ほんとーーーーに、助かっている」
「……嬉しすぎて、困っちゃうんだよ。それこそ、何でもしてあげたくなってしまう」
素直じゃないのは俺だけに言えることじゃないみたいだ。全く、しょうがないねホント。
そう思ってイサギさんに感謝を伝えたのだが、逆に困らせてしまったな。でもまぁ満更でも無さそうだし、言ってみて良かったかな。
見れば少し頬が朱くなっている気がする。や、ほんとーーーーになんで俺の姿なんでしょうね。この最高のシチュエーションに最低の異物感。俺がナルシストなら兎も角、親と観る海外映画のラヴシーン程度には興奮がプラマイゼロになる残念仕様だね。
互いに元の姿に戻ったその時にでも何でもさせて頂こうと思いますので、それまでは我慢我慢。
《嘆息。既にラヴィニスに手を出しているくせに、何をおっしゃっているのですかマスター》
ちょ、ちょっと待ってよ人聞きの悪い。AとBまでしかやってないよ! 最後の一線はまだ超えてないからね!
《死語。いえ、むしろ今の方はその単語を聞いて理解出来る人いないでしょう。HIJK。えっちして愛が生まれ、ジュニアが出来て結婚する。昨今ではこちらの方が主流と聞きましたよ》
え、これってもう認知すらされないの? 確かに両親世代の隠語だったけど、今の子意味すら知らないの!? ……これが、ジェネレーションギャップと言う奴なのか。
ていうか最初がえっちなの? 最近の子はどうなってるんだ! せ、性に貪欲すぎる。責任取れないことするのは許しませんよ? ええ、ええ。
《憐憫。時代の流れとは、斯くも残酷なものなのですね。肉体を持つというのは良し悪しと言ったところでしょうか》
ほほう。さてはイヴさん、ヒトの営みに興味が御有りのようですね? まったくもう、むっつりさんなんだから。
《不満。マスターだけには言われたくありません。それに私も、誰でも良いという訳では無いですから》
え、それってつまり――。や、やだなぁイヴさんったら。主である俺を揶揄うなんて、そんな娘に育てた覚えはありませんのことよ?
《疑問。別に相手がマスターだと言ったつもりもありませんよ。勘違いしないで下さいね》
つ、ツンデレ? いや、感情が籠って無いからクーデレなのか? それとも本当に別の相手と……? そ、そそそ、そんなの絶対のお父さんは許しません! 絶対にだっ!
《軽口。冗談です。イヴはマスター以外の相手と関係を持つことは絶対にしませんし、そもそも私語を話しません》
お、おぉう。あ、相変わらずイヴさんはストレートに愛を語りますね。でもなんだ、嬉しいよイヴ。へっぽこな主で済まんが、何時までも一緒に居てくれよな?
《通告。当然です。ラヴィニス同様に、絶対に逃がしたりしないので覚悟をしておいて下さいね? マスター》
まさかのヤンデレだった!? ま、まぁこちらとしても願ったり叶ったりなので、異議は一切無いんですけどね。
「アイ。これがキミが手掛けた新作のスイーツなのかい?」
「あ、うん。そうそう。イサギさん向けにビターな味付けになってるから、きっと口に会うと思うよ?」
「ふむ。どうやらこの身体は甘さより苦みの方が好みのようだからね。……頂きます」
「どうぞどうぞ。ささっ、パクっといっちゃってよ」
イヴと脳内会話をしている間にも、イサギはピクニック用に用意したお弁当を完食したようだ。
せっかくなので、チョコビの実を加工した新作のパイも食べて貰おうか。……結構自信、あるのだよ。
製作にはクジャクさんだけでなくハルカさんとカレンちゃんも協力してくれたしね。皆して大絶賛してたし、しーちゃんが号泣してたし大丈夫でしょ。彼女が主に食べてたのは甘々なチョコルパイの方だったけども。
「む。……美味い。本当に美味しいなコレは。アイ、キミはやはり天才だよ。私が保証する」
「あははっ。大袈裟だな、イサギさんは。俺に出来ることは限られてるからね、やれることはやらせてよ」
「そんなことは無い。居てくれてるだけで、私は常に満たされているのだから」
ラヴちゃんといいイサギさんといい、本当に甘やかしすぎだってば。それこそしーちゃん感涙のチョコルパイ程度にはトロトロに蕩けてるよ。……ま。それが心地良いと感じている俺も、大概に甘ったれなんだけどな。
それにハルカさんもカレンちゃんもギルドに馴染めたようで良かった。しーちゃんが余りにも鋭い目をしてるから気になってたけど、何のことは無い。甘味を吟味することに全神経を集中させていたんだね。
可愛いし良い子なんだけどね。スイーツに目が無さ過ぎて、食べ過ぎで体調壊してしまうのではないかとちょっと心配。
ふむ。動物は尻尾を見ればある程度の状態が分かるし、定期的にじっくりたっぷりと問診しなければなるまいな。ほら俺、治癒士だし? やっぱり仲間の健康は、常に把握しておく必要があると思うんだよね。
「そういえばアイ。戴冠式で発表された闘技大会を近々開催する予定なんだが、良ければ見に来ないかい?」
「あー、そういえばドルマスさんがそんなこと言ってたね。確か良い成績を収めた者を騎士団に向かい入れるためのイベントだったかな?」
「ふむ、その通りだ。情勢も落ち着き、折を見て学園も再開されるだろう。その際に行われる対抗試合の良い手本となると思ったのだよ」
「う。そっか、そういえばそうだったねぇ。――良し! せっかくのイサギさんのお誘いだし、闘技大会見に行くよっ!」
闘技大会。何とも異世界らしいイベントでは無いか。……とは言っても俺が出る訳では無いのだけれど。
それに完全に失念していたが、学園が再開されるとなると、当然先延ばしになっていたクラス対抗戦が待っているんだよな。
戦闘なんて小学校のときにした取っ組み合いの喧嘩くらいだし、正直全く自身が無いな。……クエスト中は俺、一切戦っていなかったしね。
剣技の大会を観ることで魔法メインの対抗戦の役に立つかは分からないが、戦いの緊張感という側面では十分意味を成す。
何より純粋に興味があるしね。刃を潰しているとはいえ、真剣通しで戦うなんて滅多に見られるものでもないだろう。
ただ治癒士が待機しているとはいえ、最悪の展開になることも十二分に考えられる。その心持ちだけは今から覚悟しておこうか。
「それとも出てみるかい? 存外アイなら良いとこまで行けそうな気もするが」
「えぇー! むむぅ。正直出てみたい気持ちもあるけど、今のままでは自身が無い、かな」
「ふふっ、冗談だよ。今回は見送るが、いずれアイも出場すると良い。中々に勉強となるはずだ」
「それなりに自分のスタイルが作れたら考えてみる。せっかくの異世界だし、鉄板イベントを熟してみたいしね」
いやいやイサギさんや。ついこないだまで平和な日本で暮らしてた凡人が、戦いを生業にしている人に敵う道理も無いでしょうよ。俺がこの身体を使いこなせるなら兎も角、まだまだ分からないことだらけだからねぇ。
流石に身内補正が過ぎるなとは思ったが、案の定冗談だったらしい。しかし俺が出場する未来図も描いているようで、ふと気が付いたら闘技場のど真ん中に立っている可能性も浮上した。
鉄板ではあるが想像が現実となった今、怖いという感情の方が大きい。いずれ覚悟は決めたいが、少なくとも前衛職に転職した後とかの方が無難じゃないかな。何せ治癒士だしね。治すのは得意でも、壊すのはちょっと難しいかな。
剣術も銃術も上げてるし戦えなくもないけど、前衛職に比べれば見劣りする。過剰治癒などを攻撃手段として用いれば強力だとも思うが、張り付かないといけない上に相手に後遺症が残る危険もあるから使いどころも難しいんだよね。
「そうそう。キミの良く知る人物も出場するから応援してあげると良い」
「え、そうなの? 誰? あ、もしかしてクジャクさんかな?」
「ふふっ。それは当日のお楽しみということにしようじゃないか」
「ええーっ! 教えてよ、気になるじゃんかーっっ!!」
ぐ。勿体ぶるじゃあないかイサギさん。……ま、確かに当日のサプライズを楽しみにしていた方が上がりそうだし、ここは乗っかって置こうか。
ん-、しかし誰だろう? クジャクさんとは言ったけど、考えてみれば当日の料理長を担当しているからそんな暇ないよね。
となるとチヨさん? や、彼女は魔法使い――いや、商人だったか。その点で言えばセバスさんも選択肢から外れるな。
アリスやシャルルは立場的に難しいと思うし、そもそも魔法を使えないんじゃ戦えない。
えー? ホントに分からん。あ、ラヴちゃんか? そうだよ。可愛すぎて忘れてたけど、ラヴィニスは女騎士様じゃないかっ!
なるほど。まさに盲点だったね。騎士団の代表でもあるわけだし、華もある。団員募集のラスボス的な立ち位置には最適解だ。
わー、やばい。滅茶苦茶楽しみになってきた。ラヴちゃんのカッコいい姿、一生忘れないように瞼の裏に転写しなければならないな。
良し。今この瞬間からラヴィニスファンクラブ一番隊隊長として、応援歌を考えねばなるまいよ。これは寝てる暇が惜しいね。
「さて、そろそろ日も落ちてきたし、我が家に帰ろうではないか」
「はーい。あー、今日のご飯は何かなー? 楽しみぃ~」
方針も決まったし、腹が減っては何とやら。ちゃちゃっと美味しく頂いて、闘技大会に備えようじゃあないか。
イサギさんが生暖かい視線を向け微笑んでいたが、特に意味は無いだろうからスルーしておこう。……ん、あれ?
「――イサギさん。何か顔、変わりました? 俺が言うのも何だけど、ちょっとカッコ良くなっているような気がしないでも無いような……?」
「――――ギクッ。……アイ。二十後半に差し掛かり、大人へと道を進めているんだ。つまりは成長。そう、これは大人への一歩なのだよ」
「…………もしかしてまた、弄りました?」
「い、いいい、嫌だなぁ。私はキミがコンプレックスに感じていた部分を遺伝子レベルで微調整なんてそんな余計なお世話など一回もしたことないしするつもりも無いよ?」
目がグルグル動いているし、それ以上に前髪をくるっくるして何を言ってやがりますのかねこの御し難きド変態さんは。
髪も少しボリューミーになってるし、どうやら俺の身体――主に顔を勝手に”整形”しやがってますねコレ。
よ、よよよ、余計なお世話なんだよっ! 片方だけ一重だったのも、鼻が少しだけ団子なのもチャームポイントだったんだから! 全然気になんてしていないし! ほ、本当だよ?
「まさかイサギさん、他の子にもこんなことしてませんよね?」
「な、何のことを言っているのかは分からないが、キミが想像しているような事は誓って一切していないと宣言しよう」
「……本当かなぁ?」
「う、うむ。そもそもこの力はこの身体となって初めて芽生えた能力で、今までは使うことが出来なかったからね」
ふむぅ。奴隷の王が誓い述べる、ね。どうやら嘘はついて無さそうだ。
つまりは俺に関しては弄ったのだろう。全く以て心外ではあるが、カッコ良くなってるし許してあげよう。話によれば、遺伝子レベルでの調整らしいからね。……何でそんなことが出来るのかは分からないが。
見れば身長も少しばかり高くなっている気もする。成長したのかと思ったが、これも彼女の仕業なのだろう。
175cm程しか無かったはずなのに、どう見ても180の半ばはありそうだしね。
……待てよ? 確か今回もまたコンプレックスとかどうとか言ってたよな。ま、まさかこの人――。
「イサギさん。一つお願いしたいのですが、宜しいですか?」
「う、む。一体どうしたんだね、そんなに改まって」
「単刀直入に言います。……ちんちんを見せて下さい。今すぐ、この場で」
確認せねばなるまい。男であれば、誰しも何らかのコンプレックスを抱えているだろうその一物を。
恥じらいも言い訳も許しません。元々は俺の身体なのだ、知る権利がある。俺にだって絶対に譲れないものもあるんだよ!
せめてどうなったのか、その結果が知りたい。ド変態では済まされないほどアウトローな彼女の事だ。きっととんでもないことになっているに違いない。
「あ、アイ! な、ななな、何を往来のど真ん中で言っているんだねキミはっ!! で、出来る訳が無いだろう!!!」
「ええい煩い! どうせ俺の物なんだから、どこで出そうと別に良いだろうがっ! 黙って剥かれろイサギさんっ!!」
「――良くないよ!? 陳列は、普通に犯罪だからね? たとえ私が盟主でも、やって良いことと悪いことがあるんだよっ!?!?」
時は夕暮れ。買い物客や仕事帰りの人々が行き交う中、往来の中心で騒ぐバカップルが居る。
意識化では確かに不味いことを言っているという自覚があるのに、ここだけは引いてはならない呼びかける情動を抑えることが出来ないのだ。
このままでは火星に侵略されてしまう。いや、火星が侵略されたのか? ともあれ、そこそこ大きさには自信があった故に気になってたその事実の結末を、今すぐ白日の下に晒さなければならないのだ。
「アイ、興奮しすぎ。続きは、家でやって」
「――つぐみん! ……分かったよ。お風呂に集合だからね、イサギさん」
「そ、それは困――わ、分かった。キミの意志を尊重しようでは無いか」
周囲に無数の目があるこの状況。このままで謎多き時の盟主の秘密――主に下事情が露呈しかねない。そう判断したであろうツグミが影から現れて忠告してきた。
気持ちが高ぶってたこともあり気に掛けなかったが、確かに皆が奴隷である皇国内においても噂話まではゼロには出来ないだろう。ここは彼女の言う通り、他人の目が無い烏丸まで撤退すべき案件だ。
どうにか逃げられないかとイサギさんが何か言っているが、当然全力で睨んで阻止させて貰うことにした。逃がしませんよ?
追伸。どうやら俺の大事な息子は知らぬ間に、脱皮したことで一回り大きく成長したらしい。その成長を確認するためにハンドリングをしたのだが怒らせてしまい、さらに凶悪な姿へと変貌してしまった。
このままではいつも一緒に居るラヴィニスやつぐみん、たまたま偶然居合わせたアリスとシャルルとそのメイドであるステラとエステルに、ハラハラと見守るハルカさんや呆れてるカレンちゃんの誰かしらを襲い兼ねない。
ままよ。気が付いたら身体が勝手に動いていた。二十七年もの間共に連れ添った良き息子なのだ。……最後まで面倒を見るのが、親である俺の努めよっ! そのイライラを常に沈めてきた、長年の技巧を御覧じるが良い!!
溜め込んでいた全て吐き出したことで力尽き、膝をつくイサギさん。そしてその一部始終を眺めていた皆の顔が朱に染まり、壮大な沈黙が場を支配したのは言うまでもないことだった。