表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アヴィスフィア リメイク前  作者: 無色。
二章 新たな時代
43/55

思った以上に大量なんですが!

とろりと甘く蕩けるよりも、深くて苦い方が好みです(チョコの話)。皆さまはどちらがお好みですか?

 鬱蒼とした木々の隙間から覗く木漏れ日が幻想的な雰囲気を醸し出す午後。俺達は今回の目的であるチョコルドンの痕跡を捜索していた。


 彼らの多くは雌を侍らせ、ゆっくりと餌である葉を求めて徘徊する。順路などはなく、常に気の赴くままにまったりと進んでいるのだ。


 個体によって好む葉種が異なり、それが風味や色などと間接的に品種に影響を及ぼしている。


 ちなみに甘さは健康状態により変化し、より健康的なものほど甘みが増すとこが最近の調査で分かっている。


 つまり雌は元気な子供を授かるために甘味が発達したのだと言えるだろう。物事には過程というものが存在し、そしてそれを紐解くことでその生態の真意が浮き彫りになってくるのである。


 ただしあくまでもこれは一般的な例であり、例外もある。少数だが、一部の雌が苦みの強いものに反応を示した例がある。


 雄の個体を調査したところ特に異常はなく、むしろ健康的な部類に所属したのだ。


 恐らくは突然変異と呼ばれる遺伝子異常だ。生物――魔物も含む――には進化という過程があり、その先は何も一つではない。


「わわっ、なにこれにっが。香りは甘くて芳醇なチョコなのにうえぇにがぁ。柔らかい桃みたいな触感もまた独特だねこれ」


 そしてその少数派である亜種のチョコルドン。それこそが我らが目の前にいるこのこげ茶色の地味な奴なのだろう。引き連れる雌もどこか達観していて、警戒はするものの攻撃する意思はないようだ。


 早速豊かな風味に釣られ食してみたが、とても口に出来るような代物ではない。……もったいないから、全部食べたけども。


 楕円形の果実は食用の部分と種子が半々で、味はビターなチョコに近い。しかし、現代日本と比べるとどうにも物足らない。


 それもそのはずで、本来チョコレートとは発酵や焙煎など複数の段階を経たうえでミルクと砂糖を混ぜている。故に果実であるこの実がそれ以上の味を出すなどはありえないのだ。


 ふむ。しかし果実の段階でこの味わいがあるのであれば、既存の物よりもよりグレードの高いチョコレートが作れるのではないだろうか。


 そう考えた俺は、なるべく品質の良さそうな果実を幾つか持って帰ることにした。


 ララさんに許可も貰ったことだし問題も無い。少しなぜこのような味の悪いものをと不審そうな顔もしていたが、口に出すことはなかった。


「しかしまいったね。おそらくあのルークとやらの団体さんは、チョコルドンの実を根こそぎ掻っ攫っていくつもりさね」

「欲張り、良くない」


 クジャクさんの言う通り、俺達が見つけたチョコルドンは既に果実を採取された後なのか、実りが無い個体ばかりだった。


 不満そうなつぐみんと同じ感情を抱いたが、人海戦術に適わないのは仕方のないことだろう。


 そもそもこのチョコルドンのクエストは、繁殖期を終えた後の実りを有効活用しようと組まれたものなので元々数も限られている。


 とは言っても採りきれないほどの量は存在しているはずなので、これほどまでに枯渇する事例は類稀なるものらしいのだが。


「アイ様。これは仮定の話ですが、もしかしたら先程の彼女が我らの進行ルート上の先にいる可能性があります」

「あらあら厄介ねぇ。奥様は色々な方に好かれてしまうトラブルメーカーさんなのかしら」


 セバスちゃん曰く、先程のすごい顔面を披露してくれるツンデレお姉さんがわざと場所を被せているかも知れないらしい。


 確かにあの様子では仲良くはなれていないだろうし、状況によっては邪魔してくる可能性が十二分にある。


 ちよさんがやんわりと毒を吐いているが、存外間違いではない気はしている。大概出先で何かが起こってしまうんだよね。


「まぁでもそのおかげで? このチョコルドン亜種にも出会えたわけだし。ノープログレムよ!」

「流石はアイヴィス様。気持ちが良いほどに前向きです! 確かに味は兎も角として、チョコルドン亜種――通称チョコビタンの果実の採取もクエスト内容に含まれますので問題はないかと思われます」

「でしょでしょ? だから、大丈夫。それに流石にあの娘っ子も全部は採りきれないよ。まったりと行こう!」


 そう。言葉の通り問題はない。チョコルドンという種の実を一定数採取すればクエスト自体は達成できるのだ。


 ラヴちゃんも賛同してくれてるみたいだし、特に問題もないだろう。


 ……報酬は時価なので期待できないかも知れないけどね。まぁどんな果実もそれを好む人は存在するし、売れないことはないはずだ。


 そしてこのチョコビタンの雄。動きはトロいし、群がる雌も攻撃性は皆無。故に果実は採取しやすいし、人気もないのでツンデレお姉さんの目に留まらないと良いこと尽くめなのだ。


 何よりララさん曰く、このチョコビタンの実の香りは原種を含め今まで嗅いだ中で一番濃く、また深いものなのだそうだ。


 これはチョコレート作りが楽しみになってきたな。足らない甘味は砂糖とミルクで調整すれば何も問題はないだろうしね。


「しかし流石ララさんだね。正直こんなにチョコルドンをたくさん見つけられるとは思っていなかったよ。ありがとう」

「いえ、私は大したことはしていません。むしろ、無駄足を踏ませてしまっているこの現状を嘆かなければなりません」


 心からの本音なのだが、どうやらララさんはお世辞だと受け取ったようだ。


 正直俺達だけではチョコルドンの姿すら拝見出来なかった可能性もあるのだ。この感謝は受け取って欲しい。


 元々向上心の高い人らしい。現状の成果では管理人として満足出来ないようで、特徴的な耳をピクピクと揺らして何やらブツブツと呟いている。おそらくは脳内でルートを再検索しているのだろう。


 しかしまぁ、全くもって面倒なツンデレちゃんだ。本人が意図して邪魔いるか否かに限らず、厄介な相手であることには変わりない。


 ……ともあれまだ日も時間もある。焦らずまったりと、辺りを探索してみようではないか。



「タバサ、流石は君だね。このルートは特に品質の高い採取対象(チョコルドン)が多いようだ。本当によく調べてくれた、ありがとう」

「――い、いいい、いえいえそんな、滅相も御座いません! 私はただ、担当の管理人達から得た情報を精査して選り抜いただけですわ」

「何を謙遜する必要がある。それが出来るか否かはどのクエストにおいても最重要と言える。素直に賛辞を受け取りなさい」

「――は、はい! ありがとうございます、ルーク様っ!!」


 アイヴィス一行から数里先の森の中、端正な顔つきの男性とその従者である美しい女性が談笑している。


 話題は今実行中のクエストの進行状況だ。どうやら探索ルートは女性の方が決定したらしい。


 そしてそれはドンピシャリ。楽園の管理人たちが驚愕するほどには素晴らしい成果を上げたのである。


(ふ、ふふふ。あははははっ。褒められた! ルーク様に褒められてしまったわっ! あぁ、なんて良い日なのでしょう)


 タバサと呼ばれた女性は端正な顔つきの男性――ルークに褒められてご満悦のようだ。某アイヴィスさんと対立しているときの顔が嘘のように、可愛らしい乙女な仕草までも付属されている。


 どうやら元来の彼女は真面目で誠実、一途な上に尽くすタイプだったらしい。何がどうなったらあのような鬼の顔面が出来上がるまでに至ってしまったのだろう。


 ともあれ彼らはその後も目当てのチョコルドンを見つけるとその果実を全て採取し、運搬要因として連れてきた後続の部隊に渡してギルドへと納品に向かわせるのだった。


「お嬢。ぽわわんとするのは勝手だが、ルークに全く好意が伝わってないぜ?」

「然り。かの御仁、腕は立つが女子(おなご)の機微には疎い。……唯一の弱点ともいえるだろう」

「だ、大丈夫ですよタバサ姉さま。いつかきっと、伝わります」

「ほほっ、まったくルーク殿はもったいない。……儂があと二十年ばかし若ければ寝取――指導の一つもしてやれたのに、実に残念じゃ」

「「「「黙れ、エロ爺」」」」


 ほほっ、冷たいのぉ。老人には優しくと習わなかったのかね、全く。と残念そうに嘯く初老の男性。タバサを始めとした皆に睨まれているのに軽口を慎んでいない。


 ちょっぴりえっちなこのご老人は、神殿騎士たちに追加効果――バフを掛ける補助魔法の第一人者だ。実はサンタイールの中でも随一の使い手であり、教国内ではその知識を伝える教導官として名が知れ渡っている賢者様なのだ。


 タバサをお嬢と呼ぶ青年は身の丈の二倍ほどある長槍を所持している。彼もまたルークに次ぐ神殿騎士で、その実力も折り紙付きだ。……少々チャラチャラしているのが玉に瑕ではあるが。


 実際にその物怖じしない性格と容姿は女性受けがよく、人気も高い。周囲に常に数人を侍らせて入るが、特定の人を決めるつもりはないらしい。


 堅苦しい武士口調の壮年男性は斧使いだ。筋骨隆々な見た目の通り、パワーファイターである。


 こちらも指導する立場にあるベテランで、なんと五人もの子供を持っている。実直な愛妻家として有名で、またおしどり夫婦でもある。


 自信なさそうに控えるのは治癒士の女子だ。愛らしい小動物のようにおどおどとしているため儚く見える彼女だが、自衛のために合気道に似た武道を修めているので決して弱者ではない。


 対人間であれば男性顔負けで、倒すだけに留まらずその相手の治療までこなしてしまう。


 今ではその逸話が誇張され広がって、教国の”聖女”と呼ばれ畏敬と畏怖の対象とされているという。そう、このパーティ内ではルークの次点で有名人なのだ。


 そして最後はタバサだ。ルークに憧れて剣術を一から勉強し、神殿騎士となった。集団心理や戦略などにも力を入れ、凡庸な家柄からの大躍進を遂げ彼の従者とまで昇りつめた努力家だ。


 素直で真面目な性格をしているが、ルークの事となると途端に視野狭窄となってしまうという残念な一面もある。


 そして、件のルークは彼女の好意に一切気が付いていない。そう、鈍感系主人公を極めてしまっているのである。


 しかし、それも仕方のないことだ。


 なにせルークはサンタイールのお姫様にぞっこんで、それ以外の一切が意識下に入っては来ないのだ。何時如何なる時も彼女の事を第一に考え、どうすれば幸せにできるのかしか頭にないのである。


 タバサは彼の一番近くにいるから故に理解も出来てしまっている。だからこそ直接的なアピールが出来ず、仕方なく彼に近づく悪い虫を払うという殺虫灯ならぬ殺虫()に収まっているといった具合だ。


 アイヴィスに強く当たったのもこのせいだろう。


 ルークは姫一筋なので、基本的に従者である彼女以外とは積極的に話さない。


 要するに姫のように傅かれ、丁重に扱われたアイヴィスが許せなかったのだ。……私ですらされたことないのに、されたことないのにっ! といった様子である。


 どうりでラヴィニスではなくアイヴィスに絡むわけである。現に他の神殿騎士の女性はラヴィニスの態度の方を不満に思うものが多いというのに、だ。


「しかしお嬢、よくこのルートに絞れたな。管理人にしてもあれだけの人数だ。皆それぞれ意見が違うだろうに」

「然り。某も、全くもって同じ疑問を浮かべたところだ」


 チャラい槍使いと厳格な斧使いがタバサに問う。


 確かに管理人は個々人の独特の見解があり、それによって選択する進行ルートはばらけるものなのだ。


「? そんなの簡単よ。ルーク様が気にかけていた楽園管理人がいるでしょ? あのエルフの娘の情報を他の管理人から聞き出し、その上で彼女が選びそうなルートを絞ってマッピングするだけじゃない」

「ルーク様が認める管理人なら情報の信頼度も高いし、ついでにあの変態娘(アイヴィス)への牽制にもなるし、良いこと尽くめでしょう?」


 どうやら彼女は他の管理人からララの情報を集めるだけ集めて分析し、その行動を予想して先手を打ったらしい。


 土地勘など無いというのにルート把握まで完璧にマッピングするその才覚は、ある種の化け物と言っても過言ではない。


 当人はまったくの無自覚なのだが、なるほどルークの従者とはこういったことを何の気なしに実行できる人材なのである。


「あ、あのタバサ姉さま。それは、誰にでも出来ることじゃないですよ?」

「ほほっ、末恐ろしいお嬢さんじゃ。……よもやその才能を、ルーク殿の身の回りの監視に向けてる訳ではあるまいの?」

「「「「…………」」」」


 集めた情報を完璧に整理分析し再構築出来るタバサに、それは普通ではないと告げる小動物系治癒士。


 先程までのピンク一色だった賢者のお爺さんも賛同し、自身の推察を口にした。当人としては軽口のつもりだったのだが、どうにも空気がおかしい。


 まるで時が止まったかと錯覚するほどに、シンと静まってしまったのだ。


「あ、あぁー。何だその、お嬢? ルークは教国のシンボルだ。害する敵を近づけないってぇのは、大事なことだと思うぜ?」

「し、然り。某もその意見には賛成だ。……しかし、節度は護られるべきだとも考える」

「「「…………」」」


 チャラい槍使いがタバサの行動に賛同を示す。厳格な斧使いもそれに続き、しかしながら進言することも忘れない。


 小動物系治癒士と賢者のお爺さんは何かを察したのか無言を貫き、タバサは目を瞑り黙祷している。


 ……どうやら無かったことにするらしい。


 つまりはそういうことなのだろうが、この話題はここで打ち切るのが正義だと五人の思考が一致した。


 ――そう、何も無い。無かったのである。


「お前達。談笑するのも程々にして、次の目的地へと向かうぞ。我が教国の姫であり()()()()、ルージュが自室で首を長くして待っているのだ!」

「「「「「――は、はっ!」」」」」


 丁度会話が終わりを遂げたそのとき、ルークによる鶴の一声が響いた。


 鈍感系主人公ルークには当然先程の会話も耳に届いていないが、完璧なタイミングであったのは間違いない。


 そうして彼らはまた探索を再開し、森の深くまで足を踏み入れるのだった。



「わわっ、本当に居たよ! うわぁ、おっきいね! 今まで見たチョコルドンの三倍はあるよっ!?」

「……知る限りではこの楽園で最大級のチョコルドンでしょう。雌の数も今までで一番多いので、期待出来そうですよ」


 ショートチョコルドンの雄は平均で七~十メートルとなっているが、この個体はゆうに三十は超えている。


 ララさんが言うには”楽園の主”に当たるだろうとのことである。実も未だ()()()()実っていることからも、発見したのは俺達が最初なのはまず間違いない。


 何故先発した彼らを出し抜くことが出来たのか、それは当然管理人である彼女の思惑が結実したからだ。


「行動が予想されているみたいなので、安全マージンを犠牲に大物狙いに切り替えては如何でしょうか?」


 風味は良いがとても苦い実を実らせていたチョコビタンと呼ばれる亜種に出会った後、俺達は思考の沼に嵌っていたララさんから一つ提案を受けた。


 どうやらルーク青年のパーティー内にとても()()()()人物が同行しているようで、前例のある方法では後手後手となってしまうとのことである。


 幸いにもこちらは達人級一人に白金級二人、金等級も一人と銀等級クエストに対して過剰戦力と言える。銅等級と偽る最終兵器(伝説級)つぐみんもいるしね。


 そしてララさんは、どうにもつぐみんの本質を見抜いている節がある。少々世間知らずな天然さんだとは言え、つぐみんがそのような隙を見せるとも思えない。もしかしたら、彼女も相当に腕が立つのかも知れないね。


「ちなみにどのくらいの危険度があるの? 私が居ても問題ない程度ならば良いんだけど……」

「問題ないと思われます。表すのであれば、ピクニックが登山にかわる程度でしょうか?」

「分かるような、分からないような? 程度にもよりそうだけど、ねぇ?」

「大丈夫ですよ、アイヴィス様。何が御座いましても、私が護って差し上げますから」


 個人的には進みたい。しかし今までの経験を踏まえ、足手まといにだけはなりたくない。少し弱気だが、やはり危険度を知りたい。


 そう思って質問したのだが、ふわっとした抽象的な表現が返ってきたため再び困惑してしまう。


 恐らく命の危険は無いのだろうけど、それは山の種類にもよる。例えば現代日本でいうエベレストに登頂しようとかだったら危険すぎると言えるだろう。


 不安になってラヴちゃんの方を向くと、ぱぁーと花が咲いたような満面の笑みで迎えてくれた。あ、可愛い。好き。


「そうさ、大丈夫さね任せときな! イサギ様から”好きなようにさせよ”との命も頂いているし、私達も付いている」

「うん。だから、好きにして」


 つぐみんとクジャクさんも俺の後押しをしてくれた。ちゃっかり命令を下しているイサギさんには少し呆れたが、自由にしていいのなら有難い。……既に金貨を十分の一も使っちゃったわけだしね。


 俺は彼女達の現場での実力は知らないが、普段の生活を眺める限りでは周囲を逸脱しているという印象がある。


 つぐみんなんか風呂でもトイレでも寝室でも何処にでもひょっこり出てくるし、クジャクさんは酔っ払いとはいえ大の男をちぎっては投げている姿をよく見かけているからね。


 ん、なんだか本当に大丈夫な気がしてきた。警戒の継続は前提として、せっかくなので一番良い品を求めようじゃないか!


「私達も、微力ながらお力添え致しますね」

「あらあら、セバスがそういうのであれば仕方ないわねぇ。うふふ、敵対するものをひき肉にして差し上げますわ」


 相も変わらず落ち着いた様子で賛成するセバスちゃんに、少々狂気を滾らせるちよさん。前からちょっとだけ思ってたけど、この人何でもパワーで押し通す節があるな、本当に魔女なのかしらん?


 などと心でちよさんの真似をするくらいには平静を取り戻したので、今こうやって巨大なチョコルドンと出会えたという訳だ。


 しかし本当に大きい。身を採取しようにもどうやって身体へと登れば良いのやら。


 ちなみにチョコルドンは甲羅のない首長の亀のような恐竜で、広い背中の上に果実を実らせる大木を幾つか背負っている。


 生殖行為はその実を種ごと雌に捕食させるという手段を取るので、どちらかと言えば植物に近いと言える。


 晩年は心に決めた一か所に留まり続け、その地にて文字通り実を実らせない只の巨木となる。


 そのため移動するのは己の楽園となる地を探していると考えられており、楽園であるこの地の象徴的な恐竜とされている。


 特定魔動植物ではないが、日本で言うところの”平和の象徴()”と同様なので、むやみやたらに傷つけると嫌煙されてしまうこととなる。


「キュルルー! キュルルゥー!」

「「「「「キュルル、キュルルルルゥー!」」」」」


 突如チョコルドンの周囲が騒がしくなった。可愛らしい鳴き声に聞こえるが、音の数がおかしい。


 数十、いや数百はくだらないのではないだろうか? それほどまでの大合唱である。


「――気を付けて下さいっ! どうやら雌に見つかったようです」

「な、ななな? なんて数なの? それに大きい! 三メートルはあるよっ!」


 ララさんが警告を発する。慎重に距離を狭めていたのだが、どうやら見つかってしまったらしい。


 主である雄に比例するのか、雌達は以前学園の図書館の図鑑で見たワイバーンに似た体躯を持っている。


 具体的には、雄をスマートにして小さくした身体に腕と羽が一体となった翼を持つ飛行生物だ。ワイバーンとの細かな違いを挙げるなら、可愛らしい鳴き声と頭と尾の形が亀に近いというところだろうか。


 ワイバーンをデフォルメしたらこんな姿なのかもと想像させるが、二~三メートル程の飛翔生物が目視出来るだけで軽く百は超えているのだ。見た目は兎も角として、この物量で襲われたらただでは済まないのは明白だろう。


「しっ! あい、隠れて」

「――アイヴィス様っ!」


 つぐみんの警告を聞き、俺は慌てて近くの木の根の隙間に身を隠した。すると、それを見たラヴィニスがすぐさま俺に覆いかぶさってくるではないか。


 彼女としては俺を守るための行動なのだろうが、相も変わらずに距離が近い。それこそ体温や吐息が直に感じられるほどの距離感なので、こんな状況下だというのに俺のシュウ君が起っきしてしまいそうになる。


 ……残念ながら、今は付いてないのだけども。


 ラヴィニスとはそれこそ毎日毎晩何処でも何処までも常に行動を共にしている。にも拘らず未だにドキドキしてしまう自身の純真(ピュア)さに少々思うところもあるが、それほどまでに彼女のことが気になっているということなのだろう。


 ただ理想の嫁の姿をしているというだけでなく、その一途な健気さや従順な態度、一挙一頭足から伝わる俺への愛と重度の依存癖。……俺は、その全てを”愛おしい”と感じている。


 俺達の間にある誓約という名の呪い俺嫁誓約(マイラヴァーズ)は、あくまでも感情値の下限を誓約時(最低値)固定する呪法なので、少なくともあの頃よりも彼女を好きになっているのは間違いないだろう。


 本当は気弱で周りの目を気にしてしまう彼女が、俺の主義趣向を理解してるが故に凛とした女騎士として振舞ってくれる姿もとても愛らしい。


 ふむ。恥ずかしながら、ぞっこんである。


 イヴやラヴィニス、そして鈴音さん。大事な人を挙げるならまず浮かぶのはこの三人だ。しかし一番好きなのはという感情で言うならば、俺はラヴィニスと答えるだろう。……恋愛的な観点だけで判断するならだが。


 せっかくなのではっきりさせておくが、俺は自分の中で”優先度”というのを設定するきらいがある。


 一番は自身。次点でラヴィニス。続いてイヴと鈴音さん。……次がアリスとシャルル。その次が烏丸の娘達という具合だ。


 物事を考える際や行動を共にする時はもちろんのこと、もしもの時に誰を護るのかという究極の選択を迫られたときに一瞬でも躊躇いたくないのだ。


 優柔不断は身を滅ぼす。何故だかは分からないのだが、昔からそのような一種の強迫観念に縛られている。


 身に覚えがないのだが、もしかしたら幼少期にトラウマの一つでも抱えているのかも知れない。そう考えるほどにはドライな思考を持っている自覚があるのだ。


 ちなみにその意向は今挙げた全ての人が知っている事実だ。俺自身隠す気はないし、そもそもイサギさんにはお見通しらしい。


 俺の情報は俺よりも彼女の方が詳しいし、何なら彼女から情報を受け取っている皆も同義だ。


 それでも一緒に行動してくれるのだから有り難い。俺は幸せ者だ、感謝しかない。


 これはある意味で懺悔だが、男性の名前が挙がらないのは許してほしい。


 俺自身が男なので女の人を守りたいと思ってしまうという大前提を除いても、”女の子には優しくしなさい(野郎は自分で自分を守りやがれ)”という環境で育った経緯もあるからである。


「――あれ? 通り過ぎていった? バレたわけじゃ無かったのかな?」


 ラヴィニスのことを精一杯大事にしよう。そんなことを考えながら息を潜めていたのだが、どうにも様子がおかしい。


 あれだけの数で鳴いていたのだ。何かが起こったのは間違いない。


 それにララさんは見つかったと言っていた。つまりあの鳴き声は警戒態勢か攻撃の合図と推察できる。


 しかし発見されたにしては様子がおかしい。素通りなのはおろか、こちらに見向きもしなかったのだ。


「なるほど、彼らですか。……ルーク君が連れてきた彼女、相当に鼻が利くみたいね」


 ララさんが何やら納得の表情だ。丁寧な口調が少し砕けているのは、それほどに心を許している証拠だろう。


 ……ぐぬぬ。イケメン、許すまじ――なんて、言ってる場合でもないな。


 どうやら発見されたのはルーク率いる神殿騎士のパーティだったらしい。四十八人対数百匹。ざまあみろとも言いたいところでもあるが、どう見ても多勢に無勢である。


 しかし助けるにもこちらも七人しかいないからな。……むむむ、どうしたものか。


「アイヴィス様。せっかくですので、彼らに意識が向いている間にササっと実を採ってしまいましょう」

「――へ? た、助けなくても良いの?」

「助ける? ……ふふ。アイヴィス様はお優しいのですね。心配なさらずとも彼らなら大丈夫。ルーク君も居るし、死者は出ないでしょう」


 俺が悩んでいると、ララさんがとんでもないことを提案してきた。


 いや、俺も仮にも今は冒険者なので、手柄の横取りなんて挨拶みたいなものだということは知識として知っている。


 しかし実際にその場面に出くわしたことは無いので、彼女の言葉に少々面を食らってしまった。


 結果が全て、か。なるほど。冒険者とは俺が認識しているよりも世知辛い職業なのかも知れないな。


 どうやら気にしているのは俺だけのようだし、ここはララさんの言葉に従おう。……あんなに沢山の恐竜達と自ら進んで戦いたくもないし、ね。


 ルーク君、君ならやれる。任せるね! 大丈夫、イケメンは死なないというのが相場だもの! ……知らんけどっ!


 十分に実を集められたらまたその時に考えよう。俺達が参加することで必ずしも事態が好転するとは限らないしね。


「おっけー! そうと決まれば行動あるのみ。迅速かつ丁寧にチョコル狩りするとしますかー!」


 警戒すべき雌の群れはルーク青年達が相手をしているので、採取を行うのなら絶好の機会だ。


 皆の意思も問題ないようだし、ここはパーティーリーダーである俺が方針を決めねばなるまい。


 余談だが、チョコルドンから採れるこの果実の名称は”チョコルの実”というらしい。


 チョコビタンの果実――”チョコビの実”に比べて風味は幾分か控えめだが、味はチョコレート同様にとても甘くて美味しい。


 触感は特に違いが大きく、チョコビが蕩けるような桃ならば、チョコルはシャキシャキとした林檎に近い。


 どちらも工夫次第では様々な用途が思い浮かぶ。少なくともこの二つの実があれば、夜烏のスイーツ部門は格段にレベルアップすることが出来るだろう。


 ……このクエストを受けて本当に良かった。しーちゃんには新作が完成したら、いの一番に振舞わなければなるまいな。


 頭の中でどのように調理すればより美味しくなるのかと考え事をしているうちに、気が付けばクエスト達成に必要な数はおろか、試作品に回す余裕が生まれるほど集まっていた。


 クエストは余裕を持って三日取っていたのだが、実にあっけなく達成出来そうである。


 だが勘違いをしてはいけない。これはあくまでララさんという優秀な管理人が同行していたからの結果であり、我らだけでは下手したら一つも採れていない可能性すらあるのだ。


 ふむ。なんというかおかげ様で、この世界に来てからは人とその才覚に恵まれている。


 中には当然分かり敢え無い人間も存在するが、以前に比べて出会う者が皆人間の質(スペック)が高いと感じている。


 ラヴィニスやイサギさんはもちろん、鈴音さんという神の如き天才が厳選した奴隷である烏丸の女性達を始め、ヨタカさんにフクロウさん、モズ君のような夜烏のギルドメンバー達は特に秀逸だ。


 他にもアリスにシャルルという妻()や、ステラとエステルのような学友に至るまで皆が皆一線を画している。


 魔法がある世界だから。その言葉だけで言い表すには、少しばかり無理があるだろう。


 実際にはハルカさんやカレンちゃんのような、()()()()平凡な人達が大半を占めるのだ。


 何者かの意思の介入を疑うなどと少々自意識過剰かも知れないが、ここまでの状況証拠が出揃うと考えてしまうのは仕方がないと思う。


 ……単純にこの身体のスペックに見合った”類友”なのかもしれないけどね。


 分からないことはいつまで考えても仕方がない。日も暮れそうだし、今日の所は撤収しようか。


「はぁ……はぁはぁ。あ、貴女達っ! よくも出し抜いてくれたわ、ね……ふぅぅ」


 そう思って振り返ると、不満そうに顔を歪める女性が息を切らせながら悶えている。


 激戦を耐え抜いただろう。よく見れば全身が汚れ、所々血がこびり付いているのが分かる。


 ……しまった、完全に忘れてた。怖っ、めっちゃ睨んでるくるよこの人。


 見る限りではララさんの見立て通り死者はいなそうだ。しかし中には、自身で歩けないほどに重傷の人も見受けられる。


「よ、よおし? ここからは治癒士の出番だね? まっかせてよ! この日の為に色々と練習してあるんだからね!」


 ふむ。我ながら完璧な回避方法だ。どうにも治癒出来る人がいないみたいだし、俺に任せな!


 後ろから複数の視線を感じなくもないが、今はそれどころじゃない。程度の軽い人は後回しにして、ちゃっちゃと終わらせて帰ろうじゃあないか。


 目の前に集中しすぎるのも考えものだな。そんなことを頭の端に浮かべつつも、覚えたばかりの治癒魔法を発動するのであった。

今のところ書き溜めのペースは順調です。設定回などの時間がかかる話も在りますので、引き続き保っていけたらいいなと考えております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ