宝の持ち腐れなんて言わないで!
適性検査。現代日本では自身の才能を数値化することが出来ませんが、仮に出来たとしたのなら皆さんは受けたいと思いますか? ちなみに私だったら受けます。判断できる基準があると、楽そうだから!
「さて、アイヴィス様。クエストを受けるに当たって何点かお願いしたことが御座います」
「あいあい」
「まず、ギルドカードへの登録です。既にお持ちであろうステータスカードを前提とし、年齢や性別、職業などを詳しくカードに記載します。それを元に様々なクエストを受けて頂くという形になりますね」
「ふむふむ。ハロワの登録カードみたいな奴ね」
ハロワとは何ですか? とシフォン。俺がいた世界で仕事――クエストを紹介してくれる所だと説明すると納得してくれた。まぁ、間違いではないと思う。
ステータスカードと違い称号や特性は記載されず、代わりに年齢と職業の項目が追加される。技能に関しては基礎技能――つまり一般的に”スキル”と呼ばれるもののみ記載される。
”スキル”はLvという段階で分かれ、数値は熟練度と比例している。
俺を例とするならば、召還魔法Lv1、調理Lv5、逃走Lv3。また、継承した剣術Lv1と銃術Lv1を含めた五つが”スキル”である。
アヴィスフィアでは十四才が成人とされ、一部例外を除きギルドにて仕事を斡旋して貰える。年齢の記載はその為にあると言えるだろう。
職業に関しては適性があり、その中から一つを選択する。適性を調べるためには占星術士による”職占”を受ける必要があり、各ギルドに必ず一人は常駐しているその人の元を訪れ占うことになる。
夜烏の占星術士はチヨと呼ばれる女性で、どうみても魔女という格好をしている。助手であるセバスちゃんと二人で業務についている訳だが、日本人の感覚からするとどうしても胡散臭さが抜けきらなかったと記憶している。
ちなみにチヨは先日三十歳を迎えたらしい。見た目だけなら二十の前半にしか見えないのだが当人は思う所があるようで、他の女性と比べても極端にこの話題を嫌う傾向がある。
確かに俺も年齢だけならアラサーを迎えた。三十路と呼ばれる年齢に刻一刻と近づいているというちょっとした強迫観念もある。そういった意味で理解出来なくは無い。
「ギルドカードを作成、所持することでより正確に才能を視覚化して捉えることが出来ます。また、クエストを熟し経験することにより稼げるJPでその上限を効率的に伸ばすことが可能になりますね」
「JP? いよいよ冒険ファンタジーっぽくなってきたね!」
「はい。その都度カードの裏の項目からどの能力をどれだけ上げるかを選択したうえで実行することにより、即座に自身のその職業に対応した能力――”ジョブスキル”を上げることが出来るという訳ですね」
ギルドカードというものにどれほどの力があるのかは定かではないが、どうにも実際の経験がJPとして数値化されるらしい。そして、そのJPを使用することで任意のスキルのレベルを上げることが出来るとのことだ。
理屈は分からないが、要するに個々に分散されていた様々な経験がポイント化され、それを割り振ることにより自信の才能をより伸ばせるのである。
例えば剣術Lv1の俺が職業を剣士にし、戦いの経験により稼いだJPを剣術にひとつ振ったとする。
その場合、スキル剣術Lv1にジョブスキル剣術Lv1が合わさり、実質Lv2となるといった具合だ。レベルは上がるごとに要求されるJPが段階的に増え、上限は双方を加算してLv10までである。
単純計算だが、元々スキルが剣術Lv3のものはジョブスキルLv7で上限に達する。しかしLv1のものはLv9必要となり、より多くのJPが必要となる。ちなみにレベルアップに必要なJPにも個人差がある。
厳密には異なるが、ステータスカードは才能を数値化して表示したもので、ギルドカードはそれに努力や経験により得た能力を追記したものと言って良いだろう。
簡潔に言うならば、才能に劣るものはより修練を積まねばならないのである。これは現代日本となんら変わりがない。
後から聞いた話だが、俺やラヴィニスが持つステータスカードは一般的なものではなくイサギの特別製らしい。故にその場で更新がすることは出来なかった。
どうにも一般的なステータスカードは基礎技能と性別のみ記載されているそうで、称号は所持している中から一つを選ぶ選択性のようだ。
これも理屈は分からないが、選択された称号には追加効果――バフのようなものが掛けられており、用途によって付け替えることが重要になるらしい。
現代日本で言うならば”役職”のような物なのかも知れない。学生や社員、役員など立場が違えばその心持ちも異なる。存外、地位による精神的な――やる気や責任感など――影響が個の能力に与える差異は少なくないのだ。
ちなみに俺の場合は常時全ての称号が選択されているため、バフを最大限に生かしている状態化にある。……実感は全くないし、複数の立場を掛け持ちできるほど器用でも無いので、正直良く分かってはいないけどね。
成人を迎えたと同時にどこかしらのギルドへ所属する――つまりは仕事を持つことが一般的なアヴィスフィアの最初の指標であり、現代日本でいう身分証明証のようなものなのだろう。ギルドカードは所謂免許証といった所だ。
ステータスカードの更新は成人までは基本任意。ギルド入団時に必ず一度更新し、最初は一年後に一度。その後は三年に一度、入団日の前後一ヶ月以内にしなければならないと各ギルドによって義務付けられている。
ステータスカードとは違い、ギルドカードはJPを振らなければ能力が一切上がらない。理屈は分からないが、実際そうなのでどうしようもない。
何か月も努力して出来ないことが、ある日を境に急に出来るようになることもある。つまりはそれを任意で起こすことが出来るのだろう。少なくとも俺はそう解釈することにした。
分からないことをいつまで考えててもしょうがないからね。一旦保留、保留。
「説明が長くなってしまい申し訳ありません。ここまでの内容が基本的な事項になりますね」
「いや、丁寧に説明してくれてありがとね、しーちゃん」
「いえそんなっ! ……恐縮ですぅ」
シフォンにお礼を告げると、彼女は手を目の前でブンブンと振った後、照れたのか俯いてしまった。
ラヴィニスとはまた違ったその小動物のような可愛さに思わず手が伸び、ついつい頭を撫でてしまう。
キョトンとした顔で俺の顔を上から覗きこむシフォン。
自身が何をされているのか気づくとさらに縮こまり、遂には俺が見下ろせるほど小さくなってしまう。耳まで真っ赤に染まっているところを見ると相当に恥ずかしいのだろう。
しまったと慌てて手を離したが時既に遅し、シフォンは最初と同じように女の子座りでへたり込んでしまった。
「ご、ごめんしーちゃんっ! つい可愛くて、手が出ちゃってた! 恥ずかしかったよね!?」
「――可愛っ!? い、いいい、いえ。こ、こちらこそ驚いてしまってその、すいませんんんん」
「…………アイが来た当初に比べ、この変わりよう。シフォン、やっぱりどうかしてしまったんじゃないのかい?」
同じく動揺していたせいでパタパタと手をばたつかせてしまう。シフォンはその動揺する俺の姿にさらに狼狽し、女の子座りのままペコペコと頭を下げている。
そんな姿をみて本気でシフォンの心配をするクジャク。確かに言われてみればギルドに来た当初、一番の殺気を放っていたのが彼女だったと記憶している。
その名の由来となったシフォンケーキを夢中で頬張るその姿に思わず名付けてしまったあの日以来、会うたびに反応が過剰になっていっている気がする。
名付けって性格まで変えてしまうのかと疑問にも思ったが、イヴによるとそのような事実はないらしい。その様子は傍から見れば、全くもって原因が分からない不治の病のようである。
「アイヴィス様、お戯れが過ぎますよ。シフォンさんもお仕事が残っているのです。早々に”職占”を済ませ、正規の手続きを致しましょう」
「――はっ! 確かにその通りだ。ラヴちゃん、行こうか。しーちゃん、ちよさんのとこ行って来たらまた来るから宜しくね!」
「は、はいっ! 了解しました、お待ちしておりますね!」
辺りを伺うと、確かに多数の人だかりが出来てしまっていた。シフォン以外の受付嬢も複数居るのだが、その中でも群を抜いて仕事が出来て人気もある彼女が抜けた穴を埋めるには至らないらしい。
ギルドカード発行の手続きなどは本来新人の受付嬢の仕事なのだが、イサギの好意でシフォンにお願いしていた。
彼女の担当は高ランククエストの発注なので、特に高レベルの冒険者が挙って訪れる。クエストの報酬額の設定はもちろん、その難易度や攻略人数、適性やパーティのバランスに至るまで全て一人で担当し、また熟しているのである。
本来なら複数人でやるその仕事を一人でするには時間も相応に掛かる。いくら彼女とはいえ、いつまでも俺の相手をしていては本来業務に支障を来してしまうだろう。
ちなみにギルドカードには階級が存在し、下から銅、銀、金、白金、マスター、レジェンドの六種類に分類される。最初はギルドカードに記載された能力と適性試験の結果より銅、銀、金のいずれかとなる。
ギルドカードを取得して三ヶ月、同時に対応したランクのクエストを十回熟すまでは初心者とされ、単独での討伐クエストの受注することが出来ない。
その後においては単独かパーティを組むかは当人次第で、全て自己責任となる。ギルド側が保証するのはあくまでも成功報酬のみである。
例外として、ランクが一つ上となるパーティ限定のクエストも存在している。当然単独では受けることが出来ないので、その時ばかりは誰かと組む必要があるということになる。
単独なら褒賞を独り占めできるというメリットもある。しかしパーティなら自身のランクより高いものを受けることが出来る機会もあるので、結果として後者の方が利率が良い。
クエスト用紙には様々なギルドの紋章が刻まれていて、褒賞はそれに対応したギルドが用意する。
ゴールドまでは己の実力のみで辿り着けるが、プラチナ以降はギルドへの貢献度ポイントで決まる。ポイントは下位のクエストでは一切溜まらず、自身のランクに見合ったもの、またより難しいクエストをパーティで受けることで効率的に上げることが出来る。
発行するギルドは冒険者側が選ぶことが出来、そのギルドの象徴である紋章がギルドカードに刻まれる。ちなみに夜烏の紋章は暗色の烏を象ったものとなっている。
メリットとしては、同ギルドが発行したクエストの受注に伴う契約金の割引や、貰える貢献度ポイントの増加などが挙げられる。
デメリットはほとんどないが、しいてあげるならパーティが同じギルドである程度固まる傾向にあるということだろうか。
学校でいうグループのようなものが発生するため、別ギルドのものとパーティを組むのが憚れる気がしてしまうのだろう。
「お入り下さいませ、アイ様。イサギ様より、貴女のご来訪は伺っておりますよ」
さて、考察が長くなってしまったが、いよいよ”職占”の儀を行う”千世の間”まで辿り着いた。
出迎えてくれたのはセバスちゃん。ちよさんの助手を務めるメイドさんである。戦闘力も高く、彼女に近づく並みいる冒険者をちぎっては投げちぎっては投げ、それはもう凄さまじい女性なのだ。
身内に不幸があり天涯孤独なのだそうだが、当人は全く気にせず、むしろ滅びて当然で心の底から済々しているとまで語っている。
彼女が此処まで強くなるまでに、さぞ壮絶な過去があったのだろう。機会があったら聞いてみようと思うが、嫌ならば詮索は無用だ。……夢幻の彼方へ飛ばされかねないし、ね。
そんな彼女にも、虫が大の苦手という可愛らしい一面もある。まぁ、叫びながら殲滅するまで虫を叩き潰す暴走モードを可愛いと言えるかどうかは分からないのだけれど。
ともあれ今は職占だ。早速ちよさんにお願いしてみようとしますかね。
「ちよさん、初めまして。イサギさんの妻、アイヴィスと言います。以前から魔女と名高い貴女と一度、お会いしたいなと思ってました。よろしくお願いします」
「あら、あらあらご丁寧にどうもぉ。貴女が私の王子さ――イサギ様にたかる銀蝿――もとい、奥様なのですねん」
「お、おおっ? あ、あれこれもしかしてメンドクサイ状況になってしまったのでは――」
「嫌ですわ奥様、安心してください。私に掛かればこのくらいの儀、瞬時に終らせて差し上げますよぉ」
ひぃ。ちょっと待って話がかみ合わないっ! 分かった、分かったから取り敢えず俺の頬を撫でながら耳元で猫撫声を出すは止めてくれ! ぞわぞわするだろぉ。
思っていたのと違う。まさにその言葉だった。いや、ピンク色を主体としたセクシーな美魔女なのは想像通りだし、ナイスバディで良い香りもするのも想定内だ。
しかしまさかハイエナのようにギラギラした目で獲物を掠め取ろうとする眼をしてくるとは思わなかったし、ラヴちゃんが反応遅れるほどの瞬発力で接近を許しただけでなく、愛でるように触れられたのには驚いた。
ラヴィニスは既に剣を抜く構えをしている。しかし左手に何やら赤黒い塊が覆い被さっており、彼女の動きを阻害しているようだ。
何重にも折り重なっているため分かりづらいが、その一つ一つは暗い紅色の手のように見える。よく見れば同様に、肩や腰、足首にもその手のようなものが彼女の行動を阻害している。
それでもズリズリと此方に近づくラヴィニスの膂力にも驚きを禁じ得ない。このままでも俺のところへ来れそうではあったが、時間を掛けたく無かったのだろう。全身に白い稲光を纏い、黒紅の手を全て無力化することにしたようだ。
そのままチヨに接近し、己が剣を容赦なく降り下ろすラヴィニス。あわや直撃しようかというところでセバスちゃんが間に入り、そのか細く見える両の腕をクロスさせることで白刃を受け止めた。
ギィィィンと鳴り響く金切り音。恐らくメイド服のカフスの部分が鋼鉄か何かで出来ているのだろう。そうでなければこの音はおろか、刃を受け止めるなんて芸当が出来うるはずもない。
いや、そもそも振り下ろされた真剣を腕で受け止める時点で、既に神業と言っても過言ではないのだが。
「チセに手を出す者は許しません。例えそれがギルド長のご家族だとしてもです」
「どきなさい。さもなければそのか細き腕ごと、貴女を両断してしまいますよ?」
「あら、あらあら私の為に争わないでぇ。……なんて、冗談ですわ。――セバス、引きなさい」
「ラヴちゃんも落ち着いて。俺は大丈夫、ちょっとびっくりちゃっただけだから。ね?」
バチバチと睨み合うラヴィニスとセバスちゃん。どちらも無表情のため、何処までが本気なのかが分からない。
ちよさんは相変わらず”あらあらうふふ”としているが、当人達が冗談で言い合っている訳ではないと分かっているのだろう。先に引くことによって、最悪の事態を避ける選択をしたようだ。
それを聞き、俺も慌ててラヴちゃんを止めた。確かにこの娘は俺の為なら本当の意味で何でもするきらいがあるため、このまま止めなければセバスちゃんがそれは見事に真っ二つになってしまっていただろう。
「やはりイサギ様の妹君なだけはありますね。あのまま戦っていたら、私は既に死んでいたでしょう」
「それを分かって尚も立ち塞がるとは、貴女の忠誠心も相当に深いものであるのでしょうね」
当人達も分かっていたのだろう。先程までの殺伐とした雰囲気とは打って変わって、まるで好敵手通し分かりあう一種の友情のようなものが芽生えたようだ。
俺からすれば完全に三人に振り回され気が気ではないのだが、今回は何事もなかったから良いだろう。
「うう……、美しい友情ねぇ。お姉さん、セバスにお友達が出来て、本当に嬉しいわぁ」などと抜かしているチヨも相当に図太く良い根性をしているのだが、気にしたら負けだと思考から弾き出しておくことにした。
ともあれ今は職占だ。シフォンも待ってくれているんだし、手短に終わらせてしまおう。何だか面倒事になり兼ねなそうだしね。
「それじゃあちよさん。早速で申し訳ないんだけど、職占の儀をして貰えないかな?」
「あらあらせっかちさんねぇ。奥様、あんまり早いと嫌われちゃうわよぉ?」
「あー、うん。しーちゃ――シフォンを始め、つぐみんやクジャクさんも待たせてしまってるんだ。皆私と違って忙しいから、あんまり迷惑かけたくないんだよ、ね? お願い」
「もう、仕方ないわねぇ……黒ちゃん。ササっと準備、しちゃってちょうだい」
どうやら目を付けられてしまったらしい。正確には付けられていたのに気が付いたのだが。
いちいちその豊満な身体を存分に奮い、色気たっぷりに俺に迫るちよさん。恐らくは嫌味のつもりなのだろうが、俺は中身が男なので正直なところご褒美である。
ふむ。ラヴちゃんみたいな”神が創りし最高の造形美”は言わずもがな、ちよさんの肢体も実に素晴らしい。
美尻のアリス、魔乳のシャルルに勝るとも劣らない。言うならば”肉欲の化身”といった所だろうか。
一般的な男性を相手取るならば、おそらくは俺が知る中で一番その劣情を駆り立てるであろう肉体美である。
思っていた反応と違ったのか、つまらなそうに助手である黒紅の手に命令を下すちよさん。セバスちゃんは俺の視線や声色から何かを感じ取ったのか、警戒態勢に入っている。
ラヴちゃんに至っては今にも夜叉が君臨しそうになっている。これは不味い。さっさと職占を済ませてクエストで発散して貰わないといけないな。
「さて、準備はいいかしらぁ? その水晶に手を当ててそっと目を閉じてぇ。はい、リラックスしてぇ~」
「うわぁ、なんかドキドキするな」
「はぁい、じっとしててねぇ。……あらあら妬ま――羨ましいわぁ。奥様は、才能の塊ですわねぇ」
ちよさんの指示通り、サッカーボール大のひんやりとした魔石の水晶を右手で触れてみる。
網膜越しに美魔女に隅々まで観察されるのは何やらもどかしく、また占いの結果が気になるのも相成り心臓がどくどくとなっているのが聞こえる。
借り物の身体とはいえ緊張はするものなのだと知った。恐らくは鈴音さんのポテンシャルを知ることが出来るということもスパイスとなっているのだろう。
本人のいないうちにその秘密に触れているような、何とも言えない背徳感という奴である。
何となく想像がついてはいたが、ちよさんによるとこの身体は素晴らしい才能に恵まれているらしい。
まず適性職なのだが、斧などの重量のある武器を奮う戦士や、己が技能で剣やレイピアを操る剣士といった近接の基本職はもちろん、攻防を両立可能な騎士や遠距離に長けた銃士も最初から就くことが出来るそうだ。
魔法職も地水火風の四属性を操る魔法使いや、治癒やステータスを向上させるバフに長けた治癒士、そして上位職である召還士と多岐に亘っている。
他にも盗賊や商人を含めた様々な基本職はほぼ全てに適性があり、将来的には魔法剣士や剣銃士などという混合職も夢ではないらしい。
流石は鈴音さん、非凡な才能をお持ちになっているな。羨ましいぜ。
「ふぇぇっ!? あ、いえ。ごめんなさい。……あの、失礼ですが奥様。今年二十八才でよろしかったでしょうか?」
「え? うん、あってると思うよ。ちょっとした事情があって、正確には分からないけどね」
「……私より、年上」
素っ頓狂な叫び声をあげ確認を取るちよさん。セバスちゃんも俺が年上だったことを知って、何やら目を白黒させている。
あぁ、もしかして敬語じゃなかったの気を悪くさせちゃったかな? ちよさんのキャラが濃すぎて、いつの間にか素になってたわ。いやはや社会人として情けない、今からでも訂正しなければなるまいね。
しかしちよさん可愛かったな。普段からそう言った隙を見せればより一層男性を虜に出来そうなのに、ちょっともったいないな。
ちなみに俺の事情はイサギさんはもちろん、一部の幹部と烏丸に住むドレイレブンの娘達しか認知していない。
後から考えてみたら、ちよさんとセバスちゃんには十代前半の少女にしか見えていなかったのだろう。それは驚くのも当たり前というものだ。
しかし不思議なものである。適性職は身体情報に、年齢は精神に依存するのか。一見すれば年齢も身体と思いがちだが、確かに現代日本でも肉体年齢は必ずしも実年齢と同義ではない。つまりはそういうことなのか。
「わかった。ありがとね、ちよさん。――じゃ、早速しーちゃんに報告へ行こうか」
「うふふ、いいのよぉ……って、ええっ!? もう決まっちゃったの? 質問とかは!? ……ないんです?」
「え? あぁうん、大丈夫っ! この手の選択は日常茶飯事、慣れてますからね!」
「あ、あらあらそうなの? それならば別に、良いのですが。……ねぇ?」
あれ? もしかしてこの人、実は本当に可愛い人なのでは? 一生懸命お姉さんキャラを演じている可能性が今浮上したぞ!
何やら勝手にキャラが崩壊しつつあるちよさん。豊満な身体が動揺に揺れ、それは情欲的な魅力を放っている。
気遣いはありがたいが、彼女の懸念は杞憂である。様々なRPGをクリアしてきた俺に隙は無い。最初に就く職は絶対に”治癒士”。そう最初から決まっているからである。
当然そこには理由がある。
まず第一に後方から嫁、ラヴィニスの戦う姿が見れるからである。互いを信頼し、背中合わせで戦うという漫画のような展開が最上に思えるがそうではない。
背後から見ることにより戦う姿の全体像をより捉えることが出来るし、サポートもしやすい。戦力的に考えても俺が前線で戦うよりも圧倒的に勝率も上がるだろう。
治癒士ならば万が一彼女が傷ついてもすぐに治療出来、その結果生存率も上がる。ゲーム脳からくるバランス的にも、パーティ内に一人は必ず必要になるだろう。
次点は戦闘経験だ。クエストにおける実践はおろか、日常的に沸くモンスターすら一度も討伐したことのない俺はこのアヴィスフィアでは稀な部類に入る。
特に田舎の集落などはギルドに依頼をしても間に合わないことも多く、それまでどうにか耐え切るために戦闘をすることは日常茶飯事だ。
戦闘能力は殆どないが、生活雑貨などを溶かしてしまうスライムのような粘性生物もいる。それらは殴っても切り付けても倒せないが、火で炙ればたちまちに撤退する。知っていれば子供でも老人でも討伐出来る、所謂雑魚モンスターだ。
そういった知識も俺は乏しい。その状態で前線に立っても足手まといになる未来しか見えない。
何より一番大事なのだが、俺は基本尻フェチだ。
安全な後方から違和感なく躍動する尻を眺めるためにも絶対に譲れないのである。
《通告。最低です。マスターが後衛を務めることには賛成ですが、その変態性には時々私も着いていけないことがあります》
――わわっ! ビックリさせないでよイヴ。しょうがないだろ? 大事なことなんだよ。ラヴィニスの戦う姿を見るのが好きなんだ。それでいて彼女が戦闘で傷つくのは正直見たくないんだけど、ね。……ジレンマなんです。
《理解。確かに戦闘中のラヴィニスは格好良いと思います。迷いなく、己の為に真剣に戦う姿。いわゆる、”姫プ”という奴ですね》
ちょっ、ちょっと! それは流石に語弊があるから! 別に俺も戦わないとは言ってないだろ!
《ふふっ、冗談ですよ。マスターの背中はこのイヴが支えますので、どんな敵が現れても”どんとこい”。任せて下さい》
はぁん。惚れた。俺の相棒が男前過ぎてツライ。ラヴィニスにも言えることだが、少しは俺も男として頼りになるということを証明せねばなるまいよ。
ともあれ、しーちゃんも待ってることだし受付に戻りますか。あぁ、クエスト楽しみだなぁ。
「…………」
むむ? 何やらちよさんの熱烈な視線を感じるのだが、一体何だろう。正直面倒事の予感がするからこのままスルーしてしまいたいのだが……。
「…………アイ様。ご面倒かとは存じますが、私達も同行しても宜しいでしょうか?」
「えっ? 別に、良いけど……」
「――セバスっ!? えぇっ? そして、良いの!?」
セバスちゃんが申し訳なさそうに此方を覗きこみながら懇願してくる。クールなメイドにお願いされるという稀有なシチュエーションに、気が付けば無意識のままに許可をしてしまっていた。
ちよさんはそのスピーディな展開に着いていけないのかオロオロとしている。ふむ、確定だ。この人は可愛い。好き。
「アイ様。許可していただけたのは幸いですが、チセに手を出したら貴女様でも許しませんから、ね?」
「――へっ!? い、いや! 可愛い人だなって思っただけで、決して手を出そうなどという邪な考えはですね――」
「――か、かかか、可愛いっ!? ちょっ! 奥様、何をおっしゃってますの!?」
「チセが可愛いのは当然です。本人が分かっていないところもまた良し。この私が何より一番近くで見て来ていますからね!」
「――セバスっ!? ちょ、えっ? 貴女まで何を言ってるの? 分かってないも何も、そんなこと今まで一言も言ったこと無かったじゃない!」
俺の視線に危機意識が働いたのか、クールなメイドの鋭い視線が俺に刺さる。
その瞳にドギマギしながらも、冗談で言っている訳では無さそうなので気を付けよう。と言っても、手を出すなんて恐れ多いことしようなど考えてはいない。……出しようも無いしな。
俺とセバスちゃんに可愛い可愛いと連呼され、頬を上気させるちよさん。大人の色気も相まって実にセクシーだ。
男子中学生なら――いや、傾きに不安を覚え始める四十代でもいきり立つくらいの破壊力である。言うならば、段々に積み上げられた蜂の巣の蜜から抽出されたロイヤルゼリーのようなもの、といったところか。
突然の暴露に狼狽し、大人の余裕が満ちていた初対面時の彼女は既に見る影もない。正直俺としてもこちらの方が親近感を持てるので有難い。
セバスちゃんがちよさんのこととなると、途端にポンコツメイドと化すのも実にグッドである。
「何より私今、女性だよ? 手の出しようが無いでしょ。だから安心して? 大丈夫だってば」
「じー……。本来ならそのはずなのですが、どうにも貴女からは不穏な雰囲気を感じるのですよね」
ひどいっ! こんなに誠実な人間なんて他にいないのに! 何やらラヴちゃんとイヴの視線も刺さるが、責任を取るつもりも無いのに手を出すなんて、絶対にあり得ないからね。
結果上手くいかないことはあるけれど、自分なりに悩み迷いながらも選択してきているという自負もある。
確かにイレギュラーな事態に弱く、流される部分があるのは承知している。……それでも、最後に決断するのは俺自身でありたい。そこにはそう、確固たる意思が存在しているのだ。
後悔や過ちを人のせいにしない。これが俺の座右の銘だ。完璧に有言実行とまでは行かないが、常に心に留めている言葉である。その為には前述した、自身による選択が一番重要なのである。
「ともあれちよさん、セバスちゃん。初めてなことなので色々と手際が悪いかもしれないけど、これから宜しくね」
「はい」
「め、面倒ですが奥様がそこまでおっしゃるのならば、仕方ありませんねぇ。イサギ様の悲しむお顔は見たくありませんし、協力して差し上げますわぁ」
「うん、ありがとね」
端的に返事をするセバスちゃんに対し、何やら中途半端なツンデレのような反応を示すちよさん。
言葉通り未体験のことなので、純粋に協力者が増えるのは有難い。ここは素直にお礼を述べ、来たるクエストに向けて信頼関係を気付いていこうではないか。
即座に切り替えることが出来るのも己が長所。そう割り切った俺はクエスト受注のため、再びシフォンの元へと向かうのだった。
次回はいよいよ初めてのクエストへ出立しようかと考えております。毎回書ききったら更新しているので、構図は真っ白です。さてさて次は、どんな物語にしていこうかな。




