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アヴィスフィア リメイク前  作者: 無色。
一章 皇女の軌跡
22/55

二人も痴女が生まれてしまった!

ネタに走り過ぎた感は否めませんが、反省はしていません。

 深緑の隙間から日が差し込み木々を抜け、柔らかな暖かい光が俺の瞼を擽っている。その余りの心地の良さにそのまま二度寝へ移行しようと自身の腕を以て目元を覆うとしたのだが、目頭の辺りが妙に痛むのは何故だろう。


 あ、あれ? 俺いつの間に寝たんだっけ……? まぁ良いか。もう少しだけ横になろう。


 惚けたままの頭で記憶を辿る。その状態のまま意識せずに寝返りを打とうとしたら、ズキンと鈍い痛みが鳩尾辺りに響いた。


 ――そうだ。シャルロットさんによるプロレス選手顔負けのコンビネーション技を食らって、敢え無くノックアウトしたんだったな。いやー、参った参った。いやはや、中々に現実ってのは何処かの誰か(有機農園の梨の人)みたいに、上手い事トラブらないものだねぇ。


 そんなしょうもない事を考えつつ、先程から感じている頭部への圧力について思案してみる。


 ふむ、この感触は間違いなく膝枕と言うやつだね。前回は勿体ない事をしたからな。今回はじっくりと吟味するとしよう。


 ちなみに意識が覚醒してから目を開いていないので、未だにその正体を確認出来ていない。


 良し。まずは状況確認をしようか。俺が知る限り、可能性があるのは三人だ。


 第一候補はシャルロットさん。俺を気絶させた張本人だし、一番可能性が高いだろう。


 第二候補はラヴちゃん。彼女のことだからな、もしかしたら何処かで俺の様子を伺っていたかも知れない。


 大穴はアリス。……うん。言ったものの、まずありえないだろうな。あの性格だし。


 次に感触だ。そう思い、後頭部に触れる太腿と思われる部分に神経を集中させてみる。


 ――あれ? 思ったより硬いな。何だろう、しいて言うなら”丸太”かな。そして何やらいい香りがする。……ジャスミンの香水、かな?


 この時点で、まずラヴィニスではないな。消去法だが、恐らくこれはシャルロットだろう。


 成程ね。あの怪力の秘密は縦巻きロールではなく、強靭な足腰から来ていたのか! いやん。もしかして、脱いだら凄いタイプなんですか? そうなんですか!? 筋肉的にぃ~!


「目が覚めましたか? 我が主よ。ご気分は、如何でしょう?」

「えっ!? あ、あれルーアじゃないか! どうしてここに……?」

「ご期待に沿えず、申し訳ありません。今からでもラヴィニス殿をお呼びして――」

「い、いやいや! そんなことはないよルーア。大丈夫! ちゃんと気持ちよかったからっ!」


 「ただほら思ったよりしっかりしていたというか、硬かったっていうか……」などと、しどろもどろになりながらも何とかルーアを留める事が出来た。


 慌てていたので、自分が何を口走ったのかは定かでは無いけども。


 ふむ。確かにラヴィニスに膝枕してもらうのは捨てがたいが、流石に面と向かって言うのは恥ずかしい。それに何より、さっきの自分本位の妄想からくるどうしようもない想像イマジネーションが脳裏に浮かんでしまう。


 ムッキムキのラヴちゃんぇ……。あれ? 思ったよりも悪くないかも? ――いや、ダメダメダメっ!


 俺は頭を左右にブルブルと振るい、その凶悪なイメージをかき消した。


「そ、それで? どうしてルーアは此処に居るんだい? 確かキミ、私達と同様に挨拶へ向かったと思っていたんだけど……」


 その肢体を二度と思い出すことの無いよう、話題の転換を試みる。


「はい。その件は既に終えました。その後、昔懐かしいこの場で少々感慨に耽っていたのです。すると何やら主の気配を感じましたので、こうやって参上した次第です。そうしましたら――」

「俺が鼻血を垂れ流してぶっ倒れていた、と」

「その通りです。……お身体は、大丈夫ですか?」


 お身体は大丈夫です。でも、精神こころは駄目かも知れないです。つまりあれですか、放置されていたってことですか。――あんなことまでしておいてひどい! ひどすぎるわっ!


 美少女が鼻血を垂らしながら、失神している姿を想像した俺は憤る。後半冗談めかしたが、実は少しだけ鳩尾の左上部分がズキッと痛んだのは内緒である。


「我が主。心配なさらずとも、大丈夫です。先刻の無礼、我がきちんと成敗しておきました」


 そんな俺の心情を察したのか、慰めの言葉を掛けるルーア。


 成程、大丈夫なんだな? そうか、なら良いか。……ん? え、ちょっと待って。何が大丈夫なの? それに”成敗”とか不穏なワードが聞こえたけど、本当に大丈夫なのっ!?


 「今は横になってお休み下さい」と言うルーアに促されるままに、再び膝の上へと頭を下ろしてみる。


 相変わらずガッチリとしたルーアの太腿で彼女を背に横向きになり、何の気なしにふと目線を前に向けたその時だった。


 ――突如、女神が降臨したのである。


 ちょっと何言っているか分からないかも知れないが大丈夫。俺にも分からないのだ。思わず身体がビシィと固まった気もするが、大丈夫だ。これもきっと、気のせいに違いないのである。


 うん。そうだな、待て。落ち着こう。……良し。どうやらまた、状況を確認する時間が来たようだ。


 これは、うん。アレだ、見たことあるな? 確か中学の時の、美術の時間に。模写の課題でその資料を探してた時に、たまたま手にした分厚い本のとある一ページに描いてあった絵に相違ない。


 えーっと、名前は何だったかな。確か、フランス革命の時の有名なヤツだったんだけど――忘れた!


 今は持ってない――というか、機能が使えないから調べようがないけど、ネットで”フランス革命”、”おっぱい”で調べれば、多分出るであろうあの有名な女神の絵画だ!!


 いやー、当時は衝撃的だったよな。よくもまぁあんな物騒な凶器が学校にあったもんだ。


 美術担当の女の先生に、平面じゃ分からないので実物を――って言って、頭を小突かれた苦々しい記憶が蘇るな。……うん、暴力は良くないよね。


 そう考えると少し変だな。目の前の女神は絵画と言うより、どちらかと言えば彫像に近い。まず平面じゃなく立体だし、色も肌と胸以外はほぼ緑一色で統一されてるんだよね。


 ……うーん、分からん。だがしかし、美しい。何処の部分が、とは言わないが。


「お気に召しましたか? でしたら光栄です。実は私の密かな趣味なのですよ、芸術は」

「えっ!? もしかしてこの彫像、ルーアが作ったの?」

「はい。ちょうど良い()()が手に入りましたので。それにこの作品は、主の世界では有名なのでしょう? よろしければ、実際に触れて確認してみて下さい」

「えっ!? 良いの? 本当に?」

「当然です。主のために作りましたので。是非とも全身余すことなくじっくり、ねっぷりと」

「――うわあ! 柔らかい。凄いよルーア! 本物そっくりだ!」


 どうやら、この彫像はルーアの創作物らしい。そのクオリティの高さに驚愕し、また俺のために作ったという事実に衝撃を受ける。ちなみに。周りを囲む有象無象の集団は存在しない。


 なんて気の利く精霊さんなのだろう。感動した俺はがばっと起き上がり、そのお言葉に甘えて行動に移すことにした。


 ふぉぉっ。これ、凄い。本物にしか思えないな。イヴのとも、ラヴちゃんのとも違う新しい触感(ふわふわ)だ。おお!? ゆ、指が沈む! 巨乳……いや、”魔乳”と言っても良いだろう。


 成程ね、確かにこれは現実的ではない大きさだ。つまりは創作物なのだろう。いや、実にけしからん。


 一番目につく胸に、俺は迷いなく触れた。いや、男である限りこの誘惑には抗えないだろう。


 あぁ、女神様って本当に実在したんだなぁ。傷ついた心が癒されていくぅ。


 何故一部だけ肌色と桃色なのか(色が違うのか)。もう少しこの事実を冷静に考えることが出来たのなら、後にあのような事にならずに済んだのかも知れない。


「そんなにも嬉しそうに触れて頂けるとは。もしかしなくても、主は女性の胸が好きなのですか?」

「はっ!? 夢中になってた、恥ずかしい。そして、その質問の答えは”YES”だ! でもお尻の方が、もぉっと好きです!」

「ふふっ。それは何よりです。しかし本当に、主は正直な方ですね」


 ルーアは「故に本当に喜んでいただけたのが分かるのですが」と、続ける。どうしようもない性癖を暴露したというのに、特に嫌悪した様子も無い。


 イヴや椿沙のように大袈裟に「うわぁ」と反応してくれるのも悪くないが、素のまま受け入れられるのも中々に心地良いものなんだね。


 そんな率直な感想を抱いている俺は、もしかしなくてももう終わっているのかも知れない。


「そんな主に、実はもう一作品用意してあるのですよ」

「な、なんだってー! ルーアさん! 此度の貴殿の作品は、どのようなものなのですか!?」

「ふっ。お見せしよう、これこそ至高。我が美の境地。ヴィーナスの生誕、その全てである!」

「うおおっ! 素晴らしいよルーアさん! 美しいっ! まさに女神! よっ! 巨匠ー!」


 出て来たのはまたも女神。だが、その神秘な雰囲気は先程の非では無い。先程のがヒトの世の女神なら、今回のは神界の女神。美しさでいえば両者とも甲乙付け難いが、セクシーさで言うならば断然此方が上だろう。


 なにせ全裸なのだ。いや、正確には大事な部分は自身の髪で隠されている。ただ何故か、片方の胸だけは露わになっているのだけれど。


 これも見たことある有名なヤツだ! 先程とは違い、緑色の部分は髪色以外ほぼ存在しない。しかし何故か、貝では無く大きな奇妙な茸の上に乗っかっているのだが……。うん、深くは考えないでおこう。


「ふむ。そうであろう。この素体は実に素晴らしい。ほとんど手を加えずとも、憂いを帯びた表情、またその慎ましい胸や麗しき肢体。その全てが一致しているのだ」

「なるほどっ! 確かにこの造形はヴィーナスそのものだよ。流石だね、ルーアさん。よっ! 精霊界のボッティチェッリー!」


 ノリはともかく、その作品は実に素晴らしい。まさにヴィーナス。ふむ、成程。後ろはこうなっていたのか。立体って素晴らしいね。人類がVRに憧れるのは、こういう感動があるからなのかもしれないなぁ。眼福、眼福。


 美術の時間の時に、実はこの作品も見つけていた。どうしても女神の裸体の裏側が気になった俺は先生に「これでは分からないので、実際に脱いで見せて欲しい」と相談したら、()()()評価を”2”にされたんだよなぁ。


 大人になった今ならともかく、当時は純粋な知識欲からだったのに。解せぬ、全く以て解せぬ。


 軽く叩くと躍動する新鮮な桃のような美尻を眺めながら、そんな感想を抱く。いや、本当に本物にしか見えないな。むしろこれが本物じゃないなら、何が本物だというのだろう。


 そんなことを真剣に考え、思考が迷宮入りしてしまうほどには正気ではなかった。


 そして、時が動き出す。命を感じぬこの森に、まるで活力を与えるかの如く。


「……ん、んんぅ。痛ぁーい。ちょっとー。もう、なんな――」

「――え」

「――きゃああああっ! な、何してるの!? なんで私裸なの!?!? ちょっとやだ、動けない―!!」


 よくよく考えてみれば起こり得た事態。それが急速に展開していく。そしてその速さに、何が起こったか分からずに思考が停止していた俺は、当然の如く取り残されてしまう。


「目覚めたようだな。裸に剥かれ、少しは反省したか?」

「あ、貴方はさっきの――! だからぁ、私は関係ないって何度も――」

「では、何故あの場に居たのだ? 貴様も我が主をあのような目に合わせた一人であろう!」

「何度も言ったでしょー? 偶然だってぇ! ていうか放してよー。お嫁に行けなくなっちゃう~!」

「嫁に、だと? 貴様。嫁入り前の主の麗しいお顔を傷つけておきながら、よくも抜け抜けと! 本当にそうなりたくなければ、ふざけるのも大概にするが良いっ!」

「……もうやだぁ。この人も話が通じないー」


 雰囲気が激変したルーアが、アリスに問う。そのあまりのプレッシャーに、俺は思わず息を呑んでしまった。


 ちょ、ちょっと待って。どういうこと? な、何が起こってるの? じょ、状況を確認しないと……。


 ――ひぃぃっ! ちょっと待って、ルーアが怖いぃ。め、めっちゃ怒ってる。どうにも俺が原因みたいだけど。な、何でぇ?


 ていうかアリス。凄いなあいつ、大物だわ。自身はほぼ全裸の状態なのに、あの剣幕のルーアに詰問されてもいつもと雰囲気がほとんど変わらないんだけど。――って、やばっ!


「どうにも、反省が足らないようだ。仕方があるまい。――打ち伏せよっ! 蠢く蔓よ(アイビーベイビー)!」

「――――ッ!」 

「――ちょっ! 待ってルーア! どうしたの落ち着いて!? ――ほら、この通り大丈夫だから! ピンピンしてるでしょ! ね?」


 アリスに向けて、無数の茨状の鞭のような蔓を放つルーア。あのギザギザした形状の物体が露出している肌に触れたら、それは無残な傷跡を残すことになるだろう。


 焦った俺は、思わず身体を二人の直線状に割り込ませる。それが功を奏したのか、見る見るうちに蔓は萎え、地面と同化して消えていった。


 ……ふぅぅ。はぁ、怖かった。……おしっこ、ちびって無いよね?


 突如、アリスが地面に自由落下する。先程の蔓と同時に、彼女を拘束していたと思われる蔦も消失したらしい。


 何にせよ良かった。どうやらアリスにあの攻撃(ツル)は届かなかったみたいだ。俺の不甲斐なさのせいで、ルーアに誰かを傷つけて欲しくは無いからな。


「――守って、くれたのー? ……ありがとぉ」

「い、いやいや。むしろ巻き込んじゃってごめん。……あの子、私の身内なんだ。どうにも勘違いしてるみたいだから、ちょっと言って説明してくるね?」


 自身が羽織っていたブレザーを半ば放心状態のアリスに被せ、俺はささっとその場を後にした。何故だかお礼を言われたが、恐らく悪いのはこっちだと思う。


 状況は分からないが、状態はとてつもなく悪いのは分かる。……どうしてこうなった。どうやら俺は、身動きの取れない女性に対し、さんざっぱらセクシャルなハラスメントをしていたらしい。


 いや、確かに本物そっくりだったけど。まさか、本物だとは思わないでしょ!? うん、これはしょうがない。そうだよね?


 そういえば確かルーア、”成敗”とか”素体”とか人である事を匂わすような台詞を口走っていたような……。――ってことはもう一体の彫像は、もしかしなくてもシャルロットさん!?


 ま、待って! ちょっと待って! ラッキースケベと言うか、スケベを自発的にしちゃったよ!? これはアウトなのでは……。――い、いやいや。しょうがないのっ! だってほら、彫像だと思ってたから! ね? ほら、しょうがない。……そう、だよね?


「主よ。無茶をしてはいけません。もう少しで、貴方を傷つけてしまう所でした」

「いや、それは悪かったけども。ど、どうしてこんなことをしたの? あんな物騒なもので打ち付けたら、それこそ一生残る傷が出来ちゃうよ?」

「貴方様を囲み、意識を失うまで暴行した相手ですから。相応の罰を受けて頂かないと、私の気が済みません」

「――へっ!? あ、そういう事か! いや、アレは不幸な事故だったんだ。シャルロットさんもアリスも、別に俺を傷つけようとしたわけじゃないんだよ」


 ルーアが激高した理由は、恐らく目撃したからだろう。鳩尾を抱え悶絶し、鼻血を垂れ流していた俺を囲む二人の人物を。確かにあの状態のみを切り取ってみれば、私刑(リンチ)と勘違いしてもおかしくはない。


 俺のために怒ってくれたのは嬉しいことなのだが、流石にやり過ぎ感が否めない。恐らくだが、精霊(ルーア)人間()ではその辺の感覚に差異があるのだろう。


 これは早急に対応せねば、被害が拡大してしまう。最悪、何も学ばないうちに退学処分の可能性すら有りうるぞ。……既に、手遅れかも知れないけども。


 不味いな、正直何も良い案が浮かばないぞ? と、取り敢えずシャルロットさんも開放しないと!


 幸いまだ意識は無いみたいだ。あの時直ぐに気を失っちゃったから勘違いかも知れないが、かなり初心な反応をしていた気がするからな。この状況で目覚めたら、最悪トラウマになりかねない。……急がねばっ!


 彼女もどうやら先程のタイミングで解放されていたようだ。アリスと違って上半身だけ剥かれたらしい。


 成程、そうか。ツタのドレスを上から着せるから、下まで剥ぐ必要が無かったんだな。良し。これなら俺のシャツを着せるだけで何とかなりそうだ。


 ――って、あ、あれ? ボタンが届かない? ど、どうしよう全然隠れないよ? んー! だめだ、入らない。今の俺とそんなに身長変わらないはずなのに! この戦闘力を、今迄どうやって隠していたんだシャルロットさーん!


 その脅威的な胸囲の差に打ち拉がれる俺。心なしか、イヴさんが落ち込んでいるような雰囲気を感じる。だが済まん! 今はそれをフォローする余裕がないのだよっ!


「ふんっ! せいっ! てぇいっっ!」

「…………」


 よっし! 何とかボタン二つ止まった。でも、うわぁ。凄い、はち切れそう。俺の服の脇の辺りがちょっとビリッって言った気もするけど、気にしたら負けだよね?


 しかし、このままじゃ時間の問題だな。何か、何か無いものか――。


「我が主よ。もしや、その娘の洋服を探しておられるのですか? それでしたら、彼方に畳んで置いてありますが――」

「なぬっ! ちょっとぉ、早く言ってよー。わわっ、凄い! ピシッと綺麗に畳んであるじゃん!! ……あれ? でも、ブラ的なものがないよ?」

「申し訳ありません。お邪魔になっては、と思いまして。それに、ブラとは何でしょう? 仮に主の付けているのと同種の物であるならば、元々着用していませんでしたよ?」

「え!? ノーブラなの!?!? いやん。見かけによらず大胆なんだね、シャルロットさん」

「………………あの、その」


 ――って、言ってる場合かっ! 早くしないと決壊するぞ? まずい、不味すぎる。あのボタンが弾けたら、守るものがもう何もない。二つの大玉西瓜が氾濫してしまう~。


 ん? なんだ、あるじゃんブラ。って、へっ!? 紐のショーツもあるよ!?!? しかも黒って、大胆どころか飛んだビッ――もといドエロじゃないか! 見損なったよ、シャルロットさん!?


 うわぁ、凄い。ちょっと透けてるじゃん。カットも大胆だし、セットのブラも上半分スケスケだよ? これ、人によっては周辺状況が見えちゃうんじゃないの? うわぁ。


「ねぇ、返してよー? それ、私の下着なの~」

「え!? このエッチな下着、アリスのなの!? 言われてみれば、”コレ”じゃシャルロットさんのははみ出しちゃうか」

「ちょっとぉ。なんで私は呼び捨てで、シャルルは”さん”付けなのー? ひどくないー? それにぃ、アイちゃんのよりは私の方がありますぅ」

「――アイちゃんっ!?」

「……………………」


 完全に自分を取り戻したのか、いつも通りの調子でそう話すアリス。何故か急にちゃん付けで呼ばれてるのですが、何時の間にそんなに仲良くなりましたっけ? まぁ俺も呼び捨てで呼んじゃったし、お互いさまといえばそれまでか。


 ――って、え? ちょ、ちょっとお嬢さん? 流石に仁王立ちは不味いのでは? 俺が貸したブレザーを肩に羽織っているのは良いとして、その他に身を護るものを何も身に着けていないんだよ? つまりそのなんだ、まるっと全部、見えてるよ?


「なぁ!? ちょっ、ちょっとアリス! みっ、見えてるよっ!? 包み隠さず諸々全部、見えちゃってるよっ!?!?」

「えー。もう今更だしぃ、別に良いでしょー? それにぃ、女の子通しだしー」

「え、い、いやぁ。それは、そうなんだけど? ほ、ほら! ルーアもいるじゃんか!」

「その彼が私を裸にしたんだしぃ、それも今更だよー? ――そうだ。アイちゃん彼の身内なんでしょ? 責任とってぇ、私に”ソレ”を履かせてよ~」

「何でっ!? おかしくない!?!? 自分で履いてよ! 履けるでしょー!?」

「……はーん。そういうこと言うんだー。じゃあこの事ぉ、シャルルと先生に伝えちゃおっかな~? 色々とぉ、大丈夫かなー?」

「わ、分かった分かった! 履かせてあげるからっ! 分かったから回り込んできて見せ付けないでぇ」

「……………………クスン」


 なになになんなのこの娘!? 飛んだビッ――チじゃないかっ! もう良いや、この娘はビッチです! 


 見えないように目線を逸らしてたのにわざわざ回り込んでくるし、しょうがないから履かせようとしているのに、ほらっ! お尻突き出して、フリフリと揺らしてくるし! 絶対わざとでしょっ!?


 何がそんなに楽しいんだか、クスクスと笑い続けるアリス。この突き出された桃尻が真っ赤な林檎の様に腫れるまで、ひっぱたいてやろうかぁ? この野郎っ!


 以降着せ終わるまでそんな調子で終始狼狽していた俺は、最後にちょっとした仕返しとしてその尻を軽く引っ叩き、アリスをポイッと放り投げ捨てた。


 「きゃぁ! もうなにぃ、やっぱりお尻が好きなのー? えっちぃ』とか何とかほざいているが、もう知らなし、気にもしない。


 そんな事より、シャルロットさんに服を着せなければならない。よくよく考えてみたら、別に畳んであった上着をそのまま着せれば良いのではとの考えに至ったのである。


 すまん、待たせたな。漸くその苦しみから解き放ってあげることが出来そうだ。どうか安心してほしい。この中(ブレザー)なら、いつでも君を受け止められる。


 そんな馬鹿なことを心の中で嘯きながら、正面から彼女を包み込むようにして上着を掛ける。


「…………ア、アイヴィスさん――」


 そして、その前方のボタンを閉めようとしたその時だった。泣きそうな、いや。既に涙を湛えているであろう鼻声で、俺を呼ぶ女性の声が聞こえたのだ。


 恐る恐るその声が聞こえた方向へと目線を上げてみると……何という事でしょう。その視界には、まるで暴漢に襲われ怯え、すすり泣くしか許されないと言わんばかりの悲劇の女性の表情が移りこんでくるではありませんか。


「ふぁっ! シ、シャルロットさんんんっ!? ま、ままま、待って下さい! これは違うのです、誤解なのです。その、これはその決してエロい事をしている訳では無くてですね――って、痛っ! あいたっ!?」


 な、ななな、何という事でしょう。先程までギリギリの所で耐えに耐え続けていた二つの防御結界が、覚醒によって取り戻された魔力(魔乳の圧力)によって決壊してしまったではありませんか。


 ど、どどど、どうすればいい!? こっ、このままではうら若き清き女性が、心に永遠に癒えぬ傷を負ってしまう! こっ、こここ、こうなったらしょうがないっ! えぇーい、ままよっっ!!


「きゃああああっ!! ――ちょっ! あんっ! あ、アイヴィスさぁん!? ふあぁぁんっ!!」

「す、すすす、すいませんシャルロットさん! で、でもこうするしかないのです! そうしないと貴女の精神こころが傷ついてしまうのです!」

「な、何をおっしゃって――はぁん! ちょっ、お手を触れないで下さ――あっ!? あ、あぁぁ……だ、駄目ぇ」

「大丈夫です! もう少しですから! もう少しだけ、我慢して下さ、いっ!!」

「――ふぁああああああああっ!?!? ……んっ、んんぅ」


 よし! 今度こそバッチリ留まったぞ! もう大丈夫、魔乳。完・全・封・印!。いやあ。良いことをすると、気持ちが良いねっ!


《疑問。気持ちよかったのは、くだんの魔乳を揉みしだいたからではありませんか?》


 ふぁっ!? びっ、びっくりさせないでくれよイヴ。それに違うぞ? あの行為は一見するとただのセクハラにしか見えない。だが、しかーし! その実清廉潔白な女性を御心を護るための尊き行いなのであるの事よっ!?


《謝罪。その様な高貴なお考えとは露知らず、差し出がましい事を申しました》


 あれ? なんかイヴ。もしかして何か、ちょっと怒ってません?


《通告。気のせいです》


 そうか? なら、良いんだけど……。本当に?


《通告。本当です。私の時はすぐに手を放し、以降の接触も最低限に努めていることなど全く気にしておりません》


 やっぱり怒ってる! いや、分かるだろ? 別に蔑ろにしてるわけじゃなくて、むしろ大事に思っているからこそであってだな? ていうかこの身体って、確か鈴音さんのだったんじゃ――。


《通告。…………》


 だ、だんまりさんになっちまったぞ。ど、どういうことなの? ちゃんと通知を告示して!?


「それで……あの、アイヴィス、様? その。そろそろお手を放しては、下さいませんか?」

「あ! ご、ごめんシャルロットさん。……ん? どうしたの? そんな見つめて――」

「い、いえっ! 何でもありませんわ、アイヴィス様。お気になさらないで下さいまし」


 じー……。という擬音が聞こえそうな程、俺の顔を見つめるシャルロットさん。


 ていうか何? なんで急に”様”付けで呼ばれてるの!? ちょ、ちょっと待って? 彼女といいイヴといい、一体何がどうしたっていうの?


 「うわぁ、ノンケのシャルルを堕とすなんて。アイちゃんやるなー」などというアリスの呑気な声が俺の右耳から入り、左耳から抜けていった。


《理解。成程。心的外傷(トラウマ)にならなかったようですが、新たな感情が発現――つまり、恋をしてしまったようですね》


 待って! な、何でっ!? 嫌われるならともかく、好かれるような事は一切してないよ!?!?


《推論。他者に乱暴に触れられるという行為そのものが、それほどに衝撃だったのでしょう。良かったですねマスター。おっしゃっていた通り、彼女の精神こころは守られたようですよ?》


 嘘でしょっ!? それってホントに守れてる? ぎ、ギリギリアウトのラインじゃない? ど、どうしてこうなった……。


《追伸。それにシャルロットだけの話ではなさそうですよ? 本当にどうしようもないマスター(すけこまし)ですね》


 え? なになにどういう事? 全く付いていけないんだけど……。ていうか今、純粋に悪口言ったでしょう! そもそも今女性(鈴音さん)の姿だし、騙したことも今の一度もないからね!?


《…………》


 ま、まただんまりさんに……。一体、今日のイヴさんに何が起こっているのだろう……?


「お二方は、我が主のご友人であられたのですか。その様な事実とは露知らず、先程のご無礼、誠に申し訳ございませんでした。何卒、お許し下さい」

「ルーアさんでしたか。――いえ、私も悪かったのです。舞い上がってしまっていて、アイヴィス様のご都合を蔑ろにしてしまいましたの。此方こそ、申し訳ございませんわ」

「裸に剥かれた時は流石に貞操の危機を感じたけどぉ、結果として無事だったみたいだしー。それに、アイちゃんとも仲良くなれたからぁ、モーマンタイー」


 疑問符で頭を埋め尽くされた俺を置き去りにして、どうやら三人は無事和解を果たしたようだ。


 その内容をよく聞いていなかったが、一点引っかかる点があった。脳のキャパを軽くオーバーしてた俺は、その言わなくてもいい一言をボソッと呟いてしまう。


「え? 貞操? てっきり――」

「てっきり、なにぃ? もしかしてぇ、アイちゃんてば私のこと淫売か何かだと思ってたのー? 私だってぇ、シャルル程じゃないけどお嬢様なんだよー? ひどいぃ、先生に言ってやるぅ」


 し、しまった! どういう訳か分からないが、あのまま行けば大きな問題にならずに丸く収まりそうだったのに!


 こ、こここ、こういう時は褒め倒すしかないっ! そんな簡単に上手くいくとも思えないけども、遮二無二にでもやるしかないっ!!


「ま、待って。そんなことないって! そ、そう! そんなに可愛くて、神話上の女神みたいなアリスのことを放っておくなんて、この学園の男子は不能の集まりなのかなって思っただけだから!! ね?」

「か、可愛い? そ、それにぃ女神だなんてー? んもう、やだぁ。褒め過ぎー」


 お? あ、あれ? なんかこのまま押し切れそうだぞ? ……成程ね。お嬢様(世間知らず)だっていうのは、あながち間違いでもないってことか! そうと分かったら、攻めて攻めて攻めまくるのみっ!!


「――そんなことないっ! 実際に、そう感じたんだよ! そのせいでつい、我を忘れて触れたくなっちゃって、その、あんなこと(お尻ペンペン)を……」

「ふ、ふーん。アイちゃんってば、自分と同じ女の子の身体なのにぃ、こ、興奮しちゃったってことー?」

「め、面目ない、です」

「なるほどぉ、アイちゃんはー、女の子が好きなんだねー?」

「え!? い、いや違――」

「違うのぉ? 本当にー?」

「――くはないです。どちらかと言えば大好きです、はい」

「やだぁ、変態さんだー」

「そうですの。……アイヴィス様は、婦人レディがお好きなのですわね」


 あれぇ? なんか逆に責められるような……。でもこの状況で嘘をつくのは危険な気がするし。うん、しょうがない。嘘つきは泥棒の始まりっていうしね?


 変態ではなく、紳士と呼んでいただきたい。今は女子だけど! そして確かに継承された技能の中に”変体”とかいう謎の技能があるけれども! うん、そうだな。今度機会があったら試してみよう。


 それにシャルロットさんも納得しないで? 一般的な嗜好じゃないからね? 俺自身は、特に偏見とかはない――というか、ほんの少しだけ興味があるけども。


 そのままキッとした表情を浮かべ、おもむろに上着へと手を掛けるシャルロット。


 あの? シャルロットさん? なんで俺がやっとの思いで止めたボタンを、外し始めてるの? ちょ! ねぇ氾濫したよ!? 再び魔乳が大河に踊り出ちゃったよ!?!? もしかしてお嬢様って痴女しかいないの!?!?!?


「あ、あのシャルロットさん? 一体全体、何をなさっているので?」

「? お借りしていたブラウスをお返ししようと思いまして」

「な、なるほどね! いやぁ、てっきり露出にまで目覚めてしまったかと……」

「露出? 嫌ですわ、私を痴女扱いなさるなんて。……もしかして、そちらの方が好みなのですか?」

「そんなことないです! やっぱり女性は、恥じらいが大事だと思います! なので見せ付けないでぇ」


 なんてこった! どうしてこうなった! シャルロットさんまでアリスみたいに処女ビッチ化してしまうなんて! いや、もしかしたらこう見えて経験豊富なのかもしれないけども!?


「何やら失礼なことを考えてはおられませんか? ……酷いお人ですわ。――他者に触れられたことも、見られたことですら、初めての経験でしたのよ?」

「ギックゥ。いや、そんなまっさか~。アリスと違って、何処からどう見ても清廉潔白な聖女のような女性にしか見えていませんって」

「……ふーん。私はどう見えていたのかなぁ、気になるなー?」

「どう見ても女神です、ありがとうございます。そしてシャルロットさん、これ多分私のブラウスじゃないです」

「それは、私のですわ。……その、アリスさんの様に、着替えさせては下さいませんか?」

「おお、まさに完璧な恥じらい! よし来た任せて下さい、な? ってちがーう!」


 くっそぉ、何だこの板挟み状態は! 助けてラヴィニス! 何やっても裏目に出ちゃうんだ。もしかしたら俺って、駄目な子なのかも知れない~。


 あぁ、目を潤ませて見つめないでシャルロットさん。……分かった、やるから。やらせて下さい。


 はー、成程。このコルセット? が下着の変わりってことなんだね。うんうん、中世のヨーロッパっぽくて良いね。……付け方が分からないけど、多分これで合ってるよね? ま、まぁ最終的に上に羽織るだろうし、これで良いか。


 しかしアレだな。街並みとか服装とかでみれば、むしろアリスの様な下着の方が不自然なんだよね。俺も似た様なの()()()()()()()()から特に違和感を感じなかったよ。


 厳密に言えばここはアヴィスフィアっていう別世界みたいだし、そもそも何が常識なのかも分からないな。


「ほい。出来たよー。多分これで、大丈夫!」

「ありがとうございます、アイヴィス様」

「シャルロットさん。その、アイヴィス様ってのやめない? 堅苦しいというか、恥ずかしいというか……ラヴちゃんと被ってるというか」


 何で様呼びになったのかは分からないけど、その呼び方はラヴちゃんみたいな騎士様に言って欲しいんだよね、俺的に。特に、深い意味は無いんだけどね?


「それでは、何とお呼びしたら良いでしょう?」

「え? そうだなぁ。じゃあアリスみたいに、”アイちゃん”って呼んでよ」

「わ、分かりましたわアイちゃん、様。では、私のことも”シャルル”とお呼び下さいまし」

「……ま、まぁ良いか。分かったよシャルル。これからもよろしくね!」


 ――は、はい。よろしくお願い致しますわ。とシャルロット。にっこり微笑みかけたはずなのに、そっぽ剥かれちゃったぞ? そのせいでよく聞き取れなかったし、本当にこれから大丈夫なのだろうか?


「流石は我が主。早速二柱の女神を篭絡させるとは……。その魅力たるはまさに神秘の如しと言った所なのですね」

「うん、ルーア。ちょっと何言ってるか分からないし、こうなった原因の一つはキミでもあるんだから、ちゃんと反省してね?」


 そんな「解せぬ」とでも言いたげな表情しても、駄目なんだからね。



 度重なるトラブルに巻き込み巻き込まれた彼らを、息吹無き森が優しく包む。夕闇に陰り始めた虚ろな木々も、賑やかな喧噪に包まれ迷惑そうに、しかし何処か目を細め懐かしんでいるようにも見える。


 そんな雰囲気など知らぬとばかりに「アイちゃん、シャルルー? 練習しないと時間がどんどん過ぎちゃうよぉ」とアリスが気の抜けた声を響かせ、今度こそ魔法の特訓へと没入するアイヴィスと愉快な友人達なのであった。

次はバトルシーンに移行しようと考えています。どうなるかは、分かりませんが。

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