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アヴィスフィア リメイク前  作者: 無色。
一章 皇女の軌跡
20/55

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「アイヴィスさん! こんな所にいらっしゃったのですね! 全くわたくしのパートナーとしての自覚が足りないのでは無いですか!?」

「うげぇ! シャルロットさん! どうしてここが分かったんだ……」

「うげぇ、じゃないですわ! それにまたそんな男勝りな言葉遣いをされて、女性としての自覚も足りていないようですわね。しょうがありません。この際ですから、作法も纏めてこの私がお教えして差し上げましょう!」

「うへぇ。勘弁してよぉ……。……ラヴちゃん助けてぇ」


 突然だがわたくしことアイヴィスは、童話に出てきそうな縦巻きロールの女性にずりずりと引っ張られている。物語と少し異なる点は髪色が金髪ではなく、青みがかったグリーンであるという事実だろうか。


 運命とは数奇なもので、ただ真面目に勉強をしようと息まいて学園に入学、もとい転入したのだが、気が付けばまた癖の強めな女性に絡まれているというわけである。


 何故だ。どうせなら俺が男だった時に出会いたか――いや、出来ればもう少し大人しくて可憐な女性の方が良いんだが。


「何か、失礼なことを考えてはおられませんか?」

「えっ!? い、いやいやまっさかー。さっきの魔法が失敗した原因について、少しばかりの考察してただけ、だよ?」

「どうも怪しいですわね。まぁ、それは良いですわ。この私にお任せなさいっ! 手取り足取りみっちりとお教えして差し上げますわっ!」

「ひぁぁ。ホント大丈夫だから、自分で考えるって――いやあぁぁぁっ!」


 ずりずりずりぃ。俺の必死? な抵抗も虚しく、エメラルド色の縦巻きロール少女シャルロットによって、学園内にある修練場へと強制連行されるのだった。



 さてでは、なぜ今俺がこんな状況になっているのかの説明から始めよう。


 後冬八月。現代日本で言えば、二月に当たる月。俺はこのアインズ魔法学院に、ラヴィニスとルーアと共に転入という形で通う運びとなった。


 学年で言えば、一年生の最後の月ということになる。転入時期としては少々タイミングが早い。元々目立つ転入生だ。色々と勘ぐられることもあるだろう。


 それでもまさか、初日からトラブルに巻き込まれるとは思わなかったけども。


 つぐみんの案内で女子寮の一室まで到着した俺達は、腰を落ち着かせることも無くそのまま各々の教室への挨拶に向かうことになった。


 ――と言っても、手荷物以外の全てはイサギさんが用意してくれていたんだけどね。


 ちなみにルーアは一人でお留守番だ。何より、本人も元々そのつもりだったらしい。


 ……ごそごそと部屋に用意されていた鞄を漁っていたのは、少しばかり気になったけども。


 あまりにも性急な決定事項だったので少し忙しないが、元々そういう予定になってるとつぐみんからも聞いていたから仕方が無い。


 ともあれそんな訳で、俺のキャンパスライフ学生編が華々しく? 開幕されることになったのだ。



 俺の教室は1-A。通称”A組”と呼ばれる教室らしい。通称も何も普通なのだが、なんかちょっと優秀な生徒になったような気分になるから不思議である。……気のせいなんだけどね?


「……コホン。ん! んんぅ! よし、行こう!」


 俺は少しドキドキする胸を軽く抑えながら、自分がこれから過ごす空間へとつながるドアをノックして、未知なる領域へと勇気を持って一歩踏み出した。


「失礼致します! 本日からお世話になるアイヴィスと言います! 一年が今にも終ろうという時期で恐縮ですが、何卒宜しくお願い致します!」


 良し。何とか噛まずに言えたぞ。……ふふっ。これでも中身は二十歳後半。社会人としての”いろは”は既に学んでいるのだよ。


 ほら、見ろ。生徒と思われる人達の驚いた顔。皆がお、お互いに顔を見合って、何やら話し始めたぞ。


 ふむ。掴みは完璧だな。我ながら、実に素晴らしい。これは早速俺の優秀っぷりが伝わってしまったかも知れないな。


 分かった、分かったから。そんな困った人を見るような目で見つめなくても大丈夫だって。社会に立つ若人に先輩の俺が――。……あれぇ? なんでそんな目で見られてるのかしらん?


「あ、あのー。まだ授業の最中なので、もう少し待って頂けないでしょうか?」

「――っ!! ……授業中、だと?」

「その、は、はい。まだ少々時間が掛かりますので、お部屋の方で今しばらくお待ちになっていて下さいね」

「…………。――失礼しましたっ! 待ってます、いつまでも待ってます! ではっ!」


 ぐっはぁぁぁっ。はっず! うわ、やば顔真っ赤になってない!? ああああっ! それはそうだよね! 授業あるよねっ!? 学校だもんねっっ!?!?


 うわあ、もう穴があったら入りたいっ! 成程。こういう気持ちなのか、ありがとう!? この歳でも学べる事ってあるんだね、うん。でも、知らなくても良かったーっ!! ぐおおっ!


《慰安。少なくともマスターのおっしゃった挨拶は、十二分に及第点でしたよ。ぷふっ》


 う、うんありがとうイヴ、大丈夫だよ。慰めてくれ――って、今笑ったでしょっ!? 絶対笑ったでしょっっ!?!?


《解答。気のせいです。……ふっ》


 くっそおおおおっ! 許すまじ! 俺マスターなのに! 主人なんだよっ!? 偉いんだよっっ!?!? くそおおおおっ!!


《理解。やはりマスターは、どのような姿になってもユニークですね。流石です》


 あぁぁ、もう馬鹿にしてっ! イヴなんかもう知らないんだからねっ!?


《謝罪。申し訳ありませんマスター。……おや? ロビーにどなたかいらっしゃいますよ?》


 くっ。解り易い話の逸らし方しおってからに……。全くホントに、誰に似たのやら。


 ――って、あれ? もしかしなくてもラヴィニスじゃないかっ!


 ふむ、ふむふむ。……成程、流石はラヴちゃん。何処かの意地悪なイヴさんと違って、同じ痛みを分かち合ってくれたんだね? いやぁ愛だね、素晴らしいねぇ。


《…………》


 だんまりさんになってしまったな。まぁ良いか。それより今はラヴちゃんだ。ふむ。少し俯いている様に見えるな。うん、大丈夫。その気持ち、分かるよ。うん、すっごく分かるから。


「ラヴィニス? どうしたの? なんか元気が無いみたいだけど……。大丈夫っ! 何があっても私が付いてるからねっっ!!」

「――あ、あああ、アイヴィス様ぁ! 会いたかった、会いたかったですぅ!」


 そんな俺の意図などお構いなしに、ぎゅうぅと全力でハグをするラヴィニス。


 思ったよりも過剰な反応にびっくりした俺は、その豊満な胸の中でされるがままになってしまう。


「ちょ! ら、ラヴちゃん!? ……う。く、苦しい……」

「はっ! ご、ごめんなさいアイヴィス様!」

「ぷはっ! 窒息するかと思った。……幸せな感触だったけども」

「すいません、すいません! ……その、寂しくなってしまいまして……」

「全くもう。ラヴちゃんはホントしょうがないなー。……ほら、こっちにおいで」


 例の衝撃的な告白の後、それまでとは比にならないくらい甘えん坊になったラヴィニスさんは、どうやらほんの数十分一緒に居ないだけで寂しくなってしまったらしい。


 あの日以来、俺とラヴィニスは常に共に生活している。これは比喩ではなく、いつ何時なんどきも一緒に行動している。食事や買い物、訓練はおろかお風呂も寝る時も……トイレも含め、”全て”である。


 流石にトイレはと思ったのだが、断ったときの悲しげな表情に根負けし、結局なすがままとなっているのが現状である。可愛いは正義というが「なるほど正義には敵わないな」と、何処かの悪役のような感想を抱いたのはここだけの内緒である。


 それにしても、今のラヴィニスはいつもに比べ少し様子がおかしい気がする。――いや、大袈裟なほど一緒に居たがるのはいつも通りなのだが、何やら少し身体が震えているのである。


「ラヴィニス、大丈夫? 何かあった? ――っ! もしかして、何かされたのか!? 待ってろ今俺が怒鳴り込んで――」

「だっ、大丈夫です! アイヴィス様っ! そういう訳では無いのです! な、なのでその可愛らしい二の腕をお仕舞いになって下さい!」

「でも、おかしいでしょ? あのラヴちゃんがそんな風に怯えるなんて! 大丈夫! ちょっと行って、軽くボコボコにしてくるだけだから! ね?」

「ああ! お優しいですアイヴィス様! ――って、違うんですっ! 本当に! だから良い笑顔で拳をポキポキ鳴らさないで下さいぃ!」


 野郎っ! いや野郎なのか小娘なのか知らんが、俺の(ラヴィニス)にこんな顔させやがって、許せねぇ! 軽く犯人ボコって、いつものキリッとした表情を取り戻させてやらんとな。


 そんな少々暴走気味にいきり立った俺を止めたのは、他ならぬラヴィニスだった。


 当人である彼女に止められて少し冷静になったが、どうにも腹の虫が収まらない。調子が狂う。モヤモヤする。どうしてそんな悲しそうな顔しているんだよ、ラヴ――いや椿沙ちゃん。


 そんな俺の疑問を表情から読み取ったのか、彼女は諦めたように一息つき口を開いた。


「私が不登校になっていた時期があると、以前お話ししましたよね?」

「中学校の時だったよね? 確か友達の手痛い裏切りが原因だって言ってたけど――」

「――はい。あの時初めて人間不信という感覚を、身をもって覚えました……」

「……辛かったんだね、椿沙ちゃん」

「う。あ、頭を撫でないで下さい先輩ぃ。……涙、出そうになっちゃいますよぅ」

「……よしよし、うん。良い子だ良い子だ」

「んもう、先輩の馬鹿ぁ。今の私は強いラヴィニスだからダメなんですってばぁ」

「だいじょぶだいじょぶモーマンタイ! 椿沙ちゃんの時は俺が守ったげるから。……でも、ラヴィニスの時は私を護ってね?」

「う。その笑顔はずるいです。――分かりました! 任せてくださいっ! ……私の事も、お願いしますね?」


 ぐふぅ。上目遣いで、その笑顔……。俺の負けだよラヴちゃん、可愛すぎる。好き。俺の嫁はこうでなくてはなぁ。あぁ、眼福眼福。


 うんうん。どうやら調子を取り戻したみたいだし、大丈夫そうだな。何があったかは分からないけど、恐らく学校という場所にいるだけでも思う所があるのかもしれない。


 気にはなるけど何だか元気を取り戻したみたいだし、わざわざぶり返さなくても良いな。そのうち、折を見て聞いてみるとしようか。


 ちなみにどうやらラヴィニスの方は、既に挨拶を済ませたらしい。クラスによって、授業の時間が違うのだろうか? もしかしたら日本のソレとは勝手が違うのかも知れないな。


 一抹の不安はあるものの、その場で合流した俺達はひとまず部屋へと戻ることにした。



「で、ルーアはなんでそんなフォーマルな格好しているんだい?」

「ああ。お帰りになられたのですか、我があるじよ」

「うん。部屋で待機しているようにと言われてね」

「成程、そうでしたか。この格好のことですが、イサギ様が用意して下さったのです。ブレザーというものだそうですよ」

「確かにブレザーはブレザーだけど……多分それ、タキシードだと思うよ? ほら、蝶ネクタイもあるみたいだし」

「蝶ネクタイ? これは一体、どういうものなのでしょう?」

「ん? 首につけるものだけど――。……ルーア、ちょっとこっちに来て中腰になって」


 部屋に戻って最初に目に飛び込んできたのは、黒のタキシードを身に纏ったルーアの姿だった。白磁のシャツが映え、元々スマートな彼女――見た目でいえば彼がより一層お洒落にみえる。


 しかし、何故にタキシードなのだろう。いや、嫌味なくらい似合っているんだけどね? ってちょ! シルクハットに、カマーバンド(腰に巻くやつ)まであるじゃんか!


 うん。とりあえずこれで良し! はー。いやしかしルーアさんったら、全くなんなんですかっ! めちゃくちゃ素晴らしいじゃないですかっっ!!


 コーヒーノキの葉と同色の落ち着いた髪も相まって、ほのかなダンディズムを醸し出しているのも実にグッドだね。


 でも、これめ滅茶苦茶目立つんじゃ……? ちらっと見た限りだと、生徒はみなブレザーを着用しているみたいだけど。……それにしても、だよなぁ。


 むむ? 何やらラヴィニスがこっちをジッと見てるけど、何だろう? もしかして、自分がやりたかったのかな? んー、まぁ良いか。


 あれ? ていうかもしかしてこの流れ、俺とラヴィニスのも用意されているんじゃ……。


「おお。これはこう身に着けるものだったのですね! ありがとうございます我が主。流石の博雅、御見逸れ致しました」

「そんな大げさな。……うんうんばっちりだね。カッコいいよ、ルーア」

「恐縮です。――そう言えば、此方にどうにも主のと思しき衣装も同封されていましたよ。御着替えになられては如なんでしょう?」

「あ、やっぱりあるのね。しっかしブレザーかー、俺学生時代学ランだったから少し興味あるな。うん。せっかくだし着替えてみよう。お、ラヴちゃんのもあるよ!」

「本当ですかっ! ああ、アイヴィス様と制服で学生生活できるなんて――っ! ……お姉ちゃん、ありがとう」


 おお! ブレザーってこんな感じなのか! 胸元が空きすぎて少し落ち着かないな。……俺の学校、襟の上のフックまで掛けないとどやされたからなぁ。


 何やら感極まっているラヴィニスを横目に、早速着替えを試みてみる。


 うむぅ。ネ、ネクタイが難しい……。あれ? こうかな、いやぁ。あ、あれ? ぐちゃぐちゃになっちゃったぞ。


「アイヴィス様。ちょっと貸して頂いてもよろしいですか? 私にお任せください!」


 おお! 流石、頼りになるなラヴちゃん。さっきもこっちをじっと見てたし、よっぽど結びたかったみたいだな。しかし――。


「なんだか、新婚夫婦みたいだ――ぐぇっ!」

「――なっ! ばっ、馬鹿な事をおっしゃらないで下さい! 全く、いつも突然変な事を口走るんですから……。んもぅ!」

「ちょ、ラヴちゃん……ぐるし……い゛ぃっ!!」

「――はっ!? す、すすす、すいませんアイヴィス様っ!」


 つい思ったことを口にしたばっかりに、ラヴちゃんの二段締めをくらってしまう俺。


 な、成程。口は災いの元とはいったものだ……な。


 はぁ、ちびるかと思った。流石に美少女の姿でパン一の上、失禁なんて無様を晒すわけにも行くまい。いや、()の姿でも嫌だけどさ。


 良し。ネクタイも何とかなったし、ズボンを履こう! って、あれ? み、見当たらないぞ? ……イサギさんにしては珍しいけど、もしかして入れ忘れたのかな?


「我が主。何時までも下着のままでいると、風邪を引いてしまいますよ?」

「あ、うん。それなんだけど、どうもイサギさんがズボンを入れ忘れちゃったみたいでね。全くもう、意外とおっちょこちょいさんなんだからー」

「? 主のはこれでは無いですか? サイズからして丁度だと思うのですが……」

「? ぷっ、あっはっは! だってそれスカートじゃんか。ルーアも冗談とか言うんだ……ね?」

「「…………」」

「……え、ええええええええっ!? お、俺がこれを履くの!? ……え? な、なんで急に! 今までパンツルックだったじゃんかーっ! 嘘だろ! ねぇ嘘だと言ってよ、イサギさあぁぁぁん!」


 ぐおお。まじか、え? 俺これ履くの!? いやいやいや流石に! 流石に無いでしょ!? だって俺、男だぜ? いや、見た目は美少女なんだけども。


 え? てかちょっ! なんか笑顔でラヴちゃんが近づいてくるんですけど! やっ、やめ――いやあぁぁぁああああっ!!



「――良いですか? 魔法とは何も、”特別なもの”ではありません。この世界に住むありとあらゆる人、その全てが行使する事が可能です。本人の努力と工夫次第で、如何ほどにもなるものなのですよ」


 二度目となってしまった自己紹介を無難に終え、俺は早速魔法科の授業に参加することになった。


 とは言っても、一年間の要点を軽く復習しながら談笑するレクリエーションに近い内容となっている。


 転入生である俺の目を見てひとつひとつ丁寧に説明してくれるのは、この教室の担任であるマーリン女史だ。聞くところによると、高名な魔術師のお孫さんらしい。


「せんせー! それはおかしいですよー? うちの獣人奴隷(ペット)は勿論使えないですしぃ、一部の人は使えませんよー? そうだよねぇ、一部のひとぉー?」

「「クス……クスクス……」」


 ことさら軽い口調で話す女子生徒。そして、その軽口に調子を合わせる様に忍に笑う取り巻きの女子。


 おお、何だこれ学生っぽい。懐かしすぎて、ちょっと涙出そう。いやー、あれからもう十年近くが経つんだもんなぁ。 


「アリスさん! そんなことはありません。確かに内包する魔力量や属性などは先天的に決まりますが、魔力を効率的に練ることにより結果として前者を上回ることも十二分に可能なのです」

「えー、でもでもー。私ぃ、授業に割り込んで自己紹介しちゃう様なおっちょこちょいさんには無理だと思うんですよぉ。魔力の操作って緻密ですよねー。うーん、無理だと思うなぁ……」


 ん? あ、なんだ俺のこと言ってたのか。いや、ホントお恥ずかしい。それに、二度目の紹介の時に魔法を使えないと言ったのも間違いだったかもな。考えてみたらここは魔法学園なんだし、使えるのはまず前提条件なんだよね。


 しかし、マーリン女史もそんなに大袈裟に反論したら余計歯向かうから止めた方が良いと思うんだけどなぁ。


 それに恥ずかしいと言えば、ラヴちゃんに無理矢理履かされたこのスカートもなんだよ、ね。……あー、落ち着かない。スース―するぅ。


 ふむ。アリス、ねぇ。性格はともかく、垂れ目が特徴的な美人さんだ。完全に憶測だけど、大人びた雰囲気といいその取り巻きといい、きっと良家のお嬢様なんだろうな。


 下手に噛みつくと厄介そうだし、適当にヘラヘラと笑っておこうか。


「あははー。いやぁ、お恥ずかしい。魔法を使えるかもと思ったら、気持ちばっか先走っちゃって、ね?」

「ま゛っ! アリス様に向かって、そんな軽々しい口調でお話しになるだなんて!」

「本当ですわ、信じられません! 全く。これだからこの学園の品位は疑われてしまうのではなくて?」

「まぁまぁステラさん、エステルさん。相手はおのぼりさんだからしょうがないよー。その位にして差し上げてー?」

「まぁ! 相変わらずお優しいですわ、アリス様」

「本当ですわ、素敵です! 貴女、アリス様の御仏の如きお慈悲に感謝なさい」

「は、はぁ。ありがとうございます?」


 うおっ。びっくりした。なんて剣幕だよおい。そして、距離も近いって。え、何? もしかしてこの世界の女子の距離感って、これが標準なのか?


 ま、なんでも良いか。しかし何やら漫画みたいな展開になってきちまったな。これ、どうやってオチをつけようか……。


 ちなみにこれは、落ち着かせるとオチをつけるを掛けてい――。


「貴女達っ! これからわたくし達の学友として共に励もうという新たな仲間に向かって、余りにも失礼が過ぎるのではありませんか!? 魔法が使えないのなら、使える様になるまで研鑽を積めば良いだけのお話ですわ!!」


 ――うおおっ!? な、なんだなんだ、本当に騒がしいクラスだなー。全く。


 ふむ。どうも俺を庇ってくれているらしいな。うーん。ありがたいんだが、ここで誰も何も言わなければ多分話は終わらせられたんだよね。


 ……オチが付かないから落ち着かず、気持ち的に”もにょっ”としただろうけども。


「えー、でもぉ。この時期に全く魔法が使えないんだよー? 今月末にはクラス対抗戦もあるしぃ、正直足手まといは要らないよー」

「全く以て、アリス様のおっしゃる通りですわ! ましてや今度の対抗戦は団体戦。来年の”選考科目優先権”もかかっていることはご存知の筈ですわ、シャルロットさん」

「本当ですわ、その通りです! 貴女は確か、唯でさえ枠の少ない精霊魔法を選考なされることに執着しておられたはず。その様なお甘い正論(世迷言)を言っている場合では無いのではなくて?」

「うっ! で、ですが私は、このクラスの委員長としての責任がございますわ! たとえ魔法が全く使えない()()()()()であろうと、学友を見捨てることなど出来ませんわ!」

「ぐふっ」


 うぐぅ、な、成程。援護射撃に見せかけたフレンドリーファイヤーだったか。恐らく悪気は無いんだろうけど、余計に厄介だな。


 しかしまぁ、本当にキャラが立ってるな。シャルロットっていう委員長さんなんて縦巻きロールだぜ? アレ、どうやってセットしてるんだろ。取り敢えず「――な、なんですってっ!?」とか、言って欲しい。


「それに、入学当初はアリスさんだって魔法を上手く扱えなかったではありませんか! それなのに――」

「あー、そう言えばそんな時期もあったかも。でもでもぉ、それだからこそ魔法を扱う大変さが分かるっていうのかなー? 来年を待たずに今転入するならぁ、それなりの魔法を使えないとー。ねぇ?」

「まさにその通りですわ」

「本当ですわ」

「うぅっ」


 その後もアリスが何かを言っては"ま"、"ほ"、"う"の繰り返し。流石は魔法、恐れ入ったぜ。耐性の無い俺にはまだ少々時期尚早だったようだ、な。


 何より呪文――話が、長すぎるから。……うん、終わるまで空いてる席に座ってしまおう。勝手に。


「――って、アイヴィスさん! 貴女の事でお話をしているんですわよ!? 何を何の気なしに私の隣の席へと座っているのですか!」


 ――怒られた、ごめんなさい。


 はぁ。要は一ヶ月以内に魔法を使えるようになれば良いわけね。ルーアの召喚も魔法の一種みたいだし、いけるいける。


「え。だって話が長いんだもん。それに転入しちゃったものはしょうがないでしょ? 一ヶ月もあれば大丈夫! 絶対何とかなるって!」

「「「「…………」」」」

「――あ、あれ? 私。なんかまた変な事、言っちゃった?」


 お、おかしいな。目の前の四人どころか、クラス中静かになっちゃったぞ? え、ちょっ! 何ならマーリン女史まで口をポカンと開けてるんですけど!


「あはははっ! あはっ、あははははははははっ! ……ふ、ふふ。あ、貴女ってぇホント面白いのねー。自分が何を言ってるのかぁ、分かってるのー? ふふ、はぁあ。久しぶりにこんなに笑ったわぁ」

「ま、まぁ。アリス様がこのようにお笑いになるなんて」

「ほ、本当ですわ、信じられません」


 おお、無邪気に笑うと年相応ってかんじで可愛らしいね。勿体ない。普段からそんな感じならもっと良いのにね。……まぁ、言わないけどね? 俺だって一応、空気くらいは読めるんですって。


 しかし、軽口を叩いてしまったが、この様子だと魔法って習得難度が高いみたいだな。


 ギルドの皆は何の気なく使ってたから、てっきり学べば直ぐにでも使えるものだと思ってたよ。


 これは”大言壮語”ってヤツだったか。うーむ、しかし撤回するのは格好悪いしなぁ。……ど、どうしよっかなー?


「…………よく、よくおっしゃいましたわアイヴィスさん! 貴女の覚悟、しかと見届けましたわ!!」

「ふぁっ!? な、ななな、何っ? なんで私の肩を掴むの!?」

「私は、とても感動しましたっ! えぇ、えぇ。この委員長たる私が、貴女のパートナーとして全力でサポートして差し上げますとも! ――アリスさんっ!!」

「うんうん大丈夫ー。私のことは良いからぁ、これからはアイヴィスさんに教えて差し上げてー?」

「え、えぇぇぇっ!? なんで勝手に決めてるの!? ていうか放してよー!!」


 ちょっ、なにこの娘! めっちゃ力強いんだけど! その華奢な身体の何処にそんな力を隠してるの? 縦巻きロールなの? やっぱりあの螺旋には、未知なる力が宿ってるとでも言うの?


 ていうかなんで勝手に俺の方針を決めてるんだよ! 正直面倒な予感しかしないから、御免被りたいんですけど!


 それにアリスぅ! もしかして、最初からこの娘を俺になすり付けるために絡んできたんじゃないだろうな!? あ、こらおい! ハンカチでヒラヒラとお別れの挨拶をするなっ!


 くぅ。これだから女ってやつは恐ろしい。てか、ちょっ! 言ってる間に何か連行されちゃいそうなんですけど――!


「マーリン先生! 修練場の使用許可を頂けませんか? 何せ時間がありません!」

「…………。――あっ! は、はい! 分かりました。此方で申請しておきますね」

「有難う御座います、先生。さて、アイヴィスさん! 早速私が、全霊を持ってビシバシと指導させて頂きますわ!」

「へっ!? なんでそうなるの!? ていうか先生止めないの!? 生徒が一人暴走していま――って、ああああっ!!」

「も、問題がないわけでは無いのですが、生徒通しで教え合うのも大事な――。……って、もう行ってしまわれましたね」


 こうして俺の学園生活は始まったのである。……想像とは大分違うものになってしまいそうではあるのだが。



「あれ? そういえば俺達、まだ自己紹介してなくね?」

「ね。縦巻きロール旋風が凄すぎて彼女、多分私達のこと認知してないと思うよ」

「だよな、くぅ。せっかく天使みたいな女の子と友達になれると思ったのになー」

「ねね。可愛かったよね、あんなに赤くなっちゃってさ。よっぽど魔法を使ってみたかったんだろうねぇ」


 嵐の去った後の教室では、その中心となった人物を除いたクラスメート達が談笑している。


 アリス一行の姿も見えない。やることをやったので、寮にでも帰ってしまったのだろうか。


 マーリン女史の「紹介も一応済みましたので、今日の所はここで解散と致します」との一言で、各々が好きなように行動しているので特に問題はない。


 アインズ魔法学園は、基本的に単位制である。授業に一定数出席することが求められ、その上で一年の節目節目の試験をクリアすることで次の学年へと進学するのである。


 今回のアイヴィスの転入は異例であり、単位数は免除されている。しかし、進学をするためには年度末の試験をクリアしなければならない。


 進学自体は個々の実績のみが作用する。しかし、二年目から始まる選考科目の修学人数は一年時の各クラス対抗戦を経て、各科目ごとの人数制限の総数が増減するのだ。


 議会で例えるなら、”議席数”のようなものだろうか。


 一年間研鑽を共にした仲間と協力し、そこで育んだであろう協調性を武器にクラス対抗で雌雄を決する。そして、その結果を以て”自分達の席”を獲得するのである。


 元々は選択科目の偏りを避けるために始めたものだったのだが、いつの間にか一年の集大成を披露する場として認識が変化していったのだ。


 当時の経営者はそこに目を付けたのか、この年末のクラス対抗戦を一大イベントとして内外に大々的に広めた。そしてその結果、各国がこぞって参加を表明し、ダイヤの原石を発掘する場となった。


 当然この場で目立った生徒は、将来の選択肢の幅が広がることは間違いない。故に、生徒である皆全てが一生懸命なのだ。


 それはたとえ一年生と言えども同じだ。ここで結果を残すことにより、来年以降に向けての確かなアドバンテージとなるのである。


「しかし間に合うのかねぇ、彼女は。魔法って、一朝一夕に出来るようになるようなもんじゃないだろ?」

「私に聞かれても分からないわよ。まぁ委員長があんなにやる気になっているし、多分何とかなるんじゃない?」

「相変わらず君は適当だなぁ。でも確かにアリスさんも、最初は全然だったもんな。当人は巻き込まれて迷惑そうだったけど、魔法を使えるようになったのって間違いなく委員長が根気よく付き合ったからだろうしな」

「それ。本人の前で口にしてないでしょうね? 私、何されても知らないよ?」

「い、言ってないって! アリスさん普段はあんな感じで緩いけど、怒るとめっちゃ怖いもんな」


 ジト目で口を滑らせた男子を睨む女子。睨まれた男子は慌てて手を振り、指摘を否定している。


 会話からも、シャルロットの元々のパートナーをしていたのはアリスだったらしいことが分かる。


 どうやらアリスは入学時、魔法を使えなかったようだ。そして、それを見兼ねて指導を申し出たのがシャルロットだったのだろう。


 二人の性格はどちらかと言えば正反対なので、どんな一年を送ったのか少々気になるところである。


「それなんだけど、どうも今年は開催しないかもしれないよ? もしくは規模縮小して外部を取り入れないとか、かな」

「え? 嘘、なんで? 聞いてないんだけど」

「なんでも家に出入りしている商人によると、ヴェニティアとこの国――アインズ皇国が戦争状態になったそうだよ」

「ええ! 何それやばくね? 俺らもこんなとこでしゃべってる場合じゃなくない!?」


 恐らくは大商人の息子と思われる男子が、二人の会話に加わった。


 語る内容はとてもタイムリーなもので、どうやら遂に両国は戦争に発展してしまったようだ。


 当然そんな重要な情報を聞き、身近に危険が迫っているのでは無いかと焦る先程まで会話していた男女二人。


 そしてそんな様子を見た商人の息子は、ハッとして訂正をする。


「あぁ。言い方が悪かったかも。正確には、諸国会議の決定でヴェニティアが代表してこの国の王家を処断するんだって」

「ん? つまり、どういうこと?」

「文字通りやりたい放題やってる女癖の悪いクソ王子と、それを影から支える狸ジジイを殺すって事だろ」

「ちょっと! 流石にそんなこと言ったら不味いんじゃない? でも、確かにざまーみろって感じだけどね」


 余りにもあんまりな言い方ではあるが、少し思慮の足らない男子の歯に衣着せぬ言葉や、一度周りの様子を伺い否定した女子がその後にボソッと呟いた本音からも、この国の王家の印象はどれだけ悪いのが伺える。


 何より既に王家が誅殺されるのは、決定された未来であると認識しているようにも思える。


 それもしょうがない事だろう。何せ規模が違う。この小国がどうあがいても周りを囲む一国にすら及ばないのは、語るまでもなく歴史が証明しているのである。


「でも大丈夫なのか? 俺達もやばくない?」

「それは問題ないと思うよ。ここはアインズ皇国であってアインズ皇国じゃないからね」

「何だっけ? チガイホーケン? 確かそんな感じのー」

「そうそう。何より戦力的にも、王家じゃここを落とすなんて不可能だからね」

「成程ね。でもじゃあなんで対抗戦が中止になるかも知れないんだ?」

「内はともかく外にまで範囲を伸ばすと、戦争状態を利用した悪人がこの学園に紛れ込むかも知れないからね」

「あー、居そう。火事場泥棒ってやつだね。はぁぁ、悪い人皆死刑にしちゃえば良いのにねー」


 その後も様々な話題を時間が許すまで話し込む学生達。既に先程の危機の話も、会話の波に流されてしまったようだ。


 それもしょうがない事だろう。何せ”戦争”と言っても、今一ピンとこないのだ。それこそがここ数十年続く平和の”代償”なのかも知れない。


 平和とは、尊いものである。守るべき命を未来に繋ぐ、かけがえのないものだ。これから先、未来永劫に続いて欲しいと誰もが願う、素晴らしき情勢だ。


 しかし、人は忘れる生き物である。次代に繋ぐ大事な大事な象徴(バトン)も、受け取り手次第でただの”木偶”に形を変えるだろう。


 何のために存在したのか。そのことを忘れたその時に、木偶は”塵”へと成り果てるだろう。


 象徴が消え去るその時に、待つのは果たして何なのか。――誰も知る由もないのであった。

久しぶりに一週間で書ききれました。やはりネタに走るとペンも走りますね。

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