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アヴィスフィア リメイク前  作者: 無色。
一章 皇女の軌跡
12/55

理想の嫁に告白された! 前編

全体的に長くなってしまったので、前後編にしました。

「ごめんなさい。もしかして、邪魔しちゃったかな?」


 第一声にそう話すのはアイヴィスだ。


 重力を無視したカイゼル髭のおっさんがノックした数刻後に飛び出て来たので、不味いことをしてしまったのでないかと彼の去った方向を眺めながらイサギに問いかけたところである。


「いや、問題ない。ただのクレーマーだよ。いきなり訪れてきたうえに喚き散らしてきてね、少々難儀していたところなんだ」

「ふーん。確かに偉そうなおっさんだったね。俺、ああはなりたくないなぁ」

「ふふ。まぁ実際偉い人でもあるからしょうがないんだけどね」

「え? そうなの?」

「ふむ。一応、この国の”皇帝の叔父”に当たる人だよ」

「へ!? ……つまり、”皇族”ってやつなの?」

「そうだね。特に前皇帝が倒られてからは、彼が第一人者としてこの国を治めているね」

「うぇ! 一番偉い人なの!? はぁぁ。あの髭は、伊達じゃないんだねぇ。……ていうか、イサギさんってもしかして大物だったりするの?」

「まさか。私はしがない商人だよ。日本でいえば、精々中小企業の社長ってところだね」

「それでも十分凄いと思うのだけれど……」


 自身の相対した――実際はすれ違っただけだが――人物が、思った以上の大物だったことに驚くアイヴィス。それに比べイサギは、いつもの茶飯事だからと軽く流している。


 そんな彼女を見てアイヴィスは「少し、認識を改めなければいけないのかもなぁ」などと、誰にも聞こえない呟きをするのであった。


「そんなことよりアイ。その手に持ってるのは、私にかい?」

「ん? あ! そうそう。結構上手く出来たからお裾分けー。やー、まだまだ俺も捨てたもんじゃありませんなー」

「これはシフォンケーキかな? ふむ。上に乗ってるのは生クリームだね」

「お、流石イサギさん。よく分かったねー」

「見れば分かるよ。それに、私の好物だしね」

「ちぇー。ギルドの人達は歓声を上げて驚いてたのになぁ」

「私も十分驚いているよ。まさか此方の世界でケーキを食べる機会があるとは思わなかったからね」

「ふーん。なら良いけど。ま、それより早速食べてみてよ!」


 アイヴィスに薦められ、生クリームがたっぷりとかかったシフォンケーキを口に運ぶイサギ。その甘さに驚いたのか、口に入れた習慣に目を見開き、黙々を咀嚼し始めた。


 いつの間にかイサギの机の上に肘をつきその表情を眺めていたアイヴィスは、その無心にケーキを口に運ぶ姿を見て満足そうににんまりと笑い、うんうんと頷いている。


「これは――。……美味しいな」

「ふっふっふ。たまには俺も、役に立つでしょう?」


 えっへんと薄い胸板を張り、腰に手を当ててドヤ顔を披露するアイヴィスさん。


 テンションが上がっているのか、動きの芸も細かくなっている。いつも通り、若干大袈裟ではあるが。


 あっと言う間に皿の上のケーキを平らげたイサギは、同じトレーに用意されていた珈琲を口に運び、ほっと息を付いている。


「むむ。この珈琲はかなり苦みが強いね。この辺のものじゃ無さそうだけど」

「あ、それ? ルーアもらった奴を焙煎したんだよ。あの品種は俺の好みに調整して貰ったやつだから、他より少し苦かったかも?」


 ちょっと味見させて。と、イサギの手から珈琲を受け取り口にするアイヴィス。


 言われるまま渡した彼女だったが、直後ハッとした表情をして彼の顔をじーっと眺め始めた。


「ヴェぇ、何コレにっがぁぁ。……おかしいな? これが美味しかったはずなのに。――ん? イサギさん、何でそんな真剣な顔でこっちを見てるのさ?」

「……間接キス」

「へ!? ちょっ!? そんな乙女みたいなこといきなり言わないでよ! て、照れるじゃんか……」


 アイヴィスのロブスタ種特有の強い苦みで青くした顔は、イサギのボソッとした呟きによって瞬く間に朱に染まっていく。


「……乙女だし、しょうがないだろう?」

「やっやめて。俺の姿で恥じらわないで、むず痒いぃぃ!」


 両の頬をポッと赤くし目を逸らしたイサギを見て、アイヴィスさんは頭を抱えウオォと天を仰いで悶絶している。


 自身の姿で乙女な仕草をされる。ある意味これ以上ない辱めである。


「む? ……言われてみれば確かにキミが私の姿で照れるのよりも、キミがキミ自身の身体で照れるのを眺める方が……萌えるな」

「ちょっと違う! ちょっと違うけど、確かに俺も自分の姿より所長が所長の姿で恥ずかしがるのが良い!」

「む。所長、か」

「ん? どうしたの?」


 少し斜め方向にズレた解釈をするイサギ。アイヴィスはそれを指摘しつつもどこか共感できるのか、最終的には同調を示している。


 しかし、当のイサギは自身の事を所長と呼ぶ彼に不満を感じたのだろう。表情を消して、唇をキュッと一文字にしている。


 ちなみにアイヴィスさんはその様子に全く気が付いていない。……抜けているのである。


「ふむ。キミもキミのこの身体もこの世界に慣れて来たみたいだから、そろそろ元に戻る準備を始めようか」

「!? 元に戻れるの? やったーっ!」


 それでも彼女はその不満そうな表情を一瞬で改め、違和感なく日常会話を再開する。どうやら両者にとって、とても重要な話になりそうだ。


 この世界にアイヴィスが来て、約一年と二ヶ月。一年ほど意識がなかったため実質二ヶ月程度の感覚しか無いだろうが、漸く彼は自身の身体に戻れるかも知れないのである。


 当然アイヴィスは歓喜し、それを内外から表すように軽く飛び跳ねて喜びを表現している。


「……そんなに私の身体でいるのは嫌かい?」

「――えっ!? いやいや、そんなはずないだろ! ちんまくて可愛いし、身体も軽いし。まだ上手く扱えないけど武術も魔法も出来て万能感半端ないし。何より、イヴと一体化したみたいで寂しくないしね」

「う……む。自分で言ったものの、そんなに褒められると少しむず痒いな。しかしならば、そのままの姿でも良いのではないか?」


 喜びを全身で表している姿に少しムッとしたのだろう。イサギはアイヴィスに対し、少し意地悪な質問を投げかけた。


 アイヴィスさんとしてもこの身体でいることは吝かではないため、少しワタワタしつつ反論している。


 そのあまりに素直な反論を聞き、自身で煽ったというのに照れを隠し切れないイサギは、「ではそもそも問題ないのでは?」というもっともな疑問を持った。


 直後。アイヴィスさんの動きがピタッと止まり、次第にフルフルと震え始めた。


 その様子からも並々ならぬ感情が伺える。まるで、噴火直前の活火山のようである。


「もう……もう……限界なんだよっ!!」

「――っ!?」

「毎日毎日朝から晩まで! 俺が……俺がどれだけ我慢していると思っているんだっ!?」

「――っ! 済まない、私はキミがそこまで不満に思――」

「朝起きたら隣に理想の嫁が俺を愛しそうに眺めていて! その嫁が常に一緒に行動し、甲斐甲斐しく世話をしてくれて! 俺の我儘に付き合い、訓練までしてくれる! この前の夕食のときだって!」

「――っ!? …………む?」

「あーんして下さい。あ、ほらお口についてますよ。今すぐ拭いて、差し上げますね……」

「…………」

「あ。んもう、駄目じゃないですか。服が汚れちゃいましたよ。着替えましょう? それとも、このままお風呂に入りますか入りましょう。大丈夫です、任せてください。ほら、では一緒に行きますよ?」

「…………」

「さっぱりしましたか? はい、顔色も良さそうですね。では、此方にいらして下さいね。……どうしました? こぉーこ。ここですよ? はい。そう、そこです。ではでは、おやすみなさいませ」

「…………ラヴちゃんぇ」

「おやすみじゃないよっ! 寝れないよ! 悶々として寝れないんだよ! もう無理、抱かせてよ! 駄目なら抱いて!? Hえっちがしたいんだよぉぉっ!」


 ハァハァと大きく息を切らせ、全力で自分の心情を吐露するアイヴィスさん。


 鬼気迫ったその表情は、まるでこれから戦場いくさば武士もののふのようである。


 ……その内容は、”ただどうしようもなく()()()()である”ということなのだけれども。


「も、申し訳ありませんアイヴィス様! まさか、そこまで不満を溜めていらっしゃっていたとは!」

「――っ!? らっららラヴちゃん? い、何時からそこに――」

「……クジャクさんに此方だと伺って、その。と、扉も開いてましたので……」

「――あ!? そう言えば、あのおっさんに気を取られてそのまま……」


 アイヴィスが恐る恐る背後を振り返り見ると、確かに扉はどう見ても全開となっていた。どおりでラヴィニスの接近に気が付かないわけである。


 そして、そこが解放されているということはつまり――。


「……ふむ。まずラヴィニスは間違いない。おそらく、団員達にも丸聞こえだっただろうね……」

「ぅああ……、恥ずかしいぃ……」


 アイヴィスさんの先程までの元気は何処へやら。顔を茹で上げた蛸のように真っ赤にし、自身の頭頂部に両手を当ててしゃがみこんでしまった。


 一方の当事者であるイサギも額に自身の掌を置いて肘をつき、悩ましそうにうーんと唸っている。


 そんな混沌とした中で何を思ったのだろう。ラヴィニスが突然その白く細い両腕でアイヴィスをガッと抱え込み、軽々と持ち上げて腰に携えてイサギをキッと睨みつけた。


「――ふぇ!? な、なななに? どうしたの? ら、ラヴちゃん?」

「アイヴィス様。わ、私にお任せ下さい! 貴方のご不満、その全てを解消して差し上げますから!」

「へっ!? え、ええ!? ちょ、ちょっと降ろして、何する気なの?」

「はははは、は、初めてですが! だっ、大丈夫です! その……優しく、致しますので……」

「ちょっ!? 待って降ろして大丈夫だからっ! イサギさんも見てないで助け――」

「アイヴィス様っ! ……いつまでも貴方を放っておく人なんかには、任せておけません! やはり私がお守りせねば……!」

「え? 何言って――ハッ! いや違うんだ、ラヴちゃんそれは勘違――」

「ではイサギ様、失礼致します!」

「ちょっ、ま――」


 バタンと扉を閉める音が部屋に響き渡る。


 ラヴィニスの勢いに唖然として引き留めるタイミングを失ったイサギは、誰も居なくなったその部屋でハトが豆鉄砲を食らったようにポカンとしている。


 そしてその日の夜からアイヴィスの別の意味で寝れぬ日々が続くのはそう、言うまでもないことなのであった……。


「……前回の失敗に捕らわれ、慎重になり過ぎていたかな。少し予定を早めないと、私の居場所が無くなってしまうかも知れないね」


 アイヴィスが連れ去られた方向を見ながら呟くのはイサギだ。ラヴィニスの言葉が刺さり、軽く放心状態だったらしい。


 何を考えているのだろう。過ぎ去った嵐の跡をぼんやりと眺め、冷めたコーヒーを啜るのだった。 

 


「……首尾は?」

「問題なし。既に私のとりことなっているわ」

「そう」

「予定より早いわね。何かあったのかしら?」

「敵が動いた」

「……そう。あの()もそろそろ限界だし、罰も十分でしょう」

「次の新月、接触」

「三日後に迎えが来るのね。……漸くあのお坊ちゃんから解放されると思うと、うっかり気が抜けそうだわ」

「気を付けて」

「! 珍しいわね、貴女が人の心配をするなんて。でも、大丈夫よぅ。私の()()と特性、知ってるでしょう? この三年、指の一本も触れさせていないわ」

「なら、良い」


 日が陰り、柔らかな橙色の西日が差し込む静かな夕暮れに、一人の人物と一つの影が会話をしている。


 端的な話し方が特徴的なその影は、短い言葉で一人の人物に指示を出す。


 落ち着いた声で淡々と会話をする影と一人。


 特に一人である彼女を知る人がその姿を見たら、思わず目を見開いて驚くだろう。


 特徴的な垂れた()()の長耳に手を掛け、ファサっと靡かせる一人の獣人女性。その姿は幻想的で見るものを魅了する魔性の様相を呈している。


「いよいよなのね。ちょっと年甲斐もなくドキドキしてきたわ」

「分かる」

「貴女もなの? 珍しいわね」

「…………」

「彼女は元気? どうせまだ、生きてるんでしょう?」

「うん」

「はぁ、一途ねぇ。……私も人のこと、言えないけど」

「…………」

「あの人は……?」

「試練、でもきっと大丈夫」

「そう、これからなの……。でもそうね、大丈夫よね」


 ふふっと笑みをこぼし微笑み、口下手な友人と同じ言葉を紡いだ。万感の思いからか、愁いを帯びたその表情は夕闇に溶け込み、まるで物語の一枚絵の様に一体化している。


「ココ! どこにおるのだココ! 余が帰ったぞ、出迎えよ!」

「エル様! 少々お待ちください、ただいま参ります!」

「(ちっ、こっちも予定より早いじゃない。じゃ、またね)」

「うん、また」


 影が、水面に沈み込むように一人の()()()()トプンと消える。


 「お早いお着きですね、会談はもうよろしいのですか?」とココと呼ばれた()()の獣人が、エル様――つまりはエルクドの声に答える。


「余が居ずとも、小難しいことは全て叔父上が決めて下さる。それよりお主に一刻も早く会いたくての」

「まぁ。ココは、嬉しゅう存じます」

「相変わらず愛い奴よ。今宵も余がたっぷりと可愛がってやろう」

「もう、昨晩もあんなになさったというのに。そんなに私を苛めたいのですかぁ」

「仕方が無かろう。あれが余の、親愛表現なのだ」

「んもぅ。……せめて御慈悲を、下さいませんか?」

「はっはっは、無理を申すな。恨むなら、自身のその嗜虐心をそそる容姿と仕草を恨むのだ。それ!」

「ふぁんっ! ……えっちぃ」


 ピシャリと打てば跳ねるように返ってくる瑞々しいその尻は、エルクドのお気に入りである。


 それにしても三年前に比べ、二人の間はかなり親密な関係となっているようだ。


 エルクドは当時からココを大層気に入っていたが、それは今となってもさらに増しているようだ。


 度重なる執拗な責め苦を与えても壊れず、いつまでも彼の嗜虐心を満たしてくれる。


 その上容姿も整っていてスタイルも抜群ともなれば、もはや手放す理由など何も無いのだろう。


 結果。何時の間にか普段の生活において、エルクドはココを比較的大事に扱う様になっていた。


 見方によれば、仲睦まじい恋人のようでもある。


 ……その思いは実は、悲しいほどに真っ直ぐ一方通行であるのだけれど。


 エルクドが有する奴隷の中にココを除くもう一人の”特別”が居るが、常に侍らせているのはこのココのみである。


 すっかり夜が更け、窓の外には深く暗い闇が広がっている。エルクドの後を静々と俯きながら歩く白兎。その夜空と二人には、今夜に限りいつもと異なる共通点があった。


 月と兎。一日の夜と皇国の夜。夜闇に浮かぶ下弦の月は今宵の兎とよく似た表情でただただ静かに嗤い合う。それが示すは何なのか。ただ一つ言えることがあるならば、明けない夜など無いのである。



「ふむ。アイ。思ったよりも、元気そうだね?」

「ハハ……。そう見えるのなら眼科に行くことをお勧めしますよ、イサギさん」

「ぶっすぅ。アイヴィス様の、強情っぱりぃ」

「うぅ。ほ、ほら、せっかくの可愛いお顔が台無しだよ、ラヴちゃん」


 先日の一件以降、ラヴィニスのスキンシップは一層過激なものへと変化した。


 どうにか最後の一線だけは死守しているが、このままでは時間の問題だとアイヴィス自身自覚している。


 それを物語るかのようにラヴィニスの目は、日に日に獲物を狩る狩人の光を宿し始めている。


 今は可愛いと言われたせいなのか、軽く膨らませた頬を染めてそっぽを向いてはいるが。


「ほほぅ。その様子だと()()みたいだねぇ?」

「――っ!」

「あのぅ、イサギさん? あんまりラヴちゃんを煽んないで欲しいのだけど……。洒落にならんので」

「ああ、済まない。私としても、何時抜け駆けされるか気が気で無くて、ね?」

「……あれ? もしかして俺、どっちにしろ貞操の危機だったりする?」


 このままラヴィニスに襲われるのが先か、イサギに迫られるのが先か、それとも両方なのかとか考えて身震いをするアイヴィスさん。


 今はか弱い少女なので、ひとたまりもないだろう。


 「美女に襲われるのは百歩譲ってアリだとして、自分の姿をした男性に襲われるのは流石にナシだよな?」などと、混乱の余り突拍子もないことを考えてしまう。


「ふふ。モテる男は辛いねぇ。それに――そもそもキミがいけないのだからね?」

「俺がモテる? ははっ、冗談にしてはユニークさが足りないね! それにいけないこともしてない!」

「――してるっ! き、キミこそ私や椿沙に散々っぱら! ……好きだの愛してるだのと質の悪い冗談を言ってきただろう? この、たらしゅうやっ!」

「だからあれは冗談じゃなくて本気だって、何度も言っているでしょう? それに二人以外にはそんなこと言ったことないし。……ていうか、たらしゅうやて」


 ハァハァと荒い息遣いとなるイサギとアイヴィス。


 ラヴィニスはラヴィニスでその()()()()を面白く無さそうに眺め、さらにぷくっと頬を膨らませている。


 アイヴィスとしても、むしろ流されていたのは自分だっただろうと感じていた。


 どんな”好き”の形であれ、そこに嘘や偽りなどは一切合切無いのである、と。


《唖然。どうしてこう感情的になってしまうのでしょう?》


 ――うおっ! な、なんだイヴさんか。……何だか分からないけど、久しぶりだな。


《疑問。一応毎日会話しているはずですが。……不思議ですね。確かに、久しぶりな気がします》


 だよな。って、今はそれどころじゃ無いんだった。


 何故か久しぶりにイヴと会話をした気分になったアイヴィスだったが直ぐに現状を思い出し、これだけ入っておかねばと息を大きく吸って宣言した。


「――とにかくだ! 俺は至ってノーマルで、惚れた女はやはり男として抱きたい! 少なくとも、男に抱かれるのなんて論外だ!」

「なんでいきなりイサギさんやラヴィニスが俺に迫ってきているのかは分からないがイサギ……いえ、鈴音さん。本気で俺に惚れたのならば、互いが元に戻ったその時にでも愛し合おうじゃあないかっ!」


 混乱した頭の中で、それでもこれだけは譲れないと宣言するアイヴィスさん。


 いや、この場合は朱羽夜さんとお呼びした方が良いのだろうか。


「……ふふ。この状況に感謝しなければいけないのかもね。キミが初めて私を女として見てくれた。……男の姿のはずなのにね?」

「え? そんなことないでしょ?」

「大いにあるよ。キミは以前、私を女性というよりは、まるで神のように崇めていただろう?」

「……言われてみれば、確かに」

「寂しかったよ。生まれて初めて惚れた男が、自分を女として見てくれなくて、ね」

「……鈴音さん」


 初めて聞くイサギ――鈴音の心情の吐露に、思わず言葉に詰まってしまうアイヴィスこと朱羽夜。


 切なそうに見つめ合う二人は、まるで天の川を挟み互いに想っているが触れることは出来ない織姫と彦星のようである。


「そんなっ! そんなのはあんまりですっ! 私は、私にはアイヴィス様しかいないのです! それなのに……それなのに……っ!」

「……椿沙」

「ずるい! ずるいよいつも、すず姉ばっかり!」


 突然叫ぶように喚き始めたラヴィニスは、涙を堪えてキッとイサギを睨みつけた。


 睨まれた彼女はそんな彼女の様子を見て、ポロっとその真実を呟いている。


「ら、ラヴちゃん……? ――ぐぇっ」

「あげません! ぜぇったいにあげません! 先輩は、私の先輩(モノ)なんです!」

「へっ? 先輩?」

「――あ、あぁっ!?」


 切れ長の目端に涙を浮かべ、ラヴィニスは後ろから思い切りアイヴィスに抱き着いた。


 首を視点に巻かれた腕のせいで若干苦しそうに声を上げている。


 感情が高ぶったせいなのか口調も変わり、何より何故かアイヴィスを”先輩”と呼称している。


 言った本人であるラヴィニスは、しまったとばかりに口元を押さえている。


「ラヴィニス……いや、椿沙。やっぱり、記憶が戻っていたんだね」

「…………」

「え? な、何? どういうこと?」


 何やら神妙な顔で見つめ合うイサギとラヴィニス。


 アイヴィスさんはホールドされたままの首を器用に動かし、二人の顔を交互に見て首を傾げている。


「つまりだねシュウく――」

「――アイヴィス様。……いえ、朱羽夜先輩!」

「ふぇ? ……は、はい!」


 イサギが話している途中で、アイヴィスの身体はクルッと回れ右をした。


 彼の意思ではなく、後ろに控えていたラヴィニスが自分のいる方向に向き直させたのだ。


「すいませんでしたっ!」

「……はい?」


 惚れ惚れとするほど見事な最敬礼をするラヴィニスさん。


 一体何が起こるのかと身構えていたアイヴィスだったのだが、いきなりの謝罪に呆気に取られている。


「貴方の理想とするお嫁さんになりきれなくて! でも、それでも精一杯努力しますから! どうか、どうかお捨てにならないで下さい!」

「ちょっ、ちょっとラヴちゃん。お、落ち着いて――」

「違うんです先輩! ラヴィニスではないんです……私、椿沙なんですっ!」

「…………え。えぇっ!?」


 ラヴィニスは端麗な顔を歪め、またその特徴的なツリ目の端に涙を湛えている。


 感情が抑えられないのだろう。彼女は全身でアイヴィスに詰め寄り、叫ぶようにして語りかけた。


 その様子に呆気に取られていた彼は、遂には口をポカンと開けてしまっている。


「…………」

「…………」

「……椿沙? 椿沙ちゃん……なのか?」   

「……はい。すいませ――ッ!」


 ラヴィニスこと椿沙はその謝罪を、最後まで言い切ることは出来なかった。


 アイヴィスが思い切り、彼女に抱き付いたのである。


 突然抱き付かれたラヴィニスの目は大きく見開かれ、涙で濡れたその顔が徐々に朱を帯びていく。


「……良かった。生きて……いたんだね……」

「先輩――」

「……気が付いたら、あんな状況だったから。もしかしたら……って、うぅ」

「…………先輩ぃ」


 力強く己を抱きしめ涙を流すアイヴィスに、最初は驚いていたラヴィニスも直ぐにギュッと握り返した。


 気に掛けていた後輩の、その安否が突然分かった。そしてそれを知り、心から安堵したのだ。


 彼もずっとその胸に感情を抑えていたんだろう。あの時点では既に一年が経過していたのでどうしようもなかったのだが、それでも逃げたことをずっと悔やんでいたのだ。


「……すいません先輩。実は少し前から記憶が戻っていたのですが……その、言い出し難くて」

「そんなことは良い! それに俺の方こそ、あの時逃げてしま――」

「――そんな! あの状況にいきなり立たされたら誰だってそうします! それに! あの日からずっと! 毎日、毎日わっ、私のことを。……ずっと、ずっと。ぐずっ、ざがじで……ぐれたじゃ、ないでずかぁ!」


 握りしめた両腕をワナワナと震わせ、まるで慟哭の様に叫ぶラヴィニス。


 感極まったのか、涙と鼻声で聞き取りづらくなってしまっているのはご愛嬌だろう。


「わだし、知ってるんですぅ。あの日以降せんばいが、ギルド員の皆さんや、町のひど達。そして、酒場に出向いては、わだしの行方をぎいでいだこど!」

「ざいしょっ! 私のことを、あんなに一生懸命、探しでくれだのも。記憶が戻って、理解じたんですぅ」

「嬉じくて! でも、言っだらすず姉に。また先輩を、どられじゃうような気がして、言えなくで……」

「で、でも嬉しい気持ちが、抑えられなぐて。……あんなに。お節介だ、迷惑だ、と思っでも。止められなくで……」


 一度崩壊した涙腺は直ぐには収まらず、その感情の奔流は止まらない。


 言っている内容も半ば支離滅裂で、途切れ途切れになってしまっている。


「それに迷惑なんて。……嬉しかったよ、本当に。夢のようだったしね?」


 嘔吐えずくラヴィニスの背中をポンポンと軽く叩き、何とか落ち着かせようと子供をあやすような口調で話すアイヴィスさん。


 対する彼女はその身を完全に彼に預け、なすがまま、されるがままとなっている。


 要するに、だ。麗しい美女が涙を湛え、美少女に縋りついているのである。


 もしこの切なく美しい光景は見たのなら、誰もが息を呑むだろう。そして、それら全てを余すことなく魅了する一枚の絵が完成するであろう。


 それほどに幻想的で、蠱惑的な様相が広がっているのだ。仮にアイヴィスさんが当事者でなければ、ふぉぉと叫ぶことになるのはまず間違い無い。


 しばらくの間泣きじゃくっていたラヴィニスだったが、ようやく落ち着いたらしい。ひとつひとつ言葉を紡ぐように、ゆっくりと話し始めた。


「先輩はご存じ無いかも知れませんが、私と先輩はすず姉よりも前に出会っているんですよ」

「え? でもそれって今から五年くらい前ってことになるよね?」

「はい。そうです」

「ってことは、椿沙ちゃんが小中学生の頃ってことだよね。さ、流石に――」


 そこまで話をしたところでムスッとした表情のラヴィニスが眼前にいることに気づき、アイヴィスは言葉に詰まってしまう。


 最初に会ったころのラヴィニスに比べ、格段に表情が豊かになってるのが一目で分かる。


 背後に以前の椿沙の姿を見たアイヴィスは、「あれぇ?」と少しバツが悪そうに頭を掻いている。


「流石シュウ君だね。まさか、本当に気づいていなかったとは」

「な、なに鈴音さんまで。俺、本気で覚えがないんだけども……」


 鈴音にまでここぞとばかりに追撃されるアイヴィスさん。本当に心当たりがないので困り果ててしまっているようだ。


「ぶっすぅ。本当は気が付いて欲しかったんですけど、もう良いですぅ」

「う。ご、ごめんて椿沙ちゃん」

「良いですよーだ。先輩は何度も一緒にあのゲームした相手のことなんて、覚えてないですもんねー」

「あのゲーム? ……鈴音さんより先。……何度も、一緒に? え? ってことはもしかして、リンネさんて椿沙ちゃんだったりするの!?」

「うぅ。まさか、本当に今気がついたんですか? そんな……鈍すぎます!」

「いや、だってさ。リンネ(イコール)鈴音だと思うじゃんか、普通。確かに捻りなさすぎるだろとは感じていたけども」


 頬をこれでもかと膨らましてるラヴィニスに、「ビデオ通話の時も鈴音さんだったしね」と言い訳をするアイヴィスさん。


 「捻りなくて悪かったね」とぼそりと鈴音が呟いていたのだが、アイヴィスさんは聞こえてないふりをすることにしたらしい。


「だって、顔合わせるの怖かったし。な、何より恥ずかしくて……。それですず姉にお願いして……」

「え? そうだったの? 別に無理しなくても、断って貰って良かったのに……」

「う。で、でもそれが原因で疎遠になんてなっちゃったりしたら。……寂しいじゃないですかぁ」

「ぐぅかわぁぁ! えぇ……椿沙ちゃん可愛いなぁおい、もしかして天使なの!?」


 切れ長な両目の端に涙を浮かべながら上目遣いに除き込まれ、ものの見事に撃ち抜かれて悶えるアイヴィスさん。


 萌えが限界値に達したのか、全身が少し震えている。……正直、気持ちが悪い。


「でも、すず姉と話してる時の先輩……デレデレし過ぎて見るに堪えなくて」

「そ、そんなに酷かったの俺? ていうか、もしかして近くにいたの?」

「画面には映ってなかったですけど、しっかりきっかり毎回居ましたよ。PCも私の部屋に在りましたし、話の帳尻も合わなくなりますし」

「ぐわぁぁ、恥ずかしいぃ……」


 どうやら鈴音の美貌に魅了され、ニヤついてるところもばっちりと椿沙に目撃されていたようだ。


 アイヴィスさんは先程とはまた別の感情で悶え――いや悶絶している。


 感情が高ぶってきたのか、ラヴィニスさんの口撃こうげきは止まらない。


「……いつも一緒にゲームしてるのは私なのに! あんなに楽しそうに! うぅ、思い出しただけでも腹が立ちます!」

「で、でもそれ俺が悪いわけじゃ――」

「確かにそうですけどっ! 気づいても良いと思うんです! チャットの口調とすず姉の話し方、全然違うじゃないですか! それにゲームの話題もほとんど話してないですし。それに、それに……」

「ちょ、ちょっと椿沙ちゃん落ち着いて――ッ!」


 前屈みになってアイヴィスに詰め寄るラヴィニス。以前とは異なる豊満な二つの双丘が、これでもかとばかりに自己主張している。


 思わず目線が一点に固定されてしまうアイヴィスさん。服の隙間からチラリと覗く白い肌に、思考の全てを吸い込まれてしまったらしい。


「――私、いわゆる引きこもりだったんです。最初はそんなつもりは無かったんですが、いつの間にか……」

「……椿沙ちゃん」

「見兼ねたすず姉が色々と私にしてくれて、その時にあのゲームと出会ったんです」

「そう、だったんだね……」


 神妙な雰囲気で独白するラヴィニス。それを見つめて真剣な表情でその言葉を待つアイヴィス。


 椿沙の言うあのゲームとは、動物が魔力を持ったことで変異した魔獣を、多彩な武器や魔法を駆使して討伐するハンティング系のゲームの事だ。


 ネット環境に繋ぐことで、最大四人まで同時に参加することが出来るマルチプレイヤーシステムを採用している。


 そう。アイヴィスこと朱羽夜は、その時に初めてリンネと出会ったのである。


「決して上手じゃない上ネーミングセンスの欠片もない姉でしたが、それでも私に『ほら椿沙。面白いでしょ? こうやってどんどん獲物を狩っていくのよ』って教えてくれて、その小物を倒すのに気を取られて『こうやって倒した相手から素材を――ひゃわぁぁっ!』って大型のモンスターに捕食されて叫んでくれたんです……」

「あの、椿沙? それ褒めて無くない? ねぇ」

「倒されてベースキャンプに運ばれた後も『大丈夫っ! これ二回まではリベンジできるから! ――ふあぁ!』って言って落下死した上、『ふ、ふふ。こんなのは最初から計画通り。狩り(ハント)は二乙からだよ!』って凄んで出て行って、小物に囲まれて見るも無残に食い散らかされ――」

「ちょ、ちょっと椿沙! やっぱりディスってる! この妹ここぞとばかりにぃぃ!」


 それを聞いたアイヴィスが「うわぁ。ってことはたまにとんでもなく残念なリンネさんは、鈴音さんだったのか。言われてみれば、全然センスもプレイスタイルも違っていたなぁ」などと、こちらも何故か神妙な顔でウンウンと頷いている。


 アイヴィスの呟きが聞こえたのか、イサギは頬を染めて顔を伏せてしまった。


 朱羽夜の元の身体は黒髪の短髪なので、耳まで真っ赤になっているのがモロ分かりである。


「嬉しかった。学校は行けないし、友達もいない。両親はいつも忙しくて、すず姉自身も決して暇じゃないのに。……それでも私に、構ってくれて」

「……椿沙」

「楽しかった。そこで出会えた先輩は優しくて、頼りになって、馬鹿なことも結構するけど、個人的な相談事にも真剣に向き合ってくれて……」

「椿沙ちゃん……」

「――でも、苦しかった。大好きなお姉ちゃんといつの間にか気になってしょうがなくなってた先輩が、顔を合わせて楽そうに話しているのを見て……」

「…………」

「――そして、悔しかった。二人の会話を、画面外(そとがわ)から眺めることしか出来なくてっ!」

「…………」

「嫌だった! 二人とも好きなのに、二人の仲が良いと不安なる自分が! その中に踏み出せない……自分の弱さがっ!」


 独白は続く。二人を好きで、でも一緒にいるのを見るのはつらい。二人を独占したい。でも二人を困らせたくないし、嫌われたくない。


 ――じゃあ一体、どうすればいいの? こんな私なんて嫌いだ、と。


「ある日、それに耐え兼ねて部屋を飛び出したんです。全てから、逃げるように……。――それでも、出れたんです。あんなに怖かった、外の世界に……」

「「…………」」

「情けない話なのですが、それが変わるきっかけの一つになりました。そして、その日から少しだけ今までより素直になることが出来たんです」


 ひとつひとつ大切な思い出のページを捲るように、ラヴィニスは丁寧に語る。

 

「まず、すず姉に相談をしました。先輩に会うことが出来きないか、と。――そして、どんな手を使ったのか分からないけど、一緒にお仕事出来るようになりました」

「もしかして、俺があの研究所で室長なんて大役を務めることになった理由って……」


 チラッとイサギを見るアイヴィス。対するイサギは何のその、明後日の方向を向いて知らんぷりをしている。


 もしこれが本当に椿沙のためだったのならば、鈴音のシスコンっぷりは相当なものであろう。


 アイヴィスは背筋がゾクッっとし、両手を自身の目の前で対角線に組み直し震えている。


「実際に会った先輩は、思った通りの柔和な穏やかな人で、思った以上にお馬鹿さんで、ついでにちょっとえっちな人でした」

「…………」


 褒めているんだか、貶しているんだか、判断に迷うセリフを語るラヴィニス。アイヴィスはそんな彼女が語る懐かしい毒を添えた会話を、懐かしむかのように微笑んでいる。


「初めて面と向かって会話したのは、すず姉と一緒に行ったときでしたね? ……覚えていますか?」

「そう言えば最初鈴音さんの後ろで、半分身体を隠しながら俺を睨んでたねぇ」

「あっ、あれは先輩が悪いんですよ! あまりにすず姉に対してデレデレしてたので、ムッとしてつい辛辣な態度と言葉をぶつけてしまったんです!」

「いやぁ。まさか初めて会った女子高生に『気持ち悪いので、見ないでください!』と言われるとは思わなかったよ……、こっそり泣いたよ、心でね」

「うぅ、すいません……。色々言いたい事があったのに、全部どこかに飛んで行ってしまったんですぅ」


 しょうがないじゃないですかぁ。とぶすくれているラヴィニスさん。


 その時の状況を思い出したのか、アイヴィスさんはハハッと乾いた笑いを浮かべている。


「思い描いた状況とは少し違いましたが、それでも私は幸せでした。敬愛する二人の傍に入れて満足だったんです。……あの日までは」

「……あの爆発の日、か」


 その日の光景を思い出し、若干顔を顰めるアイヴィス。あの光景はあまりに凄惨過ぎた。トラウマになってもおかしくないレベルである。


「あの日から一年、私は以前の記憶がありませんでした。今でこそ思い出せましたが、それまでは自分が誰なのかも分かりませんでした」

「気が付いたらこの姿になっていて、魔法や技能も習得していました。慣れるのには二週間程かかりましたが、幸いにも近くに空き家があったので、比較的安全に過ごしながら学べました」

「正直不安がなかったと言えば嘘になりますが、この身体とその能力のおかげで何とか耐えることが出来ました。……そして、その時は訪れました」


 自分が何処にいるのか、誰なのかも分からない。唐突にそんな状況に立たされた彼女の心境は、一体どのようなものなのだろう。そう感じたアイヴィスは、神妙な顔で首傾げて想像をする。


 もし仮に自分だったのなら耐えられるのだろうか。いや、難しいであろう、と。


「行先も、自分が何者なのかも分からず途方に暮れていたところに、ある日突然現れたアイヴィス様が『貴女の全ては私のもの、私のだけのために生きなさい』とおっしゃってくれたのです」

「…………」

「本来なら、『は? なに言ってんのコイツ、頭が湧いてるの?』と思うべきなんでしょうが。一目見た瞬間から、感じてしまったんです。あぁ、私はこの人のものなんだ……って」


 確かに初対面相手の第一声でその言葉を発するなんて、()()を疑うレベルのやばい人にしか思えないのだが、ラヴィニスは何故だかしっくりときてしまったらしい。


 そしてそのアイヴィスは世話役として、一人の可愛いらしい獣人少女を就けた。当の本人は忙しく、たまにしか顔を出せないという理由からである。


 ちなみに空き家は()()にも、アイヴィス――正確にはイヴ――のものだったそうだ。


「実際にお仕えしている今日のこの日に至るまで私、ずっと幸せなんです。先輩――アイヴィス様のお役に立てて……」

「ラヴちゃん……」

「それに惚れ直しました。あんなに真剣に私を探してくれて……。自身が一番大変なのに、私――ラヴィニスを第一に守ろうとしてくれました」

「…………」

「――離れたく、無いんです。ずっと……ずっと一緒に居たいんです。……大好きなすず姉にも渡したく無いほどに……」


 もう涸れてしまうのではないかと思うほど涙を流し、独白を締めくくる。


「私……じゃ、駄目ですか!? すず姉には敵いませんが、いつも一緒に居ることなら出来ますっ! 寂しい思いなんて、絶対にさせませんからっ!」

「――――ッ!」


 顔と顔が触れてしまう程の距離まで近づき、瞳を潤ませて縋るように詰め寄るラヴィニス。


 アイヴィスはその余りに鬼気迫る懇願に息を呑み、上目使いにこちらを見る彼女をただただ見つめ返すのであった。

試行錯誤を繰り返していますので、たまに訂正が入るかもしれません。ご了承をよろしくお願いします。

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