ツンデレって面倒くさくないですか?
私はツンデレって面倒くさいと思うの。
だって、好きな人には優しくした方が良いじゃない?
特に好きでもない人にツンとした態度されたら面倒くさい通り越して怒りすら湧いてくるよ。
しかも、しかもだよ?
そのツンデレさんが私のことを好いているようなんだけど、私にはツンしか見せないの!
え? じゃあ残りのデレはどこに行ったかって?
うん……正直私は見てないからなんとも言えないんだけど、どうやら他の人に発揮されているみたい。
「おい! 川田! 聞いているのか? 」
うん、今私の前で喚いているのがそのツンデレさんです。
彼の名は『木村伊織』
見た目は、見た目だけなら爽やかイケメンなのです。
「そんなんだから授業中に課題が終わらないんだぞ。本当にトロいな」
……え?
本当に彼が私に気があるかって?
まあ、そうですよね〜〜。
正直私は信じていないんですよ、だけど何故かクラス中の誰もがそうだと言い切るのですよ。
私、もしかしていじめられているんでしょうか?
私がイロイロ考えている間にも彼は私のことをヤジってきます。
普通に考えて嫌なやつです。
ところがクラスのみんなはそんな私たちのことを生温かい目で見てくるのです。
本当に嫌になります。
なので私はいつもさっさと逃げます。
ハッキリ言って口もききたくありません。
私が黙って席を立つと彼は後ろからまた何事か騒いでいます。
本当に面倒くさい。
面倒くさいのは彼だけではありません。
私には有り余るツンを投げかけてきますが、どうやらクラスのみんなにはこれまた有り余るデレ成分を放出しているようなのです。
いつも伝え聞くだけで、実物を見ていないので信じられる訳がありません。
「なあ、川田〜〜。本当に一回で良いから伊織のこと名前で呼んでみてくれないか? 」
そんなアホなことを言ってくるのはクラスでも彼と仲が良い坂本君です。
この人はきっとアホなんです。
あのやり取りの中で名前を呼んでみましょう……うん、きっと暴言が今の十倍返ってきます。
「川田さん、もう少し木村君にかまってあげて」
そんな頭お花畑のことを言ってきているのはクラスのアイドル皆本さんです。
彼女はよく彼と笑顔でお話しされています。
きっとお付き合いされているんでしょう。
「川田、お前がクラスメイトを信じられないと思っているのは知っているが、騙されたと思ってちょっとだけ教室出たあと中の様子を覗いてみてくれないか? 」
これ、うちの担任の大河内先生です。
先生もう少しで退職だからか……ボケちゃいましたか?
何で騙されなきゃいけないんですか?
だけどこのあともほぼクラス中の人から頼まれて渋々、嫌々、暴言を吐かれたあと教室を一旦出てからひっそりと中の様子を見ることになりました。
正直やっぱり見なければ良かったと大後悔中です。
「う、うう。ど、どうしようもうこれ以上嫌われたくないよ〜〜!」
教室の隅っこで体育座りをしながらうなだれて半べその彼。
周りのみんながなんか慰めています。
「ほら、泣き止めって。大丈夫だもうドン底だからこれ以上下がらないぞ」
彼と仲良しの坂本君の発言でますます彼は落ち込んでいます。
アレ? 仲良しではないの?
「ひ、ひどい! ドン底って……。でも、川田ちゃんの視界に入りたいんだもん。そうするためには気を引かないとだし」
おい、川田ちゃんって何だ。
しかも視界に入りたいって……うわ〜〜面倒くさい〜〜。
「木村君普通に話せば好青年なんだから無理に暴言吐かなくて良いんだよ?まあ、 たぶんマイナスが酷すぎてまともにこのあと話すことが出来ないような気がするけど」
普通にトドメをさしているのが可愛い顔した皆本さん。
なんかイキイキしてますね。
「っひ! だ、だって川田ちゃん俺のこと興味なさそうだったし……だからちょっと興味を持ってもらおうと思ってやったら俺のこと見てくれたから……」
アホだ。
完全なアホだ。
ツンデレなんてものじゃない、ヤツはアホなだけだ。
私はそっと教室の扉を閉めた。
…………うん、見なかったことにしよう。
そして明日からも甘んじてあの暴言を受けようじゃないか。
だって絶対、彼の気持ちに気づいたことに気づかれた時の方が面倒くさいと思うの。
それに明日からは私も少し生温かい目で彼を見れそうな気がする。
まあ、ほんのちょっとだけどね。