実況中継
タメ息つきたい方々向け。
「夕闇迫る神宮球場、烏が二羽、三羽。早稲田対慶応最終戦もいよいよ大詰め。両校勝ち点同点にて迎えたるこのまさに決勝戦。両校譲らず零対零のまま回を重ねて九回表。この回先頭の高橋が打席。対するマウンド上は斉藤であります。高橋に対し第一球を、投げた、スライダー、ボール。外側、外れましてワンボールナッシング。早打ちの高橋に対し斉藤、慎重に外の変化球からはいりました。続いて第二球、早いテンポで投げた、今度は内角高めストレート、ストライク。カウントワンストライクワンボール。解説の大鵬さん。今日の斉藤、素晴らしいですね。」
「はい。身体から漲る気合いと言うのか、迫力を感じます。全盛時の千代の富士に匹敵するものがありますね。こういうものは一朝一夕では身につきませんよ。よく稽古をしてるんでしょうね。全く素晴らしいことです。」
「はい。大鵬さんの話を伺っているあいだに高橋はサード岡田への平凡なゴロに倒れてワンアウト、ここで土俵は隆の里と北の湖の大関同士の対戦と代ります。さあ、時間一杯。両者睨み合い。さあ、行司の軍配が、返りました。立ち会いは北の湖優勢。そのまま強引に寄る、寄る。隆の里土俵際、懸命に堪える、堪えた。隆の里寄り返す。土俵中央、両者がっぷり四つ。北の湖上手、隆の里は前ミツをとって相手の出方をうかがっている。やや動きがとまりました。依然土俵中央。村山さん、どうでしょう。」
「う〜ん、そうやねぇ。ここは無理しないでええのとちがいますか。北の湖は内角裁くのが上手いからシンカーでゲッツーも難しいから、ここはクサい所をついていくしか」
「あっ、隆の里ひいた、北の湖崩れて手をついた。はたき込み。はたき込んで隆の里の勝。北の湖土が付きました。綱取りにはあまりにも痛い一敗です。村山さん、今の一番どう見ますか。隆の里引きましたが。」
「ま、あれはコースがストライクですからね。引いても結果はアウトでしょう。」
「パンチョさんはどう見ますか。」
「えぇ。あれはメジャーなら空振り取られます。こないだね、ジャイアンツの村上が言ってましたよ。軽いチェックスイングも空振りとってくれるってね。」
「北の湖、これで十勝一敗。明日は三日目から九連勝と元気な高見山との対戦です。隆の里が第五コースの前畑へ力水をつけます。女子百メートル平泳ぎ決勝。各選手スタート台上揃います。スタートしました。前畑良いスタート。早くも先行します。頑張れ。頑張れ前畑。頑張れ頑張れ頑張れ頑張れ。前畑先頭。勝った。前畑勝った。金メダルです。やりました。解説の志村さん、一言。」
「これは君、大変なものだよ。」
「あっ、先生。手を触れてはなりません。いま、臨時ニュースが入りました。海上保安庁発表によりますと、先程品川海岸よりゴジラが上陸し、都心に向って侵攻中とのことです。いま、この放送席からもコントラバスの弦を皮手袋で擦ったような咆哮と地響きが聞こえてまいります。段々と近付いてきました。我々の目でもはっきりとその姿を確認出来る様になってきました。明らかにこの放送席へ向ってきます。接近してまいりました。我々の命も残り僅か、いよいよさいごです。皆さん、さようなら。うわ〜っ!・・・・・・・・・・・・・・・」