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首吊り坂 ~後日談~

 僕と御神楽が何も言わずに黙っているのをしばらく見ていたレイは、一度ため息をつくと、僕たちに声をかけることなく店から出て行った。

 しばらくすると、御神楽が僕のほうを向いて、

「軽蔑した?」

 と小さな声で聞いてきた。

 僕は首を横に振り、逆に御神楽さんに質問し返した。

「さっきのあの男の話、どこまでが真実なんですか? 僕は、実際霊が視えるんです。だからあの男の、霊がいないことを前提とした話を全て信じることはできません。御神楽さん、本当のことを教えてください」

 御神楽は青ざめた表情のまま、しばらくの間は何も話さずに黙っていたが、僕がしつこく御神楽が話すのを待ち続けていると、意を決したかのように僕の目を見て話しだした。

「レイ君の話は、少なくとも私自身についてはほとんどあっていたわ。彼女を首吊り坂に連れていくように私が頼んだし、最後に私が謝ったのもそのことを後ろめたく思っていたから」

「……そうなんですか」

 僕はこぶしを握り締めた。レイが言っていたことが事実だったということに、失望を隠せなかったのだ。

 そんな僕を見つめながら、御神楽は落ち着いた様子で言葉を継いだ。

「でも、レイ君が言っていたことが全て正しいわけではないわ。まず、彼女はいじめられてはいないわ」

 僕は驚いて御神楽を見つめた。

「それは本当ですか? もしそれが本当ならレイが言っていたことは……、やっぱり彼女は霊が視えていたんじゃ」

 やや興奮する僕とは対照的に、相変わらず御神楽は落ち着いて話す。

「彼女が本当に霊が視えていたのかは私にはわからないわ。ただ、彼女は首吊り坂に行ったときに少なくともいじめられてはいないの。一緒に行ったクラスメイトを締め上げてはかせたからそれは本当」

「締め上げた……」

 物騒な単語を聞き一瞬動揺する。が、そんな僕の反応を気にかけることなく御神楽は続ける。

「彼らが言うには、最初はいじめるつもりだったらしいの。レイ君が言っていたとおり。でも、首吊り坂についた途端、彼女が奇妙な行動をとったらしいの。ふらふらとした足取りで、誰もいないはずの宙を見上げながら独り言を言い始めたそうよ。そして、彼女の言葉に反応するがごとく気味の悪いうなり声のようなものが聞こえてきたらしくて、彼女を置いて他のメンバーは全員怖くなって逃げ帰ったそうなの。だから、少なくともそのクラスメイト達は彼女に何もしていない。後はレイ君が言ってたように、私が彼女の家に行って、結局何も言えずに彼女と別れた。それが私が知る限りの真実」

「……やっぱり、彼女には霊が視えていたんですよ。そうじゃなければ自殺する理由なんてない」

 御神楽は悲しそうに首を横に振る。

「私には、わからない。本当に霊に誘われたから自殺したのかもしれないし、レイ君が言っていたように、私の態度から、首吊り坂に彼女を連れていくように頼んだのが私だと気づいて、それを苦にして自殺したのかもしれない。それなら首吊り坂でなく自宅で自殺したことの理由にもなるし」

 僕は御神楽の言葉を、あえてきっぱりと否定する。

「何度も言うことですが、僕には霊が視えます。だからこそわかる。もし彼女が本当に霊を視ることができる人だったのなら、それこそ、友達に裏切られたくらいで自殺なんてしません。万が一、彼女がすべて演技をしていたのならば、やっぱり御神楽さんが悔やむことじゃない。人に理解してもらえないくらいで自殺を選ぶなんて、それは僕たちを馬鹿にしているのと同じだ」

 僕の言葉を聞き、御神楽は力なく首を振った。

「だとしても、彼女の死は私が一生負っていかなければならない責任。私の軽率な考えが、彼女を自殺に追いやったことには変わりはないんだから……」


 御神楽と首吊り坂に関する事件の話をしてから数日。

 現在僕はオカルト研究会の部室にいた。入部した理由は、自分でもよくわからない。強いて言うなら、御神楽さんのことが気になったと言ったところだろうか。あの後彼女が自殺したりしないかと、不安になったということもあるだろう。

 というより、実際彼女の雰囲気に僕は惹かれていたのだ。おそらく初めて部室であったときから。だからこそ、僕はわざわざ御神楽さんと話しをしたのだろう。

 とにかく、そんな理由もあってオカルト研究会に入部した僕だったが、一つだけ誤算があった。

 オカルト研究会にはなぜかレイもいたのだ。あそこまで幽霊はいないと否定しているような奴がまさかオカルト研究会に入っているとは思わず、思いがけず部室にてレイと遭遇した僕は、体を硬直させた。

 そんな僕を見ながら、レイは薄ら笑いを浮かべると、さも馬鹿にしたような声音でいった。

「オカルト研究会にようこそ」

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