プロローグ
どこかわからない真っ白な空間に僕は居た。
わかっているのは僕が僕だということ。
それ以外は何もわからなかった。
「ねぇ」
呼ばれた、誰から呼ばれたのかもわからないまま振り向く。
振り向くとそこにはもう一人の僕が笑っていた。
「初めまして、かな?」
「君は...誰。」
不思議と君の存在に驚きはしなかった。
「僕は僕さ、君は君だろう?」
「でも君は僕と同じに見えるよ」
何もない真っ白な空間に僕と僕の声が波紋のように響く。
君と僕を除いて何もない場所、恐怖や孤独といった感情は無くどこか懐かしく安心する気がした。
しばらくの沈黙の後、君は手招きをした。
手招きを見て、こっちに来いと言われたような気がして僕は歩き出す。
景色の変化はなく物体と呼べるものが何もない。
とても退屈で目を閉じてしまいそうになる。
「着いたよ」
前方でくるりと視線を僕に向け、立ち止まった。
「どこに着いたの?」
君は何もない周囲を見渡し、そして両手を広げた。
今からショーが始まるかの如く深々と頭を下げ、深く息をしながら笑顔を見せた。
「ようこそ、心へ」
刹那、荒波にのまれる感覚に苛まれた。
立っていることがやっとの状態で目を開けることができなくなった。
それからどれだけの時間が経過しただろうか。
僕の体感だと15分程度に感じた。
「目を開けて」
君の声を聴き、やっとの思いで目を開けることが出来た。
「これは、何なの?」
目を開けると今まで何もなかった真っ白な空間に数えきれない程の2つのイスとテーブル、その上には2つのティーカップとポットが置かれている。
しかしそのすべてに色が無く、そこにあるという事だけしか確認できない。
君は誇らしげな顔をして僕を近くのイスに座らせ、正面に君も座る。
先ほど僕がした問いに君はまだ答えていない、そう言おうとした所で君は指を弾いた。
その音に返事をするかのように全てのポットに色とりどりな液体が注がれ、君は僕の前に置いてあるティーカップにそれを注いだ。
自分のカップにも注ぎ終わると一度香りを嗅ぐ。
そしてこう言い放った。
「さぁ、私たちのカラーを取り戻そう」
読んでいただきありがとうございます。
今回の作品に関して自分なりにテーマを決めて書いています。
そのテーマというのが【自分と向き合う】になります。
ミステリアスを意識しながら書いていますのでこの物語には細かい設定が存在しません。
何を感じ、何を思うかは読者様自身しか知り得ません。
そんな謎めいた雰囲気でこの物語は進行していきます。
予定では短い作品ではありますが最後までお付き合いしていただければ光栄です。