揺るがない意志
二人がカザフの家に来てから半年が過ぎた。
「カザフさん。 今日の狩りに俺たちも行かせてくれよ」
「駄目だ」
カザフは首を横に振った。
「でも私達、今までずっとお世話になってきたんです。 いつも一人で狩りに行くのも大変そうだし、私達カザフさんの力になりたいんです」
「……一つ例を挙げよう。お前達がもし夫婦で、子供ができたとしようか。その子供が遊び半分で危険な狩りについてきたいなんて言ったらお前達はどうする?」
二人はその言葉を聞いて赤面する。
「そういう反応を求めてたわけじゃないんだが…… とりあえず、行かせることには反対だろ?」
「否定はしないよ」
ジークは即答する。
「僕の言いたいことが分かっただろ? お前達を危険な目に合わせるわけにはいかないんだ」
「じゃあカザフさんは、俺達が防衛軍に入りたいって言ってもどうせ反対するんだな」
まるで責めているかのようなジークの言葉に、カザフは首を縦に振った。
「あんな所にお前達を行かせるつもりなんて毛頭ない。 そうか。 だからお前達は狩りに行きたいなんて言ったんだな。 戦闘技術を磨くために」
「図星だよ」
ジークはふう… と溜息をついた。
「例え僕が行くことを許したとしても、お前達の親がそれを許すなんてとても俺には思えないが」
「………」
二人は何も言い返せなかった。
彼らの両親はいまだに行方が知れなかったが、自分達の親なら絶対に反対することが二人には分かっていた。
「後、お前達にはもう一つ言っておくことがある」
「何だよ」
「僕は昔防衛軍だった」
驚くべき真実にジークは眉一つ動かさずに答えた。
「知ってたよ。 カザフさんの部屋には防衛軍の制服を着ていたカザフさんともう一人女の人が写ってた写真があったからな」
「知っているのなら話が早い。 大体予測はつくかも知れないが、そこにいた奴は僕の恋人だった」
昔を思い出したのか、カザフは悲しそうな顔をしながら続ける。
「彼女は無惨にも僕の目の前で異星人に殺された。 いや、彼女だけじゃない。 僕は数多くの仲間の死をこの目で見てきた。 そして僕は防衛軍を辞めた。 そうすれば、あんな辛い思いはしなくて済む」
「臆病者だなあんた」
ジークは低く重い声で呟いた。
「仲間が殺されてるってのに、あんたは何もしなかった。 それどころか目を背けた。 典型的な臆病者だよ」
「言いすぎだよジーク! カザフさんは何も悪くないでしょ!!」
「いいんだマーベル。 事実なんだから」
カザフはマーベルの肩に優しく触れた。
「だからお前達には僕のようになって欲しくない。 分かってくれ」
「嫌です」
そう答えたのはマーベルだった。
「カザフさんが私達を行かせたくない理由がそれなら、私は嫌です。 私はカザフさんの気持ちがよく分かりますから」
「マーベル……」
「俺も嫌だな。 俺は誰かさんと違って死んだ仲間の無念を晴らさなければならない。 俺はライラ姉を殺した異星人の全てが憎い!!」
「ジーク!」
しかし、ジークは無視して続けた。
「俺は異星人の奴等が憎くて憎くて仕方がない。 奴等を切り刻んでバラバラにしてその肉を引きちぎって喰らってやる!!」
ジークの体は、異星人に対する憎悪で震えていた。
そんな彼を見て、カザフはその意志を止めることはできないと直感的に悟る。
「マーベルもジークと同じ考えか?」
「根本的なところは違いますけど、防衛軍に入るという意志は変わりません」
彼女の答えを聞き、カザフは天井を仰いで嘆息する。
「本当は行かせたくない。 だけど今のお前らを見ると僕を殺してでも防衛軍に入りそうだ」
「そ、そんな恩を仇で返すようなことしませんよ! カザフさんにはこんなにお世話になっているのに!」
左右に手を振って必死に否定するマーベルとは対照的に、ジークは無表情のまま黙っている。
「だからお前らには戦いで死なないように僕が訓練をつける。 その代わり、絶対に死なないでくれよ!」
「任せとけよ。 俺は異星人を皆殺しにするまで死なねえ」
「私も死なないように頑張ります!」
そんな二人を見ながらも、カザフは心配で心配で仕方がなかった。
----四年後----
ジークは以前よりも40cm程背が伸び、マーベルはスタイルの良い大人びた美少女になっていた。
「カザフさん。 今まで本当に世話になった。 行って来ます」
「四年間も私達を世話してくれて感謝しても仕切れません。 本当に今までお世話になりました! お元気で!」
「お前達もここに初めて来たときとはまるで別人だ。 ここまで成長してくれて僕は嬉しいよ」
カザフは目を擦りながら言った。
「おい泣くなよー。 いい大人がみっともないぞ?」
ジークはそんなカザフをからかうように慰める。
「そうですよ。 まだ死んだわけじゃないんですから」
マーベルも彼を慰めるが、その碧眼には涙が浮かんでいた。
「じゃあ俺達そろそろ行くよ。 時間があったら戻ってくるかもな」
「その時まで元気でいて下さいね。 ごきげんよう」
別れの言葉を言って、二人は玄関の扉を開けた。
「絶対! 絶対死ぬなよお前らーーー!!」
目からぼろぼろと涙を流しながら、カザフは彼らに向かって大きく手を振った。