決意
「……ん」
マーベルが目覚めると、そこは森の中の一軒家であった。
「あれ? 何で私こんな所に……?」
彼女は辺りを見回すが、見覚えがない。
「ジーク、それにライラさんもいない。 二人はどこ?」
「ジーク君ならさっきどこかに出かけたよ。 すぐに帰って来るって言ってたな」
この家の主らしき中年の髭男がマーベルに話しかけた。
「あ、自己紹介が遅れたね。 僕はカザフ・オッド。 この家の主って言えばいいのかな?」
「私はマーベル・テレヴィアです。 まだ事態をよく把握できていないんですが、できれば私達がここに来た経緯を教えて貰えませんか?」
マーベルのとても子供には見えない礼儀の正しさにカザフは唖然とする。
「あ、ああ。 一時間くらい前かな。 チャイムが鳴るんで出てみたら君を背負ったジーク君が来てね。 少しの間ここにいさせて下さいって言ってた」
「申し訳ありません。 ご迷惑をかけてしまって……」
マーベルはカザフに向かって深々と頭を下げる。
「そんな改まられても困るよ。 それに僕は一人暮らしだし、居たいんならずっと居てよ。 僕は一人で何年もここに住んでいるんだけど、やっぱ誰も居ないのは正直寂しい。 だから、君達の訪問は僕にとってとても嬉しかったんだ」
カザフはその髭面からはとても創造できないほど爽やかな笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。 私達に何かできることがあったら何でも言って下さい」
「嬉しいけど気持ちだけ貰って置くよ」
カザフがそう言った瞬間、家の扉が開けられた。
「マーベル。 起きていたんだな」
「どこ言ってたのジーク?」
「ちょっと散歩ってとこかな。 少しでもここら辺の地形を知っといた方がいいと思ってさ」
ジークはそう説明すると、カザフの方を向く。
「さっきの会話少し聞いてましたけど、本当にいいんですかここにずっといても?」
「かまわないよ。 君達の自由だ」
カザフはそう言って自分の家の壁を指差す。
「ここは異星人も来ないし、資源も豊富だ。 まあこの家は僕が来る前からあったもので少し年季があるけど、壊れはしないから安心して」
「本当にありがとうございます。 私達、故郷を異星人に襲われて……」
「それは気の毒だったね。 見たところ親御さんともはぐれた様子だし、良かったら僕が君達の保護者になるよ」
「勿論、親が見つかるまでですけどね?」
ジークがそう言った時、カザフの眼が光の様に輝いた。
「やったー! 僕山暮らしであまり女性と接する機会がなかったからずっと独身だったんだけど、うわー、自分の子供を持つってこんな感じなのかなー?」
彼はまるでダンサーのように部屋中を踊り回る。
「じゃあ僕はちょっと狩りに行って来るから、君達はこの家の中でも見てて。 大したものは無いと思うけど」
「あ、行ってらっしゃい」
「気を付けて下さいね」
「大丈夫。 こう見えて熊くらいなら簡単に狩れるから」
まるで戦場に向かう父親のような感じで、カザフは家を出て行った。
「カザフさん。 いい人で良かったね」
「そうだな。 最初見たときは絶対追い返されると思った」
ジークはほっと安堵の息をつく。
「ところでジーク。 ライラさんはどこにいるの?」
「ああ、あの後他の防衛軍の人が来て、傷だらけのライラ姉を連れて行った。 だから心配するな」
咄嗟にジークは嘘を付く。
しかし、マーベルは気付いていた。
「嘘でしょ」
「何でだよ。 俺がお前に嘘付いてるとでも思ってんのか!?」
「自分では気付いていないと思うけど、ジークは嘘を付くとほんのわずかだけ右を向くんだよ」
完全に見破っているようなので、ジークは嘘を付くのをやめることにした。
「ライラ姉は…… あのまま俺達を逃がすために、異星人の群れに突っ込んで死んだ」
「証拠はあるの?」
「明確にはないな。 だけどライラ姉は重傷を負っていた。お前も分かってただろ? あのまま生きて帰れたって方が難しいだろう」
そうか…… とマーベルは嘆息する。
「だからジーク、泣いてたんだね」
「…… そんなことまでお見通しかよ」
「眼が充血してるから私じゃなくても分かるよ」
「マジかよ」
ジークは家にある鏡で自分の顔を確認する。
「……なあマーベル。 俺は俺からライラ姉を奪った異星人が憎くて仕方がないんだが、どうすればいいと思う?」
「ジーク?」
「俺は防衛軍に入って異星人を殺しまくるのが一番だと思うんだが、お前はどう思う?」
ジークの心は、異星人に対する憎悪でいっぱいであった。
自分の大切な友達、それを奪われた悲しみを異星人にぶつけたかった。
ジークの気持ちを察したのか、マーベルは彼の肩に両手を置いた。
「ジークを一人にはしておけない。 私も入る」
「これは俺の問題だ。 お前まで巻き込むつもりなんてない」
「貴方を放って置いたら、心配で夜も眠れないよ」
「……てゆうか、俺を止める選択肢はないのか? 俺はてっきりそれで来ると思ったんだが」
微笑を浮かべながら彼女は答える。
「私はジークの傍にいれるだけでいい。 貴方がどんな道を選ぼうとも、私は貴方に付いて行く」
「本当にいいんだな?」
「ええ」
彼女は迷うことなく即答した。