プラネット・スカベンジャーズ
急に強く身体を揺さぶられたような気がした。
五感が急速に身体に染み渡っていくような感覚と一緒に意識もはっきりしてくる。
今度ははっきりと、身体を揺さぶられるのを感じた
「おお、生きてる生きてる。大丈夫か?」
声の主は、すぐ傍にいるはずなのに見えない。
周りを見渡してみて気づいたがここには光の一切がなかった。
「ここで出会ったことも何かの縁だな」
何も見えない周囲の状況に戸惑う俺の後ろから再び声がする
「真っ暗で何も見えない・・・」
そう言いつつ近くにいるはずの声の主を探る
少し目が慣れてきたのか曖昧な輪郭がかろうじて確認できた。
どうやらこいつが俺を起こしてくれたらしい。
そこで気付いたのだが、ここはどこなのか、そもそもなぜここで倒れているのかも思い出せない。
俺は一先ずの疑問を目の前にいるはずの人物に聞くことした。
起こしてくれた礼を言うのはその後でいいだろう?
「なぁここは一体どこだ? 俺はなんでここで寝てたんだ?」
「場所も寝てる理由も俺よりもお前の方が詳しいんじゃないかと思ったんだけどな。」
声の主はヒラヒラと辺りを探っているようだ。
もう目が慣れてきてもいい頃なのだろうが、相変わらず周りは何も見えず、近い距離にいるであろう人物の輪郭を見失わないようにするのが精一杯だ。
「分かるのは、そうだな・・・。 ここが何かの施設の地下6階くらいで、あんたはそこの装置の中にいたってことかな。」
呆気に取られてしまった。この人物は俺が装置から出てきたと言うではないか。 しかし周りを見ても暗くてどこにそんな装置があるのかも分からない。
必死に思い出そうとしてみても、装置に入った記憶どころか自分の名前すら思い出せない。
「おっと、自己紹介がまだだったな。 俺の名前はテッド。以後よろしく、かな?」
「自分の名前が思い出せないんだ。 思い出すまで好きな名前で呼んでくれ」
「そうかい、じゃあ研究所っぽいここの名前から取って"ラボ"なんてどうだい?」
「分かった。それでいい、ひとまず外にでよう。 何か明かりはないのか?」
「明かりか、生憎何も持ってないな。 俺は明かりなんてなくても平気だから」
いつの間にかテッドは少し遠くで何かを漁っているようだった。 くそ、何も見えない。
「おお、これはまだ使えそうだな。保存状態がいいってのは嬉しいね。 探検してみるもんだ。」
「何の話だ? 明かりでも見つけたのか?」
何を見つけたのかテッドの傍へと行って確認したかったが暗闇の中で歩くのは怖い。
「まだ動くなよ。ここはモノが散乱してて怪我するかもしれん。 明かりは見つからないけど、これを見つけたぞ」
恐る恐る足を踏み出そうとした俺を制止すると、不意に胸元に何かを押し付けられた。
手にとり輪郭をなぞり、感触を確かめる。
おそらく、これは靴だろうか。
「外に出るんだろう? それを履いておけよ。」
「・・・他になにか見つかったか?」
「いいや、特には何も、あんたを見つけたくらいかな」
テッドの冗談にお互い笑うとテッドが俺の手首を掴んだ。
「さぁ、外に出るか! 案内してやるよ」
手袋をしているのだろう。手首を掴むその手からは体温を感じ取ることはできないが、その手から感じる力強さは不安を少し掻き消してくれた。
テッドに手を引かれて5分程歩く、闇のせいでどこを通ったのかも分からない。 ただ、歩いている途中から急に床に角度がつくようになったのが気になるが。
「まだ外に出れないのか?」
テッドが不意に手を離す。少し風が舞ったかと思うと、自分の少し高い位置からテッドの声が聞こえてきた。
「なぁに、こっからが本番なんだ、ほら、この段差を超えるんだ。」
言われた通りに手探りで胸元ぐらいの高さの壁をよじ登る。
「上見てみ」
テッドが言う通りに上を見てはっと息を飲んだ。
25Mほどの高さ、壊れた建築資材が入り組んだ先に雲が見えていた。
外も暗そうだが、今までに比べれば遥かに良く見える。
今歩いてきた道を見ると外壁が崩れて通路に空いた穴であることが分かる。
今まで歩いてきたというのに、廊下の少し先はもう真っ暗で何も見えない。
もし一人で目覚めていたら・・・と思うと身震いしてしまう。
はっとしてテッドの方を見る。闇が邪魔をして今まで見れなかった命の恩人の姿は、長布を身体に巻きつけフードで頭を隠していた。
フードの先の素顔は見えない。
テッドはマジマジと見つめる俺を意に介していないように空へ向かって指を指した
「さて、後の登り方は分かるな? この入り組んだ柱やら何やらをよじ登って行くんだ。」
壁に手をつき、僅かな外壁の窪みに足を入れ態勢を整え、柱を掴んで一気に登る。下にいた時は遠く感じた地上も、ようやくあと一歩というところだ。
「おいラボ、もう少し、その柱で最後だ。踏ん張りどころだぞ」
地上からテッドが声を掛ける。
俺自身はもうヘトヘトなのにテッドは疲れを微塵も見せていない。
半ば意地になって柱に飛びついたものの腕に力が入らない。
一旦休めばよかったと思っても後の祭りだ。
さすがにここから落ちたら無事には済まないだろう。
「テッド、手を貸してくれ」
必死の思いで声を出す。
「はっはっは、言われなくてもここにいるぜ」
柱の上でいつの間にかテッドが手を差し出していた。
すんでのところで手を掴むとテッドがぐいっと引き上げてくれた。
「ありがとう、助かった」
何とか息を整えつつ礼を言う。
「ほれラボ、これが地上さ。 」
テッドの言葉に前を向く。 言葉がでない。
そこは大地と機械が混ざり合ったような不思議な荒野だった。黒ずんだ大地と明らかに人が作り、加工したものの残骸が、見る限り延々と続いている。
分厚い雲が世界を覆い稲妻と雷鳴が至る所で鳴っている。
それでも、世界は真っ暗というわけではないようだ。
不毛な大地と残骸の間から所々で緑色の光を放つ水晶の固まりのようなものが見える。
その水晶の光のおかげか、薄暗いながらも地平線まで確認できる。
「さて・・・その様子だとこの光景は初めてみたいだな」
「なんなんだ・・・ここは俺の知ってる世界じゃない」
「記憶がないのに知ってる世界があるのか?」
絞り出した声にテッドが可笑しそうに聞く。
「少なくとも俺はこの世界を知らない」
「じゃあ、ここで生きる上で知っておかなくちゃいけないことが沢山あるな」
テッドの声はもう笑ってはいなかった。
「歩きながら話そうか」
テッドはひとりでに残骸の間を歩き出した。 俺も置いていかれまいと慌てて追いすがる。
「最初に、あの緑に光ってる水晶には近づくなよ」
「なぜだ?」
「詳しいことは知らないが、あの水晶は何もかも殺し、壊すんだ。 毒のように」
「この世界はどうなってる? 何が起きたんだ?」
「もうずっとこんな具合さ。"いつから"なんてもう誰も覚えちゃいないよ」
進む先が残骸に覆われて進めなくなると、元は航空機だったようにも思える流線型の残骸に登り、また道を進む。
「ほら、あそこを見てみろ」
テッドが指差す先には天空に向かって伸びるひたすらに大きな塔が聳え立っていた。
大きすぎて距離はイマイチ分からないが、地平線の向こうであることは大体想像がつく。
「俺はあそこには何かがあるんだと思う」
「行きたいのか?」
「ああ、"俺だけ"の夢、というか衝動みたいなものだな。」
そこまで話すと急に、遠くの方から何か音が聞こえてきた。
何か石を砕くような、そして何か巨大な動作音の混ざり合うような音。
どんどん近づいてくる。
廃墟を横切って現れたのは巨大な百足のようなモンスターだ。
猛烈なスピードでコチラへと向かってくる。
「轢き殺されるぞ!早く隠れろ!」
立ち尽くす俺の背中に足がめり込み、吹っ飛ばされた拍子に残骸の合間に滑り落ちる。
刹那、残骸の上を百足の化け物が猛スピードで通過していく。
腹には巨大な口のようなモノが幾つかついているのが印象的だ。
百足が過ぎ去ると、テッドは安全を確認してから俺を引き起こした。
「あれは俺たちに危害を加えない。 ただ仕事熱心なだけでね」
「あいつは一体なんなんだ?」
「あれはクリスタルライト・スカベンジャーだ。 言葉通りに、あの水晶を砕いて除去してまわってる。」
先ほどの百足は一番近い位置にあった水晶の塊に抱きつくように停止していた。 腹からは物を砕くような不快な音が響いてくる。
その光景を見ながら、今まで思いながらも口に出せなかった疑問を聞くことにした。
「なぁテッド、お前は一体何者なんだ?」
テッドは無言でフードを外す。
露わになったのは骨組みといくつかのパーツだった。
「ショックか? それとも人の真似事をするなって怒ってるか?」
スピーカーから出る音声は淋しそうな声音だ。
ショックはショックだった。今まで同じ人間だと思っていたから。
だけど、それすらもこの状況では納得できると言えた。
「助けてくれたことに感謝する気持ちは変わってないよ、テッド。 それに俺は行く宛がないんだ、お前をアテにせずにどうしろっていうんだ?」
今更になってテッドが自分の正体を明かしてくれたこと嬉しく感じ、自然と笑顔が出る。
テッドは無言で再びフードを被り直す。
「あの塔に何があるのか、見に行こうぜ」
お互いが同時に言葉を発していた
最後まで読んで頂いてありがとうございます。
連載したかったのだけれど今の投稿ペースじゃ無理がある。
覚えておける範囲で書いておけば将来的には連載できるようになるかも?
という感じで投稿させて頂いてます。