19 勇者バニング――奪還命令
西方教会、本部聖堂。
白い石の床。高い天井。祈りの声。
その中央に、バニングは立っていた。
茶色の短髪。整った鎧。過不足のない体格。
名を呼ばれ、顔を上げる。
「勇者バニング」
祭壇の奥から、祈祷長の声が響く。
「任を与える」
周囲の神官たちは、すでに内容を知っている顔だ。
「先に派遣された勇者セレンは、帰還していない」
一瞬だけ、バニングの指が強く握られる。
「生存は確認されている」
「だが、魔界に囚われている可能性が高い」
裏切り、という言葉は出ない。
出ないことが答えだった。
「任務は二つ」
「第一に、勇者セレンの奪還」
「第二に、必要とあらば魔王への対処」
聖堂の空気が、わずかに張る。
バニングはすぐに答えた。
「承知しました」
迷いはない。
それが勇者として求められる姿だ。
祈祷長がうなずく。
「祝福を重ねて授ける」
神官たちが詠唱を始める。
光が集まり、バニングの鎧を包んだ。
温かい。
だが、どこか遠い。
「ありがとうございます」
胸の奥で、ひとつだけ思う。
(……セレン)
顔も知らない。
だが同じ勇者だ。
助ける。それだけだ。
「転移門は準備済みだ」
「単身で向かえ」
当然の命令。
「はい」
剣を取り、深く一礼する。
背を向けたとき、祈祷長が言った。
「魔界は理の外だ」
バニングは足を止める。
「勇者は、迷いません」
短く答え、歩き出す。
誰も止めない。
転移門の前。
白い光が揺れている。
バニングは柄を握り直す。
(祝福がある)
(俺は勇者だ)
一歩、踏み出す。
光が視界を覆う。
そして──
魔界へ。
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