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11 監督官ヴァイレン

 訓練場の朝は、だいたい同じ匂いがする。


 石。

 汗。

 魔素。


 そして――人族の匂い。


「……角、ねぇんだよな」


 腕を組み、ヴァイレンは見習いを見下ろす。


 女勇者――セレン。


 魔族の女と並んでも、身長は見劣りしない。

 骨格も悪くない。肩の位置も脚の長さも、鍛えれば形にはなる。


 問題は――体力だ。


 脆い。

 打たれ弱い。


 一発ごとに限界が来る。


 それでも。


「立て」


 短い命令。


 セレンは歯を食いしばり、立ち上がる。


 足が震え、呼吸は荒い。

 今にも倒れそうだ。


 ――だが、逃げない。


(……何度目だ)


 今日だけで、もう数えきれない。


「……っ、は……」


 息も整わないまま、剣を構え直す。


 構えは甘い。

 隙も多い。


 だが、昨日よりほんの少しだけ踏み込みが深い。


「……」


 ヴァイレンは舌打ちした。


「折れねぇな……」


 思わず出た言葉に、すぐ顔をしかめる。


(いや、違ぇ)


(勇者だからだ)


 そう決めつけようとする。


 だが。


 剣を握る横顔。

 汗に濡れた金髪。

 腰まで流れる長いポニーテールが、動くたびに揺れる。

 必死に前を見る碧眼。


 一瞬、言葉が喉まで出た。


「……マブ――」


「はぁ!?」


 自分で自分にツッコむ。


 違う。違う違う。


 角もない。

 短命。

 魔素もろくに扱えねぇ。


 魔族とは違う。


 ――はずだ。


 なのに。


(……なんでだ)


 並んで立たせると、そこまで弱く見えない。


 体力は劣る。

 脆い。


 だが。


 倒れても、立つ。


 何度でも。


(……クソ)


 情がわきかけている。


 自覚した瞬間、ヴァイレンは声を張り上げた。


「走り込みだ!」


「えっ、まだ!?」


「黙れ!」


 指を突きつける。


「考える暇があるなら走れ!

 魔界じゃ、息切れした奴から死ぬ!」


 セレンは一瞬だけ唇を噛み、それでも走り出す。


 足は重い。

 呼吸は浅い。


 だが、止まらない。


(角なし)


(短命)


(それ以外は……)


 思考を断ち切るように、頭を振る。


「余計なこと考えるな」


 自分に言い聞かせる。


「俺は監督だ。情はいらねぇ」


 だから今日も。


「止まるな!」


 容赦なく、追い立てる。


 そうしなきゃ、生き残れない。


 魔界では。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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