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ギルド破り開始

 俺は外見が最悪の人間だ。そして金持ちでもない。人脈も……。

 いや、ファブが居る。俺は彼のおかげで、戦う力を得た。

 その力を使って変えてみようと思う。この理不尽な世界を。

 人間の心を。


 まず俺に出来ることから始めよう。俺はタンク職だ。頑丈なのが取り柄だが、バリアウォールのスキルでさらに無敵になった。


 しかし、攻撃力は元のままだ。相手に攻撃された瞬間だけ、カウンターリフレクションが発動する。三倍返しのチート攻撃だ。

 ギルドマスターはぶん殴ったが、通常の力で良かった。下手をすれば人殺しになる所だった。

 俺はもう人を殴ったり、攻撃する事はしないと心に決めた。事故で相手を殺してしまったら、家族が悲しむ。


 じゃあどうやってギルドを潰す?

 ギルドマスターは俺の家に冒険者たちを差し向けた。その落とし前は付けさせてもらう。徹底的に!

 しかし一片の迷いもあった。

 俺がこれからすることを、ファブは許してくれるだろうか……。

 軽蔑されたりしないだろうか。大切な友人に失望されたくは無かった。

 絆の腕輪に手を当てる。温かい熱が伝わってくる。


「なあ、ファブ。君に貰ったスキルなんだけど……個人的な事に使ってもいいかい?」


『おや? ウォールド、僕は君のすることに意見するつもりはないんだけど……』

『そうだね……じゃあ、一つだけ言うよ』

『僕を楽しませてよ』


 意外な言葉が返ってきた。

「それは……いったい何をすればいいんだ?」


『君が思うがままに振る舞う所を見てみたい』

『君の締め付けられた心が解放されて、世界を見返す所が見たいんだ』

『僕は君の味方だよ。もしも君が道を踏み外しそうになったら、僕が止めてあげるよ』

『思いっきり暴れるんだ!』


 そうか、分かった。俺も同じ気持ちだ。

「ありがとう……ファブ、見ていてくれ。君のためにも頑張るよ」


『ああ、見ているよ。僕はいつだって君を見ている』

 ファブの言葉が心強く背中を押してくれる。

 俺の心は晴れ、迷いは消えていった。


『あっ、それからさ、そのお……』

 とつぜんファブが口ごもる。


「どうした? 何かマズイことでも起きるのか?」


『こんどそっちに行った時、渡したいものが有るんだ……ええっと、その……エミリーに……』

『伝えといて! 頼んだからね! じゃあね!』


 そう言ったまま黙ってしまった。


「伝えておくよ、ファブ」

 そして俺は前方を見据える。

 ギルド入口に立ちはだかる冒険者達。

 俺はゆっくりと歩き出した。


 ◆◆◆


「何をしに来た」

「お前を入れるなってギルドマスターの指示だ」

「とっとと帰れ!」


 怒号と共に、俺の顔に石が投げつけられる。

 俺の顔を目がけて無数の石が飛んでくる。

 しかし、俺は全く動じない。バリアウォールはケルベロスの攻撃でもびくともしない。


「おい、ちょっと待て。どうなってんだ?」

「止まらないぞ。何なんだあいつは」


 冒険者達に動揺が広がる。


 その時、一頭の馬が俺に向かって走ってくる。そしてその背には、冒険者が乗っていた。


「これでも喰らえ!」


 馬の後ろ足が俺の顔を蹴る。


 ズザーッ!


 さすがに吹き飛ぶが、俺は何事もなかったかのように起き上がる。


「まじかよ……」


 動揺する冒険者。俺はゆっくりと馬に近づき、頭を撫でる。

 それ以降、馬はすっかり大人しくなり、冒険者が命令しても動かない。

 最後には、冒険者を振り落とし、走り去ってしまった。


「何なんだあいつ、化け物かよ……」

 動揺が広がり、冒険者たちが避けるように道を開ける。


 俺はギルドへと入り、ギルドマスターの執務室へと進んでゆく。


 今度はギルド内の冒険者が俺を睨む。椅子が叩きつけられ、テーブルが飛んでくる。真っ直ぐに進むのが難しいが、特に問題はない。

 屈強な男が俺の顔を殴る。


 ゴキッ!


「いってぇぇ!」


 首に衝撃を感じるが、何の問題もない。しかし男は拳を抱えて転げ回っている。


 そしてついに俺はギルドマスターの部屋に通じる扉を開いた。


 ガキンッ!


 目の前に漆黒のフードを被った冒険者。アサシン職だ。

 そいつは俺の腹に短剣を突き立てたのだ。

 アサシンの目が見開かれ、明らかな動揺が浮かぶ。


「クッ、隠し鎧か!」

「いや、そんな物は着ていないよ」


 俺は刺さったままの短剣を手で掴む。攻撃を受けた状態は、カウンターリフレクションが発動している。

 そのまま力を込めて握りつぶす。三倍の握力で。


 メキメキメキ……バキィッ!


 アサシンは折れた短剣を呆然と見つめる。

「悪いけど、通らせてもらうよ」


 へたり込むアサシンをよそに、俺はついにギルドマスターのもとに辿り着いた。


 ◆◆◆


「貴様……目的は何だ、いったいお前は何なんだ!」

 目の前の執務机、その椅子に座っていたギルドマスターは、立ち上がり声を上げる。

 俺は改めてギルドマスターと呼ばれている男を見据える。

 古びた貴族服を着た中年の男だ。酒焼けの赤ら顔に、薄くなった金髪。

 どう見ても実力でのし上がったようには見えない。

 壁に飾り付けた肖像画には、バルドス・フォン・クレインとわざわざ名前が書いている。


「おい、ウォールド! この俺がクレイン男爵家の出だと知らないのか!」

「今なら大目に見てやる。もし私に手を出してみろ! タダでは済まんぞ!」


「もう既に刺されましたが?」

 俺はあえてバルドスに顔を近づけて話す。

「……!」


 バルドスの顔が嫌悪感に歪む。俺はそのまま話を続ける。

「殴ったことを謝ります。もうあんな事はしないと決めました」


「そっ、そうか、良い心がけだ……うむ」

「何が望みだ、い、言ってみろ!」

 無理をして虚勢を張っているのがかえって惨めに見える。

 本人は分かっていないようだが……


「以前言いましたよね。何でも取ってくると」

「俺はケルベロスの牙も取ってきた。今は貴方が持っている」


「えっ? なんだと?」

 バルドスは目を丸くしている。そして慌てて机の鍵を開け、牙を取り出して食い入るように見ている。


「それは貴方のもので良いです。返せとは言いません。それに……」

「まだ疑っていますか? 無傷でここまで辿り着いた俺の実力を」

 バルドスの欲にまみれた目が輝く。今度は牙を大切そうに片付けている。


「俺をギルドに戻して下さい。そうすれば……」


「よし分かった! お前は今から冒険者として再登録だ! 他に望みは無いか? 言ってみろ」

 こちらが言うまでもなく、冒険者に復帰できてしまった。下心を隠す気は無いらしい。


「そうですね……では、妹も再雇用して下さい」


「すぐに手続きをする! 待っていろ!」

 バルドスは走って部屋を飛び出し、またすぐに帰ってきた。

「それで、今度は何を取ってくるんだ?」


「冒険者としての依頼であれば何でも。ただし今度は買い取ってもらいます。私も生活がかかっていますから」


「よろしく頼むよウォールド! さっそく依頼を探さねば、忙しくなるぞ、うははははっ!」


 上機嫌のバルドスを背に、俺はギルドマスターの部屋を出る。そして二階のロフトから階下を眺める。


 怒りと悔しさの表情をする冒険者たち。しかしその目の奥には、嫉妬と羨望の眼差しが混じっていた。


 そんな目を向けられたのは初めてだった。

 だがこれからだ。俺の撒いた種はツルのように成長し、やがてこのギルドを飲み込む。


 そして俺はギルドの頂点を目指す!


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